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アニメの作画を語ろう
animator interview
三原三千夫(4)
意識して40歳から巧くなる


小黒 『ケモノヅメ』が面白かったというのは?
三原 とにかく、今までは手癖で仕事をしないようにずっと意識してきたんですよ。
小黒 自分の得意な画で勝負しちゃいけないという事ですね。
三原 ええ。やっぱり原画マンとして仕事をしていくにあたって……いや、勿論そうは言っても、自分の得意な画になってるんですけどね。あえて、手癖で描かないようにしようという意識は常にありました。でも、『ケモノ』に関しては100%手癖で。だから、早いんですよ(笑)。悩まないんですよね。今から思えば、俊彦とか一馬の顔があんまり巧く描けなかったので、キャラも自分で作っちゃえばよかったなあと。
小黒 ああ、12話用のキャラを。
三原 そうしたら、もうちょっと画に統一感が出たと思うんですよ。どうしても、キャラに引っ張られていきましたから。大場や刃は相当自分の思ったように描けましたけどね。
小黒 やっぱりあんなふうに唇を分厚く描きたいんですか。
三原 うーん、だって人間には唇があるんですからねえ。ほんとは、もっと上手く口を動かすつもりだったんですけど、やっぱりちょっとできなかった。そこまでやると、唇が鼻より高くなっちゃいますからね。そんなふうには、みんなあんまり描かないでしょ。物を立体的に捉えるという仕事が、日本のアニメーションでは、意識的にそぐわないのかもしれませんが、あんまりそちらの方向にはいっていないですよね。物を立体的に描いてるようにみえますが、実はキャラの個性みたいなものは平面なんです。また『ベルヴィル』の話になりますけど、『ベルヴィル』では、鼻が頭と同じくらいの長さがあって、それが正面を向いたところから横にいくみたいなのを描いてますから。立体の奥行き感の出し方とか、立体の捉え方みたいなのは、ヨーロッパ人の方がかなり凄いんじゃないでしょうかね。そんな話も、井上さんとよくしてました。
小黒 なるほど。
三原 とにかく、『ケモノヅメ』の時は、キャラを立体的に描きたいと思いながらやってましたね。巧く描けなかったら、それは画力不足なんですけど。あと、キャラを立体的に描く時に、キャラの立体を表すための、補足の影みたいなものはいらない。『人狼』みたいに、線を少なくする方向じゃなくて、線で描けばいいと思ってやってました。特に拘わったのは、頭の部分ですね。序盤のジンの頭は巧く描けてないんですが、後半出てくる大場の頭は巧く描けたと思うんです。大場の輪郭線付近に線が集中してるのは、面が向こう側に落ちていくという事の表現なんですよね。
小黒 もう少し詳しくお願いします。
三原 ジンの時には、それをやってないんです。最初は、そこまで線を荒らしてしまうと、TP(トレス・ペイント)できなくて、仕上げさんが困っちゃうんじゃないのかなと思ってやらなかったんです。でも、だんだん悪乗りしてきて。そもそも、実際の世界には線がなくて、それを線で区切るっていうのは、人間の意識の問題なんですよね。だから、その作業っていうのは、相当大変なはずなんです。芸術の世界でも、元々彫刻の方がが先にリアルだったんですよね。そのあとに、絵画が彫刻に追いつくかたちでリアルになる。結局、立体のものを立体として捉える作業よりも、立体のものを平面の線で置き換える作業の方が、脳の作業としては高度なんでしょうね。だから、大場の輪郭線付近に線が集中しているのは、わりと意識して描いた結果なんです。あれは、立体の向こう側にみえる線を拾っていくというか、そういうふうな意識で描いたもので……まあ、後づけ的なところもあるんですけどね(笑)。何もかも考えてやっているように喋ってますが、結局は、適当に画面が保つような感じで描いてるだけなんですよ。鉛筆を紙に下ろせば、鉛筆が勝手にやってくれるだろう、みたいな感じで。正に手癖ですよね。非常に楽しくて、描く前に何も考えずに描いてました。

