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東京国際映画祭レポート(1)
「animecs TIFF」今 敏監督特集


 10月21日に幕開けした第19回東京国際映画祭。恒例のアニメーション上映企画「animecs TIFF」では“アニメ作家主義”をテーマに掲げ、日本のアニメ界でもとりわけ異彩を放つ作家として、今 敏監督をフィーチャー。その最新作『パプリカ』がオープニング作品として21日に上映された。この作品が日本の一般観客の前に披露されるのは、今回が初めて。劇場に集まったファンは固唾を飲んで開演を待ちわびていた。

▲今 敏監督作品『パプリカ』(11月25日より、テアトル新宿他にて全国順次ロードショー)

 『パプリカ』は筒井康隆による同名SF小説が原作。他人の夢に入り込み、無意識の世界をモニターできる画期的装置“DCミニ”を巡って起こる怪事件に、チャーミングな夢探偵・パプリカが挑む。奇想天外な悪夢世界のビジュアルと、緻密かつスピーディーな語り口で楽しませてくれる、知的エンターテインメントの快作だ。本誌連載でもおなじみ、アニメーター三原三千夫の手になる強烈なインパクトの作画も見どころ(どのシーンかは観てのお楽しみ)。

 上映に先立って行われた舞台挨拶には、今 敏監督、原作者の筒井康隆、そして出演者の古谷徹が登場。客席からの大きな拍手で迎えられた。

▲左から今 敏監督、筒井康隆、古谷徹

「先月、ヴェネチア映画祭の方でワールドプレミアを行わせていただきまして、大変な歓迎をいただきました。だからといってここにいる皆さんにも、それを強要するというわけではございません(笑)。今月に入ってからも、スペインのシッチェス映画祭と、パリの方でもプレミアを行ったんですが、いちばん肝心な地元である日本でのプレミアがやや遅れてしまった事を申し訳なく思うと同時に、こうして『パプリカ』を楽しみにしてくださった皆さんに、感謝を申し上げたいと思います」

 『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイ役などで知られる古谷徹が演じるのは、巨漢で大食らいの子供みたいな天才科学者・時田浩作。これまでのイメージを覆す、なんとも魅力的な演技を披露している。

古谷「僕、体重60kg以上の役はやった事がないんです(笑)。時田はどう見ても200kg以上はあるだろうという巨漢なので、僕の声だとイメージが合わないのではないか、作品のクオリティを落とすのではないかと心配したんですね。それで一度はお断りしようという話になったんですが、問い合わせたところ、これは監督ご自身のご指名であって、僕がこれまで演じてきた純粋な少年そのままに、声を作らず演じてくれればいいと伺ったものですから。“そうなのか。じゃ、アムロでいいのかな”と思いまして(笑)。最初はアフレコでも違和感がありましたけど、だんだん時田のあの顔がないと、演じる時に不安になっていったんです。かえって時田の画があった方が演じやすかった。その時ようやく“あ、ハマッてるのかな”という実感が出てきました。今は本当に、参加してよかった、断らないでよかったなと思ってます」

▲監督を務めた今 敏
▲天才科学者・時田を演じた古谷徹

 この作品の企画は、数年前に「アニメージュ」誌で行われた対談の席で、筒井康隆が自らアニメ化を今監督に持ちかけたところから始まった。そうして完成した映画は、原作者にとっても非常に満足のいく仕上がりになったとか。

筒井「原作の小説は、『marie claire』という高級婦人雑誌に連載されたもので、2年間かかって、しかも第1部と第2部の間に6ヶ月のお休みをいただくという、大変に苦労して書いた作品です。そのおかげで、この映画も支援してくださっている文化庁の長官で、心理学者でもある河合隼雄さんからは、“非常に人を癒す作品だ”というお墨付きをいただきました。映画を観まして、その癒しの効果というのは、さらに倍増されていると私は思います。どうぞ癒されてください。それから映像に関してですが、知り合いの江川達也という漫画家は、CMを観て“あんな素晴らしい映像にしてもらえて、原作者としては作家冥利に尽きるだろう!”と感嘆しておりました。これは私自身が今監督に持ちかけた企画であるから当然でありますが、思っていた以上の映像ができ上がりました。本当に嬉しく思っております。サンキュー!(笑)」

 最後に今監督から、これから作品を観るファンに向けてメッセージが伝えられた。

「つまり“『パプリカ』服用上の注意”という事ですが、原作は大変なボリュームを持った作品で、しかし映画の方は90分という長さです。勢い“あれもやりたい、これもやりたい”と、『パプリカ』以外の筒井先生の作品からたくさんアイデアを頂戴し、盛りだくさんに詰め込んだ90分です。いろいろ奇妙なイメージが劇中に出てまいりますが、それらの意味するところや、これはどういう意図で、これは伏線になっているのか、などと上映中に考え始めると、どんどん映画に置いていかれます(笑)。作った私も、ちょっとアップテンポに過ぎたかな、と思っているくらいです。しかし、実際に我々が見る夢というのは、我々の都合をまったく聞いてくれませんで、実に奇妙なイメージを次々と送り込んできます。それと同じように、スクリーンに映し出されるイメージを、そのままご賞味いただければ幸いかと思います」

 気になる『パプリカ』の一般公開日は、11月25日に決定。テアトル新宿他にて全国順次ロードショー公開される。

 今回の映画祭では、この他にも今監督がこれまで手がけた全作品をスクリーン上映。23日の『PERFECT BLUE』上映時にはトークショーも催された。監督はリラックスしたムードで笑いも交えながら、初監督作の企画の成り立ちや、海外での反応などについて語った。

「元々『PERFECT BLUE』はビデオアニメーションという企画で、今も昔もオリジナルビデオというのはそんなに広いマーケットではなく、大体はリリースされて一部の人から反応があって消えていくというものだと思うんですね。そこをなんとか、もうちょっと話題になりたいなと思いまして(笑)。可愛い女の子が出てくる事、バイオレンスがある事、エロがある事という、いわゆる通俗的なものを織り込んだ上で、なおかつ変なものを作ろうと。センセーショナルな部分をちゃんと作りながら、それまでなかったような映画にしたかった。後でベルリン国際映画祭などにも招待されて、こちらが予想していた以上の反応も得られたりしたので、そういう点では成功したのではないかと思っています」

 また、これまでの監督作品と、新作『パプリカ』との関連についても語られた。

「実は『PERFECT BLUE』ができ上がった後、次の作品として考えていたのが『パプリカ』の映画化だったんです。その時は何もせずに企画が流れてしまいましたが、数年後、対談の席で筒井先生の方から『パプリカ』アニメ化という話が出て。それでまあ、運命的なものを感じまして、今回の映画化に至ったわけですけれども。『パプリカ』は私の大好きな小説なんですが、出版されたのはもう13年前で、『PERFECT BLUE』以前なんですね。今、『PERFECT BLUE』とか『千年女優』とかを振り返って思うのは、実は『パプリカ』みたいな事をやりたかったんだな、という気はしますね。そういう虚構と現実みたいなものの、本来ならハッキリとした境界線があるところを揺らがせていく手法というか考え方は……他にも実写映画でそういう素晴らしい試みをされた作品もあって、そこからの影響もあるんですが、やっぱり筒井先生の『パプリカ』という小説からの影響は大きかったな、と思います」

▲トークショーでは客席からの質疑応答も
▲映画祭のボードと共に記念撮影


■東京国際映画祭レポート(2) に続く

●関連サイト
『パプリカ』公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/paprika/

東京国際映画祭公式サイト
http://www.tiff-jp.net/ja/


(06.10.25)


 
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