もっとアニメを観よう2011

第30回
田中達之が選んだ「必ず観てほしいアニメ10本&俺の人生を狂わせた10カット+1」

 今回依頼いただいた原稿の趣旨は「アニメ業界人、アニメスタイル読者あるいはアニメファンに観てほしいアニメ作品タイトル」だそうです。なので、その内容に沿い深く考えずに10本選んでみました。が、しかし……。

必ず観てほしいアニメ10本

  • ●『長靴をはいた猫』
  • ●『やぶにらみの暴君』
  • ●『母をたずねて三千里[TV]』
  • ●『未来少年コナン[TV]』
  • ●『銀河鉄道999[劇場]』
  • ●『エースをねらえ![劇場]』
  • ●『ルパン三世 カリオストロの城』
  • ●『じゃりン子チエ[劇場]』
  • ●『セロ弾きのゴーシュ』
  • ●『アイアン・ジャイアント』

 『アイアン・ジャイアント』のみ1999年の作品ですが、自分が集中してアニメーションを観ていた10代〜20代の頃に観た作品から、傑作10本という視点で選ぶと、どうしても高畑&宮崎両氏の有名作品ばかりが並んでしまいます。また他の作品も言わずもがなな名作ばかりなので、今さら自分が解説するのもあまり意味がなさそうです。

 さすがにこれではつまらないので、せっかくなんでもっと個人的な「偏った」視点、現在自分が主に収入源としているイラストやデザインなどの職に就く事の、長い回り道の原因、「動きキ○ガイ」アニメーターになってしまったキッカケの作品やシーン、カットについて書いてみます。なるべく有名な定番作品は外して、あまり他で話していない作品を中心に……。


俺の人生を狂わせた10カット+1

●『銀河鉄道999[劇場]』友永和秀、金田伊功パート

 定番は外そうと思ったのですが、これだけは外せません!! 映画館の大画面で友永和秀さんと金田伊功さん競演のクライマックスシーンを全身で浴びて、当時中学生だった自分の脳細胞は、確実に何かが変質しました。全ての始まり。

●『ガラスわり少年』森田宏幸パート

 マンガ家のとだ勝之さんと『猫の恩返し』監督の森田さん達が高校生の頃に作った8ミリペーパーアニメです。絵こそ拙くいかにも高校生の自主制作作品なのですが、その動きのクオリティの高さ、森田さんの背景動画しまくりのカーチェイスの量感は凄まじく、圧倒的。すっかり動きマニア、パラパラマンガ描きとして慢心していた高校生の自分の前にこの作品が現れ、同郷の、しかも同世代として「とても敵わない」という挫折感を味わいました。色々探したのですが、現在観る方法がないのが残念です。

●『こねこのらくがき』森やすじパート

 高校時代、何かの上映会でディズニーのほぼ同時代の某有名作品と同時に観たのですが、「アニメーター日米対決」で、森さんが圧勝している!! という印象でとても誇らしかったのを憶えています。リアルかつシンプル、ストイックかつマンガらしい芝居とタイミング。近代日本アニメ史のスタートにして、すでに到達点だと思います。

●「工事中止命令」なかむらたかしパート

 大友克洋さんのファンとして、とても好きな一本。ただ動きに関しては、まだいわゆる「ツメ、タメ」の動きが多かったので若干不満だったのですが、後半、ロボットが主人公に朝食を運んだ後、自動ドアから肩をガクガク揺らしながら部屋を出るカットが、今まで観た事のない質感の動き、おそらく2コマオール原画のランダムな動きでとても衝撃を受けました。そういう動きを当時まだ観た事がなかったんですね。最近スタッフだった森本晃司さんに確認したところ「あれは一度上がった動画に、なかむらさんが全部修正を入れてた」という話を聞き納得。大友さんの伝説の初原画、「主役が口からナットを吐き出す」カットも素晴らしい。

●『レナウン I.N. EXPRESS[CM]』

 ザ・ブルーハーツの名曲「人にやさしく」にのせたロトスコープアニメのCM。「気ぃ〜が〜狂いそう〜♪」とヒロトの歌声に合わせて女の子3人が無茶苦茶に躍り狂う。これがいきなりTVに流れた時は、一体今何が起こっってるんだ!? とショックを受けたにもかかわらず、悲しいかな当時ビデオに収められず、自分の中で長らく幻となっていたフィルム。現在YouTubeにて視聴可能です。元の実写のダンサーの動きが素晴らしい、のは分かるけど、それが線画になっただけで、なぜこんな異常に気持ちいいのか……。つまりアニメは自分にとって、「動く線画」の快楽が基本なんだ、とロトスコープ(実写のトレス)には否定的だった自分が考えを改めた作品。いまだに、ああいう動きを「想像で」描けるようになりたいと思っています。トレスのセンスも素晴らしい。自分はあきらかにコレの影響を受けています。

(追記 11.02.19)
 最初(制作者不明)としていましたが、その後Twitter上でこのCMの担当者だった方とお話が出来、制作会社は白組、アートディレクター島村達雄氏というスタッフだった事が判りました。電通担当者からのブルーハーツありきのリクエストで、会社総出で作られたそうです。

