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■『モノノ怪』
中村健治&橋本敬史
インタビュー

■序の幕
■二の幕
■三の幕
■大詰め

 
『モノノ怪』中村健治&橋本敬史インタビュー
大詰め 振り絞る力はまだ残っている


── 今回、監督の中で『モノノ怪』の完成形というのは、制作が始まる時に大体見えていたんですか?
中村 う〜ん。結構ずーっと最後の最後までいろいろな事を考えていたので、最初から完全に見えていたとは言えないですね。流れの中でどんどん決めていった、という感じの方が強いと思います。僕自身、分量にうろたえてしまったところがあって、ゆっくり考える時間がなかったんですよ。今すぐ判断して、今すぐアイディアを出す、みたいな状況が続いたので。
── 視聴者としては、ものすごくハッキリしたコンセプトがまずあって、大勢のスタッフがそれを共有して12回を作り上げたという印象があるんですが。
中村 スタッフに関してはそうでしたね。ほとんどのメンバーがビジョンを共有して、ひとつの方向を向いてやっていました。チームとして凄く連携がとれていて、感覚的な共有はできていたと思います。橋本さんもそうですけど、各ポジションの要になるスタッフの理解度は鉄板で、1週間くらい話さなくても同じ気分で仕事できるぐらい、呼吸ができ上がっていましたね。
── 美術監督とか、CGディレクターとか。
中村 そうです。だから自分のコントロールしている部署で何か不都合があったとしても、その後のプロセスで個々人が頑張って修正していく、という感じ。まあ、ひとつひとつの部署内では、細かい事はたくさんあったと思うんですけどね。だけどそれは、いざとなったら本人が出ていって直しちゃう。そういうシステムでやってました。
── 各部署を引っ張るメインどころの方々がしっかりフォローした、と。
中村 ええ。それと連動して、若い子達の理解もどんどん深まっていって、戦力になってくれた。加えて、佐々門さんや窪さんのようなベテランの方とのマッチングもよくて。先ほどのキャラクターデザインの話じゃないですけど、ハイライトの位置が少しズレただけで大変な事になるみたいな精度を求められる作品とは、目指すところが違いますから。「どういう風に仕事してもらったら、この人が輝けるんだろう」みたいな事を、常にみんなが考えていたところはありますね。とりあえず肯定してみる、みたいな。それでもダメな時は自分達が出動!
橋本 (笑)
中村 そこは心がけてましたね。だから「何をやっていいのか分からない」という不安感みたいなものは、シリーズを通して小さかった気がします。
── キャストに関しては、監督の意向は入っているんですか?
中村 あまり入ってないです。とりあえず「巧い人がいい」という事で、あまり具体的な名前は出してないんですよね。確か「座敷童子」の田中理恵さんは、推薦したらそのまま決まっちゃってビックリしたんですけど。時々そういう事もあったけど、基本的には各話の方向性をキャスティングマネージャーと音響監督とプロデューサーに伝えて、あとは音響監督の長崎さんが……かなりシナリオやコンテを読み込まれる方なので、結構早い段階で候補が絞られた状態で会議が始まる、という感じでした。
 あ、「のっぺらぼう」はもう決まってたから、会議には出てないか。メインどころは最初から緑川(光)さんと桑島(法子)さんだったから。
── それはなぜなんですか?
中村 『怪 〜ayakashi〜』の「天守物語」の2人を呼べたらなあ、と。
── ああ、なるほど。
中村 そのためにシナリオを作った、とまではいかないんですけど、「結構ハマるんじゃないか」という話をプロデューサーの梅澤さんが言っていて。「天守物語」の雰囲気で、2人に参加してもらったら面白いんじゃないかと。
── 竹本英史さんが毎回出てるのは、退魔の剣の役で呼んでいるから?
中村 まあ、それもあります。コンテがないから、いつ解き放つか分からないんですよ(笑)。
一同 (爆笑)
中村 ずっとプロデューサー達が緊張していて、「来週は抜けるんじゃないか?」「今週は抜けるのか?」って僕に聞くんですけど、「分かりません」と。
── それで最初から呼んでいるんですね。
中村 そうです。それと、この作品はかなり特殊なアフレコのやり方をしているんですよ。別録りが多くて時間もかかるし。だからみんなが混乱しないように、現場で柱になる人を作らないとダメだ、というのがあったんですね。前作の時は『怪 〜ayakashi〜』にずっと出ている鎌田梢さんに、「化猫」にも出ていただいたんです。今回もそういう人を入れるのが伝統になったようなところがあって、じゃあ、今度は竹本さんにお願いしましょう、と。竹本さんはスタッフに凄く人気があるんですよ。巧いですしね。どんな役が来ても大丈夫な方なので、非常に助かりました。
── ゆかなさんがやっている加世だけは、前回の「化猫」から続いて「海坊主」にも出ていますが、これはどうしてなんですか?
中村 脚本の小中(千昭)さんが「女性キャラを1人出したい」という話をしてきて、だったら新キャラよりも前作の加世に登場してもらった方が、みんな喜ぶんじゃないか、という提案が小中さんからあったんです。僕らとしても、加世ちゃんを出してあげたい、でも作品の性質上やっぱり出せない、って悩んでいたところもあったんですね。
── 番組が始まる前に伝え聞いた噂では、毎回の舞台や時代設定は違うけど、どこに行っても同じヒロインがいる、と聞いたんですが。
中村 え〜とですねえ、一瞬そういう事を考えた時期もありました。
橋本 あ、それ初耳。そうだったんだ?
中村 でも悩んで、結局は却下したんです。まあ、将来的にもし作品が続く事になった時、そういうコンセプトでやる可能性もあるかもしれないですけどね。ただ、どうしても今回はちょっと硬質な作品にしたかった。それをやってしまうと、どうしても薬売りとヒロインの物語になっていっちゃう。
── 薬売りも、多少柔らかいところを見せてしまうだろうし。
中村 そうなんですよ。だから今回の薬売りは前作よりクールですし、ちょっとドライな面が強いキャラクターになってます。前作から観た人も「なんでこんなにクールなんだろう?」と思うところもあるでしょうけど。今回のシリーズ全体で見ると、(薬売りのキャラクターは)だんだん柔らかくなって、だんだん硬くなるという感じで、また変化があるんですけどね。
