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 第9回 結城信輝・千羽由利子対談(2)

── じゃあ『ガンダム』の本放送もリアルタイムでご覧になったんですか。
千羽 私が住んでいるところで『ガンダム』が放映されたのが、本放映の2年後だったんですよ。だから、アニメ雑誌を読みながら、観たくて観たくて仕方なかったんですよね。でも、『ガンダム』も『イデオン』も、雑誌で見ているだけで他の作品と全然違うという感じがありましたよね。画も好きですけど、全体にそういう感じも好きですね。
結城 『イデオン』が打ち切りになった時は、凄く裏切られた気持ちだったなあ。TVの前で「えええっ!」って思ったもの。
千羽 住んでいたところでの放映は、『イデオン』もきっちり2年後でしたから。
結城 ああ、それじゃ、本放送を観ていた僕達の衝撃は分からないなあ(笑)。
―― 最近で言うと『エヴァンゲリオン』を本放送で観た人と、人気が出てからビデオで観た人くらいの差があるかもしれませんね(笑)。
結城 ははは(笑)。だから、劇場版で『イデオン』が補完されて、凄く嬉しかったね。ただ、見方が凄く難しいんだよね。劇場版だけで成り立たないじゃない。TVの何話目からシフトすればいいのかっていうのが、微妙な作品だよね。
千羽 好きならついていくしかないんじゃないですか。
結城 でもさ、TVを全話観ろとは言えないじゃない。『ガンダム』なら劇場版3本観ても、TV全話を観ても、どちらでも楽しめるけれど、『イデオン』はどちらかだけでは楽しめない(笑)。
千羽 『イデオン』を観るには、TVのあの長さが必要ですよね。
結城 そうそう。『発動編』に行くまでには、何人かが、あの長い話の中で死んで区切りがついていかないと。
―― 劇場版で死ぬところだけ見せられても困る。
千羽&結城 そうそう(笑)。
結城 だからやっぱり、ギジェが死ぬところ、もしくはもうちょっと先まではTVを見続けて、それから『発動編』にいかないと、キツイかなあ。  湖川さんも安彦さんとはテイストの違うアニメーターだけど、自分の動きで画面をコントロールしていくっていう意味では、結構似たようなやり方をしてるよね。劇場版『イデオン』は、ラフ原を描いて、それをビーボォの人達が原画にしてるっていう感じでしょ。だから、キャラクター達の芝居のタイミングがほとんど全部、湖川さんのタイミングで。『発動編』の人が死んでいくところなんかの、そっけない感じなんか、非常に巧いよね。
千羽 湖川さんの作画って、『イデオン』の大事なテイストですよね。
結城 キャラクターが死ぬところなんか、凄くあっさりしてるじゃない。カララが死ぬところでさえね。きっと富野さんもあっさりを求めているんだろうし、それに対して湖川さんもあっさりと作画している。僕なんか、自分が入れ込んでやっちゃう方だから、キャラクターの死ぬところなんか、入れ込みすぎてクドくなりそうなんだよね。「このキャラが死ぬカットなんだから、最高の動きで、最高の作画で」みたいなね。でも、『発動編』って、他のカットと同じくらいあっさり殺すんだよ。あのドライな感覚がいいね。
千羽 そうですね。全部が同じ方向を目指して、大成功みたいな感じですよね。
結城 「アニメスタイル」としては、『イデオン』はTVの何話まで観てから劇場版へステップすべきか、そのお勧めを作らなきゃダメだよ。
―― 分かりました、作りましょう(笑)。……で、『クラッシャージョウ』『ゴーグ』『アリオン』『ヴイナス戦記』ですが、理由はさっき言ったとおりですね。
千羽 単なる信者なんで、観ると幸せです(笑)。個人的には、安彦さんいの画が「動いてるよー」っていう楽しさは、『クラッシャージョウ』ですね。小説で読んでた『クラッシャージョウ』が動いてるよ、って単純に喜んでました。
―― なるほど。『海がきこえる』はどうして?
