web animation magazine WEBアニメスタイル

 
アニメの作画を語ろう
animator interview
湖川友謙(2)
着地のポーズとサイコロ


小黒 湖川さんは、その頃には『ルパン三世[旧]』もおやりになってると思います。大塚(康生)さんのお仕事とかはどうなんですか。
湖川 いや、僕は大塚さんは上手い人だなと思ってました。動きを遊ぶ人なんですよ。アニメーションはそれが基本ですからね。
小黒 湖川さんが言うところの、技術論に照らして言うと「巧い人ではない」という事になるのではないですか。
湖川 さっき言ったような技術論で言っちゃうとね。あの方は「面白いものがいい」というタイプで、僕はそれをもの凄く尊敬しています。『ルパン』の原作は高校時代から知ってますから、『ルパン』が始まった時に、ムービーの知り合いの制作の人に頼んで、外注(プロダクション)を紹介してもらったんですよ。そこから仕事をとって、ちょっとずつやったんです。僕は大塚さんとは会った事はないんですが、大塚さんの言葉で、凄く恥ずかしい思いをした事があるんです。タツノコの仕事もやってるわけだから、時間がなくなって『ルパン』の原画をバッと上げたわけです。そうしたら、その外注の進行さんから「作監の大塚さんが『この人は慣れてる人ですね』と言われた」と聞いてね。それを聞いた時に、ぞーっとしました。
一同 (笑)。
湖川 それは今でも忘れられないですね。時間なくて、パッと上げただけだったんです。
小黒 勢いのある原画だったんじゃないですか。
湖川 なんでしょうね。(大塚さんの真意は)分からないですけどね。
小黒 『ルパン三世』では、どんなシーンを描いたか覚えていますか。
湖川 覚えてますよ。色々描きましたよ。ただ、何十カットかぐらいなんで。どんな話だったかは覚えていないな。大体、どんな内容のカットを描いたかは覚えているんですけどね。
―― 『ルパン』では、スタジオ・メイツからの経由で原画を取られていたんですよね。
湖川 そうです。『ルパン』と何でしたっけ?
―― 『赤胴鈴之助』ですね。
湖川 メイツでやったのは『赤胴』と『ガンバの冒険』かな。『ガンバ』は勉強になりましたね。あれをやってなかったら、僕はギャグをやってないですよ。あれは僕の中にあった眠っていたものを引き出してくれましたし、面白かった。もしも『ガンバ』で着モーションの仕事がきたら、やりますよ(笑)。
小黒 着モーション?
湖川 最近、着モーションのアニメの仕事もやっているんですよ。『ルパン』は、もうやりたくないんですけど。
一同 (笑)。
湖川 いや、昔はね、『ルパン』で1本、自分のデザインで作監をやりたいと思ってたんです。『鉄人(28号)』もやりたいと思ってたんですが、『鉄人』は、まんだらけがCMを作った時に描きましたよ。鉄人の漫画は大好きなもののひとつでしたからね。しかしながら、あれは動かせないです。諦めました。
一同 (笑)。
小黒 動かないですか。
湖川 動かない。いや、それは分かっていたんだけど、描けばなんとかなるだろうって思っていた自分が馬鹿だったと。
小黒 体が堅すぎるんですね。
湖川 全部をゴムにしておかないと動かない。それくらい割り切れればいいんだけれども、やっぱり鉄の塊だという意識が頭にあるし。それが漫画の不可解なとこなんですよね。だから、漫画をアニメにする時は、アニメ用に作り直さなきゃ駄目なんです。私のイメージでは、ブラックオックスなど、アニメや実写のような、あんなブサイクでもないし、まして猫背のイメージなど、全くもってないのですよ。
小黒 その『鉄人』はCMだから、そんなにカットは数ないと思うんですけど、全部をお描きになったんですか。
湖川 ええ、描きましたよ。それでまんだらけの社長が「こんな画に」と言って、(直しを)入れるんですよ。
