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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第17回
「交響詩篇エウレカセブン オリジナルサウンドトラック1」
テクノ・ビートと管弦楽が交響する、至福の2枚組
〜佐藤直紀作曲による楽曲集が『交響詩篇エウレカセブン』の世界観をダイナミックに彩る!!〜

 待望久しい『エウレカセブン』のサントラ音楽集がついにリリースされた。それも、いきなり2枚組の大ボリュームで、である。以前に『機動武闘伝Gガンダム』のサントラ第1弾が最初にして2枚組で発売されたのを思い出したが、今回もタイトルで“Volume.1”を謳う。来春にリリースが決定している2集目に残る楽曲はあるのだろうか、などと余計な気を回してしまうが、佐藤直紀による音楽はこれで全体の半分程度なのだそうで、石野卓球らによる未収録のコラボ楽曲も控えており、お楽しみはまだまだ続きそうだ。
 さて、今回の第1集は、その収録内容を簡単には紹介しきれないほどの大充実大会である。まずCDの体裁からして素晴らしい。意外にも黒で統一されたアートワークは、まるで黒炭のようなマットなつや消し、かつしっとりした手触りの紙質によるジャケットからして、作り手側の本気度の高さがひしひしと伝わってくる。一転してブックレット内は光沢紙に白抜き(正確には活字色は銀)印刷。うーん、お洒落過ぎる。2枚組のCDケースも、トレイの両面にディスクをパラレルに固定するスタイルながら、豪華32Pブックレットを収めるべく、ちょい厚めのタイプを用いているあたり、手にしたときの絶妙なアイテム感があっていいのだ。
 京田知己監督自らの構成による楽曲のディスクへの割り振りは、1枚目と2枚目を、それぞれシリーズの第1クールと第2クールに見立てたもの。それぞれのディスクのトップとラストには、爽快感きわまりない「DAYS」と淡々としつつ着実な前進感に溢れた「秘密基地」、力強いパッションみなぎる「少年ハート」とラウンジ的グルーヴが心地良く「ray=out」誌モティーフの画面ともお洒落にマッチした「Fly Away」、と各クールのOP・ED曲をTVサイズにて配置する嬉しい配慮で、かっちりした枠組みを構築している。これら魅力的な主題曲にサンドウィッチされる形で、佐藤直紀による背景音楽と5組のアーティストから提供された挿入曲が『エウレカ』の作品世界を表現すべく収められている。今回は、本CDからオリジナルの挿入曲をチョイスしたアナログ盤「ORIGINAL TRACKS 1」も完全限定生産で同時リリースされている。まさにDJ、クラブ・ユースを視野に入れたこの商品展開は、作品周辺を丸ごと含めたムーブメントとしてカウンター・カルチャー感を発揮し続ける本作にこそ相応しい。
 ディスク1は主人公・レントンが住む惑星の異環境の紹介から、エウレカ、ゲッコーステイトの面々との出会いを経て、レントンの旅立ちまで。ディスク2は、第2クール以降、レントンとエウレカたちを襲う、あまりに過酷な運命の様相が、音楽によって語られていく。京田監督の構成は番組のファンであれば感涙すること間違いなしの曲配置。ディスク1の「DAYS」の後、第1話他、数々のリフ系名場面を彩ったSUPERCARのキラー・チューン「STORYWRITER」に繋がる開幕からノリノリだし、ディスク1のトラック19「胎動からの跳躍」からトラック23「ニルヴァーシュ type ZERO」に続くアクション曲のつるべ打ちは心底ノックアウトものである。シンセ系の響きを中心にしたダンサブルなアーティスト提供曲と、佐藤直紀の生楽器を主体にしたスコアをいかに並べるかは構成者の手腕が問われる部分だが、このあたり、ギターをフィーチャーした小編成のナンバーから挿入曲へつなげていく呼吸もいい感じである。
 作曲の佐藤直紀はライナーへの寄稿文中で、「僕の考えた選曲、曲順とは全く違っていたが、すばらしい」と書いている。ある意味これには同感で、もしも筆者が『エウレカ』のサントラを構成したとしたら、もっと音楽的なスタンスに寄った流れを作り、たとえば大編成ものの楽曲にしても、それ自体の効果がより発揮されやすい場所に置いただろうと思う。しかるにサントラは監督ならではの視点で、『エウレカセブン』という作品を音楽だけで語り変えた作りになっている。
 アクション系の音楽がディスク1の後半に集中しているのは、いわゆる“美味しい曲”を後に取っておこうという監督の趣向が反映されたものだろうか。京田監督はイチゴのショートケーキを食べる場合、上のイチゴは最後に食べる派かな、と思ったのも事実。塔州連邦軍絡みのミリタリックな楽曲など、今回未収録となっている印象的な音楽については、セカンド・アルバムで待ってましたとばかりに鳴り響くことだろう。
 本作品のタイトルを放映前に目にした際は、「交響詩篇」という肩書きから、音楽的な題材に寄った物語が展開されることを勝手に想像していた。それは筆者の考え過ぎだったが、音楽に戦略的かつ重点の置かれた演出が貫かれていることは想像以上だったと言っていい。1年間という長丁場を快調に疾走中の本作品にとって、本アルバムは折り返し点で送り出されたファンへのビッグ・プレゼントだろう。DVDで映像作品をコレクションすることがスマートに行えるようになった現在、作品内の音楽だけを取り出して商品化するには、商品仕様を含めてこれくらいの仕掛けがなければ勝負にならない。そんなことを静かに語りかけてくる傑作だ。
(執筆/早川 優)

■DATA
「交響詩篇エウレカセブン オリジナルサウンドトラック1」
DISC1 全27トラック 収録時間:54分44秒
DISC2 全18トラック 収録時間:41分54秒
Aniplex Inc. SVWC7294〜5
2005年11月2日発売 定価3465円 (税込)
[Amazon]

■執筆者から一言
 音楽を担当した佐藤直紀は、アニメ『出撃!マシンロボレスキュー』『ふたりは プリキュア』、実写作品「ローレライ」「逆境ナイン」など、昨年から今年にかけて大きく活躍の場を広げた作曲家だ。劇伴の分野では自分自身の作風を出すというよりも、注文にいかに応えるかに留意していると語る佐藤。確かに、その作風は作品によって千万変化しているように思う。だが、その中で佐藤直紀らしい、繊細なメロディ運びのクセのようなものも確実に感じ取れるのも事実だ。本作でも『エウレカ』のテーマ楽曲の身を切られるような儚さと切なさは、佐藤直紀らしい感受性に富んだナンバーと言えよう。
 佐藤はライナーに寄せたエッセイの中で、監督を始めとする本作のメインスタッフに自分と同じ1970年生まれが多いことに興味を覚えたという。1965年生まれの筆者としては、彼らの仲間に入れてもらえないようなジェラシーを感じる一方、大阪万博開催時に生まれた佐藤が、それより12年も前の昭和時代の下町を描いた「ALWAYS 三丁目の夕日」でいかような音楽アプローチを試みているか、興味津々なのである。
 

●第18回へ続く

(05.12.12)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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