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【ARCHIVE】
 湯浅政明×井上俊之対談(1)

 「アニメスタイル」第2号再録

 言うまでもなく、アニメーションの最大の魅力は「動き」である。だが、現在、ストレートに動きの魅力を観客に提供している作品やクリエーターは、決して多いとは言えない。そこで、湯浅政明である。彼のアニメーションには、明快な「動き」の魅力がある。素晴らしい動きの快感がある。そこには、どんな秘密があるのだろうか? かねてより、彼の仕事に多大な興味を持っていたカリスマアニメーター・井上俊之が、湯浅政明の実体に迫る!

●2000年5月28日
取材場所/東京・スタジオ雄
取材・構成/小黒祐一郎
協力/佐藤竜雄・小川びい
初出/美術出版社「アニメスタイル」第2号

井上 俺が、湯浅さんの名前を知ったのは『MEMORIES』の時なんですよ。色々あって、大平(晋也)君に上手な原画マンを紹介してもらう事になって(注1)、その時に、大平君から出たのが湯浅さんの名前だったと記憶しています。その時、俺は湯浅さんの事を全く知らなくて。『しんちゃん』をやっている人だと聞いて、失礼な事に「え、そんなのをやってる人?」と思ってしまった(笑)。その時はチェックもしなかったんですよ。
湯浅 (笑)。
井上 その時に、ちゃんと観ていれば良かったんですけど。とにかく、「もの凄い絵を描く人がいるから」と大平君に聞いて、俺は強烈にアクのある画を描く人を想像してしまったんですよ。「いや、そういう人はちょっと困るなあ」と思って(笑)。
 で、実際に湯浅さんの作品を観たのは、『しんちゃん』の放映が最初だと思う。確かね、しんちゃんが風邪を引く話。それを観て「これは素晴らしいな」と思いました。(注2)
湯浅 (笑)。
井上 「ホントに天才だ」と思いました。「天才」っていう言葉は、軽々しく使うものじゃないとは思うんだけど。
編集部 1本観ただけで「ピピッ」と来たわけですか。
井上 もう、それはね。
湯浅 僕は、井上さんを存じ上げなかったんですよ、最初は。
井上 それは別に、俺なんかは別に全然……。
湯浅 いや、『GU−GUガンモ』とかで、良い動きがあるなとは思ってたんです(笑)。(注3)
井上 『GU−GUガンモ』ですか、嬉しいですね。
湯浅 僕が亜細亜堂に入った時に、井上さんの原画を持ってる人がいたんですよ。
井上 え? 『ガンモ』のですか。
湯浅 そうです。それが、パッと1枚を見ただけで、巧いって分かるような線で。「これ、誰なの?」って訊いたら、「この人を知らないなんて、モグリですよ。本当にアニメーターを目指してるんですか?」と言われて。
井上 恥ずかしいですね。天才から見ると、俺は凡人だと思うんですけど(苦笑)。
湯浅 いや、絶対描けないですよ。1本の線を見ただけで、「わっ、自分はこういう風にはなれないな」と。
井上 誉められると、なんだか申しわけないな。
湯浅 井上さんは、誰もが認める業界のトップですから。
井上 どうなんだろう。そういう実感がないというか、自分で自分の仕事を良いと思った事がないんで。まれに錯覚しかける事があるけど。
一同 (笑)。
井上 「ちょっと良いのかなあ」と思う事がある(笑)。でも、それは錯覚だから。
湯浅 ギャグ物からリアルな物まで手がけて、ねえ。
井上 僕のギャグは偽物ですから。湯浅さんがやっている本物のギャグを観ると……。俺は偽物だな、小手先で描いてる感じで。
編集部 身も心もギャグで描いているわけではない、という事ですか。
井上 何て言うのかな、ギャグ的なイメージを上手く形にしたいんだけど、それができていない。小手先でやっている感じがする。要するに、俺のは偽物なんですよ(笑)。
湯浅 (笑)。いや、フルアニメ的で、リアルで、凄く巧いという感じがありましたよ。
井上 そう。根っ子は、やっぱりそこにないといけない。ホントは、普通の動きをちゃんと描けた上でデフォルメがあるべきだったのに、俺は『GU−GUガンモ』から、いきなり本格的に原画の仕事に入ってしまったんですよ。先に表層的な部分を、しかも下手くそに(笑)描いていただけで。
