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第6回
「『W3』がとっても好き!」(W3 Complete BOX)
早川 優(ライター)    

 のっけから個人的な話で申し訳ない。
 数ある手塚治虫ものアニメの中で、『W3 ワンダースリー』は、東映動画の『ジェッターマルス』と並んでフェイバリットな作品だ。告白しておくと、『W3』との最初の出会いはサンデーコミックスの単行本だったのだけれど、それがほぼ初の手塚体験になった筆者にとって、最高にときめかされた体験だった。
 まず、主人公の一方が、地球が宇宙にとって有罪か否かを決定するために派遣された宇宙人というところがスゴイ。SFなんていうものにまだ触れていない子供にとって、頭クラクラは必至の壮大さだ。おまけに、宇宙人が地球の動物に姿を変えるというアイディアの妙と、調査グループの隊長を女性に設定し、それがウサギの姿になって権勢を振るう辺り、ウサギ姿のボッコの外見的可愛らしさも手伝って、当時の作品とは思えない絶妙な味わいである。思えば「三つ目がとおる」の和登サンにしても、手塚作品の勝ち気な女性像は世の男性心理の中のM部分をしなやかに刺激するよなぁ、とは筆者後年の感慨である。
 さて、動物に姿を変えた宇宙人・ワンダースリーに対する地球人側の主役は、郊外に暮らす星真一少年と、その兄で世界の平和を守るフェニックス機関のエージェント・F7号こと、星光一という布陣。筆者的には、中折帽子を斜に被り、秘密兵器内蔵の腕時計を身につけて活躍する諜報員・光一の設定にシビレた。冷戦下にあった当時の西側世界は、007の映画に端を発するスパイ映画ブームに沸いていた。宇宙と地球のスパイが不思議な協力体制をとって様々な事件に挑んでいく『W3』は、1960年代スパイ・ブームの潮流を敏感に取り入れ、手塚流SFテイストで纏め上げた極上の娯楽作品だったのだ。
 コンセプトばかりが『W3』の魅力ではない。そのメイン・ビジュアル・イメージを思い描いて欲しい。ウサギ、カモ、ウマと一緒に活動する少年の姿を。しかも、彼らは自走する大きなタイヤの中にいるのだ! 柔らかな描線で描かれた動物たちと破天荒なSFイメージの同居は、本作の多面的な魅力を代弁して余りある。動物! SF! スパイ! アクション! 何て子供まっしぐらな要素てんこ盛りの作品だろう。これぞ、That's 高度成長期のゴージャスさなのだろうか。
 『鉄腕アトム』が人気を博し、『ジャングル大帝』の製作が進行していた虫プロで第3の作品(放映は本作が2番手となった)として企画がスタートした本作は、その成立までに実に多くの紆余曲折を経たことでも知られている。いわく、当初は集団ヒーローものの「ナンバー7」のアニメ化企画が、題名はそのままに諜報員・星光一と超能力を持ったリス・ボッコの活劇談に変更され、最終的に桃太郎の発想から動物キャラを変更の上3匹に増やして完成作に至る。タイアップ漫画の連載も、当初は「少年マガジン」でスタートしながら、2番目の「ナンバー7」企画の再度の内容変更の切っ掛けとなった設定類似作『宇宙少年ソラン』の同時期連載によるトラブルから、連載6回目にして突如打ち切りとなり、最初から描き直す形でライバル誌「少年サンデー」へ鞍替えするという前代未聞の事態を起こしている。
 後々にそういった事情を知れば、後年まで光一と3匹の繋がりにしっくりいかぬものを感じていた手塚の思いも理解できるが、ファンとして作品を見ている限り、木に竹を接ぐような不自然さはまったくない。それどころか、地球にジャッジメントを下さんとする宇宙人が、アニメ化を前提にした企画に相応しく、手塚のディズニーへの思い入れに満ちた動物キャラクターとして活き活きと描写され、しかもスパイ活劇の大枠の中にしっかりと収まっていることに、手塚のクリエーターとしての類い希な想像力の大きさに感嘆するのである。
 さて、現在の目で改めて本作を見直してみると、タイトルロールの3匹の活躍場面を中心に動画が頑張っていることに気づく。
 中でもボッコの艶めかしさは、アニメのメタモルフォーゼ表現に取り憑かれた手塚作品としては面目躍如たるものだろう。漫画のコマ中にも真一への愛情にモジモジする件など、動画と錯覚するほどの躍動感に満ちた絶品の画が多数あるが、そこは実際に絵を動かせるアニメの強み。白石冬美という絶好のCVを得たボッコは、リアルな動物の動きに人間的に戯画化された仕草を加えることで、えも言われぬ色っぽさを醸し出す。最終回で真一をして「こんな綺麗な人、見たことない」と言わしめた宇宙人としての素顔だが、ウサギ姿の方が魅力的に感じるのは大半の視聴者の共通の思いだろう。
 一方、3匹の中の突っ込み役を与えられたブッコは、そのヒネた性格も含めてドナルド・ダックのオマージュが濃厚に現れたキャラである。カモ然とした飛行シーンもなかなか見せてくれるが、当初のキャラ・デザインを一歩進め、当時のビートルズ旋風で一気に有名になったマッシュルーム・ヘアーを採用していることもあり、第1話から作品中で度々ギターを片手に歌を披露するという趣向が楽しい。
 ボケ役のノッコは、周囲のどんな材料でも駆使して超科学の道具を作り出すという設定がミソ。ノッコが作り出す奇想天外なメカは、物語後半のスラップスティックな展開に寄与することが多かった。
 各話ではチーフディレクターの杉山卓ら若手のディレクターが腕を振るい、数々の名編、異色編、実験作が続出した。そのラインナップは今の目にも新鮮に映る。たとえば、全編の音楽をベートーヴェンの「田園交響曲」で通した第4話「クスノキ物語」は、ディズニーの大作映画『ファンタジア』の趣向をテレビ・シリーズで行ってしまったとてつもない試みであり、後の手塚の実験作『森の伝説』の先駆けとしてつとに有名である。が、全話を俯瞰してみると、唐十郎が脚本を手掛けた第39話「サバクの英雄」等の楽しい海外舞台作品や、ノッコが作り出した脳内イメージを具現化する装置にまつわるドタバタ劇の第50話「てんてこマシーンでやっつけろ」などの、良い意味で力の抜けた作品が、今の目には無条件に楽しく映る。
 そして、感動の最終話「サヨウナラ・ワンダースリー」。漫画のラストは時間テーマを取り入れた驚きの仕掛けが施されたが、アニメでは原作と一味違った儚さを湛えつつ、よりストレートな終幕を用意している。その他、良識派のライター若林一郎によるO・ヘンリー「最後の一葉」のSF流反歌・第9話「沈むな太陽」の感動や、「スパイ大作戦」を想起させるトリッキーなスパイ・ストーリー第5話「浮かぶ要塞島」、月岡貞夫が脚本・演出・作画と驚異の八面六臂の活躍で仕上げた第27話「ダイヤモンドへの招待」などなど、特筆すべきエピソードを挙げていけばキリがない!
 現在までリメイクが製作されていない手塚アニメの大鉱脈の一つ『W3』。その時代を超えた面白さを、今回の廉価盤でトコトン味わってはいかがだろう。

●商品情報
「W3 Complete BOX」
価格:19950円(税込)
仕様:モノクロ/10枚組(全52話収録)
発売元:コロムビアミュージックエンタテインメント
好評発売中
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