一同 (笑)。
湖川 やっぱり鉄人には思い入れがあるんでしょうね。あの人は漫画家でしたからね。面白かったです。アニメーターに引っ張ろうかなと、思ったくらい。
一同 (笑)。
小黒 『ガンバ』が勉強になった理由についても、うかがえますか。リミテッドでよく動く作品でしたよね。
湖川 あのタイミングと、画面に出てくる物の扱い方が……。いやびっくりしましたね。もの凄い刺激でしたね。『ガンバ』って何年ぐらいですか?
小黒 昭和50年(1975年)ですね。
湖川 50年か。アニメを続けるか辞めるか決めようとしていたひとつの時期ですね。僕がアニメをやっていこうって決めたのは(仕事を始めた)5年後なんです。自分にアニメをやってくのに適している部分があるのかもしれないと思ったんです。もちろん、彫塑も諦めてなかったですけどね。いまでも(彫塑は)やりますけど。アニメをやってみようと思うまでに5年もかかりましたね。馬鹿ですね。
小黒 ご本人の中ではそんなに大きなお仕事じゃないと思うんですけど、アニメファン的に大事な話がありまして。『宇宙戦艦ヤマト』なんですが。
湖川 いや、大きな仕事ですよ。
小黒 いや『さらば宇宙戦艦ヤマト(―愛の戦士たち―)』じゃなくて、最初のTVシリーズをちょっとやっていますよね。
湖川 知りませんよ。
―― メイツの回に参加されていませんか。
湖川 ……やってましたね(苦笑)。ちょっとね。
小黒 量的にはたいした数じゃないんですね。
湖川 いや、少ないと思いますよ。ただ、ポーズを見ると、僕のポーズになっているはずです。雪が横座りしてるポーズを知りませんか。古代が立ってて、銃を持ってたかな。その横で雪が座っているんです。
小黒 ひょっとして「我々のやるべき事は……」のところですか。雪が泣いてるシーンです。
湖川 泣いてたかなあ。台詞は覚えてないですよ。
小黒 床の上に座ってるんですね? 椅子じゃなくて。
湖川 室内ではないですね。きっと外ですよ。
小黒 『ヤマト』には、何度もは参加してないんですね。
湖川 それだけですね。艦長も描いたような感じがするんですよ。ベッドに寝てる。
小黒 それは死にそうな感じなんですか。
湖川 そこまでは記憶がないですけどね。僕は、松本(零士)さんと仲いいんです。あの人はユニークな人なんで、好きですよ。ただね。最初はあまり印象がよくなかったんです(苦笑)。(後に『さらば宇宙戦艦ヤマト』に参加した時に)松本さんが『さらば』の雪のキャラ表を見てね。「女の体はこうじゃありません」とか言って、(直しを)描かれたんです。「こうです」とか言われて。その時に、いやいや、あんたには女の体は言われたくない、と思ったんです。その印象が最初だったんです。
小黒 湖川さんは、松本さんが描かれるようなファンタジー的な女性のブロポーションって?
湖川 見ている分にはステキさを感じますが、正直描きません。
小黒 駄目なんですね。
湖川 まあ、仕方がないですね、好みの問題だから。ただ、まだ松本あきらの名前だった頃に描いた、松本さんの漫画で、潜水艦が出てくるものがあるんですよ。それで、ハッチを開けた時、そのハッチがもの凄く分厚かった。その印象が強いんです。それをこの前、松本さんに会った時に言ったら、覚えてました。松本あきらの頃に、牧美也子さんと一緒に共作した作品もあるんですよね。画は奥さんのほうがリアルなんですけどね。松本さんはムードがありますから。
小黒 それこそ、さっきおっしゃった漫画ならではの画ですね。
湖川 そうですよ。だから、漫画の世界では上手い人ですよ。
小黒 『ヤマト』のDVDの用意ができましたから、実際に観てみましょう。24話です。アニメ史に残る名場面ですよ(ガミラス星を滅ぼした古代が、その事を悔いるシーン)。

