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第7回
「古びることのない魅力」(どろろ Complete BOX)
金春智子(脚本家)    

 実を言うと、「どろろ」のアニメをじっくりと見たのは、今回が初めてだった。
 原作のマンガは子どものころにコミックスで読んだ記憶があるのだが、1969年に放送されたアニメは、残念ながら私の実家では見ていなかった。
 アニメファンになってから、何人もの友人たちに、アニメの「どろろ」がいかにすごかったか、面白かったか、こわかったかをさんざん聞かされて、とてもくやしい思いをしたものだ。
 上映会でなんとか1本だけ見ることができ、もっと見たいと思ったけれど、希望はかなえられなかった。作品中に使われている言葉や表現が放送コードに引っ掛かるということで、再放送不可能な幻の作品になっていたからだ。

 さらに年月が過ぎ、「どろろ」のビデオソフトが発売されたと聞いたのだが、「いつか絶対に見たい」と思いながらも、日々の忙しさにかまけて見ずにいた。
 今回思いがけないきっかけで、幸運にもその機会が訪れたわけだが……。
 第1話のアヴァンタイトルが終わり、「♪ホゲタラホゲタラ……」と藤田淑子さんの澄んだ歌声が流れ始めた時点で、すでに後悔していた――「いつか」などと言わず、もっと早くに見ておけばよかった!

 職業柄なのか、どうしても作品を見る時には、ストーリーや登場人物の設定が気になるのだが、今回とりわけ印象に残ったのは、主人公の百鬼丸が、親によるひどい虐待を受けた子どもに設定されているという点だった。それも、生まれる前から。しかも、これ以上はないだろうというほどひどい形で……。
 ここ数年話題になっている本のタイトルを借りれば、まさしく「“It”と呼ばれた子」そのものである。

 父である醍醐景光は、「天下を取る」という自身の野望のために、自ら子どもの体を魔物たちに差し出した。魔物に騙されたり脅されたりして生まれてくる子どもを差し出すという話なら、グリム童話などにもある。しかし景光は、そのおぞましい取引を自ら申し出ているのだから、すさまじい。
 生まれてきたわが子の姿を見、魔物たちが取引に応じてくれたことを確認すると、景光は百鬼丸を捨ててしまえと妻に命じる。妻は、泣く泣くではあるがそれに応じ、百鬼丸をたらいに入れて、川に流してしまう。
 父の虐待を受けて生まれてきた百鬼丸は、今度は母によって完全なネグレクト、育児放棄をされたのである……。

 そんな視点でこの作品を見直してみると、「どろろ」とは、百鬼丸が親から受けた虐待の傷を自らの力でひとつひとつ癒し、克服し、本来の自分を取り戻していく過程を描く物語だと解釈できる。「自分探し」という言葉は安っぽくてあまり好きではないのだが、この作品は、百鬼丸の究極の自分探しの物語だとも言えるわけだ。

 魔物に取られて失われた48の体の部分を、虐待による心の傷に置き換えれば、百鬼丸を助け、育ててくれた医者の寿光が、「わしの医術の力などでは、お前のふしぎな運命をどうすることもできない」と告げ、「旅に出よ、自分のために戦ってみろ」と勧めるくだりも、医師やカウンセラーと心に傷を負った患者との関係に似て見えてくる。他人に手助けができるのは途中まで、最終的には患者本人が自らの力で傷を克服しなければならないということだ。
 かなり深読みになってしまうが、百鬼丸のふたりの「父」の名前に、「景光」「寿光」と同じ「光」の文字が入っているところも、何やら意味ありげである。

 一方、百鬼丸の旅の相棒のどろろはと言えば、一見不幸な生い立ちに見えながらも、親子の関係で見れば、父からは生きていく上での誇りの大切さを教えられ、母からは惜しみのない愛を与えられて、とても幸せな育ち方をしている。
 まさに、百鬼丸とは真反対に設定されているのである。
 どろろの何ごとにも物おじせず、自分の思ったことをそのまま言え、そのまま行動に移せる性格も、両親に肯定され、精神的に満ち足りて育ったからこそ形成されたものなのではないだろうか。

 親子関係の問題は、悲しいかな、人類がある限りなくなることはないだろう。「どろろ」という作品が、魔物や妖怪が跋扈する戦国時代という一見奇抜な設定で描かれていながらも、現在に至るも古びることなく、不思議な魅力を持ち続けている理由のひとつは、物語がこういった普遍的な要素をいくつも内包しているからにちがいない。
 原作が持つさまざまな普遍性を、スタッフはみごとにアニメに移し替え、原作よりさらに際立たせることに成功している。
 途中、さまざまな事情から路線変更を余儀なくされたのは、本当に残念きわまりないことだが、最終回では当初描きたかったであろうことをきちんと描ききっていて、見事だ。

 総監督の杉井ギサブロー氏、演出の出崎統氏、高橋良輔氏、富野喜幸(由悠季)氏、脚本の鈴木良武(別名、五武冬史)氏といった方々は、当時みな20代半ばから後半だった。今なお現役で活躍中のクリエイターたちの若き日の仕事は、それぞれに見応えがあり、その後の作品との共通点がほの見えたりして、興味深い。
 一例をあげると、筆者は今「雪の女王」に参加しているのだが、打合せのたびに、出崎監督が登場人物の感情の描写をいかに大切になさっているかを思い知らされている。「どろろ」第1話の景光のおぞましさ、どろろのたくましさと優しさ、第6話のどろろの母の愛などを見れば、きっとわかるはずだ。おなじみの3回パンやハーモニーはなくても、出崎演出が確かにそこにあると。

●商品情報
「どろろ Complete BOX」
価格:9975円(税込)
仕様:モノクロ/5枚組(全26話収録)
発売元:コロムビアミュージックエンタテインメント
好評発売中
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