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アニメの作画を語ろう
animator interview
三原三千夫(2)
『茄子』での発見と『妄想代理人』


小黒 仕事が面白くなってきたのは、どこら辺からになるんですか。
三原 いやあ、やっぱり『自転車ショー(歌なんでショーか?)』(OVA、2003)からですね。その話につきるんですけど。
小黒 なるほど。
三原 それから、もうひとつあるんですよ。『Paprika』の時、井上さんと席が背中合わせだったんですよ。井上さんは研究熱心だし、やっぱりアニメが好きなんですよね。リチャード・ウィリアムズの「アニメーターズ・サバイバルキット」(グラフィック社)を読ませてもらったりもして。あと、「アニメとは何なのか?」みたいな話も、真面目に語り合ったりするんですよね。少し青っぽい感じで(苦笑)。で、「アニメーターズ・サバイバルキット」を読んで分かったのは、原画、動画、仕上げがあってみたいなかたちは、あとでできたスタイルなんだから、1人で全部描いたっていいって事なんですよ。まあそれは、大平さん、磯さん、田辺さん達がやってきた事なんですけど、結局送り描きっていうのは基本なんでしょうね。効率的に仕事をするために、そのキーになるフレームを「ポーズ・トゥ・ポーズ」で起こすっていう事がよくあるじゃないですか(編注:「アニメーターズ・サバイバルキット」では作画法を3種類に分けており、「ポーズ・トゥ・ポーズ」とは、動きのポイントになるポーズを先に描く作画法を指す。日本のアニメの作画は基本的にこのスタイルだ)。例えば上げてた腕を下ろす画を描くとして、自分の以前の仕事でも、「腕を上げる」「腕を下ろす」という部分だけを描いて、その間は参考の画を入れるか、動画任せだった事もありました。でも、腕が順番に下がっていくっていうところまで描くのが、本当のアニメーションなんですよね。結局、全部描かなきゃ駄目なんだって事です。それをやっていた人達がいたのに、自分は全然してなかった事に今さらながら気がついて。だから、それ以降は、走りとかは全部原画で描くようにしてますよね。歩きはさすがにやってないですけども。今話したような事を、『Paprika』をやる前後から意識するようになったんですよ。そこからですね、アニメーションが本格的に面白くなってきたのは。
小黒 本当に最近の事なんですね。
三原 本当に最近です。自分は元々画を描くのが好きでしたから、アニメーターじゃないと自分でも思ってたんですよね。まあ、今でも巧く動かせてるとは思いませんけど、結局全部自分で描いて、それが動く時の楽しさがアニメーターの醍醐味ですよね。描いて、こうパラパラっとして、それが動いているところを、自分でも本当に面白いと思ったりして。トップレベルのアニメーターさん達は、みんなそういうテクニックを使ってますよね。そういう事をやり始めて、どんどんアニメが面白くなってきました。ああ、アニメーターになってよかったなって最近思いますよ。金銭的には別として(笑)。
小黒 それにしても遅いですねえ(苦笑)。
三原 遅いですよ。それまでは、自分が何をするべきかというのが分かってなかったんですよねえ。リチャード・ウィリアムズは、イギリスで自分のスタジオを持って、相当色んな仕事をして名も馳せていたし、お金も持っていたと思うんですよ。にも関わらず、ディズニーの凄い人達に弟子入りするために、イギリスからアメリカまで行くんですよね。40何歳の時ですよ。それを読んで勇気づけられました(笑)。ああ、20年やってるからといって、もう慣れて終わりみたいな事じゃなくて、好きだったり、熱意があるんだったら、まだまだこれから何かできそうだ。そんなふうに思わせてくれた……。井上さんともよくそんな話をしてたんですけどね。
小黒 なるほど。『ケモノヅメ』でも描かれた、ああいうゴリゴリした線ですけど、元々ああいう線でお描きになってたんですか。
三原 いや、違いますね。あの線のタッチは、ほんとに偶然の産物なんですよ。『茄子(アンダルシアの夏)』(劇場、2003)のゴールラインを切る最後のところで、高坂さんから、原作の黒田(硫黄)さんのマンガみたいなタッチを使いたいと言われたんですね。黒田さんの画って、わりと『ケモノヅメ』みたいなタッチで、ゴリゴリ、ザクザクとした線じゃないですか。そのゴールシーンの原画を描いたのは芳尾(英明)さんという別の人で、申し訳なかったんですけど、その上にタッチを載せさせてもらったんです。で、そうしたら画面が面白いものになったんですね。
