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アニメの作画を語ろう
animator interview
湖川友謙(3)
アイレベルと『さらば宇宙戦艦ヤマト』


小黒 70年代後半から、東映動画に行かれますよね。それはどんな事情があったんですか。
湖川 タツノコの体制側の人間に対して「なんだ?」と思う事が、色々とあったんです。東映に行きたいと思っていたわけではないんです。だけど、東映の作品をやってる人がたまたま『ガッチャマン』の演出をやって。その人にやたらと気に入られちゃって「東映でもやらない?」という話になったんです。それで、東映の制作の人や演出の人と、たまに酒を呑むようになったんです。そんな事があったので、じゃあ、行ってみようかなと思ったんです。
小黒 最初に東映動画の劇場版をやられてる時は、まだタツノコ作品をやってる頃ですよね。
湖川 そう。まだやってました。
小黒 TVシリーズの『(マグネロボ)ガ*キーン』から、東映の中に入って仕事をするようになった?
湖川 いえ、中には入ってないです。タツノコも中には入っていない。中に入ってやったのは(東京)ムービーだけですね。『ガ*キーン』の頃から、タツノコの仕事を受けなくなったんです。その前後には何本か長編も手伝っているんです。『(世界名作童話)おやゆび姫』とか『(世界名作童話)白鳥の王子』とか。
―― 『白鳥の王子』ですが、クレジットにお名前出がないんですよ。
湖川 出てないんですか?
―― 出ていないです。『UFOロボ グレンダイザー 対 グレートマジンガー』や『(グレンダイザー ゲッターロボG グレートマジンガー)決戦!大怪獣』はちゃんとお名前が出ているんですが。『白鳥の王子』は出てないようなんです。『白鳥の王子』は量的にはたくさん描かれているんですか。
湖川 結構やってますよ。どんなところをやったのかは、もう覚えてないですね。『おやゆび姫』の時は、ワコさんと呼ばれている、中村和子さんという方が、おやゆび姫オンリーの作画監督だったんです。この人は元々東映にいて、手塚さんが惚れ込んで虫プロに引っ張っていった人なんですけど、『おやゆび姫』に参加したのが縁で、後に「24時間テレビ」の『(100万年地球の旅)バンダーブック』を手伝う事になったんです。『さらば宇宙戦艦ヤマト』が終わる頃に、中村さんが制作の人と一緒に頼みに来てくれたんです。僕は虫プロ系の画が好きじゃなくて、断ろうとしいたんだけど、「いい返事もらえないと、私は手塚の元に戻りません」とか言われて。格好いい人だなとか思って。
一同 (笑)。
湖川 虫プロ系の作品はやった事もないし、丸っこいのは描きたくもないし、なんて言ったんですけど。全然引き下がんないんです。で、一緒に来ていた制作の人が「湖川さんは描けないの、どうのこうのと言ってますけど、中村さんが『それでも』と言ってるわけだから、引き受けない手はないと思います」と言われて、言葉が出なくなってしまって。「分かりました」と言って手伝いました。それが、手塚プロとの付き合いの始まりなんです。
小黒 実際に『バンダーブック』のキャラクターを描いてみて、いかがだったんですか。
湖川 全然平気ですよ。中村さんは『おやゆび姫』で僕が上げた原画を見て、来ているわけですから。
小黒 なるほど、適任だと思って来たわけですね。ましてや、『バンダーブック』は手塚作品と言っても、坂口尚さんの画だから。
湖川 手塚さんの画とは、ちょっと違いますよね。僕、あの人の画も好きなんです。坂口さんも亡くなられたんですよね。もったいない事をしたなあ。
小黒 それで『バンダーブック』は何をやったんですか。作監ですか。
湖川 最初は作監を頼まれたんですけど、行ったら「湖川さん、すみません、手塚さんが原画が酷いと言って、全部破いて捨てちゃったんです」と言われたんです。それが、本当かどうか分かりませんよ。「で、申し訳ないですけど原画を手伝ってください」と言われて、原画をやりました。
小黒 じゃあ、土壇場での参加だったんですね。
湖川 土壇場でした。量的には、結構やりましたよ。
小黒 どういうところを描かれたか覚えていますか。
湖川 またですか(笑)。どんなところを描いたかは覚えていませんが、主人公は随分描きました。今でも、なんとなく描けますよ。四角い目で。髪毛がこんなで。
一同 (笑)。
