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 第8回 結城信輝・千羽由利子対談(1)

―― 今回は、結城信輝さんと千羽由利子さんの対談していただき、お勧めのアニメや、好きなアニメを紹介してもらおうと思います。
結城 初めまして。お会いできるのを楽しみにしてました。
千羽 こちらこそ初めまして。スタジオの仲間達に「お前ごときが結城さんに何か話す事があるのか」と言われて出てきたんですよ(笑)。
結城 いえいえ。そんな事はないでしょう。
―― それでは、さっそく千羽さんのベスト20からお願いします。
千羽 全然濃くなくてすいません(苦笑)。

●千羽由利子(アニメーター)が選んだ
「好きな作品、または辛い時に観るとやる気の出る作品」


『海のトリトン』
『タイガーマスク』
『破裏拳ポリマー』
『機動戦士ガンダム』
『THE IDEON BE INVOKED(伝説巨神イデオン 発動編)』
『クラッシャージョウ』
『巨神ゴーグ』
『アリオン』
『ヴイナス戦記』
『X^2[ダブルエックス]』
『海がきこえる』
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』
『THE COCKPIT』2巻「音速雷撃隊」
『剣風伝奇ベルセルク』10話
『機動武闘伝Gガンダム』OP
『ターザン(Tarzan)』
『アイアン・ジャイアント(THE IRON GIANT)』
『カウボーイ ビバップ』
『勇者特急 マイトガイン』
『OVARMAN キングゲイナー』OP