※DVDの再生開始

小黒 このあたりですね。
湖川 今の(古代の)横顔描きましたね、確か。だけど、銃を持ってないですね。
小黒 このあとで持ちますよ。

※DVDの再生続く

湖川 ああ、(顔が)アオリになってますね。僕の原画ですね。この頃は誰もアオリは描いていませんでしたからね。
小黒 じゃあ、きっとこのシーンが湖川さんの原画ですね。
湖川 だと思います。
小黒 このあと、沖田艦長が出てきます。
湖川 あ、ヤマトが壊れてますね。
小黒 ええ。最終回の少し前ですから。
湖川 本当は、ヤマトを描きたかったんです。
小黒 ヤマトは描いてないんですよね。
湖川 描かなかったです。

※DVDの再生続く。沖田艦長が皆をねぎらう場面に。

湖川 あ、今のはそうですよ。今の斜め後ろから見てるカットも描いた記憶があります。
小黒 かなりクリアに覚えていらっしゃるんですね。この島が、操縦官を握っているカットなども?
湖川 ここはどうですかね。記憶がないです。……この辺もそうなのかな。操縦桿も描いたような気がするな。正確には分かりません。
小黒 おそらくそうであろう、という感じですね。
湖川 ええ。あの艦長は間違いないです。あの斜め後ろから見た角度は。
―― こういう時、小泉(謙三)さんは修正を入れないで、湖川さんの原画をそのまま使っていたんですかね。
湖川 彼が作監をやっていた事実も知りませんし、それにしても私の画風が残ってますね。
小黒 ちょっと話を戻しますけど、さっきの、『ガッチャマン』でアオリを発見したっていう話なんですけど。どういうようないきさつで?
湖川 いや、いきさつというか。いくら描いても上向かなかったんですよ。技術論の話になると、最初は、走りなんです。で、それはムービーで動画をやってる頃の事で。今も大体そうですけど、走りを描く時に、着地のポーズが原画になるケースが非常に多い。
小黒 走りを描く時、何枚か描く原画の画のうち1枚が、着地の画だという事ですね。
湖川 そうです。大体足が着いたポーズが原画になってたんですね。実はその後に(地面を)蹴るポーズがあるんです。それが一番力が加わるんです。だから、その時に一番手が上がった状態にならなくちゃいけないんです。ところが、着地のポーズで手を一番大きく振ってるんですよ。僕は『巨人の星』の時に、そのポーズではなくて、蹴ったポーズで手を上げたんです。そんなのは、誰もやってなかったんです。走りを考えて、勝手にやってただけなんですが、実は、歩きも一番足を開いた状態の原画が多く、その原画側に詰めがあったんです。「詰め」って分かりますよね?
小黒 動画の枚数をたくさんいれる部分ですね。
湖川 要するに、足開いた時に詰まってたんです。みんなが、そうやって動画をやってるんで、最初は僕もそうやってたんですが、理屈が合わないんですよ。自分で歩いてみたりなんかしてると。足の片方が曲がっていて、もう片方が真っ直ぐになる状態の時って、一番遅いんです。理屈で考えればそうなんです。それでその当時に直しました。トン、トン、トンという歩きですよね。それから、いまだにあるんですけど、走りの原画で着地のポーズの時に、足の先が上がっている原画があるんです。(スタジオ)ジブリのものは、全部と言うか、基本的なベースにしています。今でも、そういう原画を描く人がもの凄く多いです。僕の弟子はやらないですけど。
小黒 どういう事ですか。
湖川 何か描くものあります?