小黒 『ガ*キーン』の後には、東映でメカもののお仕事が続きますよね。
湖川 ああ、そうか。アイレベルの話をするのを忘れてましたね。技術論の話に戻りますが、メカを描くのにはアイレベルが役に立つんです。タツノコで『樫の木 モック』をやってる時に、どう描けばいいか分からないカットがあったんです。モックが平原か何かで、画面の奥のほうに向かって走っていくんですよ。だけど、自分の原画をこう見て、原図と照らし合わせて見ると、絶対に地面の中に潜っていってるんです。これは困りましたね。アオリはわりと短期間に見つけたんですけど、それはしばらく考えても分かんなかったですね。もうその日から、ものの見方が違うんですよ。どこ行っても景色を見たり、自分の目の位置を色々変えてものを見たり、自分で紙に物を立てて見たり。それは『モック』をやっている間には、分かんなかったと思いますね。それで、何かの時にアイレベルというやつを見つけたんですよ。その時には、ウロコがかなり落ちましたね、ぼろぼろと。泣いてるわけじゃないですよ、ウロコですからね。
一同 (笑)。
小黒 アイレベルとは、人の目線の位置、アニメで言うと、カメラの位置の事ですね。
湖川 そうです。『ガッチャマン』の時も、ゴッドフェニックスがフレームの中で飛んでいって、Uターンして、こっちに戻ってくるというコンテがあって、それを原画にしていたわけですが、分からないで、適当に描いていた。僕はメカも描けましたけど、得意じゃなかったんです。理屈が分からないと、僕は駄目だから。バイクでもなんでもやってましたけども、何かすっきりしないでやっていたわけなんです。ところが、アイレベルを見つけた瞬間に、どんなメカでも描け、動かせるようになりました。だから、私はメカは強いですよ。『さらば』をやった時も、ヤマトは俺しか描けないと思いましたよ、本当に。
小黒 なるほど。
湖川 アニメの世界って面白いんですよ。見えない所を描く場合があるんです。例えば立っている人物を下からカメラで撮ってる画でも、髪の毛まで描いちゃうんですよね。見えない所まで描くんですよ。
小黒 そういう画はありますね。
湖川 メカにしても、底にアンテナみたいなものが付いているとしますよね。それを俯瞰で見た場合にも描いたりするんです。見えないのに描いちゃうわけですよ。そういうアニメは多いんですよ。漫画の世界ですから。
―― 斜めを向いている顔で、カメラの反対側にある耳を描く場合もありますよね。
湖川 それは全部、漫画から来てるんですよ。さっきから言っているように、漫画はどう描いてもいいんですよ。漫画思考の人はアニメでも、そう描いてしまうんです。僕も最初はそうだったと思います。でも、観察しているうちに、ないものはないという事が分かった。見えないものが回転する事によって見えてくるのが、アニメですから。上向いた時に消える物は(画でも)消える。見えないものは描かないという考え方も、多分、アニメの世界にはなかったと思いますよ。アイレベルというものが分かって、僕は、もの凄く楽になりました。アニメで歩いていくカットがあったら、ひとつの地面があって、たとえその地面が凸凹していたとしても、ひとつの地面(アイレベル)の上を行くんだ。それを見つけていなければ、アニメ辞めてたかもしれないですけどね。アイレベルを見つけたのはやっぱり大きいですね。私がパースを持ち込むまで、具体的にパースを取り入れた作画など見た事がありませんからね。
小黒 それはタツノコ時代の事ですか。
湖川 タツノコですね。
―― 『ガッチャマン』の途中ですか。
湖川 『ガッチャマン』じゃないです。だって『ガッチャマン』は自分がやったものは、今、見られないです。パースがぐしゃぐしゃで。ひどいものですよ。恥ずかしくて見られないです。でも、しょうがないですよね。残ってる物は消せないので。しかし、直されていない事実は、理解できる人間もいなかった証明です。
―― では、いつ頃なんでしょうか。
湖川 いつ頃ですかね。『ポリマー』の時だって分かっていたかな。分かってないような気がするなあ。
―― 『ゴーダム』くらいになると、かなり完成されている印象ですが。
湖川 いや、アイレベルは分かっていたかもしれないんですが、パースは分かってないですね。それをいつ見つけたのかは、分かんないですね。
―― でも『さらば(宇宙戦艦)ヤマト』の時は、パースもはっきりと分かってた?