番外
『ガラスの仮面』



千羽 色んな要素が混じっているんですけど。
―― 結城さんから見て、千羽さんのセレクションはどうですか。
結城 うーん、新旧バランスよく入ってるよね。『キングゲイナー』のOPがきますか(笑)。
千羽 最近、観て勢いをつけてるんです。
結城 あれは、衝撃がありましたよね。……安彦(良和)さんの作品は、『ゴーグ』は僕も好きだけれど、『クラッシャージョウ』や『アリオン』『ヴイナス』はちょっと、という感じですかね。
千羽 そうですね。それは周りでも言われます。監督をやり始められてからの作品は、それほど評判がよいわけではないんですよね。
結城 いや、でも僕は『ゴーグ』は好きなんですよ。
千羽 あ、そうなんですか。『ゴーグ』は誰にでもお勧めの作品だと思うんですよね。
結城 うん。
千羽 私は安彦さんの画が好きだから、どれも観ると楽しいんです。
結城 『クラッシャージョウ』にしても『アリオン』にしても画はいいんです。でも、なんて言うのかな……。例えば、小松原一男さんが松本零士の画を完成させていく過程の中で、多くの人は最高傑作として劇場版『銀河鉄道999』を挙げると思うんですよ。でも、僕にはでき上がりすぎたように見えちゃう。でき上がったものっていうのは、後は失速するだけじゃないですか。だから、むしろ、小松原さんが、松本零士の画と対峙している感じがありありとしている『宇宙海賊キャプテンハーロック』が一番好きなの。
千羽 ああ、はい。
結城 今回、自分も『HERLOCK』をやっていて、小松原さんのキャラ表と向き合って、「小松原さんはどう考えていたんだろう」って随分考えた。画から試行錯誤の跡が感じられて、それが興味深かったんですよ。それと同じで、僕から見ると『クラッシャージョウ』以降っていうのは、完成された分、失速感があるんですよ。
―― あ、つまり、結城さんは、作画についての話をしているんですね。
結城 うん、勿論。
千羽 ああ、なるほどー。
―― 完成された『クラッシャージョウ』や『アリオン』の画よりも、その前の安彦さんの画がよいと。
結城 そうそう。
千羽 結城さんのおっしゃる事も、なんとなく分かります。ただ、画について言うと、『アリオン』はやっぱり、漫画のあの画が動いている、という楽しみがあるんです。『クラッシャージョウ』は、板野(一郎)さんのアクションも凄く格好いいから、気持ちいいですし。でも、誰にでもお勧めとは言えないかもしれませんね。結局、私は、安彦信者だから(笑)。
結城 安彦さんも最近、『GUNDAM THE ORIGIN』でまた元気が出てきているように見えるんで、昔からのファンとしては嬉しいですよね。
千羽 やっぱり、最初のTVシリーズは安彦さんじゃないとできなかったでしょうから。
結城 特に『ガンダム』の中盤、連続して作監をやってたのは、あれは凄かったよねえ。『ゴーグ』のレイアウトを見せてもらった事があるんだけど、安彦さんが全部自分で描いていて、動きの指定も全部入っているのね。要は第一原画なんですよね。『ガンダムIII』の時にでき上がったシステムで。
千羽 『ゴーグ』は見るとアクションが統一されてますよね。
結城 うん。だから、逆にね、僕は劇場『ガンダム』より、TVの『ガンダム』の方が好きなんですよ。TVだと直接安彦さんの修正が乗っているじゃないですか。劇場『ガンダム』だと、原画マンが動画マンになっちゃっているんですよ。
―― それは最近のアニメの状況に近いかもしれませんね。メインのアニメーターが第一原画や、ラフ原画を描く場合が増えているようですから。
千羽 ああ、そうですね。
結城 原画なのに、画の解釈の仕方が動画的なんですよ。当時のムックに載っていた安彦さんの第一原画とセルを比べた事があるんだけど、違うんだよね。
―― つまり、安彦さんが第一原画を描いて、他の原画マンがそれを第二原画にした劇場版よりも、安彦さんの作監修正をそのまま動画にしているTVの『ガンダム』の方が、ダイレクトに安彦さんの画が画面に反映されるというわけですね。
結城 そうそう。要は、第一原画の立体感や線のつなぎ方を、原画マンが整理し切れてないんだろうね。動画で、原画の線を解釈仕切れずに勝手につなげてしまう事があるんだけど、それに近い(笑)。だから、劇場版は確かにクオリティは高いんだけど、安彦さんの画そのものを楽しむなら、TV版ですよ。
―― これは超マニアックな意見ですね(苦笑)。
千羽 二原システムって、どうしても画が堅くなりますよね。動画マンが直接原画をトレスするんじゃなくて、一度トレスしたものをトレスするみたいな。
結城 伝言ゲームみたいなものですよね。
千羽 だから、一般的な解釈で括られてしまうというか、画がツルンとなってしまう。
結城 そうそう。これは第二原画じゃなくて動画の話だけど、自分が作画監督を始めた時に、そういう風に解釈されるのが嫌だなあと思っていたんですよ。動画というフィルターを通るじゃないですか。そこで、どういう解釈で線を拾われるか分からない。だから、ここは絶対押さえてほしいっていうところは、わざと誇張して描いておくんですよ。20〜30%増しで描いておくと、結果的にちょうど100%ぐらいになるかなあ、って。逆に「誇張したいんだな」って解釈されて、より誇張した感じで描かれてしまうと、画面に出た時にバランスが悪くなっちゃうんだけど(笑)。一時期、小黒君に、俺の初期の画が濃い濃い濃い濃い……って言われたじゃない。
