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第13回
東映アニメモノクロ傑作選『サイボーグ009』
竹田青滋(プロデューサー)

 『サイボーグ009』は、比較的よく見ていたという記憶があったのですが、いざ見直してみると、オープニングの歌と映像以外はほとんど覚えていませんでした。
 特に、キングコブラのような敵メカは、なぜかこころに残っていたので非常に懐かしい思いがしました。
 さらに、劇場版の『009』が先行していて、ブラックゴーストなどの設定は、テレビシリーズでは説明のないままに進んでいくあたり、今回見直すまで気がついていませんでした。
 でも、当時小学2年生だった自分が、どうして熱中して見ていたのか、なぜ島村ジョーがあんなにかっこよく見えたのか、分かったような気がしました。
 脚本家の辻真先さんが、特典映像のロングインタビューで語っておられたのですが、「比較的おそい時間枠が空いたので、子供向けだが中学生、高校生にも納得のいくものを作ってくれというオーダーで、すでにキャラクターの存在している『サイボーグ009』でやろうと決まった」ということで、当時の自分にとってはやや背伸びして見ていた感覚があったんだろうなと合点がいくのです。
 さらに辻さんはインタビューのなかで、「当時のスポンサーのじいさんたちは、子供向けの漫画なんてものは見てなくて、その分自由にいろんなことができた。今じゃあ、憲法の条文をスクロールで画面に出すなんて、考えられないでしょうね。みんなにいいようにしようとすると、脚本も角が取れてしまう、金平糖じゃなくキャラメルになっちゃうんです」とも語っておられます。
 憲法の条文のくだりは、「太平洋の亡霊」という16話で、戦争放棄をうたった憲法第九条が、広島の平和記念公園のロングにオーバーラップして、画面いっぱいにスクロールで出てきます。
 戦争中に特攻機のりの息子を失ったマッドサイエンティストが、超能力を使って海底に沈んだ戦艦やゼロ戦を甦らせる、水爆実験に使われた戦艦長門も再生させて、サンフランシスコに放射能汚染をもたらすという内容で、無残な敗戦からわずか20年ほどしか経っていないのに、またぞろ戦争の道具を拡大していく自衛隊や日米安保の状況を批判するあたりは、21世紀の現代にも通じるものでなかなかの迫力で迫ってきます。
 放送のあった1968年と言えば、1962年のキューバ危機があり、翌年にJFKが暗殺され、ベトナム戦争の泥沼にアメリカがはまり込んで、68年にテト攻勢で本格的な戦争状態に突入していった時期です。
 そうした時代の息吹を如実に反映している26話「平和の戦士は死なず」も、真正面から反戦を訴えている作品で、米ソ冷戦の緊張状態や大陸間弾道ミサイルICBMが、そのまま描かれているなど、かなり驚かされる内容です。
 詳細については、忘れてしまっていた『009』のテレビシリーズが、なぜか自分のなかにひっかかっていたのは、子供向けだからといって子供に媚びることなく、自分たちの伝えたいことをそのまま表現しようとしていたからなのかもしれない、そういう気持ちで制作された方々の真摯な思いがいっぱい詰まっていたからなのかなあと、つくづく感じ入りながら拝見しました。
 放送当時、NETとわたしのいる毎日放送は、ネット関係にあったので、私自身は大阪毎日放送のチャンネルで『サイボーグ009』を見たわけですが、40年後の今、自分自身がアニメの放送に携わっていることに不思議な縁を感じるとともに、とにかく辻真先さんはじめ制作者のみなさんからエネルギーをもらったような、ちょっとええ気分になりました。

●商品情報
「サイボーグ009」
価格:3990円(税込)
仕様:VWDS9119/モノクロ/片面2層/約98分収録/ドルビーデジタル(日本語モノラル)/TVサイズ
収録作品:「Xの挑戦」(第2話)、「太平洋の亡霊」(第16話)、「非情な挑戦者」(第24話)、「平和の戦士は死なず」(第26話)
映像特典:辻真先(脚本)インタビュー
発売元:東映アニメーション・ブエナビスタホームエンターテイメント
好評発売中
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(06.08.22)

 
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