千羽 これは、アニメとして引っかからないところがいいんですよね。「ちゃんとやってある」という事がいやらしくない。
―― なるほど、これもプロのアニメーターとしての感想ですね。
千羽 そうですね。近藤勝也さんの画が凄く好きだった事もあるんですけど、リアルだし、見やすいし、すっきりしているし。学園ものをやるんだったら、こんな感じにしたいって思いますね。『ToHeart』をやっている時に、何回か元気づけに見返しました。
―― 先ほど挙げられたのと同じ「やる気の出る作品」シリーズの1本なんですか。
千羽 そうですね。観ていると、「作画がいい!」って特別思わないくらいに、ずーっとちゃんとやってある。
結城 それは、宮崎さんとその周囲の作品の伝統だろうね。もう作画さえも意識させない(笑)。
千羽 『海がきこえる』って、すごく気持ちよく観られて、参考にもなって、ああこういう風にアニメでドラマが作れたらいいなあっていう感じですね。演助をされていた村田(和也)さんからお話を伺ったんですけど、近藤さんに言われて、モデルをやらされたらしいんですよ、こういうポーズをとってくれ、って。そういう自然なクロッキーの感じがあるな、って思うんです。ドラマをやるときに、やっている事が引っかからないというのは、凄い事ですよね。不特定多数の人に観ていただこうとする時に、いかに現実に戻らずに観てもらえるかって事を考えると、話の邪魔をしない作画が大事なんですね。そうなると、ちょっとでも崩れてはいけない。話の邪魔をしない、観る人の気持ちを絶対よそにやらない作画っていうのは、凄い作画ですよね。私も、いつかできるようになれば、と。
結城 なるほど。
―― 『0083』は?
千羽 川元(利浩)さんの画が大好きなんですよ。ディズニーのキャラクターって、止まったものもいいんですけど、動いた時に生き生きともの凄く魅力的な表情をしてますよね。『0083』の川元さんの画を観て、それと同じ感じを受けたんですよ。キャラクター表を見てる時と、動いてるのを見た時で、深さが違ってくる。ゾクッとするような表情を見せますよね。川元さんの事は、それまで何も知らずに見て、凄くびっくりしたんですよね。今でも見返すとため息が出ます。
―― 『THE COCKPIT』で挙げられたのも川元さんの回ですか。
千羽 そうですね。あれも、「ここでこの表情」とか、「ここでこの動き」とかが、私には凄くハマるんですよね。「ここでコレがないとダメだ!」みたいな感じがバッチリしていて。もう、ハチマキのなびきですら、「ここでなびいてるのがイイ!」みたいななびき方をするんですよ。
結城 川元さんって、アニメーターの技量がもの凄いんだよね。実は結構、原画の画は堅いんだよ。でも、それが凄くよく動く。例えば、佐野さんなんかが代表的だけど、原画が凄く柔らかい線で描いてあって、「動くときれいなんだろうなあ」って、原画の時点で思わせる画もあるんだけど、川元さんの原画はそうではないのね。でも、それが画面になるとすごくきれいに動くんだ。劇場版『ESCAFLOWNE』の時に、そう思った。タイミングのメリハリなんかが凄くきれいで、アニメーターとしてはピカイチだな、と。  「アニメスタイル」の2号でも話したんだけど、『ESCAFLOWNE』の時に、川元さんが「今回はどういう風にしたいわけ?」ってキャラ表を見ながら訊いてきたんだよ。その時は「キャラ表に描いてあるとおりなんだけど」としか答えられなくてね(苦笑)。川元さんの中でもしっくりこなかったのか、レイアウトを上げてもらった時点で、何か違う感じがあって。それでアニメっぽくない感じ、割りとドライな感じで描いてください、と修正指示を書いて戻したら、あとはもうスパッとそういう感じで上がってきた。最初に情報を読み込むレベルが高いんだね、きっと。
千羽 はあ(溜息)。素晴らしい。
―― 『ベルセルク』の10話。これは馬越嘉彦さんが作監の回ですか。
千羽 そうです、そうです。馬越さんがまた、凄く巧いんですよー。お話もよくできているんですけど、画がとにかくいい。馬越さんの上げてこられた修正を現場で見て、「ああっ、こうきたのかー。負けられん!」みたいな訳の分からない事を言ってました(照笑)。馬越さんの才能っていまだに底が知れない感じがありますよね。監督の高橋ナオヒトさんは、レイアウトやタイミングに厳しい方で、私なんかいつも「なんか違うんだよなあ、捉え方が違うんだよなあ」って言われてしまうんです。でも、馬越さんの時は、チェックしながら「巧いな。そうだよな。こうだよな。こういうカットはこうするって思うでしょ、そうだよね」って、独り言を。
結城 ハハハハッ。
千羽 「そう、こういう風に動かしてほしかったんだよ。タイミングはこうなんだよ」って言ってる高橋さんを初めて見ました。馬越さんは仕事も早いし、求められるものをバシッてやってこられるんですよね。こうなりたいと思う方はたくさんいるんですけど、中でもガツンときた方ですね。現場で見ても凄いし、画面を見ても凄い。馬越さんみたいな方をプロだとすると、私なんかはプロとはとても言えないです。馬越さんの回は、楽しく観られるけど、自分の回は観られないのではイカン、と思って努力したんですけど、結局一度もかないませんでした(苦笑)。最近では「かなうわけがない」と思っていて(苦笑)。
