【artwork】『マイマイ新子と千年の魔法』
第11回 美術(1)

 今回からは本作の美術まわりを紹介しよう。主人公・新子の家は農業を営んでいる。家の周りには麦畑が広がっており、そばには川が流れ、裏手には養鶏農家がある。新子は、そんな実家の光景を、麦畑の海原に浮かんだ船に見立てていた。本作を観た原作者の高樹のぶ子は「自宅に立った、360度の景色が忠実に再現されている」と絶賛したという。これまで同様、各画像に付したコメントは片渕監督によるものだ。

●藤づるのハンモック(イメージスケッチ)
本作では主だった場面でも美術設定図を描いていないことが多く、画面構成・浦谷千恵のスケッチから美術監督・上原伸一が直接美術ボードを描いているケースが多々ある。これはそのひとつ、新子のひみつの隠れ家である藤づるのハンモックのイメージスケッチ。


●藤づるのハンモック(美術ボード)
同じ場所の美術ボード。背後に見える養鶏農家の鶏小屋との位置関係など、いちど全体の配置を設計し直した上で、ボード化されている。


●新子の家・座敷(イメージスケッチ)
これも浦谷のスケッチ。こうした方法を採っているのは、まず大道具小道具の配置で生活感を確立した上で、その場の情景を作りたかったからだ。


●新子の家・座敷(美術ボード)
同じ場所の美術ボード。小物の類はあとで描き足すことにして、まず、縁側の陽光の明るさ、奥まった室内の薄暗さを設計している。


●新子の家・台所/水場(イメージスケッチ)
新子の家には流しのある台所のほかに、土間(水場)があり、火を使った煮炊きはこちらで行われる。土間には氷式の冷蔵庫や、電動ポンプのついた井戸もある。



●新子の家・台所/水場(美術ボード)(昼)
台所と水場を一枚で描いた美術ボード。間にある壁は取っ払ってある。室内はとにかく、当時の雰囲気を出すために、薄暗く描いてもらっている。


●新子の家・台所/水場(美術ボード)(夕)
同じ場所の夕方。暖かな色合いの白熱電灯が灯り、晩ごはんが出来るのを待つ、なつかしい時間帯。電灯の笠が光を遮るので、天井の方は暗い。


●新子の家・便所脇の縁側(美術ボード)(夕)
これは、初期に美術監督を補佐する立場で協力してもらっていた今野明美によるボード。お便所から出るとお手水(ちょうず)でちょんちょんと手を洗い、日本手ぬぐいで拭く。そんな生活感。


●貴伊子の家・台所(美術設定)
上原伸一による美術設定。上原さんは貴伊子の家の中を描くのが楽しくなってしまって、このほか、画面に映らない壁面まで何枚も丹念な美設を作り上げてしまった。


●貴伊子の家・台所(美術ボード)
新子の家の台所周りとはだいぶ趣が違う。近代的な? ガス冷蔵庫もあれば、ガス湯沸かし器もある。ガス冷蔵庫は片渕が昭和30年代に住んでいた家に実際にあった。


●バー・カリフォルニア内部(イメージスケッチ)
このシーンの演出を担当した香月邦夫が、室内の配置を決めるために描いたもの。縄のれんをくぐった向こうに、違法な博打場がある、という設定だった。


●バー・カリフォルニア内部(美術ボード)
隠避な雰囲気を出そうと、江戸時代の遊郭みたいな壁の色にしてみた。


【artwork】『マイマイ新子と千年の魔法』第12回へつづく

●『マイマイ新子と千年の魔法』公式サイト
http://www.mai-mai.jp

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