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REVIEW
CD NAVIGATION[早川優]

第15回
「創聖のアクエリオン Original Sound Track」1&2
ジャンルを軽々と超越する菅野よう子の最新型サウンド!
〜けっこういいかも。/神話的ガッタイ祭り!〜

 菅野よう子は現代日本において稀有な才能を発揮し続けている作曲家だ。主な活躍の場はアニメーションを含む映像音楽のフィールドだが、その時々の担当作品に合わせて作風を千万変化させていく様は、それが映像音楽の作曲者に普通に求められる資質であることは承知しつつも、他に例を見ないほど目まぐるしい。これは、やはり新作が発表されると注目せずにはおれない他の人気作曲家では作品に込められたその作家特有のクセの確認になることが多いのに対し、菅野の場合は新たに採用したアプローチへの興味が先行する、とでも表現すれば分かりやすいだろうか。もっとも、大抵の場合こちらは、予測を大幅に上回る独創的アイディアの前にノックアウトされることになるのだが。
 古典的なジャズ・ファンクなテーマ曲で一世を風靡した『カウボーイ ビバップ』、デジ・ロックのクールなサウンドで映画とは異なる魅力を生み出した『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』など、常に新たな方法論で聴く者を驚かせてくれる菅野サウンド。作品が求める「音」を探り出す天性の嗅覚の鋭さも、特筆しておくべきだろう。
 といって、作品を一つの音のタイプだけで押し切るわけではない。惜しみなくアイディアを投入するのも菅野流。多角的な表現を駆使したサウンドのトータル・イメージで、作品世界を音響面からバックアップする。王道の管弦楽表現と汎亜細亜的な書法の掌曲を自然に同居させた『∀ガンダム』は、その代表格である。
 また、その多角的な音楽表現のためには、ニューヨークやワルシャワなど、必要となる最善の音を奏でる場と人を求めて世界中を飛び回る。ジャンルやボーダーを超越して音を生み出し続ける菅野の姿は真に軽やかだ。が、生み出される音楽はパッションに満ちている。『∀ガンダム』のコンサートでオーケストラの指揮をする様子を拝見したことがあるが、小柄な身体でオケを操る凛とした姿に彼女のシャーマン的な資質を感じた。
 そのアーティスティックな仕事ぶりは、様々なジャンルの表現者に大きな刺激を与えている。中でも確固たる世界観をもった監督とがっぷり組んでの仕事に目を見張る成果が現れていることは、富野由悠季監督を例に挙げるまでもない。
 そして、『MACROSS PLUS』以来、いくどとなくコンビを組んできた河森正治監督との最新コラボレーションが『創聖のアクエリオン』だ。河森が20年来温めていたという、3機のマシーンが3とおりの人型メカに変幻合体する巨大ロボットを核としたこの話題作で、菅野は渾身のスコアの数々を聴かせてくれる。今回は『コ・コ・ロ図書館』等を手掛けた保刈久明が共同作編曲者として加わったことで、ただでさえ幅広い菅野サウンドはより奥深いサウンドスケープを実現している。
 菅野の嗅覚の鋭さと選択の確かさは、今回もテーマ曲にまず明らかだ。物語の神話的な世界観を背景に、「愛」をテーマに何も畏れない疾走感で一気に聴かせる主題歌「創聖のアクエリオン」の圧倒的な仕上がりはどうだ。第1話「天翅の記憶」クライマックスでは、アポロによるソーラーアクエリオンへの初合体〜戦闘シーンを飾り、ロボットアニメの第1話ここにあり! という圧巻のカタルシスをもたらした。AKINOのヴォーカルの力も素晴らしい本曲はサントラ・アルバム1集には、兄のAKASHIが参加した「お兄さまと」バージョンで収録。劇中のシリウス&シルヴィアの関係性を横目で睨んでの采配が嬉しい。
 バラエティに富んだ劇中音楽に目を移せば、河森監督らしいオフビートな人間模様を彩るのは、ワールド・ミュージック的表現による「ドリブルドリブル」や保刈久明のシンセ・プログラミングによるデジタル・サウンドが冴える「CyberFolk Music」。はたまた歌劇的劇場音楽の菅野流解釈による「バチカンダンス」は第18話「魂のコスプレイヤー」にて、パイロットの少年少女たちがそれぞれ嫌う相手になり切る試練を与えられるシーンにて使用。脇道に逸れた傍流エピソードを装いつつ、実は大イベント編という物語構造の変形が「技あり」だった同話中で強い印象を残した。
 そして、メカニック・バトルを彩る音楽は、ソリッドなデジ・ロックと、ワルシャワ・フィルの演奏による大管弦楽曲の2本立て。中でもコーラスを随えたオーケストラが大音圧で迫る音楽は素晴らしい。後者のカテゴリー曲では大ケレン味溢れるピアノ・コンチェルト「神話的技巧ソナタ」に耳を奪われる。「オーメン」を想起させる鬼気迫るコーラスとオーケストラの饗宴による「BLAQALION」も聴く者を圧倒させずにおかない。「神話的ガッタイ祭り」の惹句は伊達じゃなく、ロボットアニメは音楽にとっても最大のハレの舞台とばかりに鳴らしまくってくれる。
 アクエリオンの飛翔表現のテーマ「high spirit」では、ワーグナーの「指輪」……それも「ワルキューレの騎行」を思わせる堂々たるフレーズに始まり、やがてオーケストラ全体の煌びやかな響きが、聴く者をゼロG状態に浸らせてくれる。余談だが、かつてワルキューレ=ヴァルキリーの名を冠した変形メカで華々しくメカ・デザイン界の寵児となった河森監督作品への熱きオマージュすら感じてしまったのは、筆者の中のロボ魂が過剰反応してしまっただけだろうか。
 ヴェルディ、ビゼーからゴールドスミスまで、20世紀の音楽の記憶をベースに、新世紀的な音楽の響きを創世した『アクエリオン』。これ以上、何を望むというのか。現在のアニメ音楽シーンを味わう上で、決して乗り遅れてはならない作品である。
(執筆/早川 優)

■DATA
創聖のアクエリオン Original Sound Track
全18トラック 収録時間:58分03秒
ビクターエンタテインメント株式会社 VICL-61648
2005年6月8日発売 定価3045円(税込)

創聖のアクエリオン Original Sound Track 2
全19トラック 収録時間:74分33秒
ビクターエンタテインメント株式会社 VICL-61649
2005年9月22日発売 定価3045円(税込)
[Amazon]


■執筆者から一言
 先日、サントラの構成を手掛けさせていただいた『ゼンダマン』の音楽の中に、フランスの印象派風テイストのナンバーがある。使用頻度の高い音楽なので、熱心な「タイムボカン・シリーズ」のファンなら、あの曲か、とすぐに察しのつく方もいらっしゃるだろう。
 それについて解説書内で触れた折、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」的云々と記したのだが、よくよく考えてみると、サティの「ジムノペディ」の第1番を基にしていることに今頃になって思い至ってしまった。サティのオリジナルはピアノ曲だが、これをドビュッシーが管弦楽にアレンジしたものがあって、そのテイストが『ゼンダマン』の該当曲に濃厚だったので、うっかり書き損じてしまったんだよね。これはちょっと恥ずかしい思い違い。この場をお借りして、CD発売前に私のケアレス・ミスを告白しておく次第です。
 

●第16回へ続く

(05.11.28)

 
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