―― はい、言いましたね(笑)。『北斗の拳』の頃ですね。
結城 あれって、そういう事が多かったの。強調しないとニュアンスが消されちゃうし、それを丁寧に拾ってくれる動画マンだと濃くなってしまう。そういう意味では、昔より、今の動画マンの方が、些細なニュアンスを拾ってくれる傾向にありますよね。
千羽 そうですね。
結城 『ToHeart』なんかが典型的だけど、千羽さんの画って繊細って言うか、(線の)とりようが難しいじゃないですか。目も大きいし、そういう意味では2次元のキャラクターなんだけど、立体をベースにしてアウトラインで考えているでしょう。だから、線が少しズレると立体が狂う。僕なんかは、線を多くして味つけしているから、多少線を取り違えてもそんなに画が崩れるわけではないんだけど、千羽さんのような少ない線だと、線を1本取り違えられただけで、エライ画になってしまうじゃないですか。だから『ToHeart』とか、それにしては動画がよく拾っているよなあって思いましたよ。今のTVってこんなにレベルが高いんだって。
千羽 そうですね、かなり頑張ってくださって。
―― というところで、リストに話を戻しまして(笑)。『マイトガイン』『Gガンダム』OPが入っているのは、どういう理由ですか。
千羽 当時、私達もロボットものをやっていたんですね。それで、参考にするわけではないんですけど、見ていると、『マイトガイン』で、高谷(浩利)さんや山根(理宏)さんが、毎回「どうだあ!」っていうお仕事をなさっているじゃないですか。それを見ていると、私も頑張らなくちゃあ、って思えたんです。
 それから、『Gガンダム』のOPは派手な事をやっているのに、凄く細かいところまで処理が行き届いていて気を遣っているんですよ。それを見ると、頑張らなくちゃっていう気持ちになるんです。
結城 なるほどね。僕はでも、最近の「ガンダム」なら『ガンダムW』のOPの方が好きかな。
千羽 あ、『ガンダムW』もいいですね。
結城 やっぱり、佐野浩敏さんの動きがいいよね。線の多いメカもいいけれど、佐野さんのメカって、どこか丸みがあって、でも立体的に嘘がないっていう。安彦さんが『ガンダム』で確立したような感じのメカを描くでしょう。あれが凄い。
千羽 安彦さんの『ガンダム』って、キャラとメカが同じ世界で同じように動いている感じがありますよね。佐野さんがキャラクターを描いているのを見ても、メカと同じ世界のものっていう感じがします。
結城 そうなんですよね。安彦さんの線を一番継承しているのは佐野さんなんじゃないかなあ。
千羽 いいなあ……。
結城 ところで、『X^2』は外していいんじゃない?
千羽 えー、なんでですか。あれは、後輩が当時ビデオを持ってきて、とにかくこれを見ろと勧めてくれたんですよ。会社で、「おおおおおっ!」とうなって、5回ぐらい見ました。そのあとしばらく仕事したんですけど、みんなで「もう1回見ようか」って(笑)。
結城 止めようよ(苦笑)。
千羽 えーっ、この話はぜひしたいんですけど。あれは街頭で流れたんですよね。
結城 新宿のアルタビジョンだね。嫌だったなあ。
千羽 えっ、なぜですか。
結城 あのとき、あそこにいた人って、別にアニメが好きなわけじゃないんですよ。要はX JAPANが好きな人達だから。僕とは接点がない(苦笑)。
千羽 でも、街行く人の中で、Xファンが見て、「あ、かっこいい」って思えるようなアニメじゃないですか。あれを新宿で流した瞬間、作っている人って、どういう気分なのかしらって、凄く思ったんですよ。
 なんて言うか、そういう不特定多数の人がいる場所で流すっていう事がもの凄く重要に感じるんですよね。最近はビデオ版で直します、という事もあるんですけど、TVで流したものがやっぱりでき上がりじゃないかと思うんです。観ようと思って観た人もいるでしょうけれど、たまたまTVをつけていたような、不特定多数が観る事もあるわけでしょう。新宿のような場所で不特定多数の人に向けて作ったという事が、もう凄いですよね。
結城 ああ、不特定多数に向けてっていうことは、凄く大事な事ですよね。常々それは思っています。最近凄く嬉しかったのは、『天空のエスカフローネ』をやっていたでしょう。あれは、アニメファンにはあまり注目してもらえなかったんだけど、結構、普通の人やライトなアニメファンの人が興味を持ってくれたんですよ。実際、ネットでも、山の手に住んでるような普通の女性が観て、記事にしているのを見かけたんだよね。やっぱりTVって凄いなって思いましたよ。
千羽 そうですよね。TVで流すと、たまたま見かけて「凄い」って言ってくれる、というのがありますよね。
結城 うん。アニメが好きでアンテナをのばしている人にいい作品が届くというのは当たり前の事なんですよね。TVの面白いところは、アンテナなんかのばしていない人が、一期一会でたまたま観てくれて好きになってくれる。そういう人は、TV番組のいろんなジャンルの中から、これが面白いと選んでくれる。そういうのは凄く嬉しいんですよ。
