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■『モノノ怪』
中村健治&橋本敬史
インタビュー

■序の幕
■二の幕
■三の幕
■大詰め

 
『モノノ怪』中村健治&橋本敬史インタビュー
二の幕 いい意味で揉めたシナリオ会議


── 監督ご自身の印象としては、前作「化猫」は全力投球・短期決戦みたいな感じだったんですか?
中村 まさにそうですね。
橋本 短期決戦どころじゃなかったですけどね。
中村 ええ、もう超・短期決戦で(苦笑)。
橋本 コンテを作画が追い越した、みたいな。
中村 だははは!
橋本 最終回の変身シーンなんですけど、隣で監督が「イメージが固まらなーい!」とか言ってるんで、もう私が原画を描いて渡して「これでコンテ描いて」みたいな(笑)。こういう段取りでこうやるから、って。
中村 なんかこう……よく思い出せないんですよね(苦笑)。トランス状態みたいな感じでやってましたから。どんな風でしたっけ?
橋本 へとへとで家に帰ったら、1時間後にプロデューサーの樋口さんから「早く来い!」って電話が来る、みたいな。
中村 ああ〜、そんな感じかあ……。僕は家に帰れない、って感じでしたけど。
── 先ほど1000カットなら大丈夫だろうとおっしゃられてましたが、「化猫」3回は全部、橋本さんが手を入れられたんですか。
橋本 入れましたねえ。もちろん、自分は原画のいい味を消してまで修正したいタイプの作監じゃないので、底上げする感じにしていました。あと、原画の間に先ほど言ったような遊びの画を入れて、もう少し動きに新しい事を入れたり。でも「序の幕」は様子見ながら作業してました。薬売りがどういうキャラクターだとか、お話がどう展開するのか全然分からなかったので。あと、やっぱり自分のキャラクターだと描いて人に見られるのが恥ずかしいんですよ(苦笑)。
 「二の幕」は外グロスの回だったんですけど、その時は監督と電話で話しつつ、演出と作監の方に全カットの画と演技について指示を出して、総作監として全てに手を入れました。スケジュールがなくて、全部ラフ原で上がってきたのが、逆に良かったんですよね。そこに私がもう少し演技やタイミングのアイディアを入れて、現場の人に渡してあげるみたいな感じでした。
── 最終回の「大詰め」は、また東映に戻って。
橋本 もう総力戦でした(笑)。まあ、どうせそうなるだろうなと思っていたので、知り合いの原画マンにあらかじめ待機していただいて、コンテが上がったら一斉に電話して、もう「いっせーのせ!」でワアーッと上げた感じですね。
── 動きに関してはいかがですか。
橋本 昔、『(ハイスクール!)奇面組』とか『燃える!お兄さん』とかで、キャラクターのギャグの原画をずっとやっていて、実はそれが自分の動きの基本なんですよね。だから結構、似てる動かし方をしていると思います。
── 画面の作りはあんなにキッチリしてるのに、加世の芝居など、芝居に関しては意外と柔らかいところがありましたよね。
橋本 そうですね。昔さんざん描いてたので、その癖だと思います(笑)。最近のアニメでは禁じ手とされてるじゃないですか。ビックリする時にすくんで伸びる、みたいな。でも、昔はそれを大らかにやってたんだから、「別にいいじゃん、どんどんやってよ」みたいな感じで。そこは「序の幕」で探りつつ……。
── それで、本当はそこで燃え尽きて終わるはずだったのが、降って湧いたようにシリーズ化という話が来た、という事になるんですか。
中村 そうですねえ……。今だから言えるんですけど、まさに前の「化猫」が終わった時にその話が来たんですよ。最終回の初号の後、スタッフの方達がみんな来てくれていたので、せっかくだからこのメンバーでプチ打ち上げをやろう、という話になって。その日の晩にみんなで焼肉に行ったんですよ。ワイワイ、ドンチャンやって、橋本さんはもうベロンベロンになってて(笑)。
橋本 ベロンベロンで携帯持ったまま寝てたという(笑)。
中村 そんな時に、プロデューサーの梅澤(淳稔)さんから電話がかかってきて。「やる気あるか?」って言われて、僕も酔っぱらってたんで「ありま〜す」みたいな感じでプチッと切って(笑)。「いつ」だとか「どんな」とか、あんまり具体的な話じゃなかったような気がします。僕も次に何をやろうかなんてイメージが全くなかったんで、「まあ仕事があるのはいい事だ」ぐらいの感覚でしたね。
 そこから具体的に、「ノイタミナ」枠で、いつ放映で、といった話が来始めたんですけど、なかなかどういう風に進めていいものやら分からなかった。それで最初は、シナリオの横手(美智子)さんとプロデューサーと僕が、月に何回か集まって話し合う、という感じでちょこちょこと始めました。
── 横手さんは当初、設定とか構成とかを作る立場だったんですか?
中村 そうですね。まあ、作者の1人という事です。元々、まるで原作がないオリジナル作品だったので。