湯浅 またまた(笑)。その時に、1枚見ただけで凄い画力があるっていうのが分かって。井上さんの仕事が、皆が目指すべきものだなとも思ったんだけど、自分はそういう風にはなれないんだろうなとも感じて。
井上 湯浅さんとか、大平君であるとか、田辺(修)君とか(注4)、そういう本物の人から見るとね、俺の薄っぺらさが見抜かれてしまうんじゃないか、そう思っているんですよ。
一同 (笑)。
井上 そう思っているくらいだから、湯浅さんが俺を良いと思ったなんて事は信じがたい。あ、そうか。今のは違うんだ。「良いと言ってた人がいる」という話なんですね(笑)、「良いと思った」んじゃなくて。
湯浅 いやいや、違います(笑)。でも、井上さんは、あまり作監はやられてないんですか。
井上 ええ。やっていないんです。『GU−GUガンモ』では、タイトル上は作画監督として出てるんですけど、実際はやってなかったりとか。
湯浅 『AKIRA』のバイクのシーンをやられたとか。
井上 ええ、まあ。
湯浅 あとは、やっぱり、『MEMORIES』が凄いなって。
井上 『MEMORIES』ですか。あれもね、今にして思えば。
湯浅 森本(晃司)さんの作品なんだけど、かなり見易いですよね。ハリウッド映画みたいな仕上がりで。ホントに、実写の映画を観てるようで。
井上 ああ、『MEMORIES』を誉められたの初めてですね。
湯浅 なんか、ハリウッド映画のような、感動があるんですけど。ああいう作品を手がけるなんて、途方もない事のような気がしちゃうんですけどね。
井上 う〜む、大変だっただろうか? でも、それほど物理的に大変な事はやってはいないんですよ。
湯浅 自分で普通にできる範囲の中で、あれを(笑)。
井上 あれをやってる時は、俺は寂しい気持ちでやってた。
湯浅 寂しい気持ち?
井上 本当は、もっともっとやりたいのに。あまり、作監はやりたくないっていうのが本当のところなんですよ。
湯浅 ああ、自分で原画を描きたいんですね。
井上 原画も描きたいし、スケジュール内で上手く作監する方法が、俺には見つけられないんですよ。上がってきた原画を目の前にして「違うなあ」と思うじゃないですか。「もっとこうなのに」って。
湯浅 (笑)。ええ。
井上 でも、その思いを全部通そうと思ったら、全部描き直す事になりますからね。それをせずに、原画にいくらかプラスアルファする事によって、自分がそうしたいと思っている画面に少し近づける……というのも、我慢できないんですね。だから、あの時は、結局、かなり描き直してしまった。
湯浅 ああ。難しいですよね。原画の良いところを残して、ちゃんと演出の意図通りに直すと、自分で原画描くよりも時間がかかって(笑)。自分で描いた方が早いじゃん、みたいな。
井上 そう。だから、皆がどうしてるのか分からない……。
湯浅 良いとこ消しちゃうのも勿体ないし、ねえ。
井上 ですね。そうそう、良かった部分もあるのに、そこも描き直さざるを得ないという事もあったりして。本当は作監に関して、もっと上手いやり方があるのかも知れない。今だとレイアウト段階でラフを描いて渡すなり、やってほしい事を言っておくなりというやり方もあるみたいだけど……。
湯浅 ええ。
井上 仮にそうやって原画マンを縛ったとして、縛った挙げ句に、また直す事になったりすると原画マンに申し訳ないような気がして、そのやり方もどうなのかなって。
湯浅 レイアウト段階で、自分でラフ描くと、自分の中でそのカットのイメージができ上がっちゃうし(笑)。
井上 そうでしょ? 完成形がその段階ではっきり見えてしまって(笑)。
湯浅 自分が描いたラフを、原画マンがトレースしてきても、なんか線が違うんで、また描き直したりして。
井上 「この線の意味はそうじゃなかったんだ」とかって。
湯浅 「自分は何回、同じ画を描いてるのだ」という感じで。
井上 う〜ん。だから、作監のね、良いやり方が見つからない。
湯浅 ええ。
井上 これからも見つからないような気がして。だから、作監はとてもやれるとは思わない。湯浅さんの次回作の『ねこぢる草』では、作監はやるんですか。(注5)
