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【ARCHIVE】
 湯浅政明×井上俊之対談(2)

 「アニメスタイル」第2号再録

●リアルとデフォルメ
編集部 湯浅さんは、亜細亜堂に入社した頃から、かなり光るものを持っていたそうですよね。
井上 ああ、やっぱり、そうなんだ。
編集部 さっきもちょっと話題になっていましたけど、「彼は自分の画を持っているから、早く原画に上げた方が良い」という事で、亜細亜堂の方がすぐに原画に上げたそうですね。
湯浅 (笑)。
井上 ああ、良い会社ですね。やっぱり、芝山(努)さん達に非常に見る目があるんですね。
湯浅 思い切ってますよね。普通は「あ、そろそろ原画ができそうだな」という段階で原画に上げるんだけど、「もう上げちゃえ。できるようになれ」というような感じで(笑)。
井上 いや、特別な才能を持った人は、そういう特別扱いで良いんじゃないかなって思う。勿論、「甘やかすのは良くない」という考え方もあるんだけど。
湯浅 きつかったですけどね。動画をやっと覚えた時に、原画になってしまって。
井上 原画を始めて大変でした? 意外と簡単だったとかそういう事はない?
湯浅 いや、それは(苦笑)。全然分かんなかった。僕は、大学は出てたけど、パースとか全然勉強してなくて。なんか、一点透視法とか、点に向かって線引くなんておかしいと思っていた(笑)。
井上 ああ〜(笑)。
湯浅 なんか、わざとらしいなと。
一同 (笑)。
井上 でも、それで画が描けるんであれば。
湯浅 いや、原画を始めた頃にレイアウトでかなり苦労して、なんだかキャラクターが上手く背景に載らなかったんです(笑)。それで「変だな」と思って。「もう、ダメだ、辞めよう」と思っていた頃に『しろくまくん』というビデオアニメをやったんですよ。その作品は、ちょっとパースつけて動かすんです。その時に、初めて世の中にパースというものがあるのを知った。
井上 初めて? え、そうなんですか(笑)。
湯浅 「なんだ、こうやると動くように見えるんだ」「ああ、なんだ、パースかあ」と思って。
井上 湯浅さんの空間をつかむセンスって、天性のものだと感じるんですけどね。
湯浅 いや、空間は全然つかめないと思うんですよね。
井上 ありゃ?
湯浅 それが、僕の欠点なんです。
井上 あれれ? あらら?
湯浅 それをゴマかすためにパースをつけているんです。「あ、パースをつければ、ゴマかせる」と思って(笑)。
井上 (笑)。意外だなあ。
湯浅 その後、『THE八犬伝』で、大平君が広角の画を描いてて。
井上 え? 広角で画を描くという事は、大平君に出会うまでは。
湯浅 描いてなかったですよね。
井上 ああ、そうでしたっけ?
湯浅 ええ。大平君のコンテを見たら広角になっていて、キャラクターが横行くとこんな感じに、歪んで(笑)。
井上 『八犬伝』の大平君って、広角を通り越してますよね。そういう言葉が当てはまらない世界に行ってしまってる(笑)。
一同 (笑)。
湯浅 「ああ、面白いなあ」と思って。普通は若い頃からそういう事を知っていて、新人の頃に広角に描いてたりするもんなんだけど。
井上 今はね。俺が原画になった頃は「広角で描こう」なんていう頭すらなかった。「広角」という言葉も実は知らなかったかもしれない。
湯浅 僕は、20代後半で広角で描いていて、「若いねえ」なんて言われて(笑)。
井上 印象としては、湯浅さんは根っからの広角パースの人なんだけどな。初めの頃は、それを抑えて描いてる、要するに「我慢してる」という風に見えてたんだけど。
湯浅 (笑)。
井上 湯浅さんは、元々、そう描きたい衝動を持っていて。大平君達と出会って、「あ、これでも良いんだ」と思って、元々あった衝動に正直に描くようになったのかと思ったんだけど。
湯浅 いや、空間感覚がないのがゴマかせるかなという。
井上 あ、そうなんですか。
湯浅 ええ。
井上 それはおかしいな。俺のイメージと違うな。
一同 (笑)。
湯浅 だから、僕の空間は、勘違いして描いているものなんですよね(笑)。昔は「手前に来るから大きく描く」なんてわざとらしいと思ってたんですよ。でも、それでちょっと手前に来た感じが出るんだなあと分かって(笑)。
井上 そうなのかあ。でも、それに気付いたらすぐに描けるようになったわけですよね。
湯浅 それから原画になった頃は、キャラクターを似せなきゃいけないと思っていたんですよ。とにかく、直されるのがイヤで。
井上 ああ、それはイヤですよね。