── そういえば、前の「化猫」は女性ファンに好評だったそうですが、今回のシリーズではそのあたりを意識されたりしたんでしょうか。
中村 あの、ちょこっとだけ。
橋本 ちょこっと?
中村 ええ。ピンポイントで狙っているかというと、全く狙ってないですけどね。ノリとしては、女の人のよく行く店には男性も来る、という感覚ですかね。女性が来ない喫茶店は流行らないし、カフェテリアにはまず女性が来ないとダメでしょう、みたいな。雑誌でいうと「Hanako」にも載るようなお店にしたい、というか。あくまでぼんやりと。
 特定のファン層だけを狙って作るという事はしませんね。別に嫌なわけではないですけど、この作品の場合は、そこに行きそうになったら自ら止める。そこはこの作品の行くところではないから、という感じ。
橋本 私は結構、意識しました(笑)。
── なるべくかっこよく描こう、とか?
橋本 いや、1年間ブランクがあったので、手から流れちゃったんです。それで、新たに自分の手の中でまた画を作るのに、何度も何度も描いては消し、描いては消して。やっぱり前作と同じ匂いをさせなくちゃいけないですから。薬売りの設定だけは、本当にいちばん最後の最後にやっとできたぐらい、悩んじゃいましたね。
── そうなんですか。
橋本 やっぱり今の気分で描くと違う顔になっちゃうんですよね。前作の時は、本当に自分だけが面白くやって、楽しくいろいろと動かせたらいいなあ、とか思ってたんです。だけど今回は、TVの向こうにいる人達の事も考えて、あえて前とバージョンもちょっとだけ変えてみたりして、ドキドキしながらやった感じです。みんな、新しいデザインを気に入ってくれるかなぁ、とか。
中村 でも、女性の方にウケるというのは、凄く嬉しい事ですよ。「ウレシーー!!」って感じ。
一同 (笑)
橋本 エフェクトばっかり描いてた私の画なのに。
中村 よかったじゃないですか。大人気ですよ、橋本さん。
橋本 もう恥ずかしくて恥ずかしくて(笑)。
中村 僕自身はやっぱり、作品を通じてスタッフの方が人気になってくれるのは、凄く嬉しい事なんですよ。橋本さんも僕の知らないうちに、なんかキラキラしたところに行かれてしまって(笑)。
橋本 いやいやいや(苦笑)。
── そして作り終えられて、ご自身の仕事としてはどうでしたか?
中村 まずはスタッフに感謝ですね。ふたつめには、凄く好意的に観てくれたファンの方々に感謝です。僕、ネットとかで感想も読んでたんですけど、読んでいて凄く感銘を受けたりとか、自分達が思っている以上に深く感じてくれていたりして、観てくれている方々の質の高さを非常に感じたんですね。故に自分達も身が引き締まった、というところもあって。真面目に頑張ってよかったなあ、と思います。
 個人的には全然、自分自身に合格点を出せないので、細かい事を言えばたくさんあるんです。多くの課題が見えた作品でもあった、と思いますね。
── 内容的にも映像的にも、こういった傾向の作品は、今後も作るんですか?
中村 作るかもしれませんけど、全く違うものも作ると思います。たぶん、現時点では『モノノ怪』の制作が終わったばかりなので、こういうスタイルが作りやすいのは確かだと思うんですけど。
 結構、「決まってから考えようかな」みたいな感じなんですよね。意外とあんまりビジョンがない(苦笑)。頭の中にあるアイディアを出せる作品に巡り会わないと、なかなか引き出しを開けられないところもありますから。「また、ああいうのをよろしく」って言われたら、そういうものになっちゃうのかな、という気もしますし。単純にそればっかりもどうかな、とも思いますし。そこは意外とフラットな気分です。
── 橋本さんは今回、ご自身のお仕事としてはいかがでしたか。
橋本 一応、全話・全カットのレイアウトチェックをして、作画も手を入れるところはしっかり入れて。その中でも、薬売りだけは全部ちゃんと手を入れられたので、目標はちゃんと果たせたかな、と思います。薬売りの顔が崩れたら、興ざめして逃げちゃうお客さんもたくさんいると思うので、そこだけはなんとか死守しなければ、と(笑)。監督と一緒にブログを見たりして、「薬売りの横顔だけはちゃんとしていた」みたいな事が書いてあると、「あーよかった」って思ったり。
一同 (笑)
橋本 あと、前作と同じスタッフで、そのまま同じ気持ちでやれたのはよかったですね。そのおかげで根幹のところはちゃんとできたし、よりいっそうスタッフの結束力というか、チームワークの強さを凄く感じました。最後の方は、コンテをいただいたら作画打ちしないで、先行して原画を描いたりして、監督も「そんな感じ、そんな感じ」とか言ってくださったり。
中村 あの頃はもう、打ち合わせがいらないレベルまで行ってましたから。霊界通信みたいな(笑)。
橋本 あと、キャラを描く勉強もできたのでよかったです。これまで裏方だったのに表に出られたのが嬉しかったり、また裏に戻るのが悲しかったり(笑)。
── 今後はまたエフェクトアニメーターに戻るんですか?
橋本 まあ、キャラ作監も少しお手伝いはしますけど、メインでキャラデザインというのは当分ないかな、と思ってます。
中村 でも、なんか楽しかったですね。本当に終わった時は、「できた!」というよりも、「あ〜あ、終わっちゃったな」っていう感じの方が大きかった。前作の時は、なんかもう爆発して終わった、って感じだったんですけど。
橋本 (笑)
中村 時間は足りなかったけど、まだ振り絞る力は全然残ってます。だから、どこかで残ったものを燃焼させたい、みたいな気分もあったんですけど、今はちょっとそれも落ち着いて、「次に何やるか考えなきゃな」みたいな感じです。
橋本 なんだか、1エピソード終わるごとに寂しい感じでしたね。「ああ〜、さよならお蝶さん」みたいな事をブツブツ言いながらやってました。後ろで聞かれてたかもしれないですけど(笑)。最終回もそんな感じです。「薬売りもこれで最後だあ」みたいなね。
中村 そうですね〜。終わった時には、みんなと握手しましたからね。ひとつの行程が終わるごとに、1人ひとりみんな別れていくので、その都度みんなと握手して。「いつかまた会おう!」みたいな。
橋本 俺、握手してない。
中村 えっ、本当ですか? じゃあ、今しましょう(笑)。
(握手する2人)
中村 ありがとうございます。いやあ、今回は本当に、人に恵まれましたね。スタッフにも、ファンにも。そこに尽きます。総合力のなせる業だと思いますよ。
── ご苦労様でした。次回作にも期待しています。

