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ブックレビュー
東池袋アニメ積読録[特別編]
 このアニメブックがすごい!2005  
 藤津亮太×小川びい

 今回はいつもとは趣向を変えて、アニメ評論家・藤津亮太さんとの対談形式でお送りします。2004年に発行されたアニメ関連書は200冊以上。これだけ多いとどの本を読んでいいのか、迷う読者も多いのではないでしょうか。というわけで、読むべき・読んでほしいアニメ本を「東池袋積読録」がセレクト致しましょう。名づけて「このアニメブックがすごい! 2005」。有名タイトルまんまじゃないか、という点はご寛恕ください。あわせて昨年のアニメブック全体も振り返ってしまいましょう。


小川 今回は「アニメージュ」で書評欄を担当していらっしゃる藤津亮太さんの仕事場へお邪魔して、今年(2004年)のアニメ関連書界を振り返りつつ、ベストアニメ本を選んでみたいと思います。藤津さんは、アニメ評論家として昨年「アニメ評論家宣言」(扶桑社)という単著も出されていますし、アニメムックの編集もなさっているという事で、著者、編集者として立場からの話もうかがえるのではないかと。
藤津 (目の前に積んである本を見ながら)ざっと仕事場にある本を集めてみたんですけど、思っていたよりもいっぱいありますね。
小川 そうですね。僕もそんなにはないような気がしてたんですが。
藤津 「アニメージュ」の書評欄も編集部的にしばりはあまりはないんだけど、最近はアニメムックって見つけづらいじゃないですか。だから、積極的にアニメムックは紹介していきたいと思ってるんですよ。それで色々買っているうちに、こんなに……。
小川 僕もいつも作っているリストを今回の対談の資料としてまとめてみたら、あまりの多さにめまいがしました(笑)。さて、どう進めていこうかと悩んだんですが、とりあえず、お互いがベスト3を選んで、そこから話を始めて行ければな、と。まず、僕の方から今年のベスト3を挙げてみたいと思います。


●小川びいの2004年ベスト3

1位 別冊映画秘宝Vol.3 とり・みきの映画吹替王[とり・みき](洋泉社)
2位 あの旗を撃て! 『アニメージュ』血風録[尾形英夫](オークラ出版)
3位 藤子・F・不二雄☆ワンダーランド ぼくドラえもん(小学館)



