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東京国際映画祭レポート(4)
注目のシンポジウム「3Dアニメの現在形」後編


 animecs TIFF2006・スペシャルシンポジウム「サンライズ・エモーションスタジオにみる3Dアニメの現在形」の後半は、OVA『FREEDOM』編。月に建造された未来都市を舞台に描かれる、全6話のオリジナルSFストーリーだ。日清カップヌードルのCFですでに映像をご覧になった方も多い事だろう。こちらの作品では、大友克洋はキャラクター&メカニックデザインとして協力している。


 完成したOVA1話の映像は、最初に放映されたCF版よりも格段に2Dアニメに近づいており、その印象は「よく描けている作画アニメ」に限りなく近い。まず驚かされるのが、キャラクターの表情・演技の豊かさ、動きのメリハリ。また、少年達が織り成す青春群像劇、迫力のモーターアクション、キャラのリップシンクなど、思わず劇場『AKIRA』を連想させる要素も随所にあり、アニメファンは必見の作品となっている。監督を務めるのは『カクレンボ』で脚光を浴びた新鋭・森田修平。神風動画の水崎淳平が手がけた素晴らしいオープニングタイトルにも注目だ。

▲監督を務める森田修平

森田「僕は大学の時から神風動画という会社で、3Dを使って2Dに近い表現がどれだけできるんだろう、という事をずっとやってきました。その中で、STUDIO4℃に入って作画もちょっと経験したりしたんですが、主には3Dによる映像表現を追及していました。それで、去年完成させた『カクレンボ』という作品がきっかけで、色々なところから声をかけていただいて」

 『カクレンボ』は森田監督とキャラクターデザインの桟敷大祐がほとんど2人だけで創り上げた作品だったため、次回作ではもっと大人数のスタッフ編成を新たに構築しなければならない、と考えていたという。そこへ、エモーションスタジオから『FREEDOM』のオファーが舞い込んできた。規模の大きな現場で自らの映像メソッドを試すチャンスであり、またCFと長編を同時に作れるというのも、監督にとっては大きな魅力だったとか。

森田「実を言うと、(一般的な商業アニメを)3Dで作るのは無理だと思ってたんですよね(苦笑)。やっぱり『カクレンボ』とかは少人数だからできた事でもあるし、自分自身でノウハウを持っていたからでもあるし。それを大勢のスタッフに教え込んでいくのは難しいだろう、やっても10人ぐらいが限度だろうな、と常々話していたんです。でも今回、この作品で出した成果というのは、実は大人数でもそれができるという事。それはなぜかというと、やっぱり『スチームボーイ』班のスタッフの力というのが大きかった」

 デジタルアニメーションの新旗手として注目を集め、今回のプロジェクトに抜擢された監督が、現場のスタッフの前でまず掲げたのは、意外にも「アナログ手法の再認識」だった。

森田「僕はずっとデジタルでやってきたので、デジタルの弱いところは本当によく知ってた。なので、『新SOS大東京探検隊』とはちょっと作り方が違うんですね。僕の方は、例えば『なるべくレイアウトは手で描いてくれ』とか『CGは使わないでくれ』とか、要は作画に頼ってる部分が大きいんです。なぜかというと、CGから入った人間はアニメの基礎を知らないんですよ。なんでコマ数が減っていったのか、それによってどんな面白い表現が生まれたかとか、そういう事を知らない人達が現場に入ってきてやっている。日本のアニメはデジタルの導入で進歩しているように見えて、実は質が落ちていってる気がしていた。だったら僕としては、スタッフにまずアニメの基礎からやらせようと。高木監督が先ほど言っていた『情報量の制御』という事になるんですけど、やっぱり3Dというのはそこが弱いんですよ。30フレーム全部動かして、リアルにやっても面白くないんだよ、と。だから1話では僕は監督でありながら、実は現場を作っていくのがメインの仕事でした」

 第1話のコンテ・演出を手がけたのは、『THEビッグオー』『アルジェントソーマ』の監督などで知られる片山一良。森田監督の注文で、絵コンテではキャラクターの表情や構図などがはっきりと分かるように描かれた。デジタルで作成するよりも遥かに時間がかからない事と、何よりスタッフに「画で表現する事」を強く意識させるためであったという。