結城 いやいや。
千羽 『ベルセルク』のキャラ表も凄く巧かったし、『おジャ魔女どれみ』と『STREET FIGHTER ZERO(THE ANIMATION)』を同時にやってらっしゃったのを見て、「もう凄い、馬越さん。なに、なんなのよーっ!」て感じだったし。私が最初に馬越さんの名前を知ったのは『ママレ〜ド・ボ〜イ』なんです。少女マンガの画を非常に巧く描かれていて。それが、まさかああいう線でああいう風に描いてる人とは思わなかったんです。
―― 仕上がった画はシャープなのに、原画は大ベテランみたいな、ざっくりとした線なんですよね。
結城 『ご近所物語』も馬越さんだったよね。巧かったよねえ、あれ。
千羽 ああいうのをいとも簡単に描いているようにしか思えないんですよね。ご本人のインタビュー記事を読んだら、少女マンガなんか読んだ事もない、描けるわけないと思って描いたらしいんですね。もう、すみません、本当に(照笑)。
―― いや、なにも謝らなくても(笑)。
千羽 高橋さんに「やっぱり馬越さんは巧いよなー」って、さんざん聞かされたものですから、……どうもすみません。
結城 (苦笑)やっぱり元々画が巧い人は、何描いても巧いよね。
―― 『Gガンダム』は先ほど言ったとおりとして、次からは洋モノが続きますね。
千羽 『ターザン』はもの凄く好きなんですよ。自分の机の上でDVDを流しっぱなしにしながら仕事しているんです。かっこいいし、巧いし、面白いし。あれを観ると、「あたしも、こういう風に作れる……ハズの立場にいるんだぞ」っていう気持ちに……(苦笑)。
結城 ははは(笑)。
千羽 『ターザン』って、タイミングなんかは、日本のアニメーションっぽい感じですよね。
結城 明らかにね。完璧に逆輸入だよね。
千羽 ターザンがすごくいい男にみえるし(笑)。とにかく、あれを観ていると頑張らなくっちゃーってやる気がわくんです。『アイアン・ジャイアント』もやる気がわくんですが、どちらかというと、お話が外国の「勇者シリーズ」みたいでいいんですよね。
結城 『アイアン・ジャイアント』は話がよかったよねえ。
千羽 私は最初、英語版のビデオを観る機会があって、セリフが分からなかったんですけど、泣いちゃいましたよ。
結城 僕も、どうしてもあれを観たくてね。都心では全然やってなかったから、市川妙典まで足を運んだのね。あれは泣いたねー。また、日本のお家芸でこんな事やられてどうすんだよ、という気もしたし。ロボットと少年なんて日本のお家芸でしょ。
千羽 技術的にも全然嫌らしくないですしね。
―― で、『ビバップ』ですか。
千羽 これも流しっぱなしの作品です(笑)。観ていると勢いがつくんです。特にTVの1話が。
結城 1話作り込んでたもんねえ。
千羽 あれをずーっと眺めていて、その後で原画描くと、なんて事ないところなのに、凄く凝っちゃいそうになるんですよ。
結城 あれは、『天空の エスカフローネ』が終わった後だったんだけど、プロデューサーの南(雅彦)さんが、嬉々としてラッシュビデオを見せてくれるんだよね。だから、こちらとしては、「画がいいのは分かったよ、もうっ」みたいな気分になっちゃった(笑)。
千羽 あれも、キャラ表観た時と動いた時とでは深さが違いますよね。体温を感じさせると言うか。
結城 うん。川元さんてさ、影のつけ方が巧いんだよね。
千羽 そうですね。
結城 影を入れる事によって、凄く厚みが出てくる。語弊がある言い方かもしれないけれど、例えば、I.Gの沖浦(啓之)君は、立体をざっくり捉えて、影をつけていくじゃない。でも、川元さんは独特のラインでつけていって、そうすると厚みが出るんだよね。 ―― 川元さん自身は、超リアルにもいけるんだろうけど、そこには行かないんですよね。
結城 そうそう、行かないんだよね。
千羽 入りやすくて、見やすくて、ハマりやすいですよね。
結城 そうだね。
千羽 実は、劇場『ESCAFLOWNE』の動画は、O.L.M.もやってたんですよ。
結城 あっそうですか(苦笑)。
千羽 ちょうど、動画マンが川元さんの原画を動画にしていて、「どうでしょう」って私のところに持ってきたんです。で、「うん、そうね……。原画をトレスし直してね(ニコッ)」って。
結城 ははは。
千羽 私がちょっとだけトレスを直して、「ほら、こんな風に見えない?」って。
結城 そんなところで助けられていたとは(苦笑)。
千羽 だって、私、『ESCAFLOWNE』の動画の仕事が入るって聞いた時には、「あたしに動画やらせて」って言ったぐらいです。
結城 そんなの受けるぐらいだったら、原画やってくれー(笑)。
―― と言う事は、今でも動画やりたい願望はあるんですか?