●図1(湖川さんが取材中に描いてくださったもの。以下同)

●図2 ●図3

湖川 このポーズですね(図1)。いや、実際にフィルムを1コマずつ見ていけば、この(図1)ポーズも存在しないわけではないです。それから歩き。歩きはこういう風なポーズ(図2)になる前に、こういうポーズ(図3)がありますよね。(着地する時は)かかとからいきますよね。まあ、モデル歩きは違うけれど、普通に人が歩くのを考えるとこうなるんです。走りも実際には、こうはなるんです。ただですね、歩いてる人間と走ってる人間を見比べて、どっちが目の残像的に残るかというと、歩きはこれ(着地した時につま先があがっているポーズ)が妙に目につくんですよ。走りの場合はそれが目につかないんです。速く走る場合は、一瞬でこうなる(つま先を下げた状態になる)んです。おどけた走りの場合は、これの(つま先をあげて着地する画を使う)可能性はあるかもしれないですけれど。僕は弟子達には、特別な場合以外は禁止してますから。
小黒 つまり、走りの時につま先を上げた原画を描いてはいけない、という事ですね。
湖川 上げちゃいけないです。それをやったら、ドタバタですよ。ギャグもんです。ただし、それが目的の場合は、当然画面が生きる事になる。
小黒 歩きの時は、その画を入れたほうがいいんですね。
湖川 歩きは入れないと、歩いてるようには見えない。僕がアニメの社会に入った当時、みんなこうだったんです。いや、面白いですよ。女の子でパースを覚えたいからって僕のとこにきた子がいるんです。その子は、顔のアオリとかなんとかも覚えて、子供ができたんで辞めたんです。その後、子供がちょっと手がかからなくなったので、別の会社に入ったんです。そうしたら「あなたの描いてるのは湖川さんのアオリです。うちの社長のアオリに合せてくれないと困ります」と言われた。回り回ってその話を聞いて、なんてレベルの低い世界なんだろうなって思ったんです。「俺のアオリ」じゃなくて「アオリはこう描かないとできませんよ」という理論を言ってるのに。俺の描き方じゃないんですよ。おかしいでしょう? すっごいレベル低いですよ、アニメの世界は。
小黒 理に適ったアオリを描いてるのに、湖川さん個人のものだっていう風に言われたんですね。
湖川 そうです。要するにしゃくれればいいと思ってるんですよ。昔から鼻を上に向けて、アゴがしゃくれればいいと。アゴがしゃくって、鼻が上を向いている(だけで、他はアオっていない)画がたくさんありました。気持ちが悪い。でも、見ている人もそれで「あ、上向いてるんだ」と思う習慣病です。デフォルメっていう言葉がありますよね。画の描けない人が変な画を描くのがデフォルメという事になっているんです。本当は、正確なものが描けて、それをいかに崩したら活きるかな、と考えて描くのがデフォルメなんです。アニメーターって、大嘘つきじゃなきゃいけないんですよ。でも、大嘘をつくには、真実を知らなければいけないわけですよね。真実を知ってる人なんかはほとんどいません。誤解を招きやすいので、一言言っておきますが、アニメーションを考える時、アオリや俯瞰、パースも画力も何も必要ない事だろうと思う考えが、(真実を知ろうとしない人たちの)裏にあります。つまり、そんなものがない状態の中で命を与えられたキャラクター達が、観る人達に「ああ、とても楽しかった!」と思わせて大成功という事です。だから、アニメを考えるんです。もちろん私もまだまだ勉強中の身ですが、素晴らしい状況が数多くあるなら、アニメを辞めてもいいんですけどね。なんとかしないと。
一同 (笑)。
湖川 それでまあ、アニメをやっているんですけどね。本当は彫塑やりたいんです。
―― さっきおっしゃっていた『巨人の星』の時に、ムービーに忘れていった歩きのサンプルは、すでにそういうかたちになっていたんでしょうか。
湖川 えーとね、そうじゃないと思いますけどね。動きの強弱のつけ方は、今と変わってないですけど、足の運びがどうだったか分からないです。
小黒 タツノコ時代のお話をもう少しうかがえますか。『決断』『ガッチャマン』から『(ゴワッパー5)ゴーダム』ぐらいまでがタツノコ時代ですね。この頃に、いろんなノウハウが蓄積されたと思っていいんでしょうか。
湖川 だと思いますね。先代の(吉田竜夫の)あのキャラは描けなかったですから。それに合わせようとはしてるんですけども、やっぱり自分なりのガッチャマンになってたと思いますね。『ガッチャマン』では微妙なアオリをいっぱい作ったんですけども、全部直されて、首をかしげる画になってましたから。まあ、いいや、しょうがないやと思っていました。
小黒 『ガッチャマン』の頃はアオリを描かれても、修正されてて画面に出てない場合も多かった。
湖川 いや、ほとんど直されていますよ。
小黒 ほとんどですか(笑)。
湖川 ほとんどです。ロングの場合は直してないとか、どうでもいいカットは直してないですから、それは僕の原画のままですけどね。見れば分かりますよ。
―― さっきの話に戻りますけど、どんな風にしてアオリを発見されたんですか。
湖川 僕は、描けないものがあるとイライラして燃えるタイプで(笑)、できない事をやるのに燃えるんですね。それで、新聞でも何でも、写真に変わった角度で写っているものがあると、それをすぐ描いていました。でも、描いても分かんないんです。それでね、僕はこんな馬鹿までやってて。説明するよりも描いたほうが早いですね。


