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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第16回
「TVアニメ『タイドライン・ブルー』オリジナルサウンドトラック」
海洋アニメ最新作の音楽は、波のうねり、潮の香りとともに……
〜数々の名曲を生み出す斉藤恒芳が手がけたドラマ音楽の傑作!〜

 海は人の創作意欲を強く刺激してきた。音楽にも映像にも海に触発された傑作は数多い。海洋を作品の主要な舞台にし続けてきた小澤さとるが原作に名を連ねる最新作『タイドライン・ブルー』は、海を真正面から舞台に選んだ力作だ。CGやデジタル効果の恩恵によって、このところのアニメの海洋表現の進歩には目を見張るものがあり、本作でもその効果は随所に発揮されている。
 リアリスティックな海の表現を手に入れた本作で、聴覚の側から“海”の質感を表現する試みにチャレンジしているのは斉藤恒芳だ。最初に結論から書いてしまうと、これはなかなかの成功作。クラシカルな音楽を心地良いラウンジ・ミュージックに仕立てて人気を博したクライズラー&カンパニー出身の斉藤は、感性の赴くままに“海”を肌で感じさせる音楽に仕上げている。
 そのメイン・トラック「青い地球」は圧巻の仕上がり。深海から沸き上がってくる泡沫のような神秘的な女性コーラスが、ギターやパーカッションが情熱的に奏でるエキゾチックなリズムに乗って流れていく。隠し味として挿入されるシンセの響きが、鯨の歌声のようなアクセントを加えているのもいい。劇中でも情景描写シーンに効果を発揮しているが、音楽単体で聴くと細部にまで気を配った作り込みを実感させてくれる。作品を観たことのない方でも、お洒落なマリーナ辺りで聴いてみたくなることは必至のキラー・チューンである。
 ライナーノーツによれば、斉藤は自らのクルージングの実感を込めた音作りをしたとのこと。その海のイメージは、「いろいろのにおいが入り交じった、無骨な姿」だという。これなどは、肌で海を感じている人ならではの実感なのだろう。イメージとしての巨大な海洋ではなく、等身大の人間が直に感じられる海のイメージは、上記の楽曲以外にも随所に見て取れる。海のイメージの代弁者は主にアコースティック・ギターやバンジョーの弾弦楽器と、静謐なコーラスに委ねられている。
 飯田馬之介監督は今回の音楽について、キャラクターの心情とシンクロした音楽が気に入った旨を語っている。SFスペクタクルの大枠をもつ作品でありつつ、あくまでもメインテーマが人同士の理解に置かれている由縁だろう。そんな作品中でも多用された心情曲では、オーボエとハープが繊細に歌う「寂しげな笑顔」、フルートとストリングスが甘く、しかし一筋縄ではいかない、ちょっとイタリー風の多感的なメロディ・ラインを奏していく「希望」などは、一度耳にしたら忘れられない印象を残す佳曲である。一方、「キールの優しさ」「働くイスラ」等、サントラにはキャラクターの名前を冠した曲が多数含まれており、いずれも各キャラに即して様々な音楽技法を駆使した表現が聴かれる。
 もちろん、大スケールの活劇シーンを彩る音楽も多数収録。「艦隊」「脱出」「危機」等のナンバーでは、高質なシンセの響きを中心にしたオーケストレーションでスピード感、スケール感を描出している。
 海というと、つい夏の日を連想しがちだが、季節に関わりなく紺碧の大海原を疾走する船の躍動と、潮の香りを感じさせてくれる1枚である。
(執筆/早川 優)

■DATA
TVアニメ『タイドライン・ブルー』オリジナルサウンドトラック
全28トラック 収録時間:60分15秒
株式会社ランティス(発売)・キングレコード株式会社(販売) LACA-5444
2005年10月26日発売 定価3000円 (税込)
[Amazon]

■執筆者から一言
 先日『わんぱく探偵団』のDVDについて書いた直後に、山下毅雄氏の訃報を聞いた。11月21日に脳血栓で永眠され、享年は75歳。筆者はユーメックスで『ガンバの大冒険』がLD化される際にインタビューさせていただいたが、そこで感じたのは、ある意味で生み落とされた音楽以上に自由奔放な氏のキャラクターだった。取材原稿には印刷物になった以外の未発表分があり、訃報を耳にして、カットした部分を久しぶりに読み返してみたのだが、山下氏の強烈な個性に当てられた取材当日の模様がまざまざと蘇ってきた。何らかの機会にフルサイズのインタビュー原稿を発表したいと思っていたが、山下氏の存命中には間に合わなかった。
 7000曲を書いた男、逝く――。晩年はレア・グルーヴという括りで再評価の機運が高まり、往年の録音がCD化される機会も多かった。が、まだまだヤマタケ・サウンドの精髄は眠っている。作家の死を機会として利用するのは不本意ではあるが、追悼の意を込めて長年の懸案だった作品のリリースに取り組みたいと考えている。
 

●第17回へ続く

(05.12.05)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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