小川 1位は……いきなり反則技なんですけど(苦笑)、「とり・みきの映画吹替王」(洋泉社)。これがアニメムックなのか、とお叱りを受けるの覚悟で上げさせていただきます。ほら、今年(2004年)目立った傾向として、単著が多かったじゃないですか。
藤津 津堅信之さんの「日本アニメーションの力」(NTT出版)とか、山口康男さんの「日本のアニメ全史」(テン・ブックス)とかですね。
小川 あと、ササキバラ・ゴウさんの2冊(「それがVガンダムだ」銀河出版「『美少女』の現代史」講談社現代新書)とか。そういった研究書や読み物の中で、やはり、とり・みきさんのこの本が図抜けていたと思うんですね。まず研究としてしっかりしていて、そのうえで、読み物としても充実している。同じ声優ライターとして勉強させていただいたし、歴史に残る大著だと思います。ポイントは、声優の本というと、大抵は声優の写真を使うんだけど、この本はそれが1枚もないんですね。
藤津 全部、とりさんのイラストですよね。
小川 ええ。そういうところもユニークなんですよ。それから、もちろんインタビューもいいんですけど、読みどころは注釈とコラムなんですよ。これは本当に凄い。一家に一冊持っておくべき本だと思います(笑)。
藤津 実際は、アニメの話も意外に入ってますよね。阪脩さんの取材は『S.A.C.(攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX)』の座談企画をやった翌日だったらしいんです。そのせいか、「荒巻に惚れ込んでいる」なんてエピソードもしっかりでてくる。
小川 ああ、それでなんだ(笑)。続いて2位は尾形英夫さんの「あの旗を撃て!」(オークラ出版)。これは、「アニメージュ」創刊を中心に書かれた、半自伝ですね。副題に「アニメージュ血風録」とあるんだけど、「本の雑誌血風録」に続き、雑誌の創刊話というのは必ず「血風録」とつかなければいけないという伝統があるのか!?
藤津 「マモルマニア」(井上伸一郎、トイズプレス)も本当は「ニュータイプ血風録」とつけるべきだったのかも(笑)。
小川 アニメ編集者・ライターのマニアとしては、出版されただけでも嬉しいんですが、中身もとにかく面白いんですね。
藤津 僕も読者としては「アニメージュ」派だったので、非常に面白かった。鈴木(敏夫)さんサイドから語られている話は、「BEST OF Animage」(徳間書店)のインタビューがあったんですが、それとの内容と比べても、尾形さんの視点になってもあんまり(内容が)ブレていない。回想録って読む側とすると、書き手の主観がどれぐらい交じっているか値踏みをしながら読んだりしますけど、その点でも信用がおける感じがしますね。それに、尾形さんがメモとっていて、いろんなエピソードにちゃんと日付が入っているのが凄い。しかも、尾形さんと一緒に「アニメの青春期」をともにすごした人たちがコメントを寄せているじゃないですか。ファンじゃなくて、大人としてアニメに関わった人たちの、一種の共犯意識(笑)が感じられて、そこもよかった。
小川 当時のアニメブームの話は、もう少し語られてもいいんじゃないか、と思いますね。僕自身、アニメブームについては今、非常に関心を持っているので、その意味でも推薦したい。1位が僕の声優への関心の現れとすると、2位は僕の歴史としてのアニメブームへの関心の反映ですね。で、3位なんですが、「ぼくドラえもん」(小学館)です。
藤津 大人気ですよね。
小川 今年(2004年)は、アニメ・マンガ・特撮関連の、いわゆる「パートワーク」が大量に出るようになった年なんですが、それを象徴するものとして選びました。マンガの話題が多いんですけども、アニメに関しても色々とフォローされているんですよ。例えば、しずかちゃん特集のときの、久米明インタビューなんか、明らかに『のび太の結婚前夜』の話がしたいためにやっているわけ(笑)。一般向けとして抑制がききつつ、マニアックな本にもなっている。
藤津 お宝DVDもついてますし。
小川 ええ。特に米たに(ヨシトモ)さんの作品は、以前とあるファンイベントで観て仰天して、なんとか手に入れたいと思っていたものなので嬉しかった。これは、ドラえもん自体を「メカ」として捉えていて、ユニークな短編なんですよ。
 あと、この本を挙げたのは個人的な事情もあって。実は今年(2004年)、講談社から出た「仮面ライダー」のパートワークのお手伝いをしたんですよ。軽い気持ちで参加したんですが、これが毎日放送のプロデューサー特集とか、バイクスタントマン特集とかあまりにマニアックな内容で(笑)。特撮ムックというのはここまでやらねばならないのか、と打ちのめされました。
藤津 それと比べると、確かに「GUNDAM HISTORICA」(講談社)は、『SEED』で『ガンダム』に入った中学生がターゲットだったせいもあって、ずいぶんと牧歌的かも。
小川 うん、だから、アニメでもそういう本が出ればいいな、という希望もこめて「ぼくドラえもん」を3位にしました。という事で、僕の方は終わりです。
藤津 選んでいるときは小川さんと被ったらどうしようかと思っていたんですが、全然被りませんでしたね(笑)。僕はベスト3というよりは、ジャンルごとにベストを選んでみたんですよ。ひとつは単著、研究・評論なども含めて一人の人が自分の視点で書いた本。もうひとつはムック――アニメの作品に関連するサブテキスト的な本。最後が、制作資料の本。
小川 作品で使われた設定とか画稿とかそういったものですね。
藤津 そうです。



●藤津亮太の2004年ベスト3

・アニメーションの宝箱[五味洋子](ふゅーじょんぷろだくと)
・マリア様がみてる プレミアムブック(集英社文庫)
・2501 イノセンス絵コンテ集(徳間書店)