千羽 動画自体は、実は苦手なんですよ。でも、目の前にそういうカットがあって、ああいう風になるのか、と思うと、「あたしがやる!」って思うんです。……やりませんけど(笑)。
結城 確かに動画を見ていてじれったく思う事はあるよね。もうちょっと線を拾ってくれよ、って。
―― さっきの話に戻りますけど、その点、千羽さんの『ToHeart』はまるで版権イラストが動いているようでしたよね。特に、女の子がちょっと斜めを向いた時の頬のラインが良かった。
結城 そうそう。
千羽 ああ、ありがとうございます。それはでも、みなさんの努力だと思います。
結城 総作監だと、普通見るのは顔だけだよね。でも、『ToHeart』って、顔とか体とか、全部修正が入っているじゃないですか。服のしわから何から。
千羽 あ、制服は好きです。あれは「一度ぐらいはこういう事をしてみたい」シリーズのひとつだったんです。制服のスカートのひだって、こうじゃんかー、って。
結城 制服のスカートのひだって描ける人、ほとんどいないんだよねえ。女の人って、そういうのって気になるでしょう?
千羽 気になりますね。だから、「一度ぐらいはしてみたい」って事のひとつだったんです。他にも、実際にはなかったんですけど、体操服に着替えるシーンがあったら、実際の女子高生がやるような、それなりに隠しながら、上手く着替えるっていうのをやってみたいんですよ。
―― なるほど。で、『マイトガイン』は先ほども話題になりましたがメカの方ですか?
千羽 キャラもメカもですね。石田(敦子)さんの画が凄く好きだったんですよ。初めて作監をされたのが『(伝説の勇者)ダ・ガーン』だったんですけど、あれは衝撃的でした! だから、『マイトガイン』はメチャメチャ楽しみにしていて。もう単なるファンでしたね。「今日の作監は久行(宏和)さんだよ、楽しみだなー」って。『マイトガイン』は、昔の「今日は誰々の作監だよ」っていう感じが、久しぶりに楽しめたんです。「ああ、この人はこうきたか。私も負けないぞーっ」って。全然番組には関わっていないんですけど。観ると、楽しく次の仕事ができる作品でした。
結城 観る事によって、すごくプラスの影響を受ける方なんですね。
千羽 そうですね。
結城 プラス思考っていうか。
千羽 なるべくプラス思考にしようとは思ってます。この前もへこんでいる時に、ここに上げている作品を見て、やっぱりガンバローって。
結城 うーん。観るとへこむ事の方が、俺は多いなあ。『ビバップ』にしろ『パト2』にしろ、自分がどんよりしている時に見せられても、「できがいいよ、わかったよ」みたいな感じでね(苦笑)。
―― まあまあ。次が『キングゲイナー』のOPですね。
千羽 ちゃんと踊ってますよねー。それに手を前に出すところなんて、もう、巧くタイミングがずれていて、動き自体も巧い。
結城 もう、描き方がすでにTVのやり方じゃないよね。
千羽 そうですね。ゲイナー君とサラがのびをする時に、ゲイナー君は多分体が固いから、かかとが上がっているけど、サラは上がっていないんですね。なんか、そういうちょっとしたところが素晴らしいですね。例えば1枚原画を入れるとか、そんな事をちょっと考えてみるとか、そういうところが、凄く楽しみになっているんだろうな、って思わせてくれるんです。もしかしたら私もこういう事ができるはずなんだ、ガンバローって。
結城 『キングゲイナー』は本編も凄いよね。ただ、俺は、アニメの業界の現状に対して、千羽さんほどプラス思考はできないんで、色々考えちゃう。要はそういうものに応えてくれる人材がいるから要求できるわけであって。要求だけだったらしたい演出は山ほどいるはずなのよ。ただ、例えば富野さんは、『ザンボット3』がヘナチョコな作画だったのに(苦笑)、あれだけ人の心をつかめるわけでしょう。そうすると、果たして作品にそこまで要求する必要があるのかなあ、って。
千羽 何も1話で街の人をあれほど動かさなくても、ですか?