▲片山一良による1話の絵コンテ。人物の表情が詳しく描かれている

▲会場のモニターで、コンテとレイアウトを比較

森田「CGの人間って、そういうところの意識はそんなに学んできてない。要は、技術は学んできたけど、表現というものを学んでこなかったというのを、僕は身近で強く感じていて。例えばポーズであったり構図であったり、その辺がおざなりになってる。それで、コンテの段階で表情もきっちり分かるように描いてもらいました。今度はそれをレイアウトに起こす段階で、いくつかはCGで作ったんですが、ほとんどコンテと差異がないんです。『レイアウトはコンテと一緒にしてくれ』と、はっきりとスタッフには言いました。どうしても3Dでやっていると、髪を動かしたくなったり、かっこいいモデリングを見せたくて余計な動きやポーズを付けてしまったりする。そうじゃなくて、作品としての演出が大切なので、まず基本としてコンテありきなんだ、と。それを復元するのがレイアウトなんだ、というところで、その作業には凄く力を入れました。1枚の画で全てが伝わるように、CGのプレビューを見ても表情が分かるように、とはよく言ってましたね」

 『FREEDOM』で各キャラクターが見せる豊かな表情は、3D作品とは思えないほど細やかで、かつ漫画的。そこには、今のTVアニメや劇場作品からも失われつつある“感情表現の復権”が感じられる。桟敷大祐と共にキャラクターデザインを手がけた入江篤による線画の設定には、それぞれのキャラクターごとに喜怒哀楽の細かな表情集が、作画アニメと変わらないかたちで描き起こされている。

▲主人公タケルの喜怒哀楽が描かれた線画設定

森田「作画さんって、実は3Dという事を凄く気にするんですよ。立体でちゃんと表現しようとしてくれるんですが、僕が入江さんにお願いしたのは、『あんまり気にしないでやってください。あとで3Dの方で何とかしますから』と。タイトなスケジュールの中で、実験的な事が凄く多かったんですけど、やっていく中でどんどん良くなっていった。表情に関しては、CGでもかなり出せるようになったと思います」

 森田監督は自身のプロフィールとも絡めつつ、今回の作品で意図したアニメーションのスタイルについて次のように語った。

森田「僕は元々どうして映像業界に入ったかというと、やっぱり『AKIRA』とか『ブレードランナー』とか、アニメ・実写を問わずそういった作品が好きで、『ああいう世界が作れたらいいなあ』と思ってずっとやってきたんです。実は『カクレンボ』という作品を作ったとき、そういう自分のやりたい世界をとことんやってみたんですよ。で、やったんだけど何かね……世界よりは人間を出したいな、と思って。それで、次はもっと表情をメインに頑張って描こうと。(モーションに関しては)僕は元々なかむらたかしさんの作品が好きで、あの作画スタイルというのは、ちょっと3Dに近いんですよ。ややリアル系の動きというか。やっぱり、3Dってあんまり端折ったアニメーションというのは難しいんです。だからある意味やりやすいんですよね。3Dでも付けやすそうな動きでありつつ、でもその中に作画ならではの工夫がふんだんにある。今回のスタッフにも『勉強して』と言って。そういう表現的な部分は、できれば学校とかで教えられた方が現場に来たときに面白い事ができるんですけど、現状ではちょっと……。まあ、もし学校関係者の方がいらっしゃいましたら、ご検討を(笑)」

 『FREEDOM』は月面のコロニーを舞台にしたSF作品だが、基本となるストーリーは少年達の青春模様を描いた普遍的なドラマだ。言ってしまえば「お約束」どおりに展開する物語の、そのシンプルさが心地よい。

森田「SFをやるんだったら、設定でSFを見せるよりも、主人公のタケル君という個人の目線で、SF青春劇を作ろうというところから始めました。大友さんが最初に描いたデザインが、凄く良かったんですよ。アポロジャケットを着た少年っていう。『わ、これいいな!』って思ったその時の気持ちを忘れないようにしようと」