藤津 で、単著はブッチギリで、五味洋子「アニメーションの宝箱」(ふゅーじょんぷろだくと)。次点でササキバラさんの「それがVガンダムだ」も考えたんだけど、残念ながら競りはしないんですね。ササキバラさんの本も『Vガンダム』で、ここまで徹底的に語った本は空前絶後なので、入れたい気持ちはあったんですが。
小川 ここまでと言うか、『Vガンダム』って、これまで実質2冊しか本が出てないから、そもそも語られた事がない(笑)。
藤津 だから『Vガンダム』については僕も言いたい事がいっぱい残っている(苦笑)……まあ、それはおいておいて。五味さんの本は、古今の、しかもアートから商業アニメまで幅広く解説したうえで、評論的な一言も入っているんですね。読んで面白いし、勉強にもなる。初心者なら、ここに挙がっている作品をはじからつぶして見た方がいい、と思うくらい。そういう意味では、すごく面白い教科書。
小川 とにかくスタンダードという感じですよね。
藤津 でも、これだけの範囲でスタンダードを挙げられるって、実はかなり大変な事だと思うんです。それだけでも著者の凄さが感じられる。著者の視点をみんなで共有する事で、みんなが少し賢くなれると思うんですね。
小川 本の作りに関してはどうですか。
藤津 全部の図版が入っているのは素晴らしいと思いましたね。図版を入れるのは、お金も含めた権利の問題もあって手間が多いので。しかも、そのおかげで、作品のイメージがつかみやすくなって、文章を下から支えていますよね。このあたりは編集の覚悟の勝利という気がします。
 次は、アニメムックなんですが、これは迷いましたけど、そのフォーマットが魅力だったので「マリア様がみてる プレミアムブック」(集英社コバルト文庫)。今、アニメムックって、A4とかの大判では難しいんじゃないかという気がしてるんですよ。その中で、この本は、コバルト文庫と同じ体裁でアニメ版の内容を紹介している。コンパクトな中に、全話ストーリーがあり、キャラの設定もあり、かつキャラクターの学年ごとに声優座談会という凝った企画も入れて、なおかつマンガと小説の書き下ろしまである。ここまであるのに惜しむらくはスタッフのコメントがない事なんですが……。誰に何を届けるかという点からすると、この判型、552円+税という価格で出すというのは、すごく正しいやり方だなあと思ったんですね。「ふたごのプラネテス」(講談社)もコミックスと同じサイズで出るし、原作に近い形でアニメムックを作るというのは、ここ最近の新しいスタイルだと思うんです。しかも単に新しいだけじゃなくて、読者の望んでいる手頃感みたいなものとマッチしているんじゃないか、と。逆に言うとA5サイズのアニメムックですら今は、作りづらくなってる。1冊1500円で128ページとなると、それは読者にとってはかなりハードルが高いよなあ、と思ったり。そういう値段設定って、おそらく初刷りは1万部前後。DVDソフトが1万枚超えればヒットみたいな話もあるから、DVDが当たり前に買えるようになった事によって、アニメムックそのもののアイデンティティが揺らいでいるでしょうね。
小川 そこ、分からない人もいると思うので、もう少し説明してくださいよ。
藤津 簡単に言えば、昔アニメムックというのは、映像を記録する、再生メディアだった。だからフィルムストーリーってすごく重要だったんですね。プラス、制作資料とインタビューで構成するというのが基本だったんですよね。ところが、映像ソフトがどんどん買えるようになって、特に今のTVアニメなんか、放送は連載版で、DVDは単行本みたいな感じで出てるでしょう(笑)。そうなると、ソフトそのものを買えば、ファンの欲求の大半は満足してしまうわけですね。そうしたときにどういうムックを作るべきか。その課題に、この「プレミアムブック」は応えている感じがしたんですね。
小川 そうですね。資料も意外に充実していて、美術ボードまで載っているし。
藤津 最後は「一次資料をどうやって本にするか」なんだけど、これは「2501 イノセンス絵コンテ集」(徳間書店)を。宮崎(駿)さんの絵コンテって、アニメの絵コンテにしては異常に描き込まれていて、マンガみたいに読める特殊なコンテなわけですよね。だからこそ出版可能なわけ。ところが、押井さんのコンテはそれだけで出版しても面白くない。そのときに、欄外のほとんどに、注釈と、オーディオコメンタリーみたいに押井さんが細かくコメントをつけている。そうする事で読み応えもあるし、押井さんの絵コンテに対する考え方、演出に対する考え方がわかる本になっている。逆に言えば、絵コンテ集を出版するときに、他の人の作品でもこういうやり方はできるだろうと思うんですね。
小川 ああ、そうですね。
藤津 あるいは欄外に設定資料といった情報をどんどん入れていってもいいわけですよね。これを読むと、コンテを軸にしたムックという編集方針も可能かな、という気がしたんですよ。「スチームボーイ絵コンテ集」(講談社)もいい本だし、大友(克洋)さんの絵も見応えあるんですけど、あそこまで重厚にしちゃうと、美術書になってしまう。そのあたりは大友さんだからこそ可能になる出版企画であって、今後ああいうフォーマットで次々と出せるかと考えると……。
小川 応用が利かない?
藤津 うん。そういう事が気になるんだよね。フォーマットの発明というか。さっきの「プレミアムブック」も応用が利くでしょう。だからこの2冊は、ムック編集者的な目線で選んでしまったかもしれない。
 あとは次点で、完全に制作資料とは言い難いけど、「COWBOY BEBOP Illustrations」(ソフトバンクパブリッシング)を。これは密度の高い丁寧な本でした。ソフトバンクでは「名倉靖博の世界」もそうだったけど……。
小川 2004年はソフトバンクさんが気合いの入ったムックをいくつも出しましたよね。