湖川 ええ、その時は分かってました。『ガ*キーン』の時には分かってたような気がしますね。それが分かると面白いんです。色んな事が分かってくるんですよ。例えばこう手前から、奥に向かって飛んでいく動きを描く時は、フレームの20%か30%ぐらいは、自分の目の近くだと思えと、若い子に言っているんです。つまり、かたちを伸ばすんですよ。でも(それを言っていた頃の作品を)今見ると、やってないのもいっぱいあるんですよ。『イデオン』でも、そういうミスがいっぱいあります。
小黒 それは具体的にはどういう事なんですか。
湖川 画面の奥に行ってロング(ショット)で動いている分にはいいんですけど、画面の手前にある時に、かたちが縮んで見えるんですよ。その分、長く描いてあげないといけないんです。それが分かっていたのにやっていないという事は、私も応用策が分かっていなかったんでしょう。
小黒 手前から奥に行く動きで、手前にある時は、画面に向かって長く描くという事ですよね。
湖川 そうそう。要するに自分の横に見える部分ですよね。真横に見えるあたりは、伸びてないとまずいんですよ。実際に伸びてるわけじゃないんだけど、パース上はそう見えるんですよ。
小黒 板野(一郎)さんが、ミサイルの軌道を描く時にその手法を使っていますね。
湖川 それを真似して描いていますから。
小黒 いや、師匠の教えに忠実なのでは?
湖川 だから、見た目で「いいな」と思うのは、みんなが真似をするんです。でも、理屈は分かってないです。カメラを通して見るのか、生の目で見るのかでも、全然違うんですから。そこまで考えて描いてる人は、ほとんどいないですよ。まあ、いるかもしれないし、いたら嬉しいですけど。「あ、カメラがちょっと望遠だな」とかね、そういう事が画面になった時に分かればいいんです。そうじゃないと感情が伝わんないです。背景さんだって、それを考えて描いてくれたほうが、僕は嬉しいですけどね。まあそれをやるのは面倒くさいですよ。
 僕達の仕事は画面に出たものが、勝負なんですよ。紙の上で綺麗に描いた画が、画面に乗っかっちゃうとノペっとしてる場合が多いんです。これでは意味が全くないんです。僕が描くものは紙で見ると(粗くて)酷いですよ。目茶苦茶です。それが、モニターやスクリーンへ映し出されると力を発揮するんです。アニメは、フィルムになってナンボの世界だと僕は思ってるんで。勿論、イラストは別ですよ。
小黒 なるほど。
湖川 画面はよくできていた方がいいです。よくできていて、感情が伝わりやすい方がいい。人間の画を一枚描いて、感情が伝わったら凄いですよね。だけど、それはアニメではまずないんです。ないんだけど、1個の画を描くんでも、なるべくそれに近づけるように、描き手の人が気持ち入れて描いてくれたほうが嬉しいですよね。
小黒 『さらば宇宙戦艦ヤマト』の話に行ってよろしいですか。
湖川 そうしましょう。技術論はね、細かい事を言うと数限りなく続くので。
小黒 『さらば』は、作画監督を務めた初めての劇場作品ですよね。
湖川 それと、初めての作監でもあるんですよ。
小黒 『マグネロボ ガ*キーン』や『バラタック』でも作画監督はやっているんじゃないですか。
湖川 『バラタック』は作監になっていますが、やっているのは原画なんですよ。
小黒 1人で1話分の原画をやっているから、作監としてクレジットされているんですね。
湖川 そうそう。だから他の人も1人で1話分やっていた人はそうなっていると思いますよ。
小黒 『さらば』は、具体的にはどのような関わり方だったんでしょうか。
湖川 東映に、横井(三郎)さんという制作の方がいて、その人が『さらば』の制作担当になったんです。実はその前に、その横井さんから「湖川ちゃん、今度東映の劇場やってみない。キャラクターも作って、作監をやる気はない?」と言われて。「それはやりたいです。やらしてくれるんでしたら、やります」と話していたんです。で、そこにたまたま『ヤマト』の話がきちゃったんです。
小黒 あ、そういう事なんですか。
湖川 それで横井さんに「『ヤマト』の話がきているんだけど、『ヤマト』でもいい?」と訊かれて、俺は「いいですよ」と言っちゃったんです。そしたら、その後で横井さんから連絡がきて「湖川ちゃん、作監じゃないと嫌だよね?」って。多分、西崎(義展)さんからクレームが入ったんだと思う。彼は前のスタッフでやりたいと思っていたらしいですから。知らない若造が作監だなんて嫌だったんでしょう。「作監じゃないと嫌です」と言ったら「分かった」と。それをちゃんと伝えてくれたんでしょうね。それまで作監なんてやった事ないのに、劇場作品の作監でしょ。内心、どうすればいいんだとか思ってましたよ。気が小さいんで。