湯浅 うん。動きもよりも、とにかくキャラクターをきっちり描こうと思っていたんですよ。でも、亜細亜堂に山田(みちしろ)さんという方がいて(注11)、当時、亜細亜堂で一番かっこいい画を描いてたんです。山田さんがやった『まんが日本昔ばなし』は、キャラクターが正面を向いていると頭が四角形なのに、違う方を向くと三角形になったりするんですよ。
井上 ほお。
湯浅 基本的には楕円なんですけど。
井上 ああ形が。歪むんだ。
湯浅 うん。でも、全然おかしくないんですよね。それで「あ、これで良いんだ」と思って。最初の頃は、井上さんみたいなキッチリした巧い画を描かなくちゃいけないと思っていたんです。
井上 まあ、確かに俺の画は、きっちりしているように見えるかもしれない。
湯浅 ホントは歪んでいるんでしょうけどね。
井上 うん。
湯浅 それは気が付かなかったんですけど。でも、山田さんのを見ると、はっきりと歪んでいる。それで、「あ、これで動くんだ」と思ったんです。
 それから、シンエイ動画の大塚正実さんという方(注12)。巧い人だって聞いて、原画を見せてもらったんです。『チンプイ』の原画を見たのかな。だけど、画を見た時に、巧いとは思えなかったんですよ。むしろ、一般の人が見たら、下手だと思うかもしれないような画だったんです。でも、出来上がった動いたものを観ると巧いんですよね。それで、「あ、これでも良いんだ」「これでもできるんだ」と思って。
井上 そうやって徐々に気付いていったんですね。それは意外だなあ。俺は、湯浅さんは最初から、天然的にそういう人で(笑)。もっと確信を持って、「みんな何やってるんだ、これでいいじゃん、歪んでても良いんだよ」と、みんなを啓蒙していくタイプだと思ってた。そんな、こっそりと「あ、これで良いんだ」と思うような、控えめな人だったとは。
湯浅 大人しい人なんですよ。
井上 意外ですね。表に出さないまでもね、内に秘めた野心があってね、自発的に積極的にやっている人かと思っていたんですけど、そうじゃないんですね。
湯浅 ま、これから任せてもらえたら、そうしていこうと思ってるんですけど(笑)。
井上 遅まきに、やっと(笑)。
湯浅 うん。「やっても良いのかな?」という感じで。
井上 ああ。やってください。
湯浅 例えば「ここは5歩で歩きます」というカットで、3歩で歩いてサササッと行っても良いと思うんですよ。画で描くんだから、パースが合ってなくて良いんだし。
井上 そうなんですよね。最近、それが自分の中でも揺れ動いているところなんですよ。せっかく画で描いてやるんだから。
湯浅 ちゃんと合わせてる画も凄いと思うんだけど、自分でやるなら、そうでなくてもという気がするんです。
井上 『人狼』の沖浦(啓之)君とかが、その対極にいるんだよね(注13)。100歩で行く距離なんだから、100歩で歩くように描く。「100歩で描かないでどうするんだ」みたいなね。それで測って正確に100歩を描くんだよ(笑)。まあ、そういう人とは対極なんだろうなあ。
湯浅 そういうちゃんとした技術の人が出てきたから、僕みたいなそうでないのがあっても、という気がするんです。
井上 そうそう。そういう部分をリアルに描くというアニメーションも、勿論、あるべきだし。逆に、せっかく画なんだから、もっと自由で良いだろうという考え方もあると思う。
湯浅 僕が100歩描けるなら描けてるかも知れないけど、描けないから。
井上 湯浅さんは、描けたら描きますかねえ。
湯浅 うん。描きます……。と思いますね。僕も巧けりゃ、巧い画を描きます(笑)。
井上 そんな、下手な人のような事を言わなくても(笑)。
湯浅 僕の場合、デッサンがとれていて、わざと崩してるんじゃなくて、描けないんですよ(笑)。
井上 ええ? そうなんですかね。余程、物事とか物の形の本質を突いてるような気がするんだけど。俺は本質に迫れないから、正確に描こうとする事によって、それに迫れるんじゃないかと思ってやっているんだけど。湯浅さんはそんな努力はしないで、本質的な動きでも、画でも捕まえられるような気がして、そこが羨ましい。
湯浅 いや、『八犬伝』をやってる時、僕は一所懸命ビデオ観たりして、リアルな動きを捉えようとして描いていたんですよ。大平君はビデオを観ても違うんですよね。
井上 彼は、あまり観察ってしないんじゃないですか。
湯浅 ビデオで録ったりもしてるんでしょうけど、ちゃんとアニメ的なデフォルメが入ってるんですよね。
井上 そうですね。大平君のは生々しいように見えて、実は相当、画でしかできない事をやっている。大平君独自のアレンジが加えられていて。
湯浅 ええ。