●図4

湖川 例えば横顔を描いて(図4の左)、それで、これを下から見るとこうなりますよね(図4の右)。こういう風にやるんです。(画像4の右の画と左の画に、横線を引きながら)こういう風に引きます。横顔から計算していくと、正面のアオリができるんです。『ガッチャマン』の時に、これをやったんですよ。眉毛もこの線にあわせて描くんです。そうすると、ここ(眉毛と目の間)がやたら空くんです。当たり前の事なんですけど。額の生え際も、こうなるんですね。耳の位置もここになるんです。(当時は)これが画にできなくてね。できなくてできなくて。だからよく人を観るんです。色んな角度から見てましたよ。寝っ転がってみたりとかね。
小黒 今、お描きになったのが、僕らが知っている湖川さんの画ですね。

●図5 ●図6 ●図7

湖川 でもね、これが描けなかったです。こうやって分析しても、なかなか描けなくて。だったら斜めはどうなるのか。それで、サイコロなんです。立方体を描けと言われれば、誰でも簡単に描くんですよ。例えば、このサイコロに目をつけると、目の位置と顔の中心の位置はこうなるんです(図5)。これ(十字の線が交差する角度は)は90度じゃないんですよ。『ガッチャマン』で上を見ている画で、直されたものはほとんど90度なんです。調べてみてください。こうやって上向いています(図6)。鼻が上向いていて、むりやりアゴを描いたとしますよね。だけど、目がこうなんです。
小黒 目の部分は、正面に近い顔をそのまま持ってきているわけですね。
湖川 これは部分的に上向けてるだけなんです。これではアオらないんです。どう考えてもアオらない。だから、僕はこういう風にやる事を覚えたんです(図7)。だから、サイコロに感謝しているんです。理論の確認です。雑誌に載っているモデルの顔を見て、顔を描いて、自分の考えが正しいかを確かめた。本当に巧い人は、そんな理論はいらないんですよ。ただ描いて、そうなっていればいいわけだから。ただ、一応理論として、それに当てはまってないのはアオってないし、俯瞰にもならないと言い切れるんですよ。これを見つけたのは『ガッチャマン』の時だから、22か23歳の時ですね。それは非常に嬉しかったですね。でも、理論見つけただけで、今でもあまり巧く描けません(笑)。
小黒 いえいえ。湖川さん自身は、その後、どんどん大胆にアオって描くようになりますよね。
湖川 う〜ん。でも、そういう画を描こうと思っても、そういう画を活かすためのキャラクターが、なかなかないんです。そこにも問題があるんです。もちろん私はどんなキャラクターでもアオリに描いてみせますよ。
小黒 なるほど。
湖川 キャラクターデザインと言えば、今まで、いろんなキャラ作ってきましたけど、もっと簡略化させて、一見凄くマンガっぽいキャラなんだけども、よく見るとリアルっていうキャラを作りたいんです。いくつか作ってるんですけども。その究極のやつを作りたいなと思ってるんですけどね。
小黒 今まで手がけられたものだと『COOL COOL BYE』みたいな感じですか。