湯浅 一応、作監という肩書きもあります。
井上 作監でもあるんですね。
湯浅 ええ。『ねこぢる草』では、みんなの個性を活かそうと思ってやっているんですけど(笑)。完全に自分の方で揃えちゃうと「違うかなあ」という作品なんで。
井上 はあはあ。
湯浅 かえって外れた方が良いんですけどね、どうしてもまとめる方向に行きそうで。

●天才とイメージ
井上 湯浅さんは、3コマが好きなんじゃないですか。
湯浅 ああ、そうですね。
井上 俺は3コマの方が好きなんですよ(注6)。3コマ独特の、画が抜ける感じがあるじゃないですか。速い動きとかだと、画がスカスカと抜けた感じに見える。そういうのが好き、というのがあるんです。湯浅さん的には2コマ、3コマで、そんなに差はないですかね。
湯浅 そうですね。そんなに……。
井上 差はない。
湯浅 うん。ただ、2コマって、作業が大変だという気持ちが(笑)。
井上 ああ、まあそうですね。
湯浅 それに2コマにするなら、3コマでは描けない動きにしなくちゃいけないし。
井上 原画もそれに対応した原画を描かなきゃいけない。
湯浅 2コマで日常を描いてしまうと、クライマックスではそれ以上の、1コマくらいでみっちりやらないといけないだろうという気も。
井上 でも、俺は1コマに対する憧れは、ないですけどね。1コマだから特別リッチに見える、という事は俺にとっては全然ない。ま、1コマでしか描けない動きならともかく、そうでない動きを1コマで描くとか、馬の走りを1コマで描こうとか、そういう感覚はないですね。1コマが好きな人はいるんでしょうけど。
湯浅 そうですね。僕は、そういうのが怖くて「3コマでいいですよ」って言っている部分もあるんです。普通の動きなのに、中割りの点をいっぱい入れちゃうと良くないなと。(注7)
井上 中割りの質が心配とか。
湯浅 「そんなに必要ないじゃん」という感じが。
井上 ああ、じゃあ、やっぱり基本的には1コマに対する憧れとかはない、という事ですね。「ここは1コマにしたい」というような願望は。
湯浅 あ、願望はないです。2コマでできるんなら2コマでやればいいと思うんですけど。ただ、枚数を使ってると、一般の人が観た時に「豪華だ」という感じがあるので。(注8)  
井上 意外に1コマの動きが評価が高かったり。
湯浅 アニメーションの動きの評価として「滑らかだ」という事を言う人がいますよね。
井上 リッチに見えるんですかね。
湯浅 僕も昔、アニメを観た時に急に2コマになると、なんだか不思議な雰囲気が画面から出ていたように思ったんです(笑)。そこだけ1コマだったり2コマだったりするから、ちょっと目立つんでしょうけどね。そういう効用はあるかなとは思うんですけど。
井上 海外のアニメーターだったら、多分抵抗があるんだろうけど。3コマにしかない魅力っていうのがあると思う。
湯浅 味がありますよね。
井上 言葉にはしにくいんだけど。極端に言えば、4コマ作画とかでもいい。3コマ、4コマの世界みたいな。さっきも言ったように、それでしか描けない感じがある。
湯浅 画が印象に残る感じ。
井上 そうですね。例えば原画で1枚、凄く良い画を描いた時に、やっぱり1コマの作画よりも、3コマの方が、1枚の画の滞空時間が長いから。
一同 (笑)。
井上 滞空時間というか、良い画の印象が長く続くから。3コマで描かれた作画には、1コマにはない快感が。
湯浅 1コマ2コマだと、画が眼に残んないですよね、全然。
井上 画が残らないですよね。そういう意味では、自分は動きに対する欲求は強いはずなのに、3コマ作画に快感を感じるのは、なぜなんだろう。画のポージングとかに魅力を感じているのかなあ。
湯浅 3コマなら、原画全部描いちゃった方が良いような場合もありますよね。
井上 ああ、描けたりしますしね。
湯浅 全部描くと、思い通りの動きになるし。2コマにして沢山の枚数を入れるより、3コマの方がいいかなという気がしますね。動いてなくても良いと思っちゃう事もあるんですよ。
井上 動いてなくても?
