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東京国際映画祭レポート(3)
注目のシンポジウム「3Dアニメの現在形」前編


 大友克洋監督の大作『スチームボーイ』で培ったスタッフの力を活かすべく発足した「サンライズ・エモーションスタジオ」。その試金石となる新作『新SOS大東京探検隊』と『FREEDOM』OVA第1話が、先頃完成した。両作品とも、3DCGに2Dアニメのスタイルを採り入れたビジュアルが見事に成功しており、日本独自のデジタルアニメの新たな可能性を示唆する快作となった。
 animecs TIFF2006では、「サンライズ・エモーションスタジオにみる3Dアニメの現在形」と題したスペシャルシンポジウムを開催。『新SOS大東京探検隊』の高木真司監督と、『FREEDOM』の森田修平監督を招き、それぞれの作品のメイキングと絡めて、アニメスタジオにおける3DCGアニメ制作の現在が語られた。

▲『FREEDOM』の森田修平監督
▲『新SOS大東京探検隊』の高木真司監督

 今回の映画祭でワールドプレミア上映された『新SOS大東京探検隊』は、大友克洋の短編マンガ「SOS大東京探検隊」を翻案した40分の3Dアニメ作品。古い地図を頼りに、東京の地下へと宝探しに出かけた少年達が、奇想天外な冒険を繰り広げるという物語だ。監督を手がけたのは、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』や『スチームボーイ』で演出を担当し、アニメの現場へのデジタル技術導入に腐心してきた高木真司。キャラクターデザイン・作画監督は、『MEMORIES』「大砲の街」の作画監督や、数々のCMアニメーションでも知られる異才・小原秀一が担当。作画アニメ的な動きの心地よさが3DCGでしっかり表現されており、内容的にも見応えある楽しい作品に仕上がっている。


高木「この作品は3Dで作られてはいるんですが、技術的な部分についてはあまり感じさせないよう、なるたけ普通に楽しめる娯楽作にしようと頑張ってみました。映像のコンセプトとしては、3Dのキャラクターアニメーションであり、作画と変わらないものにしたいという事。それは背景にセルのキャラクターを乗せて動かすという、いわゆるオーソドックスな2Dアニメのスタイルです」

 手付けによる3Dキャラの動作の細やかさは、これまでの3Dアニメのイメージを覆す印象。後半で展開するダイナミックなアクションも見どころだ。

高木「残念な事に、最近はキャラがあまり動かない作品が多いんですね。作品数が増えてアニメーターの手が足りなくなってきて、止め絵を多用した作品が増えてきている。でも元々アニメーションを作る楽しさというのは、キャラクターを動かす事だと私は常々思ってきました。3Dで作れば、動画仕上げの手間もかからない。まあ実際には、ある程度の処理は必要なんですが、せっかくなら思う存分キャラクターを動かしましょうと。3Dでできないところは作画で描いてもらっていますが、元々2Dアニメっぽく線画タッチでキャラを作っているので、混ぜても違和感はないだろうという事で」

 シンポジウムの前半では、アニメーション業界におけるデジタル化の変遷と現状を、表やグラフを使って高木監督がレクチャー。それと共に、今回の『新SOS大東京探検隊』で試された新しい制作手法と、具体的な制作過程が述べられた。

高木「制作本数増加の原因は色々あると言われていますが、95年あたりから始まった現場のデジタル化というのも大きな要因だと私は考えています。デジタル技術の導入で、撮影や仕上げといった制作工程の後半部分のキャパシティが非常に上がったんですね。その分、前半にあたる原画とか動画の作業が厳しくなってきている。今、どうしても負担が集中してしまうのは作画部分だと思うんです。結構ネットなんかでも話題になったりしてますが、『ありえない作画』の作品もちらほら出てきたりして(笑)、逆にそれが面白いなんて言われていて、どういう事なんだと思ったり。ちょっと限界に近づいてきてるのではないか、と」


 高木監督は3D化による作業工程の簡略化と、それに伴う制作バランスの平均化を提示。また、コンピュータの発達(CPU処理速度の向上)を見越した将来性も示唆した。一方で、日本では現実的に3DCGアニメが商業作品として発展していない。車や建物、背景など部分的に使う事はあっても、3Dで描かれたキャラクターにはどうしても抵抗感が伴いがちな点にも触れた(作る側も、観る側も)。

高木「むしろ何かスタイルを作ってないから、結局みんな踏み込めていなかったんじゃないか。2Dと3Dの融合という事では、私もProduction I.Gで『BLOOD』という作品を作ったり、大友さんと『スチームボーイ』を作ったりして、それらをどう馴染ませ、合わせていくかという事をやってきたんですけど……だんだんやっていくうちに、キャラクターも3Dでできるんじゃないかという、かなりの手応えを感じまして。そういう事には早めに手を出すクセがありまして、『もうできるんじゃないの? 何かやってみようよ』と。そこでどういう風にスタイルを作っていくか」