▲彼が作画監督、原画、動画を務めた『ケモノヅメ』12話

小黒 なるほど。ちなみに、『ケモノ』12話のアバンタイトル、僕の芝居はあれでよかったんでしょうか(笑)。
三原 小黒さんは、どうでしたか? 俺は相当上手くいったと思うんですけどね。
小黒 「根も葉もない」って台詞のところが、画と合ってなかったですよねえ。
三原 いや、それも狙ってやってるんです。
小黒 (笑)。狙ってたんですか。
三原 だって、1秒間30フレームで撮ったライブアクションを、1秒間8枚のアニメにするんですよ。もう最初っから、ちゃんとしたものにならないのは分かってるじゃないですか。
小黒 ああ、なるほど。リアルな動きにはならないんですね。
三原 それを狙っているわけなんですよ。だから、ギクシャクして見えるのは当たり前なんです。確かに、ちょっとマニアックすぎる狙いなんですけどね(笑)。
小黒 動きが、少し滑らかじゃないところも含めて、狙いどおりなんですね。
三原 そうです。だから、狙いどおりにできたと思いますけどね。普通に原画枚数をかけて描けば、もっと滑らかに動かせますけど、それじゃつまらないでしょ。
小黒 最初のプランで、アニメか実写かよく分からんようなものっておっしゃってたじゃないですか。やっぱり、それが狙いなんですか。
三原 ええ。だから、それはちゃんとできたかなあって。だって、あそこのアバンで、普通によくできたアニメーションをやってもつまらないじゃないですか(笑)。
小黒 ああ、そう言われればそうですね。
三原 自由にやれるアバンタイトルだから、普通のアニメをやる必要はないでしょう。切り貼りアニメや、人形アニメを作ったっていいじゃないですか。まあ、俺のも時間がなくて、あんまり凝れなかったので、偉そうな事は言えませんが。
小黒 でも、シリーズ終盤のスケジュールの中で、よくあそこまで時間を捻出できましたよね。
三原 あれは、ちょっと自分のわがままをきいてもらったんですよ。最初から後ろの話数に入ってますしね。でかい事言ってますけど。できないスケジュールではできないんですよ。あれを2ヶ月でやれって言われても、できないです。でも、4ヶ月だったらできるんじゃないかなって。じゃあ、なんで2ヶ月しかスケジュールがないんだろうっていう事ですよね。
小黒 原画代を考えると、別に余計なお金がかかってるわけじゃないですもんねえ。
三原 いや、『ケモノヅメ』の中で12話だけが予算内なんじゃないですか。単価で全部撒いて、皆がスケジュールが守れれば予算内で済むんでしょうけど。
小黒 作画しているのが1人だと、制作さんだって楽ですよね。
三原 そうなんですよ。進行さんは1人で済みます。それに、作監の拘束料、移動のガソリン代、電話代、みんな要らないでしょう。偉そうに言ってますけど、他の作品が、作り方を間違ってるんじゃないのかなと思うんですよねえ。
小黒 前倒しで時間たっぷりとって作ろうとしても、脚本やコンテの段階で時間を食っちゃって、やっぱり作画の時間はいつもどおり短くなる場合が多いですよね。
三原 そうなんですよねえ。『妄想』4話の時も、やっぱり今さんがきちんとスケジュールを管理していたから、できたんだと思います。まあ、あの時は、全部描いてないので偉そうな事は言えませんが。やっぱり、みんな作り方をもっと考えた方がいいんじゃないですかねえ(笑)。
小黒 やればできるんだ、と。
三原 やればできるって、(『Gライタン』で)なかむらさんとか余裕でやってましたからね。
小黒 やってましたね。しかも、何人かでやった回よりも、なかむらさんの回の方が遙かに出来がいい。
三原 それはもう当然ですよね。なかむらたかしさんは、もう飛び抜けてましたから。人形が襲ってくる回(22話「生きている人形」)とか凄かったですよね。
小黒 あと、「大魔神の涙」(41話)も。
三原 そうですよねえ。殴ると、こうポカっていう(笑)。
小黒 あれですね。丸いエフェクトが出て(笑)。
三原 でも、あれは実は『ガッチャマン』で先にやってるんですよね。
小黒 似た事をやっていましたよね。
三原 話を戻しますけど、ほんとはアメリカのドラマみたいに、作ってから放映っていうのが理想だと思うんですよ。3人ぐらいで原画、作監も含めてやるのが一番効率的なんじゃないですか。1人だと、やっぱりちょっと無理がありますから。
小黒 1話あたり3人ぐらいで。
三原 今は10人、20人近くの原画マンでやっているわけでしょう。その理由は、スケジュールがないっていう事実ひとつだけ。だったら、スケジュール作ったらいいのにって思うんですよねえ。まあ、『ケモノヅメ』で、たまたまできたから偉そうに喋っているだけなんですけど(笑)。
小黒 今後は分かんないぞって事ですね。