小黒 (笑)。
湖川 ただ、ちょっとやってみて、すぐ分かりました。それは「いい原画を作ればいい」という事でしたね。あの時はカッちゃん(勝間田具治)が監督で、石黒(昇)さんが演出の方をやって、棚橋(一徳)さんという人が演助でついて。みんなと仲良くやりましたよ。カッちゃんも可愛がってくれましたし。
小黒 キャラクターは、全部お作りになったんですか。
湖川 全部作りました。
小黒 松本さんの原案のあるキャラクターや、前のシリーズのものをリニューアルしたものもあったわけですよね。
湖川 そういったものもありました。
小黒 いかがでしたか。初めてデザインをやられてみて。
湖川 いや、でもデザインは『(無敵鋼人)ダイターン3』で先にやっていましたから。
小黒 『ダイターン3』の方が先なんですか。
湖川 敵だけなんですけど。あれもね、富野さんから電話もらって「ちょっと来てくれない」と言われたんです。でも、その時に、仕事だったか私的な事だったか忘れましたけどね、用事があって、「今は行けない。1週間後だったらいい」と言ったんです。それで、1週間後に勝手にサンライズに行ったんですよ、交番で場所を聞いて(笑)。そしたら、とても急ぎの仕事だったようで、(『ダイターン3』のキャラクターデザインは)塩山(紀生)さんに頼んでいて、みんなが、塩山さんのキャラ表を見て話してるとこだったんです(笑)。で、「あっ、変なところを見られたな」とかって言ってるんです。「いや、別にいいですよ」と言って帰ろうとしたら、プロデューサーに「敵が何も決まってないんだ、敵でよかったらやってくれると助かるんだけど」と言われたんです。それで敵だけ作る事になったんです。『ダイターン3』と『さらば』は同時進行になったんですが、そのふたつの作品は設定制作が同じ人だったんです。だから、『さらば』のスタッフルームで『ダイターン』のゲストキャラを作って、そこで渡していたんです。人がいない時に、サッと描いて。
小黒 確認しますが、『さらば』のデザインをやる前に、コロスやドン・ザウサーを作って、『さらば』をやりながら、各話のゲストキャラを作ったという事ですか。
湖川 そうです。それはそれで面白かったですけどね。まあ、『さらば』を今観るとね、やっぱりあの画は全然描けなかったですね。まだ20代だったから、仕方ないのかもしれないけれど。凄いキャラですよね、酷いキャラって言うんですか。
小黒 いえいえ。
湖川 松本さんのままのやった方がよかったなとかって、今になって思いますね。
小黒 ずっと気になってるんですけど、古代(進)の鼻を長く描いてますよね。
湖川 いや、長いんです。
小黒 そもそも長いんですか。
湖川 松本さんのキャラって、長くないですか。俺はイメージだけでそうやって描いちゃったんですけど、長いですよね。
小黒 あんなには長くないですよ。
―― 『さらば(宇宙戦艦)ヤマト』に続いて、TVの『(銀河鉄道)999』も、メーテルの鼻が長いという印象がありましたよ。
湖川 あ、長くないんですか? そうですか。
―― 意識的に長く描かれたわけでは?
湖川 いえ、全然。あの時に、松本さんの画を観て描いたわけではないですからね。前のシリーズのキャラ表から起こしたので。いや、俺は、松本さんのキャラクターは、全体的に鼻が長いと思ってましたけどね。横顔を見てもそうだし。大きな鼻があって、口がチョンとあって、顎でしょ。俺にとってはそういう印象なんですよ。印象としては、鼻だけと言ってもいいぐらいの。
小黒 なるほど。
湖川 印象ではそうだったんですよ。それから、西崎さんが、安彦(良和)さんの画が好きだったので、「安彦さんの画は直さないでちょうだい」とか言われたんです。だけど、あの人が描くキャラクターは鼻がちっこいんで、鼻だけ直しましたよ。
一同 (笑)。
小黒 本当に鼻だけ、直したんですね。プロポーションは原画のままなんですね。安彦さんがやられたところは、プロポーションも違いますよね。
湖川 そう、違います。違いますけど、それはいいんです。鼻だけがこだわりなので。
小黒 (笑)。安彦さんは映画のラスト部分の原画を描いたんですよね。
湖川 そうです。あの「パースのないヤマト」ね。
小黒 じゃあ、安彦さんのパートだけ、湖川さんの世界じゃない?