── シリーズ化にあたって、どう作ろうかというコンセプトは早い段階で決まったんですか?
中村 一部の層にではあるんですけど、「化猫」が非常に深くヒットした、みたいな事がまずあって、その人達に対してどんなものを作ってあげればいいのかな、と最初は考えていたんです。でも、冷静に考えると「化猫」は「化猫」でひとつの完成したものなので、同じようなものを同じパターンでたくさん作るよりは、もっといろいろなバリエーション、可能性を探るようなシリーズにしたい、と。
 あと今回の『モノノ怪』は、薬売りというキャラクターを中心としたシリーズとして、世間に認知されるかたちで出していきたい、というオーダーがあったんです。じゃあ、新規でメインキャラを出したりせずに、レギュラーは薬売りだけにして、オムニバスでコンパクトに作っていけばいいかな、みたいな考え方に途中からなりました。最初の頃は、1本の流れがある話にする、という案もありましたけど、途中でそれをスパーン! とひっくり返したんです(笑)。だから、シナリオやプロットの打ち合わせは、いい意味で揉めました。ものすごく揉めましたね。3回ぐらいひっくり返しがあったと思います。
── それは作品全体に関わる、大きなひっくり返し?
中村 そうです。いろんな理由はありましたけど、最後にひっくり返したのは僕です。「今までの全部ナシ!」みたいな。かなり険悪になりましたけど(苦笑)。
── それで結局、今回のオムニバス形式のようなかたちに落ち着いたわけですか。
中村 ええ。元々、そういう短くて小さい作品が数珠繋ぎになったものを作ってみたらどうかな、とは考えていたんですよね。小説1冊とか、単行本1冊の内容のエピソードを、ポツポツと作っていく。なおかつ、シリーズの途中から観始めても、翌週からまた新たに第1話から観られるような。
橋本 自分もそうなんですけど、TVをつけた時にもうシリーズが始まって3話目ぐらいだったら、「もういいや」とか思っちゃうじゃないですか。あとは「作画のよさそうな回だけ録画して観よう」みたいな(笑)。今回のように、途中から観ても分かるようなかたちにしたのは、正解だったと思います。
中村 実は、エピソードのアイディアはもっとたくさんあったんですよ。けど、その中で作品の規模とか、スケジュールとかを鑑みて、わりと合格点というか平均点を叩き出せる見込みがあるものをチョイスしてラインナップを組んだ、みたいなところはあります。作っても赤点とっちゃうような大変な事ばかりやっても無理だろうな、と思ったので。
── お話の入り方としては、基本的には推理ものみたいな体裁をとっているじゃないですか。でも、推理ものではないんですよね?
中村 ええ、違います。
── これはなぜなんですか?
中村 今回はドラマとして、情感の部分をわりと重要視しているんです。なぜこの人は化けているのか、そこにある情感みたいなところに重点を置いてシナリオを作れないだろうか、というところからスタートしました。
 今回、横手さん以外に3人のシナリオライターが加わっているんですけど、その4人を原作者と見立てて、「スタートレック」の小説みたいにいろんな作家がシリーズを書いていく、みたいな感覚で書いてもらったんです。一応それぞれにモチーフとか方向性の話はするんですけど、各人の個性でアレンジしていただいても構わない。
── ライターさんの個性によっては、もっと違う体裁にもなりえた?
中村 例えば凄く推理ものが得意で、面白いトリックを考える人がいたとすれば、謎解きもの風になったかもしれないですけどね。ライターの方達とは個人面談的に話したんですけど、本当に1人ひとり、書きたいものが全然違っていた。それで、その人の中でわりと『モノノ怪』のテイストに交わりそうな部分を探して、その部分をとらえて書いてもらったという感じです。そこは実際に会って話してみないと分からないところなので、ミーティングしてから決める感じでしたね。
── わりと、どんでん返しや意外な展開が多かった気がします。
中村 そうですね。正直、演出段階で増えたところも結構あるんですよ。シナリオにはなかった要素も、フィルムになった段階ではかなり入ってる。シナリオで50%、それ以降の作業で残りの50%が完成する、という感覚でこのシリーズは作ってますから。上がったシナリオにも「決定稿」というハンコはついてるけど、実は半決定稿というか、小説原作として扱う感じでしょうか。ライターさん達がここまで持ってきてくれたものを、さらに僕らが持ち上げていこう、という作り方をしていました。
── ある程度、観ている人に解釈を委ねるように終わる場合が多いですよね。これはどのような狙いで?
中村 例えば答えが中心にあるとして、そこに直接行くのではなく、意識的にその周辺の事象をドーナツ状に描くようにしていました。本当は、核心部分を写実的にパッと描いてしまえるけど、それはやらない。フレームからギリギリ外して、ひたすら周辺の事象を細かく描き込んでいく。最後まで観ると「なんだ、それだけか」っていう話なんですけど、まっすぐ行かないからこそ面白い、みたいな感じを狙っていました。