千羽 はい。勿論、アニメファンの人にも観てもらいたいですけど、たまたま観ていた人が面白いと思ってもらえないと、つまらないですよね。
―― では、改めてリストに戻って、『海のトリトン』をご覧になったのは、子供の頃?
千羽 はい、そうですね。もうこれは自分の好みという事で選びました。特にオープニングで、トリトンがルカの背中に半分立って……。
―― ああ、転びそうになるところですね。
千羽 そう! 転びそうになるんですよ。子供の時に見ていて鳥肌が立ちました。ぞくぞくぞくーっ、ときて、「これはなんだ!?」と思ったんですよ。“引っかかる”っていうのは、そういう事なのかな、って思うんですけど。今でも、仕事の上で、目パチを入れるのとそうでないのでは、もの凄い違いがあって、どっちにしようかしら、と思う時に、あの『トリトン』の“よろよろ”は思い出しますね。
結城 同じ羽根(章悦)さんのお仕事でも『マジンガーZ』だと、あの色気は感じられないじゃないですか。なぜだろうかと考えると、やっぱり、富野(由悠季)さんの絵描きに対する要求の高さが原因なのかな、と。
千羽 画から来るのか話から来るのか分からないんですけど、あのナマっぽさっていうのは、ホントに理想的な形ですよね。
結城 富野さんの作品っていうのは、そういう画的な部分から話の部分まで一体になっている感じがあるから。色々いびつな部分もあると思うんだけれど、トータルとして、凄く観られるものになってるんですよね。俺が「富野喜幸」って名前を明らかに意識したのは『ザンボット3』からだけど、遡って考えると、最初の好きな富野作品は『海のトリトン』だよね。
千羽 『トリトン』を観てると、「あっ、富野さん」って感じがしますよね。
―― 次は『タイガーマスク』ですか。
千羽 これは一昨年ぐらいかな。久しぶりに観て、驚いたんです。躍動感もすごいし、話もすごいし、観た事もない演出があるし(笑)。思いつく限り、やれる事はやっちゃおうよ、みたいな感じの迫力があるんですね。例えば、凄く長いカットがあるんですよ。
結城 はいはい。延々と回り込んでプロレスしてるのね。リングがぐるぐる回って。
千羽 レスラー2人も滅茶苦茶、力一杯に戦ってるんですよ。そんなにグルグルまわってるのに。
結城 ドロップキックをしたりね(笑)。
千羽 そうなんです。この原画、どうやって描いたんだろう、と思いましたよ(笑)。これはちょっと若い人にも観てほしい。
―― 常軌を逸した凄さがありますよね。
結城 うん、あるよね。
千羽 観てると、すっごい燃えますよ。話も面白かったし。手に汗握って観ちゃうんです。例えば、プロレスものをやれって言われて、ああいう風に原画が描けたら、私、大いばりって感じがしますよ。
一同
 (笑)。
結城 『タイガーマスク』だったら、やっぱり最終回がよかったよね。
―― やっぱりそうきますね。
結城 それから、3人のタイガーマスクと戦う話(77話「死闘のタッグ」、78話「猛虎激突」)と、赤き死の仮面(43話「地上最強の悪役」)かな。赤き死の仮面との試合で初めてタイガーが人殺しに近い事をするじゃない。一度は正義のレスラーになると誓ったのに、いざとなると虎の穴仕込みの反則を使ってしまう。あの話はショックだったな。
千羽 赤き死の仮面の話は、怖かったですよね。
結城 作画の話をすると、『タイガーマスク』のタッチって、あの時だけなんだよね。
―― 同時期や後の劇画タッチの作品とも、全然違いますよね。
千羽 そうなんですよね。違うんですよ。
結城 『タイガーマスク』の後、木村圭市郎さんもあのタッチ描かなくなったじゃないものね。あのラインを引っ張っていったのは、多分、窪(詔之)さんだろうと思うんだ。窪さんは、その後、海外との合作の方に行っちゃったけど、『タイガー』の感じを『サンダーキャッツ』とかに持っていったんだと思うんだよね。
―― 次は『ポリマー』ですね。
千羽 『ポリマー』は単に好きだという事ですね。子供の頃に観たきりなんですけど。
結城 タツノコプロ作品でどれか、と言うと『ポリマー』なんですか。
千羽 そうですね。なんででしょうね……。ギャグっぽいんだけど、リアルな画でやっていて、どういう気持ちで観ればいいのかとまどうんですけど、観ていると笑っちゃう。
―― 千羽さんは、子供の頃からアニメを「画」で観ていたんですか。
千羽 どうなんでしょう。お話で観たり、画で観たり。まあ、小学4、5年生あたりからは、姉の影響もあって、「今日は作監が誰だ」という感じで観てましたけど(笑)。
結城 お姉さん?
千羽 姉が6つ上なんですけど、安彦さんが凄く好きで。彼女がTVを観ていて「あ、やっぱり今日は安彦さんが作監だから、画がいいよね」って言うんです。それで「ああ、なるほどね」と思っていたんです。小学校の頃から、マニアの子供だったんですよ(笑)。
結城 ああ、そうやって仕込まれたんですね
千羽 仕込まれたんです(笑)。

次回「第9回 結城信輝・千羽由利子対談(2)」に続く

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