もっとアニメを観よう2011

第19回 佐藤順一が選んだ
「自分が影響を受けたと思われる10本」

 好きであると同時に、なんらかの形で自分が影響を受けたと思われるアニメ10タイトルです。演出的な影響はどちらかというとTVドラマからより多く受けているような気がしますけども、こうしてあらためてリストアップしてみると、やっぱりいろいろ影響を受けているという事がわかって、自分のスタイルを振り返るいい機会になりました。ありがとうアニメスタイル。

●『どうぶつ宝島』

ひたすら楽しいマンガ映画ですよね。スケジュールのせいか予算のせいか、いろいろと不完全な部分もありますが、そこも愛らしいのです。業界に入る前は間違いなくこういうのがやりたいと思っていたし、以前は冒険活劇の企画書もたくさん出したものです。ある意味、原点と思ってます。あと、なんといってもキャシーの魅力ですね。ツンデレの元祖でしょう。

●『じゃりン子チエ』[劇場]

とにかく小芝居が楽しいのです。自分が小芝居好きだという事を認識させられました。もうね、花井先生が酒のふた開けるだけで楽しいという。これもいろいろと不完全な部分がありますが、やっぱり愛らしいです。鏡台を見てテンションが上がって、髪をいじりまくってはしゃぐチエには心を惹かれますね。

●『母をたずねて三千里』

とにかく見入ってしまいますね。人は奇想天外な展開に引きつけられるのではなく、登場人物の魅力に引きつけられるのだと認識させられます。いい人もダメな人も、作り手は等分に愛を注がねばならないのだという事を教えられた気がします。実践できているかは……微妙です。自分などまだまだ未熟者であると痛感しますね。

●『未来少年 コナン』

次回が楽しみだったアニメです。こちらはむしろ奇想天外な出来事で惹きつけられる作品でした。登場人物への愛情は感じられるのですが、時折オモシロが優先されるのが特徴的なのかなと。こういう無邪気な物語作りというか、ダイナミックさはアニメでは必要なのだと思いました。ラナにはそれほど心惹かれませんでしたが。

●『呪いの黒猫』など

ちょっと強引なくくり方ですが、「ロードランナーショー」「ドゥルーピー」などとあわせて、テックス・アヴェリー作品、チャック・ジョーンズ作品は、新人の頃には繰り返し繰り返し観たものです。“動き”で笑わせるという事をこれで学んだような気がします。あと、音楽の使い方や、日本語版のキャスティングもいいんですよね。ドルーピーの玉川良一はもう、神キャスティングですよ。ああいう他に代えようのないキャスティングをしたいものです。

●『ファイヤー&アイス』

これも新人の頃に繰り返し観たアニメです。ライブアクションを使ったアニメなんですが、実写をただ引き写しているのではなく、ためや詰めをコントロールして、気持ちよさや力強さを表現しているところに共感しました。立体感のある絵なのに影なしノーマルのみという絵の割り切り方も当時は新鮮で、いろいろと考えるヒントをもらいました。男性の描き方が秀逸なのに、女性の描き方がどうも微妙で趣味に合わないところが困りもの。

●『パタリロ!』

土田勇さんの美術監督作品。まだ演出助手の頃の作品です。原作の絵は極端なまでに平面構成なレイアウトなんですが、それをそのままやるというのが当時驚きでした。なにしろパースというものがほとんどないレイアウトですから。これを提案したのは土田勇さんだと思いますが、こんなことをやっても大丈夫なんだという事を知ったのは重要で、後の自分の作品でいろいろチャレンジするきっかけにもなっているという気がします。

●『とんがり帽子の メモル』

『パタリロ!』と同様に土田さんの美術。美術監督が画面を作るのだという事、そこから生まれる絵の世界こそが、アニメがアニメである理由ではないかと思わせる作品でした。美術の意向で演出方法に縛りが生まれる事があってもいいのだと学びました。自分には、背景にリアルさよりも絵画としての個性を求める傾向があると感じているのですが、この作品の影響が大きいのかもしれません。そういえば土田さんといえば『龍の子太郎』も秀逸でした。水の表現とかすげー。

●『ビッグ・スニット』

初めて観たときかなり衝撃を受けました。アニメの雄弁さとはこういう事だと。主人公たちはただ夫婦げんかをしているだけで、テーマなどに関する事は一言も語らない。しかし最後の1コマで一気にがつんと伝わる恐ろしいメッセージ……。こういう描き方も、自分的には今後の目標のひとつです。

●『ΠΛΑΝΗΤΕΣ(プラネテス)』

SFマインドとかのない自分ですが、それでも楽しく観る事ができました。というか“宇宙から見れば、地上には国境などない”というところで泣けるし……。小道具の使い方のうまさとか、物語の着眼点のうまさとか切り口のうまさとか、原作の魅力もあると思いますが、なんだか大切にしておきたいという気になってDVDを買いました。DVDを買わずにいられない人の心を体験した作品です。

●PROFILE
佐藤順一 監督・演出家。代表作は『美少女戦士 セーラームーン』『魔法使いTai!』『カレイドスター』『ARIA』『たまゆら』など多数。監督最新作『ファイφブレイン 神のパズル』が2011年秋に放映開始予定。Twitterのアカウントは @satojumichi

(10.12.28)