●『クールワールド』ダンスシーン

 ラルフ・バクシによる実写とアニメの合成映画。売れる前のブラッド・ピットとか出ています。まあ作品的には他のバクシの作品と比べて、正直駄作の部類だと思うのですが、妖しい雰囲気と主役ホリーのセクシーダンスにやられました。レナウンCMと同じく、複数あるダンスは全てロトスコープだと思うのですが、ここまで真っ当に「動き」で官能性、エロスを追求しようとしている作品は初めて観たのでした。

●『夢枕獏 とわいらいと劇場』「四畳半漂流記」うつのみやさとるパート

 主人公が悪魔(?)に恋人を奪われて「あうあう……くそ〜!」とぶち切れる、アップショット。とてもじゃないが「あうあう……」の部分、あんな微妙な無意識の動きを、全部原画で追うなんて気違いじみてる!! と思いつつ感動して何度もコマ送りしました。おそらくうつのみやさんが『御先祖様万々歳』の次のステージを模索していた頃の、実験的なカットではないかと思います。ちなみにアニメスタイル読者には定番(?)の『真魔人伝』OPのうつのみやさんの原画全てが、ゲームセンター店員だった頃の自分の部屋の本棚に、なぜか1ヶ月ほどあった時期があるのですが、とにかく自分がそれまで学んできた原画の文法とまるで違う!! 1ヶ月間ビデオとその生原画をひたすら見比べて、あのダイナミックな動きの謎を解こうと研究した事がありました(結局分かりませんでしたが)。

●『とべ!くじらのピーク』井上俊之パート

 冒頭の嵐の海のシーン。『御先祖……』で業界に激震を走らせたうつのみやさんの独自のスタイルを、井上さんが見事に様式としてまとめ上げて、ダイナミックで厚みのある作画で提示。うつのみやさんのスタイルそのものは、実は誰にも真似できないところがあったんですが、この頃の井上さんの仕事により、一気にアニメ界のスタンダードスタイルとして浸透していったような気がします。井上さんの画力、動きのコントロールや構成力、スピード、全てがケタ違いだと思います。この作品の大づかみで立体的な波の表現など、本当に素晴らしい。

●『ユンカース・カム・ヒア[パイロット]』大平晋也、田辺修パート他

 わずか15カットで、アニメにおける「リアル」の意味を変えた作品。当時「リアルな動きのアニメをやりたい」と言えば、『CITY HUNTER』とか『マクロス』とか返される事へのモヤモヤを解消してくれました。

●『幻想叙譚エルシア』橋本晋治パート

 もともと同世代で凄いと思っていた人なんですが、確かこの作品のあるカットで、この人のセンスに心底驚愕した記憶があります。主人公がブンブン振り回す剣を悪役の男が皮一枚で見切って避ける、というさりげないカットだった気が……。正直この作品自体はあまり評価していないので、ビデオを持っておらずハッキリ憶えてないんですが……。普通のアニメーターと感覚がちょっと違う。『ANIMATRIX』「KID'S STORY」の、主人公が教室から窓を抜けて廊下に逃げるカットとか、あのシーンをもらっても、普通の原画マンはああいうポーズ、芝居は絶対描けない、なまじ上手い人ほど絶対に描かない、そういう別次元のリアルな動きを描ける人だと思います。空間感覚やタイミングのセンスも独特。この人は今現役のアニメーターで、一番恐ろしいと思う人です。

番外編

●『ファンタスティック・プラネット』瞑想シーン

 ルネ・ラルーによるフランス、チェコスロバキア合作アニメ。前半、主人公の子供時代、巨人族の家にて父親達4人が横並びに瞑想しながら、徐々に変形するシーン。上京後入社した会社内の上映会で、フランス語版字幕なし、ストーリーも何も分からず一度だけ観たのだけれど、いまだにこれ以上にインパクトのあるイメージには、アニメ作品で出会った事はないです。まるで別次元の宇宙人の悪夢をそのまま形にしたような映像。今まで挙げた作品は主にアニメーターとしての「動き」に対するこだわりの部分でしたが、この作品は動きの部分はともかく、総合的なビジュアルイメージと音楽、肌触りが素晴らしい。この作品もその後長らく観る事ができず、自分の記憶の中で妄想のように変化していったので、多分今の自分の仕事にも影響を与えているのだと思います。

 本来はまだまだ、もっと宮崎さん、大塚さん、友永さん他沢山の方々の仕事について書かなくては「人生を狂わせた」とは言えないのですが、まあ今回はこんなところで。

●PROFILE
田中達之 アニメーション監督、イラストレーター。テレコム・アニメーションフィルムを経て、『AKIRA』に原画として参加。代表作である短編「陶人キット」では監督のほか、作画と美術も手がける。また、ゲーム「リンダキューブ」シリーズではキャラクターデザイン等を務めるなど、イラストレーターとしても活躍中。

(11.02.17)