小黒 ゴールちょっと前の、盛り上がって、画がどんどん濃くなってくるところですね。
三原 「これは使えるぞ」と思って、『自転車ショー歌』でもやってみたら、思いのほか上手くいったんです。
小黒 なるほど。元々ああいうタッチの画を描いていたのではなくて、むしろ高坂さんに言われて描いたら、いい感じだった。
三原 ええ。具体的にタッチをどういうふうにするかについては、自分なりに工夫したところがありますけど。
小黒 『茄子』の時、役職は作監補佐だったんですよね。具体的にどんな事をやってたんですか。
三原 主に、自転車のシーンの直しとかですね。
小黒 ご自分で、原画を描いたりもしたんですか。
三原 ええ。ペペが最初にボトルを取るところとか、あの辺は全部自分の原画ですね。あと、ギアを変速するところとか。自転車は2度と描くまいと思いましたね。
小黒 ええー(笑)。
三原 『ベルヴィル(・ランデブー)』だって、CGを使ってたじゃないですか。自転車を描くのは大変なんですよ。ちょっと話が長くなってしまいますけど、俺はやっぱりセルアニメが好きなんですよ。でも、今の日本のアニメーションで、セルアニメの可能性がきちんと追求されてるとは思えないんです。綺麗に描くとか、影をつけるとかっていう方向ばっかりに、日本のアニメ−ションは向かってしまってますよね。だからこそ、単純なベタ塗りでも、線のタッチの入れようによっては、十分画面が保つという事に気づいたのは大きかったですね。こっちの方向は、かなり自分にはいいぞって。
小黒 それに気がついたのが、『茄子』のゴールシーンなんですね。
三原 そうですね。それが『自転車ショー歌』につながるんです。
小黒 なるほど。そういえば、『妄想(代理人)』(TV、2004)の9話(ETC)もちょっとそういう感じが出てますよね。
三原 『妄想』のあの話は、野球のやつ(HR)の方が、仕上がりとしては上手くいってると思うんですけどね(笑)。同じ9話の政治家が出てくるやつ(SOS)は、何か失敗してますよね。なんでなのかは分からないんですけど。
小黒 それは、画が?
三原 画があまりよくなかった。野球のやつの方がよくできてたと思うんですよ。
小黒 野球のやつはコンテもおやりでしたよね。あれは内容も面白かった。
三原 そうですよね。また自画自賛してますけど(笑)。
小黒 ピッチャーのフラストレーションが溜まっている感じがよく出てますよ。
三原 あれは、シナリオがよかったんですよね。シナリオどおりにそのままコンテにしたら、3時間で描き終わっちゃったんですよ。話が脇道にそれてしまっても、大丈夫ですか?
小黒 大丈夫ですよ。
三原 じゃあ、少し海外の短編アニメの話をしますね。絵画的な凝ったアニメーションの世界で、フレデリック・バックは比較的上手くいってますけど、『老人と海』をやったアレクサンドル・ペトロフは、あまり成功しているとは思えないんですよ。例えば、(エドガー・)ドガのパステル画ぐらいまで描けたものが動いたら凄いですけど、そんなの技術的にも、時間的にも不可能ですよね。
小黒 きちんとした1枚画を描くのにも時間がかかりますしね。
三原 そうなんですよ。結局、ああいう絵画的な表現でアニメーションを作るっていう方向だと、意外と画がちゃちくなってしまうんですよね。人形アニメや切り貼りアニメ、普通のセルのベタ塗りでも面白い効果が出せると思うんですよ。つい最近、ディズニーの『ファンタジア』を観直したんですけど、凄い画面なんですよね。あれは、基本的にはセルのベタ塗りなんです。塗り自体にはグラデーションがついてなくて、ベタ塗りのところにタッチをつけたり、線の強弱や変化で画面をもたせてるんですよね。そうやって画面を作るのは効率的だし、省エネだし、上手くいくんだと思うんです。『ファンタスティック・プラネット』もそうでしたけれど。……何の話、してるんでしたっけ? 話が飛びすぎですね(苦笑)。
小黒 セル画のベタ塗りでも、ちゃんといいものが作れるんじゃないかって事ですよね。
三原 そうなんです。実はそういう作品が昔から結構あって、『タイガーマスク』とかもそうですよね。昔はタッチとか色々入ってたのに、今は、あまりにもひとつの方向に行き過ぎているような気がします。とにかく綺麗な画というか……。
小黒 ほそーい線で。
三原 あと、影が緻密だったり。
小黒 そうですね。
三原 まあ影に関しては、新井(浩一)さん以降、影が立体的につけられるという、いい流れはできてますけど、私は「画面にほんとに影要るの?」って思ってしまいますね(笑)。
小黒 え、新井さんって?