三原 いや、スケジュールがなくて、最初からできないと思ったら仕事を受けないですもん(笑)。。まあでも、『ケモノヅメ』は、自分の中では、ほんとにやれてよかったなあっていう仕事になりましたね。勿論、直したいところはありますよ(笑)。俺はわりと描いたら描きっぱなしで、自分の画に作監入れたりとか、そういう執着はあまりないんですよ。だから、失敗してる画もそのまま画面に出ちゃってますしね。大体、アクションレコーダーも、ストップウォッチもほとんど使わないですから。失敗したら失敗したでいいみたいな、いい加減なところがあるので、そこを直していくと、もうちょっと進歩できるのかなと思ってるんですけど。
小黒 いえいえ。去年、自主制作の短編(『2005年宇宙の旅』)をお作りになってるじゃないですか。今、2本目を制作中なんですよね。
三原 ええ、今やってるところです。
小黒 これも、『自転車ショー歌』や『Paprika』がきっかけになるんですか。
三原 直接のきっかけは『自転車ショー歌』ですね。自分1人で何もかも描けるっていう喜びや、面白さが味わえたので。やっぱり、分業が駄目なんですよね。
小黒 話は前後しちゃいますけど『自転車ショー歌』は、ご自身にとって相当大きなお仕事ですよね。
三原 お金をもらってできた仕事の中で、『自転車ショー歌』と『ケモノ』12話は、自分の中で、一番大事な作品になってますね。何度も言ってますけど、作画が分業制である必然性はないと思うんですよ。作監、原画、動画というかたちを採らなくても、画面が作れる。そういう事がこのふたつの仕事を通して分かったんです。それからですね、全部自分で描きたいって思うようになったのは。動画もやりたいんですよ。自分の描いた線がそのまま画面になるのは、ほんと魅力的なんですよね。ただ動画に関していうと、あまりに動画の線が酷くても、画面が普通に見えてしまうところが、ちょっと「魔術」なんですよねえ。『妄想』4話の時なんかに、それを実感したんですが。
小黒 ああ、なるほど。
三原 動画でいい加減にトレースされて、かたちが死んでしまっている。でも、セルのアニメーションって、それを補ってしまう平面の強さみたいなものがあるので、それでも画面が保ってしまうんですよね。だから、もっと自分の線が出せたら画面の密度感が上がるんじゃないかと、いつも思っていたんです。『自転車ショー歌』や『ケモノ』12話みたいに、自分の線をそのまま画面に出せる仕事は、また機会があったらやりたいですねえ。あれを観た、一般のファンの人の反応はどうだったんでしょうか。
小黒 『ケモノ』12話、評判いいですよ。
三原 評判よかったですか。
小黒 実際には、かなり絵柄が違うじゃないですか。でも、それをあまり気にしている人はいなかった感じですよ。
三原 それはありがたいですね。僕は僕なりに、自分で着地点を見つけたいんですよ。動きの面で橋本晋治さんみたいな才能もないし、沖浦さんより巧いわけではないですし。でも、人それぞれの着地点があると思うので、これからは自分なりの着地点を見つけて、仕事に反映させていけると嬉しいですね。
小黒 三原さんのアニメーター人生は、『Paprika』ぐらいから第2期に入ったわけですね。
三原 それはもう、意識してそうしようと思ってるんですよ。瀬戸内寂聴が「84歳になっても小説を書くのはどうしてだ」と聞かれて、「だって、書くしかないんだもの」って話してた事があるんです。リチャード・ウィリアムズも、社会的地位を築いていたにも関わらず、40歳にしてディズニーの凄い人達に弟子入りしましたよね。「情熱をもって生きる」っていうのは、こういう事ですよ。大塚伸治さんは確か50歳近くですけど、素晴らしいお仕事をされてますよね。そういう先達を見習っていきたいです。日本のアニメーターって、原画だけをやって、40歳を越えても凄い人ってあまりいないじゃないですか。
小黒 そうですね。大体作監とか、キャラクターデザインの方に。
三原 小原秀一さんとか、素晴らしい画を描いてますよね。あと、森康二さんが凄いなと思うのは、一生一アニメーターで、しかも一生画のクオリティが落ちなかったという事なんです。僕もアニメーターを20年やってきて今年41歳になりましたけど、ここから画が下手になって、仕事も雑になったら、つまらないじゃないですか。まあ、今は比較的お金がもらえて、食べていけるから、そういうでかい事も言えるんであって、生活に困ったら、たぶん手を抜いていくと思うんですけどね。でも、そういう悪条件がないんだったら、意識して40歳から巧くなる、と。40になったから終わりではなく、40から俺の人生は始まる(笑)、みたいに思って仕事をしたいですよね。まあ、そんな事言ってて、次はどうなってるか知らないですけど。やる気なくしてるかもしれません(笑)。

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●関連サイト
『ケモノヅメ』公式サイト
http://kemonozume.net/


(07.01.17)

 
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