湖川 はい、全然違います。だけど、鼻だけ俺。
小黒 ああ!(笑)
―― 最後のテレサが飛んでいくところも、安彦さんなんですか。
湖川 いや、テレサは安彦さんじゃないと思いますよ。テレサは、確か俺が原画をやったんじゃなかったかなあ。
小黒 そうなんですか。テレサは作監修正を入れたんじゃないですか。
湖川 自分で描いたような気がするけど。『さらば』では結構原画もやったんですよ。斉藤(始)が死ぬところとか。あれは自分の原画ですからね。
小黒 そうなんですか。
湖川 最後のシーンで、(乗組員たちが現れて)みんな、ボヤーンってブラシがかかってるようなところも、原画をやったような気がするんですよね。
小黒 じゃあ、その前の部分が安彦さんなんですね。
湖川 そうなんでしょうね。本当は(最後に飛んでいく)ヤマトを直したかったですけどね。時間がないんでやめました。直したら、グワアアと火を吹くヤマトになっていたと思います。
小黒 そこは安彦さんの原画ですか。
湖川 安彦さんのままですね。拡大、縮小コピーで動かしているカットもあるはずです。……いや、仕方がないんです。パースを知らない人に、そういうカットをやれと言ったってできないんですよ。だって、当時はパースなんて言っている人はほとんどいなかったんだから。東映にはゼロックスという機械があって、それは(動画を)どこまでも縮小できて、拡大もできるというものだったんです。それを地球の戦艦や巡洋艦が動くカットに使おうという話が出て、それを聞いた時に「それは便利かもしれないけども、あり得ないですよ」と言ったんです。
小黒 つまり、東映の人は、その1枚の動画の縮小拡大で、複雑なメカが手前に飛んでくる動きを作ろうとしたんですね。だけど、それは同じ形のものが小さくなるだけであって、飛んでる事にならないっていう事ですね。
湖川 そういう事です。で、「パースを考えれば、それはあり得ない」という話をしたんですけど、誰も分かんなかったです。
小黒 些末な事なんですけど、『さらば』の後半で地球の人たちが登場する場面があるんです。そこで西崎さんそっくりのキャラクターが「我々には、まだヤマトがあるぞ」という台詞を言うんですよ。そのカットは湖川さんの原画だと、ずっと信じてたんですけど。
湖川 描いたかもしんないですね。
小黒 その直後のカットは、間違いなく湖川さんだと思うんですよ。キャラが湖川さんの画になっているから。
湖川 え、俺のキャラクターという事? いや、俺は自分のキャラを出したのは『決断』だけですよ。『決断』では自分を出しました。
小黒 ああ、なるほど。自分自身を出したんですね。『さらば』のその場面は、は湖川さん自身ではなくて、湖川さんが描いたとしか思えない女性キャラがいるんです。

※DVDを再生

小黒 (実際に映像を見せて)これです。
湖川 ああ、これか。そうですね。僕がやりました。
一同 (笑)。
小黒 原画を描いたんですか、作監で西崎さんにしたんですか。
湖川 どうでしょうかねえ。こんなところの原画はやらないだろうから、作監で直したんでしょうねえ、趣味的に。……これ、鼻の穴がありますねえ。
小黒 鼻の穴を描いてますね。相当きてますね。
湖川 駄目ですねえ、こんな勝手な事やっちゃ。
一同 (笑)。
湖川 思い出しました。西崎さんは描きました。それでラッシュの時に、笑いが起こってたんです。
小黒 あれは笑いますよ。僕らも劇場で笑いましたもん。西崎さんを出した事には、どんな含みがあったんですか。
湖川 何もないですよ。ただ、出してやろうと。
小黒 でも、西崎さんがこの台詞を言うのは凄いですよ。
湖川 だったら、台詞を見てから、やったのかもしれないですね。
小黒 別の作品の話になりますけど、『イデオン発動篇(THE IDEON Be INVOKED)』で、ソロシップの中で、後ろで富野さんがコンテ持って立っていますよね。
湖川 あれは板野(一郎)がやったの。
小黒 あ、板野さんなんですか。
湖川 「湖川さん、これは直さないでくださーい」と懇願されたので、まあ、いいだろうと思って残したんです。
小黒 それ、間違いないですか。
湖川 意外と、記憶力は確かです。
小黒 前に板野さんに話を聞いた時に「あれは、平野さんかなあ」とおっしゃっていて。
湖川 あれは板野ですよ。画風見て分かりませんか(笑)。

●animator interview 湖川友謙(4)「古代の歯の裏とバッフ・クラン人の目」に続く

(05.12.22)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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