●2004年のアニメ関連書を振り返る

小川 ところで、「プレミアムブック」なんですけど、もちろん文庫サイズのムックが今までなかったわけではないんですけど……。
藤津 杉山卓さんのやつとか?
小川 ああ、そうですね(笑)。ここ最近でもハヤカワ文庫で出た『星界の紋章』の本とかね。そういうものと比べてもインパクトが確かにあったんですよね。必要な情報って、この量、この値段にまとめちゃえるんだ、という。一方で、寂しいところもあって。文庫に混じって売られていたんで……。
藤津 アニメムックにだけ網をはっていると、買い逃しそうだよよね。
小川 実際に買い逃しかけました(笑)。アニメムックをアニメムックが欲しい人に向けて売る時代じゃないんだな、って、ちょっと寂しかった。さっきA5判の本はどうか、という話がありましたけど、たしかに書店でA5判のムックを置く棚がないんですよね。
藤津 あと、デジタル化が進んで、A5サイズでも(図版が)伸ばせない事がある。場合によっては、ジャギーが目立つ図版が載っちゃう事も(苦笑)。
小川 ああ、そういう本もありましたね。しかも最近は公開とムックの発売時期がすごく接近してるから大変。
藤津 映画の宣伝の一環として出版物が出るという要素が強くなってますよね。
小川 「ガンダムSEED DESTINY 公式最速ガイド」(角川書店)みたいに始まる前に出るとか(笑)。
藤津 その一方で、バンダイビジュアルが「EMOTION PLUS」というレーベルで、制作資料を全部まとめますよー、みたいな本を高額で出す。『S.A.C.』なんて4冊も出るわけですよ、128ページ、4000円というボリュームでですよ。そうすると、アニメムックでやる事がほとんど残されていないですよね。出版の展開が細くなった分、その周辺がふくらんでいるのかもしれない。
 あと似たような話題になるけれど、アニメムックが作りにくいもうひとつの理由は、DVDに色々特典が入るようになった。そうやって周りが充実したから、出版という真ん中が大変になったのか、真ん中が大変になったから充実するようになったのかは分からないんですけど。
小川 DVDBOXのブックレットには、一級品の研究資料と最新の成果が載っていて、「本にしてよ。3000円越えても買うから」って思うようなものも多いんですよね。出版物ってアーカイブがそれなり整備されているんだけど、こうしたブックレットの場合は、なかなかアーカイブに入らないので、成果が後世に残りにくい。さっき言った「仮面ライダー」のパートワークの話ともからむんですけど、研究の成果がリセットされやすいという、アニメ界の弱点にもつながっているのかな、と。
藤津 それは特撮の方が、企画が煮詰まっているという事では?(笑)
小川 うーん、たしかに特撮の場合は、スタンダードとなる作品が決まっているところがあるから、それを深めていく方向の展開もしやすいのかもしれない。でも、これは悪口では決してないんだけど、例えば『ガンダム』なんかは深められるはずなのに、いつまでもそちらの方にはいかないでしょう? 深まるのは、宇宙世紀の年表を埋める作業とか、メカニックの型番とかで、制作の全体像に迫るような本はなかなか出てこない。読み手も書き手も、そういう方向には関心が向かないんですよね。
藤津 「ガンダム者」(講談社)は、かなりやったんじゃないですか。
小川 そう、普通の週刊誌的な手法でも、あそこまでできるのに。『ガンダム』と言えば、先ほどササキバラさんの「それがVガンダムだ」を結構評価してらっしゃいましたよね。ちょっと意外だったんですが。
藤津 わかりやすく言えば、ササキバラさんの「顔」がすごく見えてたからですね。単著だから、その点は大きい。
小川 出たときに、色々言ってたじゃないですか。