湯浅 ええ。1本の作品としてまとまっていれば。
井上 あ、そうなんですか。でも、湯浅さんの作画を観ると、かなり「動かしたい」という欲求が感じられるんですが。
湯浅 でも、自分が一所懸命動かしても、動かせる人って、もっと動かしますよね。
井上 動きの密度の話?
湯浅 そうですね。よく動いてるというか、原画を沢山描いてる。僕でも、あんなに原画を描いてるのに(笑)、もっと原画描いてる人がいる。「もう、どうしたら良いんだあ」という感じでね。亜細亜堂に藤森君という人がいるんですけど。(注9)
井上 ああ、藤森雅也さん。
湯浅 巧いんですよね。ああいう風にもなれないっていう(笑)。
井上 湯浅さんは自分に不満はありますか。
湯浅 不満はありますよ(笑)。下手くそですから(笑)。
井上 ええっ、そうなんですか。それは本心ですか。
湯浅 本心ですね。
井上 下手くそ?
湯浅 うん。なれるなら、僕も井上さんや藤森君みたいになりたい(笑)。
井上 逆だなあ。俺は湯浅さんのようになりたい。
湯浅 (笑)。
井上 湯浅さんになれたら、幸せだろうなって(笑)。
湯浅 幸せ?
井上 ええ。俺は天才になりたいですね。「天才」と言われるのはイヤですか。
湯浅 うん。なんだか「頭悪そうな人だ」と言われてるみたいな気が(笑)。
井上 じゃあ、どう言われたいんですか。
湯浅 「叩き上げの努力家」。
一同 (笑)。
井上 でも、みんな、センスが良いと思って「天才だ」だと言ってるわけですから。
湯浅 それは「ちょっと足りなさそうだよ」って言われているような気が(笑)。
井上 う〜ん、その心理がちょっと分からない。俺は「天才だ」って言われた事がないんで。
湯浅 いや、井上さんは天才ですよ。だから、トップなんですよ。でも、他人に「天才だ」って言われないのは、ちゃんと頭が回るからで。
一同 (笑)。
湯浅 天才と言うと、ジミー大西が画が巧いとか(笑)。長嶋茂雄が野球の天才だとか……。
井上 ああ〜、そうかそうか。天才にはそういうイメージがあるかな。天才と言うと直感でやってるというイメージですね。その辺の事も、後で聞きたいんですけど。
湯浅 周りが優しくしてくれたお陰で、僕なんか仕事やってこれたわけですから(笑)。自分の評価だけで決めていれば、とっくにこの仕事を辞めていると思う。
井上 それは本当に? 辞めようと思ったのは、周りの評価が悪かった時期があるからじゃなくて?