結城 そうそう(苦笑)。まあ、動かないよりは動いた方がいいんだけど、でも、動いたからと言って、それを評価するのは、どうなんだろうか。動かしたアニメーターはもちろん偉い。でも、動いているから作品としていいかって言ったら、それは別だよね。もちろん動くことはアニメの楽しみのひとつではあるんだけど……。
千羽 うーん。
―― さて、番外で上がっている『ガラスの仮面』ですが……。
結城 これはオープニングだよね。
千羽 いえ、あのー。
結城 あ、アニメ版じゃないの?
千羽 アニメでもドラマでもマンガでもいいんです。『ポケモン』をやってらっしゃる一石(小百合)さんとも時々話してるんですけど、新人アニメーターさんは、『ガラスの仮面』を一回見るといいかもしれない、って思うんですよ。マヤが演技について学ぶエピソードが色々あるじゃないですか。あれは、アニメでもそうかもしれない、って思う事があるんですね。  『ToHeart』は特に日常描写が多くて、単に座るとか立つとかいう演技でも、立っているのと座っているのの2枚しか原画を描いてこない人と、中に1枚何か入れて、芝居を入れる人とがいますよね。そういう時、「あなたは、この立つという事について、何か考えなかったの?」っていう風によく、新人の子には言ってたんで……。単に座ればいいっていうカットもあるし、座り方に芝居が必要な場合もあるし。「あなた、せっかくこの場面をもらったんだから、ちょっと考えたり、自分で、座る芝居はこうなるのかって、実際にやってみたらどうかな。そうすると、原画って楽しいんだよ」って。『ガラスの仮面』ってひとつの演技をするのに滅茶苦茶考えるじゃないですか。
結城 ははは(笑)。
千羽 走るカットをやるんだったら、最初のうちはちょっと外走ってみるのも、楽しいんじゃないの、って。そんな事を一石さんと話していたんです、アニメーターは『ガラスの仮面』を読むべきだ、って。まあ、別に水の気持ちにまでならなくてもいいんですけど(笑)。
結城 やっぱり、なんにも考えないで描く人と、考えて描いてる人の差が激しいよね。一所懸命やってる人ってさ、熱意があるじゃない。始めたばっかりで技量が追いついてないとしても、なんとかこうしたいみたいな意志って伝わってくるからね。そういう人って、ここはこういう風に描いたらいんじゃないのって、そういうキャッチボールはできるんだよね。でも、そうじゃない人とは、言語が違うのかな、って思う事がある。
千羽 原画を2枚しか描いてこない人に、「なんで2枚しか描いてこないの」って話をすると、「それ以上描け、という事なんだ」と受け取られて、それ以上話にならないんですよね。
結城 「仕事が他になんにもなくて、やる事がないからアニメーターになったんじゃないでしょ、あなたは」って言いたいよね。
千羽 技術はなくても、愛情って注げるでしょ、って。あたしなんか、技術がなくて愛情だけで仕事してるのに(苦笑)。
結城 いやいや。
千羽 『めぞん一刻』で、高橋さんが動画マンの面倒を見られていた時期があるんですよ。その時に、一度、「こういう風にトレスされると、この布のしわは意味がなくなっちゃうんだ」って言われたんです。それで「ある意味、しわの気持ちに、布の気持ちになってトレスして」って。新人だったので、どうしたら布の気持ちになれるのかしらって、真剣に悩みましたね。
結城 ははは! まさに「ガラスの仮面」なんだ(笑)。

次回「第10回 結城信輝・千羽由利子対談(3)」に続く

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