 それとやっぱり、生々しいテーマの話が多いので、ハッキリ言い切れない事も多いんですよね。今回は一応こういう風に決着はつけますけど、みんなはどう思っただろう、みたいな。多少の安全装置として「直球は投げない」みたいに意図した結果、観る人が夢想する隙間が生まれたというか。
── 見当違いな解釈をされた事は?
中村 大体どの感想を見ても、僕らが本当に描きたかった事は、その部分に関しては重なっていました。多少ズレている部分に関しては、観た人それぞれの感想なので、それはそれでいい。気分としては、舞台上で僕らが作ったものにお客さん達が反応した時、初めて作品が完成すると思って作ってますから、間違いじゃないんですよね。僕らから見るとそれぞれ正解なんです。
 普通のアニメーションよりは、確かに(視聴者に)委ねている部分は多いと思います。中には「もっとハッキリ答えを言ってよ」というユーザーも出てくるとは思ってましたけど。でも、僕らとしてもギリギリまで見せてるつもりなんですよ。分かるでしょ? と思ってやってるんですけどね。だから「第六感で観てくれ」って、僕は言った事があるんです。
── 逆に言うと、それも視聴者への信頼ですよね。
中村 はい。実は5つのエピソードごとに全て、答えを見せる度合いも変えてある。すっきり分かる話数もあれば、かなりぼんやりとしか見せない回もあるという具合に、さじ加減を変えてるんです。どの辺がみんなにとってストライクなのか、逆に僕らも知りたかったという事もあるんですけど。
── 扱う題材が生々しいほど、見せ方も暗示的になる?
中村 やっぱりモチーフの扱いが難しい話数に関しては、安全な距離で描くというか。それは自分達なりの誠意というか、これ以上踏み込むと説教になるし、あるいは何も言ってない事になってしまうし。そのあたりのバランスを探していた部分はあります。
── 例えば「座敷童子」でいうと?
中村 (しばし考えて)……産むという行為に対する、それぞれのジャッジですよね。産む側の論理みたいなもの。中絶って、今や当たり前の事だと思うんです。実際、自分の周りにも、中絶した事がある女性はたくさんいましたから。ただ、僕自身の少ない人生経験で言うならば、中絶経験のある人達の話を聞くと、みんな感極まった時に本当にポロポロ泣くんですよね。もちろん、24時間それを引きずってるわけじゃないですよ。でも、その時の気分に戻ると、たぶんそうなるんだと思うんです。みんな、楽にはやってないですよね。それなりに人生の中で忘れられない事になってる。まあ、そうじゃない人もいるかもしれないけど。
 逆サイドから言えば、そんな事する人なんて信じられない、という人もいるわけじゃないですか。要するに産む側の人達の価値観って、凄く多様化してると思うんです。「座敷童子」の場合は、どの論理に対しても「ダメだ」とは言いたくなかった。ヒロインの志乃という女性は、産もうとする事に対して凄く頑張る人なんですけど、でもそうは思えない人だって実際にいる。
── 状況的に出産したくない人もいる、という事ですね。
中村 その人の長い人生の中で、どこで答えが出るか分からないようなテーマを孕んでいると思うんですよ。だから例えば、まだ妊娠した事がないとか、性体験が全くないような人が「座敷童子」を観たら、ファンタジーに見えると思う。単純に志乃さんに「そうだよね、産みたいよね」って共感するかもしれない。悪く言えば、無責任に。だけどいろんな人生経験をしてきて、自分が妊娠したかも? なんていう瞬間の感覚を味わったりした人ならどうか。その瞬間、ものすごくリアルな恐怖や切迫感がぶわっと広がっていくのを感じた事がある人ならどうか。
 もちろん嬉しくなる人もいると思うし、授かりたいと思ってもなかなか授かれない人もいるだろうし。もう、本当に千差万別だと思うんですよ。だからそういうテーマに対して僕らが「こうだ」っていう宗教的な一言を下すのは、凄く傲慢な気がしたんです。僕らは別に、世の中を啓蒙したいんじゃなくて、面白いものを作りたいと思ってるだけですから。ただ、そのモチーフがあまりにヘビーなので、自分達が距離を保てるギリギリのところまでは近づくけど、それ以上は近づかない。あとは観た人の判断に任せる。それを「無責任だ!」と思うならそうかもしれないけど、でもこれ以上突っ込んで描くのなら、それはアニメやフィクションの世界でやるべきじゃない、という判断もありました。
── でも一方で、そういった重たいモチーフを扱いたい、という気持ちもあるわけですね。
中村 ありますね。そればかりやりたいわけじゃないけど、誰かがそれを「描きたい」と言った時、「うん、描けるんじゃないか。頑張ってみようか」と言いたい。どちらかというと、そういう気分ですね。「それやめようよ〜、面倒くさいよ〜」とか言うのはやめよう、みたいな。そこは真面目に、僕もみんなも悩もう、という感じです。