▲CF版の1場面より

森田「まず3Dとか2Dとかじゃなくて、作品として面白く観られるかどうかという事。観てる人はやっぱり作品として観て、笑ったり泣いたり感動したいはずなので。最近のアニメを観てたらやっぱり『メカは3D、キャラは2D』みたいになってて、急に絵の質感がボンッと変わると、せっかく観てる人が作品の世界に入ろうとしているのに、それがプツンと切られるような気がしたんですよ。だから僕は3Dでやっても、あんまり技術的なところが見えないようにしたいな、とはずっと思ってました。今回この話を引き受けたのも、実は自分の中に勝算があったからなんです。こうすれば行けるっていう。でも結果的には、思った以上に良くなりましたね。それはやっぱりスタッフの力。特に今の3Dスタッフとは、技術的な事以外の表現という事について徹底的にコミュニケーションをとったので、本人の意識が変わったかどうかはさておき、でき上がってくるものはかなり変わってきて、その結果は予想以上だったと思います。最初は本当に、10人ぐらいに教え込めればいいかと思っていたのが、いまや20人ぐらいのスタッフが僕の考え方を理解してくれて動いているので、そこは本当に感心してしまいますね」

 最後にまとめとして、高木監督と森田監督それぞれが今回の現場を通じての感想、デジタルアニメの将来について語り、シンポジウムを締めくくった。


高木「やっぱり経歴や発想という点では異なるけれど、結果としてやってる事はかなり同じで、狙ってる映像も極端に違うわけではなく、どちらもいい作品になっているのが面白いですね。CGでアニメのキャラクターを動かすオーソドックスなやり方というのが、このスタジオから生まれていくのかなという気はしました」

森田「基本的には自分1人でも作れちゃうというのがあって、それを人に教えていくというのを最初はやりたかったわけですけど、さっきも言ったとおり、思った以上にスタッフの理解が早いんですね。『スチームボーイ』からずっと関わってきたベテランのスタッフも混ざってシステムができていく中で、集団でものを作る事の大切さというのが凄く分かってきた。そこは、僕も今回の現場で考え方がかなり変わりましたね」

高木「今、1人で活動されているアニメーション作家の方も多いと思うんですけど、集団作業のよさというのも確実にあるんですよね。いろんな人からのアイデアでキャラクターができ上がっていって、だんだん作品が練りこまれてくる。そのうちこちらが何も言わなくても、『このキャラはこういう芝居しないよね』とか3Dのスタッフが話してたりする。キャラクターが勝手に一人歩きしていくんです。そういうアイデアをどうやってまとめていくかが、その監督なりのスタイルになる。森田さんもこれまで1人でやってきて、今回、そういう集団作業の面白さに気がつかれたんだと思うんですけど」

森田「それはムチャクチャ感じますね。実はSTUDIO4℃にいた頃にも、少しだけ経験はあるんですけどね。そういうところで僕が今いちばん思うのは、やっぱり作画って長い歴史があって、ルールというか共通言語があるんですよ。ある程度、システムとかラインができている。ただCGはそれが弱い。そういうところで、例えば外注とかする場合にラインに乗らないという問題も出てきています」

高木「やっぱり、ある程度の歴史は必要なんですよね。3Dも、制作ソフトにはそれほど違いはないし、ワークフロー自体も大差ないと思うんですが、あとは個々の認識の違いというか。作画アニメは日本独自の方法論というものが長い年月をかけて作られてきたわけで、そういう中で出てきた個人の才能……なかむらさんや小原さんといった人達が別々のスタジオにいて、各所に影響を与えて、その連鎖で日本のアニメーションは作られてきた。3Dの現場にもそういう事が必要だと思います。それが個人作業の中で完結しちゃうと、連鎖しづらい(笑)。今後どこのスタジオでも3Dアニメが作られるようになれば、そういうスタッフ間の交流を通して、日本のアニメーションにも変化が起きていくのではないかと思います」

(取材・構成/岡本敦史)


●商品情報
『FREEDOM 1』(OVA・2006)
11月24日発売
価格/3990円(税込)
発売・販売/バンダイビジュアル
Amazon

●関連サイト
“FREEDOM-PROJECT”公式サイト
http://freedom-project.jp/

●関連サイト
東京国際映画祭公式サイト
http://www.tiff-jp.net/ja/


(06.11.14)


 
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