 従来のCGアニメの欠点として、高木監督は「モーションキャプチャへの依存」「フェイシャル(表情)の軽視」「細かすぎる影」などを列挙。それらの違和感を排除するところから、今回の『新SOS大東京探検隊』のように、セルアニメのよさを採り入れたスタイルを確立していったという。

高木「アナログ時代からアニメをやっている自分としては、何か忘れているものがあるという気がしてなりませんでした。本来アニメーションが描くべき映像、つまりキャラクターに感情を与え、その感情を観ている人に伝える。そういったスタイルを実現するためには、やっぱり手打ちの作業しか有り得ないな、とか色々考えました。それと、セルアニメーション的な表現をする上で必要になるのが、情報量の統一や、コマ打ちの制御といった事です。今までの2Dアニメが1秒間12枚とか8枚で動かしていたように、意図的に情報量を減らす。フルでレンダリングせずにわざわざ半分のレートで動かすとか、そういった従来のセルアニメの手法を活かしつつ、なおかつ丁寧な動きになるように、いくつかテストを重ねたりしてみました」

 大友克洋監督は『スチームボーイ』で作画作業が難航した事で、3DCG作画の導入を積極的に検討していたという。そうした方向性で制作する予定だった『スチームボーイ2』が諸事情で中断したため、今回の『新SOS大東京探検隊』の企画が立ち上がった。数ある大友作品の中からこの原作を選んだのは、高木監督自身である。

高木「大友さんの作品では珍しいんですが、子どもが主人公で、子ども向けに描かれた作品というのはこれしかなかった。しかも、原作のあとがきで『やり足りなかった事が結構あって……』みたいな事を書かれていて。それを大友さん本人に聞いてみたら、『本当は地下に潜ると変な人達がたくさん住んでて、昔の日本兵が出てきたりして、大変な事になる話がやりたかったんだよ』とおっしゃってまして。それは企画になる、という事で。子ども向けというのは誰が観ても楽しめるものだし、非常に大切な事だと思います。最近は大きな子ども向けというか(笑)、美少女ものとか派手なロボットものとかが多いですし。子どもだけでもお話はできるんだ、というのは常々思ってましたから。地味かな、とも思ったんですが、いろいろアイデアを足していけば面白いものができそうだし、今考えている手法を試すにはもってこいの題材だろう、と」

 会場のモニターには、小原秀一の手がけたキャラクター設定や、アニマティック(動画レイアウト)、そして完成映像が映し出され、監督による具体的なメイキング解説が行われた。資料の中には、制作初期に大友克洋の描いたキャラクター原案も。

▲大友克洋による初期キャラクター原案

高木「女の子も入れようとか、時代設定はいつがいいとか打ち合わせをしていたら、『ちょっと待ってろ』って大友さんが30分ぐらい自分の机で何か描いていて。できたやつをパッと渡されたら、タイトルに『2006』って付いてたんですね(笑)。女の子も描いてあったんですけど、私が考えていた普通の可愛い女の子じゃなくて、携帯電話を持ったストーカーみたいな子で。非常に大友さんらしいひねくれたキャラクターで、ちょっとこれはどうしようかと(笑)。でもデザイン自体はとても面白かった。これをもとに小原さんが原作に近いかたちで、完成していたシナリオに合わせてまず線画でデザインしてくれました。これをさらに3Dでモデリングして、小原さん自身がそれを細かくチェックし、微調整していくという作業をしています。それが一段落したら、今度はモーションの監修に移行してもらいました」

▲小原秀一による線画のキャラデザイン

▲上の線画をベースにした完成版3Dキャラデザイン

高木「自分でもポイントになると思ってるのは、やっぱり影の量ですね。とにかく減らしてくれ、と。3Dのスタッフはどうしても影を付けてきちゃうんですけど、それは『なくてもいい』ぐらいに考えてくれ、と。例えば鼻の下とか、どうしても影がなきゃいけないところに関しては、影色になるよう設定されてたりします。情報量の制御がスタイルの中で確立されていれば、別に影があろうがなかろうが問題ないんですよ。むしろ影があって変に動くと、観ている人に余計な情報を与えてしまう。そういった意味で、かなりポイントを絞った影の付け方にしています」

 最後にモニター上で、簡易3Dモデルを使ったアニマティックと、完成した本編の一場面が比較された。その映像的な達成度は、想像以上のものである。本作はDVDでのリリースが予定されているが、劇場公開しても遜色ないくらいの出来栄えだ。


■東京国際映画祭レポート(4)「3Dアニメの現在形」後編に続く


●関連サイト
東京国際映画祭公式サイト
http://www.tiff-jp.net/ja/


(06.11.13)


 
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