湯浅 いや、周囲は優しかったですね。悪くは言わなかったです。亜細亜堂に入った頃も、どんどん周囲が上に上げてくれようと。
井上 それなのに辞めたいと思った事があるの?
湯浅 うん。下手だし。
井上 下手って言うのは、思ったように描けないって事ですか。
湯浅 そうです、全然。
井上 あ、そうなんですか。じゃあ、例えば『しんちゃん』で、あれは思った画が描けてはいないんですか。ここは、大事なところなんですね。思ったように描けているのか、描けていないのか。
湯浅 あ、描けていないです。
井上 描けてない。ああ、それは意外だ。
湯浅 さっき、井上さんは『MEMORIES』に関して「本当は、もっとやりたいのに」とおっしゃってましたよね。
井上 ああ、それは周りの制約とか、状況の問題もある。でも、俺は、自分の技術的な問題もあって、自分が描きたいレベルに届いてない事の方が多いんです。
湯浅 僕もスケジュールがあれば、もう2、3割は仕上がりが良くなるだろうけど。でも、スケジュールが充分にあったとしても、全然自分の力が及ばない。もっと、ずっと上がありますからね。
井上 そうなのかあ。やはり、そうなんだ。ホントに才能がある人は、自分が描きたいと思ったものを描けているんだと思ってたんですけど、そうではないんですね。キリがない話ですね。俺が湯浅さんになっても、そういう苦悩を抱える事になるのか(笑)。湯浅さんになった時には、そういう苦悩はなくなるのかなと思っていたんですけど。
一同 (笑)。
井上 思うように描けない。要するに、作画をする前に自分が頭の中に描いたイメージがあるじゃないですか。
湯浅 ああ、はい。
井上 それを再現できないんですか。
湯浅 というのもありますし。
井上 描く前のイメージ自体に不満があるとか。
湯浅 イメージ自体が、ぼんやりしてる。
井上 ああ、そうなんですか。
湯浅 こう、霧がかかってて。そこに何かがあるんだけど、よく見えない。
井上 なるほど、霧の濃度が違うんだ。俺の場合、濃い霧があるだけなんだけど、湯浅さんの場合は多分、薄い霧なんだ(笑)。
一同 (笑)。
湯浅 だから、思ったところに行かないんですよね。他の人は、みんな、サーッて描くじゃないですか。サササッて。
井上 いや、それはそう見えてるだけですよ。
湯浅 「いや、違う違う」「ああ、違う違う」と思いながら描いて、でも、時間が来てしまって、「ええい、もう出しちゃえ」という場合が多いんです。
井上 じゃあ、レベルの差こそあれ、状況は同じですね。俺は、ずっと、天才に憧れてきたのに。
湯浅 みんなが、どうして僕に対して、そういう事を言うのか分かんないんですけどね。まあ、評価してくれるのは、ありがたいんですけど。
井上 でも、イメージした通りに描けたという瞬間もあるわけでしょ?
湯浅 あ、そこそこに。
井上 そこそこは、ある。あ、やはり。俺はほとんどないですね。
一同 (笑)。
井上 ここに、やっと凡人と天才との差が少し見えた(笑)。
湯浅 そうなんですか。むしろ、井上さんこそ、イメージ通りに描いてるような気がするんですけど。
井上 するんですよ。湯浅さんのを観ると。
湯浅 僕を外から観ると?(笑)
井上 (笑)。おかしいな。さっきも言ったけど、俺がちゃんと描けていないとか、小手先で作ってるという事をね、天才には見透かされてるような気がしたもんですから。
一同 (爆笑)。
井上 大平君とか、磯(光雄)君とか、田辺君とか、橋本(晋治)君に(注10)、心の中で笑われてるんじゃないかとか。被害妄想かもしれないんだけど(笑)、そういう気持ちがあるんですよ。
湯浅 僕も馬鹿にされてるんじゃないですかね?