湖川 いや、あんなのは、もうやらないです。映画のデザインを頼まれ、自分でも結構気に入ってるのがあるんですけどね。それをもっと簡略化したものをやりたい。やっぱりシンプルイズベストが好きなんです。でも、シンプルって難しいんですよね。“髭ガンダム”の頃に、富野(由悠季)さんと対談したんですが、その時にも「なんでガンダムをあんな装飾だらけにしたんですか」と訊いたくらいです。僕は、ずっとシルエット論でデザインしてきたつもりなんです。その話は(一緒に仕事をしている頃に)富野さんにしていたので「俺がシルエット論だと言っていたのを、忘れたの?」と言ったら「いや、覚えてる。でも、仕方なかったんだ」。あとで周りに聞いたら、どうもスポンサーの絡みもあって、ああいうデザインになったらしい。だから、そういう言い方をしたのはちょっと可哀想だったなと思いましたけれど。本当に凄いですよ。どんどん装飾だらけになっていって、おまけに髭ガンダムでしょ。新しいもの好きなのは分かるんだけども、本当に新しいものは、意外と目の前にあるものだと感じてほしい。
一同 (笑)。
湖川 まあ、いいんですけど。アニメの世界では、デザインというのは難しいものなんです。海外のアニメとかを見るとね、デザイン的にもの凄く優れたのありますよね。(フライシャーの)『スーパーマン』でメカが出るやつなんか、面白いと思った。宮崎(駿)さんが使うのも分かるよね。まさか『ルパン』でそのまま使うとは思わなかったけど。
小黒 『新ルパン』の最終回ですね。
湖川 たまたま『ルパン』を観て「なんだ、これ」と思いましたよ(苦笑)。それ以降から宮崎さんに?マークがつきまとう。
一同 (笑)。
湖川 『(未来少年)コナン』とかは、そりゃまあ大塚さんの力が大ですけど、やっぱり面白かったですよね。話の持っていき方も、とても上手だし、それは尊敬する部分ですよ。ただ、あの人がやりたいのはお話なんでしょうね。お話のために、アニメやってるようなもので、枚数は使ってるかもしれないけど、実は動いてないんです。でも、それは仕方のない事でしょう。創作と言っても価値観は様々であり、得るものも人様々が現実。
 アニメはお話とキャラクターと動きがあれば、他は何も要らないと思ってるんです。僕は動かし屋なので、面白い世界観話をひらめかせる事は得意だけど、話を積み上げていく事はそうでもない。アニメって、例えば紙に鉛筆でちゃらちゃらと動いているのを描いて、それを映したものを観て、来た人が「ああ面白かった」と言ってくれればいいんですよ。アニメートだけでいいんですよ。僕は基本的にはアニメのビジュアルをそう思ってるんです。だから、今のアニメはつらいですね。動かないから。
 それからね。本当に日本人らしくて、器用な面があるなあと思う事があるんですよ。今から何年前だろうね。変わったアオリが流行した事があったんです。アオリの画を描く時に、ここ(顔の目鼻の部分)までは合ってたりするんですよ。途中までは僕の言っている描き方なんです。ところが、顎の部分はアオってないんです。あれは誰が初めにやったのか、教えてほしいくらいだけどね。
―― 最近、よく見ますよね。
湖川 一見、上を向いているように見えるんですよ。でも、それ以上、上を見たらどうなるの? 下を向いたらどうなるの? という感じなんですけどね。で、せっかくそこまで分かっているんだったらば、そのキャラクターに合わせた描き方をしっかりとしていけばいいのに。つまり、空間の中で回転していく事が動く事とするなら、顎を長くしたいキャラであれば全てに対してそう描くべき。
―― ああ、なるほど。