●『モノノ怪』中村健治&橋本敬史インタビュー 三の幕につづく

●関連サイト
『モノノ怪』公式サイト
http://mononoke-anime.com/

『怪 〜ayakashi〜』公式サイト
http://www.toei-anim.co.jp/tv/ayakashi/

●DVD情報
『モノノ怪』



壱之巻「座敷童子」2007.10.26発売 税抜3800円(2話収録)
弐之巻「海坊主」2007.11.22発売 税抜5700円(3話収録)
参之巻「のっぺらぼう」2007.12.21発売 税抜3800円(2話収録)
四之巻「鵺」2008.1.25発売 税抜3800円(2話収録)
伍之巻「化猫」2008.2.22発売 税抜5700円(3話収録)

カラー/16:9スクイーズ/リニアPCMステレオ(一部ドルビー・デジタル)/2話収録:片面1層、3話収録:片面2層
映像特典(予定):ノンテロップOP&ED、プロモーション映像集、キャスト・インタビュー、設定画ギャラリーなど
初回限定生産版特典
全巻:豪華描下ろし外箱付き
壱之巻:豪華ブックレット同梱
弐之巻:ミニクリアファイル封入
参之巻:ポストカードセット封入
四之巻:モノノ怪シール封入
伍之巻:折りたたみポスター封入
※仕様は変更になる場合があります

発売元:アスミック/フジテレビ
販売元:角川エンタテインメント

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(07.11.19)

 
 
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