井上 いや、俺の中では、湯浅さんは大平君や田辺君と同じ括りなんです。「自分の思い通り描けて良いな」という人達がいてですね。その人達にとっては、どうイメージするかだけが問題で。イメージしたものを描けないなんていうレベルで悩んでる俺なんか、足元にも及ばないんじゃないかと(笑)。
湯浅 (笑)。
井上 そういうアニメーションに長けた人達が居て、その中の一人が湯浅さんで。
湯浅 いや、全然。僕は、そういった中に入ってないですよ。僕の中では、大平君とか田辺さん達の中に井上さんがいる。
井上 俺は、そこに入るんですか。大平君と一緒に括られたら幸せだけど。はっきり、大平君とは人種が違うなって思うからね。
湯浅 まあ、大平君は独特ですけどね(笑)。ホントに、天才的な感じが。
井上 大平君はね、天才というより芸術家かな。
湯浅 そうですね。思ってもみない方向から描いてきますから。
井上 昔の大平君は今と全然、違う作画をしていたんですよ。あれ程作画スタイルを変えた人を、他に知らないですね。そういう話でいくと、今回、湯浅さんの作品を、昔のものから改めて観ましたけど、変わってないですね。
湯浅 そうですか(笑)。
井上 自分に不満があるたとしたら、変えようとした時期とかないんですかね? 変わりたいなと思ったとか。
湯浅 変わってるつもりなんですけど(笑)。
一同 (笑)。

●【ARCHIVE】湯浅政明×井上俊之対談(2)へ続く
(注1)
大平晋也は演出家&アニメーター。彼が湯浅政明とコンビで作り上げた『THE八犬伝[新章]』4話「浜路再臨」は、その表現の鮮烈さ、映像のパワーで観る者を圧倒する超意欲作。対談中で話題になっている『THE八犬伝』は、この「新章」4話の事。
(注2)
『クレヨンしんちゃん』27話A「カゼの予防は ウガイだゾ」。
(注3)
TVアニメ『GU−GUガンモ』は井上俊之の若き日の代表作。シャープかつ、トリッキーな作画で、業界&マニアックなファンの注目を集めた。彼は、劇場版『GU−GUガンモ』でも作画監督を担当。こちらの方はビデオソフト化されているので、興味がある人は観てみよう。
(注4)
田辺修は『THE八犬伝[新章]』『総天然色漫画映画 平成狸合戦ぽんぽこ』等に参加したアニメーター。『ホーホケキョ となりの山田くん』には、演出・絵コンテ・場面設定で参加。井上俊之は彼が描く、自然な芝居を高く評価している。
(注5)
『ねこぢる草』は、彼が手がけているOVA。本誌1号で「湯浅政明の新作」としてイメージボードを掲載している。
(注6)
「3コマ」とは、1枚の画を3コマずつ撮影するアニメーションのスタイル。同様に「2コマ」とは、1枚の画を2コマ撮影するスタイル。日本のTVアニメは通常3コマがベースになっており、一般的に、3コマより2コマの方が表現力が高いとされてきた。ただ、近年では密度の高い作画であれば、たとえ劇場作品でも3コマで十分だという考えが、国内では主流になりつつある。
(注7)
「中割りの点をいっぱい入れる」とは、タイムシートに沢山の動画の中割りを入れるように指示する事。
(注8)
『クレヨンしんちゃん』では、ギャグアクションで効果的に1コマの動きを使う事が多く、湯浅政明も1コマで愉快なアクションを描いている。
(注9)
藤森雅也は、湯浅政明と同世代のアニメーター。『忍たま 乱太郎』ではキャラクターデザインを担当。
(注10)
磯光雄、橋本晋治も井上俊之が高く評価しているアニメーター。2人とも、『御先祖様万々歳!』『THE八犬伝[新章]』に参加している。磯光雄の他の代表作は『新世紀 エヴァンゲリオン』、『BLOOD』等。橋本晋治の他の代表作は『夢枕漠 とわいらいと劇場』、『課長王子』のオープニング等。
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