●関連サイト
『モノノ怪』公式サイト
http://mononoke-anime.com/

『怪 〜ayakashi〜』公式サイト
http://www.toei-anim.co.jp/tv/ayakashi/

●DVD情報
『モノノ怪』



壱之巻「座敷童子」2007.10.26発売 税抜3800円(2話収録)
弐之巻「海坊主」2007.11.22発売 税抜5700円(3話収録)
参之巻「のっぺらぼう」2007.12.21発売 税抜3800円(2話収録)
四之巻「鵺」2008.1.25発売 税抜3800円(2話収録)
伍之巻「化猫」2008.2.22発売 税抜5700円(3話収録)

カラー/16:9スクイーズ/リニアPCMステレオ(一部ドルビー・デジタル)/2話収録:片面1層、3話収録:片面2層
映像特典(予定):ノンテロップOP&ED、プロモーション映像集、キャスト・インタビュー、設定画ギャラリーなど
初回限定生産版特典
全巻:豪華描下ろし外箱付き
壱之巻:豪華ブックレット同梱
弐之巻:ミニクリアファイル封入
参之巻:ポストカードセット封入
四之巻:モノノ怪シール封入
伍之巻:折りたたみポスター封入
※仕様は変更になる場合があります

発売元:アスミック/フジテレビ
販売元:角川エンタテインメント

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(07.11.21)

 
 
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