三原 新井浩一さん。『(Crying)フリーマン』や『3×3EYES』とかの作画監督をされた。
小黒 なるほど。あの影のつけ方は、最先端って感じがしましたよね。
三原 そうですよね。あれは本当に新しいものを感じました。あれ以降、ジブリなんかがいまだにやっている模様のような影がなくなって、立体の補足としての影ができてくるようになりましたよね。『人狼』は立体の影を意識して、普通の影を排除した作品でしたが、あの方法だと非常に画が巧くないと画面が保たない。それより、適当な画でも、『ケモノヅメ』みたいにタッチを入れたら、結構画面は保つんですよね。今デジタルになったから、線の荒さや途切れ感を簡単に拾えるようになりましたから。カーボン紙(トレスマシンによるセル画への複写)を使ってた時はできなかったんで、これはもうコンピュータ様様なんですよ。
小黒 カーボンといえば『タイガーマスク』って、トレスマシンじゃなくて、ゼロックスなんですよね。
三原 ええ。ゼロックスを使ったら、ほんとはできたんですよ。でも、ゼロックスはコストの問題とか、擦れで消えてしまうとか、そういう事があったんでしょうね。それで、結局省エネ、省力化の面で、カーボン紙を使うようになって。あんまりいい手法じゃないと思うんですけどね。ゼロックスってほんと素晴らしいと思うんですけどねえ。まあ、ゼロックス的な事が、もう今はコンピュータでできるようになりましたから、画面作りは、もっと色々チャレンジしていいんじゃないのかな、と思いますね。
小黒 なるほど。
三原 橋本晋治さんの(『THE ANIMATRIX』の)「KID'S STORY」を観た時の衝撃も大きかったですね。あれを観て、みんなそういう事に気づき始めると、色々できるんじゃないでしょうか。まだまだ、やり始めですよねえ。
小黒 『人狼』の作り方は、その大変さはおいといて、肯定はできるんですね。
三原 うーん、自分が好きな画面かどうかという事で言ったら、そんなに俺の好きな画面ではないんですよ。あそこまで線を入れないという事に、何か意味があるのかなという気はしましたね。でもまあ、あれは沖浦さんの強引な画力によって(笑)、成立してますよね。
小黒 本当は服のシワがあるところを、わざと線を入れないでシワを感じさせる、みたいな。
三原 そう。感じさせるには、周りのかたちがしっかりしてないと絶対描けないんで、相当の画力と……あれってシワを描いてわざわざ消してるんですよね(笑)。あれは、ほんとに何か意味があるのかなあ、と。
小黒 ストイックな画面作りなんでしょう。
三原 そうなんでしょうね。それ以降、誰もやってませんけど。でも、セルアニメの表現、画面作りという意味では、何かをしたいっていう意識が凄くあった作品だと思いますね。その意味では『人狼』は成功してると思いますよ。
小黒 なるほど。話は変わりますが、今さんとの作品作りはいかがですか。
三原 今さんとの作品作りについて言うと、コンテの画があまりにもちゃんとしているので、そのとおりに描くしかないっていうのが、まずありますね。最初から、コンテの画から外れたものを描こうというふうには思わないです。
小黒 ……というくらい、コンテの画がちゃんと描けてる。
三原 ええ。だから、『Paprika』(劇場、2006)は勿論、あまりいい仕事はできませんでしたが『千年女優』(劇場、2002)の時も、コンテの画以外のものは何も描いてないですよね。コンテの最初のコマと、後ろのコマの間を描いていたという。まあ、全く何もつけ足せてないとは思いませんけど、今さんの作品に関しては、できるだけ今さんの意向に沿って、仕事をしたいと思ってます。まあそれでも、今さんとしても、何かちょっとはみ出し感みたいなものが欲しいと思うでしょうから、それなりにつけ加えるというか、自分なりのものというのは出そうとは思っていますけどね。基本的には、もう今さんの設計図どおりに、何もかも描くっていう姿勢ですよ。特に『Paprika』に関してはそうです。
小黒 でも、『Paprika』の例のパレードシーンが、全部コンテで描いてあるとは、さすがに思わないですよ。
三原 うーん。でも、相当コンテで描いてあるんですよ。
小黒 はー、それは凄い。
三原 コンテの画と見比べたら分かりますけど、後ろで過ぎ去るどうでもいい奴は自分なりに描いてるところもありますけど、冷蔵庫が歩いてくるシーンとかは、もうコンテそのままですよ。あと最初の方に出てくるモブシーンの画面構成とかも、今さんのコンテのとおりですね。

●animator interview  三原三千夫(3)「『Paprika』から『ケモノヅメ』へ」に続く

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(07.01.15)

 
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