湖川 だから、キャラの作り方がやっぱり問題だと思うんですね。例えば、僕の言ってる事が正しいから全部そのままやれ、なんて思ってないですよ。技術的に正しいからと言って、素敵なアニメとは限らない、そんな事は分かってますから。ただ、技術を知る、知らないでは大変な差があるという事は、分かってほしいんです。あんまり技術の理論面について話す人はいないんですよ。だから、僕みたいな嫌われ者が1人くらいいてもいいかな、とは思うんです。だって、アオリが理論的にどういうものかは、もう分かっているわけだから、いまの可愛らしいキャラでも、上を向かせる芝居はあるはずですよ。絵コンテを見るとそういうカットは、いっぱいあるんだもの。やらないのは、損ですよね。単純にやってほしいな、と思っているんですけど。より可愛くなりますぞ!
小黒 おっしゃるとおりですね。
湖川 いや、俺も目のでっかいキャラの作画を手伝う事もありますよ。ああいう顔だから、やっぱり可愛らしさを失ったらいけないだろうから、上を向いても可愛らしさを残す描き方をやってますよ。しょうがないですもんね。だから、そんな気遣いを全然しなくてもいいようなキャラクターを作りたいんですよ。そうしないと、細かな芝居ができないんですから。俺がアオリを見つけてからもう、もう30年以上経ってるんですよ。
小黒 アオリに限らず、湖川さんの技術は、アニメ業界全体に伝わってると思うんです。だけど、相当薄口になってるんですよね。
湖川 うーん。
小黒 中途半端な形で広まっちゃって。考え方ではなくて、表面的な処理だけがコピーされていったんじゃないですか。目の描き方とか。
湖川 目の描き方なんて、観察すればいいんですよ。いろんな人がいますから。腫れぼったい目の人も、ほとんどまぶたに肉がない人もいるでしょ。横顔を見てると、この人の正面をどうしても見たいと思う顔もあるんですよ。
一同 (笑)。
湖川 電車に乗ってる時に、俺の今までの経験の中ではあり得ないっていう横顔の人がいたんです。
小黒 それは綺麗な顔ではなかったんですね。
湖川 綺麗どころか。そうじゃなくて。あの……。
小黒 ユニークな?
湖川 口の周りがとにかく信じられない感じで。「こういう画はない」と思って。とにかく正面が見たくて見たくて。でも、凄く混んでて。だーっと電車を降りて、追っかけたんですよ。とにかく前に回りたくて。
一同 (笑)。
湖川 でも、見られなかった。それが、いまだに悔いが残ってるんです。そういう好奇心を持ってほしいですね。いつも何かを考えてるか、見てるかしてないと、アニメーターはできないんです。だってね、新しいものがいつも(自分の中から)出てくるわけじゃないですもん。だから、仕事ばっかりやってる奴は、能がないと思ってるんです。やっぱり遊びもしたほうがいいし、色んなものも見ておかないと、引き出しが埋まらないまま作業をするのですか? 引き出しを満杯にしておいて全てをはき出すんです。全てはき出しておかないと、新たな発見を詰め込めませんよ。作業ははき出すのみです。言ってみれば机を離れた瞬間から勉強、吸収が始まる事を知ってください。創作ですからね。……次は何の話をしましょうか。
小黒 ああ、すいません。話に聞き入ってしまいました。

●animator interview 湖川友謙(3)「アイレベルと『さらば宇宙戦艦ヤマト』」に続く

(05.12.16)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.