藤津 それは僕も『Vガンダム』の事が好きだから言いたくなるだけで(笑)。虚心坦懐に読めば、ひとりの著者の顔が見えてる点で、今年(2004年)の中では、よかった本ですよ。
小川 以前、藤津さんは、ムックのスタンダードがどこにあるのか、というのをずいぶん気にされてたじゃないですか。あの本って「作品に沿っているのか」という点ではどうなんですか。
藤津 あれはムックではなくて単著なので、あの形でいいわけですよ。
小川 ああ、なるほど。
藤津 ムックは作品に寄り添って、作品のサブテキストとして機能するもので、部門が違う。あの本が扱っているのは、『Vガンダム』の全体像じゃない――そこがポイントだと思うんです。『Vガンダム』で何をテーマとみるか、富野由悠季という大きな要素をどう咀嚼するか、そういう事に対するササキバラさんの、言ってしまえば戦い(笑)を綴ったものだから、それは単著としてはスジが通っている。
小川 なるほど。僕は単著となると逆に、作品とどう斬り結ぶかという点が気になるので、あの本は、作品の重要な点というか、作品の全体像とは戦ってないのが逆に気になった――って、要するにカテジナなんですけど(笑)。これまでのムックがそうだったように、今回のササキバラさんの本でも、カテジナという肝心のテーマはスルーされてしまうのか、と残念でしたね。まあ、『Vガンダム』というのは、真っ当に語られる事のないまま終わる特異な作品なのか、と(苦笑)。
藤津 ところで、押井守本ブームというのもありましたよね。
小川 というか大作が3作品もあって、関連のムックが多かった。これについては、どうですか?
藤津 押井本に関しては、「積読録」で小川さんが語られたとおりじゃないですか。
小川 ええと、押井守が全部語っている、というヤツ?
藤津 そうそう。3作品で言うと、押井守(『INNOCENCE』)は押井守が語って、大友さん(『STEAMBOY』)は画がいっぱい出てきて、宮崎さん(『ハウルの動く城』)は、中心がなくて関連本がいっぱいあるという構図だったな、と。それぞれ作品の現状に合ったものが出たという感じがするんですよ(笑)。ちょっとリアリスティックな言い方ですけど。
小川 リアリスティック?
藤津 つまり、制作サイドからリソースとして何が出てくるかという事ですよ。
小川 ああ、リアリスティックというか、非常にプラグマティックな話ですね(笑)。
藤津 そうそう。特に3作品とも、リソースのあり方がすごく特徴的だったので、結果的に三者三様の本が出たという感じですよね。
小川 僕としては、『INNOCENCE』は相当、お祭り感があったので、その後の2作品でもこのお祭り感があるのかな、と期待していたんですよ。そのわりにはそういう方向にいかなかったのは残念でしたね。出版って小回りの利く産業なので、バラエティに富んでるというか、ダメな本もいい本もいっぱいあるというのが、いい状況だと思うんです。それでいうと――いい本は出たんだけど――ちょっと残念だった。
藤津 それはないものねだりのような気がします(笑)。出版が小回りが利くというのは、半分は本当だけど、アニメムックに関しては、段々小回りが利かなくなっているところが問題だと思いますよ。さっきのA5で1500円みたいな現状からすると。
小川 うーん。
藤津 だから今、出版としてのアニメムックってどんどん揺らいでいる。そういう事で言うと、実は「ロマンアルバム ハウルの動く城」(徳間書店)をベストのひとつにしようかと思ったんですよ。読んだら、「王道」と言うか、「ロマンアルバムって、コレコレ!」みたいな感じがあったでしょ(笑)。
小川 たしかに久々に直球な感じがありましたね。読んでいて心が安らぐ。
藤津 ロマンアルバムって『千と千尋の神隠し』でメタモさんが(デザイナーとして)入ってから、作りも写真もよくなってますよね。そういう意味では、今風にアップデートされているんだけど、編集方針はオーソドックスで。非常にうらやましいなあと思ったんです。
小川 値段も安いですよね、1238円+税! 別冊宝島が始めた1000円、100ページ前後のムックと、4000円以上するようなムックの両極端になったというのも、ここ最近の傾向じゃないですかね。その中間の1000円以上、3000円未満のムックっていうのが、相対的に減っている。そんな中では、『鋼の錬金術師』は関連書を色々頑張って出していて、嬉しかったなあ。
藤津 だから、今の視聴者――あるいは読者――のアニメムックのスタンダードはどこにあるのか探らなきゃいけない時代にきた、というのが、僕の今年の結論なんですよ。単著は少しずつ潮流が生まれつつあって、この先どうなるかは、僕も含めて頑張らなきゃいけないところなんですけど。作品に寄り添った本の方は、これからの時代に応じたビジネスにも合い、ファンの気持ちにも添い、資料価値もある――というのをどういうフォーマットに落とし込むか。それが「改めて大きな課題として浮き上がった1年」でした。逆に、そのへんがあまり考えられてない感じがする本を見ると、悩ましく思うわけですよ。値段もそれなりにするわけだから、「これで誰が買うの。買う人が見えるんなら、もっと『おみやげ』はあった方がいいんじゃない!?」とか(笑)。たまにあるんですよ、「おみやげ」の持たせ方が間違っている事が……。
小川 じゃあ、こちらもまとめっぽい事を。個人的には研究の深まりの萌芽が見えた年だったな、と思いました。僕はあくまでライターというか、アニメファンなので、本全体の作りに関しては関心が薄くて、むしろ何が書いてあるか、どう表現されているかに興味が偏りがちなんですよ。そこからすると、単著も増えているし、新書でもアニメを語る本が多くなっている。それを見ていると、研究の深まっているところ、逆に抜けているところがはっきりしてきたんじゃないか、と。ただ、それもよしあしではあるんですよね。ほら、新書で出ると、なんとなくスタンダードな本に見えちゃうじゃないですか。これはアニメについてというより、新書全体の問題でもあるんだけど、これだけたくさんの新書が出ていると、当然だけど、必ずしも内容が吟味されていない本も多いんですよね。これは編集者のチェックが甘くなっているという責任もあるんだけど。
藤津 新書の性質が変わりましたよね。昔は専門知識へのエントリーとしてだったんですけど、今はむしろ社会時評のトピックをコンパクトに解説してくれる本っていう側面が強くなってる。
小川 特にアニメ関連の新書には、それまでの研究成果を踏まえていない本も多いんですよ。なんだこれは、と思っちゃう。
藤津 要するに評論系の新書ですよね。新書は研究がベースであるべきだから、個人的解釈をベースにした論考が新書で出ると、すごくとまどわざるを得ないと、小川さんは言いたいわけでしょう?
小川 そうそう、ありがとう。
藤津 そういう事で言うと、批判的読書のススメというと変なんだけど、こういうコーナーが、読者が意識的に本やアニメムックを選んでいく助けになればな、と思うんですよね。今日はわりと作り手の立場で喋っていたんでアレなんだけど、こういう話題って、良書を生む方向には役立たないかもしれないけど、読者を育てる――というか、自覚的に読む事の楽しさを伝える事ができるんじゃないかなあと思って色々言ってみたんですけどね。まあ、僕らを含め酔狂な人間が増えると、世の中も住みやすくなるんじゃないかと目論んで、アニメムック感染ウィルスをネットに向けてばらまいてみました(笑)。そんな感じでしょうか。

(05.01.28)
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