井上 写実的な印象もあるんだけども、画でしかできない事を、簡単にやり遂げてるように見える。簡単ではないのかなあ。本人にとってはどうなんだろう。分からないな。才能かな? ま、安売りするようだけど、やっぱ、大平君も天才かな。
一同 (笑)。
井上 あれはやっぱり観察だけではね。観察には基づいているんだけど……。
湯浅 ええ。ビデオ観てるだけじゃ大平君みたいには描けないなって思います。
井上 俺は、それは湯浅さんにも感じる。努力だけでは出てこない才能が。
一同 (笑)。
湯浅 最近、リアリティの強いものが多いですけど、もっと、感動が分かりやすい物が良いと思うんです。子供がよく、花を大きく描くじゃないですか。
井上 ああ、はいはい。
湯浅 あれみたいに、綺麗な事や面白い事が、デフォルメされた動きになると良いなあと思うんですけどね。
井上 その辺は確かにアニメーションで一番大事な事なんだろうと思います。動きもそうだし、画面構成とか、全てそうなんだけども。まあ、俺なんかは、それができないから写実に行こうとしてるきらいがあるんだけど。
湯浅 でも、井上さん達の作品は、高級な感じがするんですよね。
井上 高級。あ、まあ、確かに分かり易い(笑)。ちゃんとしてるからね。多分、美術史的に見ると、印象派の画が出てきた時って、評論家筋から叩かれたと思うんですよね。だけど、それはむしろ写実なんかよりも、本質を突いていたはずでね。要するに、見た物を見たままに描くのは技術のある人にとってはたやすい事なのかな。それはアニメーションでも多分、同じ事なんじゃないかな……。
湯浅 でも、見た物を見たままに描くのも、それは凄い大変な事で。
井上 うん、大変な事なんですけどね(笑)。
一同 (笑)。
井上 俺なんか、それすらも、充分にクリアできていないから。それが達成できたら何かしらあるんじゃないかと思って、一所懸命やっているんですけど。
湯浅 いや、凄いと思います。ただ、完全にリアルなやつは感動する側にも、教養が要るような気がするんです。結構、大人向けですよね。
井上 そうなんでしょうか。
湯浅 子供とかが観る分には、もうちょっと象徴化した方が分かり易いと思うんで、僕はそっちの方に行こうかと思っているんです。面白さを強調するような。
井上 分かり易く強調して、要らないところは排除して、という事ですね。最近、自分の中でリアル志向が高まってきていて、写実的に描こうとか、見た物をそのまま描こうとか、その事に意味があるのかないのか分かんないでやってるようなところがあるんです。
 せっかく画を描くわけだから、そのままの動きは要らないとか、画でも要らない部分は描かないっていうのがね、プロとして目指すべき方向だとは思うんです。でも、順序として、それは写実をちゃんとやれた後にやるべきものであるような気がしてね。でも、きっとそうじゃないんでしょうね。印象派の人はいきなり印象派なのかなあ。写実を経ないで、いきなりそこに行けるのかもしれない。才能さえあればね。
 写実を極めたからといって、先にそういうものが見えてくるんではなくて、そういう人は突然、そういう事を成し遂げるのだろうか。凡人の俺にはそう思える(笑)。
湯浅 (笑)。
井上 当たり前の事として、「ここが大事」「ここは大事じゃないよ」という風に見分けて描いていく。それが天才。
湯浅 いえいえ(笑)。『人狼』でも、沖浦さんのインタビュー記事を読むと、かなり緻密に、人間の動作を画で再現しようとしていますよね。
井上 そういう俺達の発言を読んで、湯浅さんみたいな人は「何を言ってんだろうな」と笑ってるんじゃないかと思うんだけど(笑)。
一同 (爆笑)。
湯浅 いや、凄いですよ。沖浦さんや井上さんは。
井上 そう? ホントにそう思ってますか。(笑) どうも信じられないなあ。
湯浅 本当は井上さんがやっているような方向に行くべきだとは思っているんですけど、でも、ああいう風に描けない者のひがみとして(笑)、違うとこ行くしかないと考えているので。
井上 いや。俺達に欠けてる資質が、湯浅さんにはある。しかも、それがすごく大事な物でね。それは、多分、アニメーションの本質に迫る能力なんだと思う。
湯浅 それは、みんなできるんだけど、行ってないだけですよ。
井上 いや、できないんですよ。それは努力じゃあ、多分、手に入らない物のような気が、最近してきてるんですね。こんなに俺が一所懸命やってるのに、まだ湯浅さんになれない(笑)。
湯浅 いや、僕が一所懸命やっても井上さんにはなれないですから。僕は、人が多いところで競争すると敵わないから、人が少ないところに行こう(笑)。「私、アイドル歌手にはなれないけど、女子プロ行けばちょっと人気出るかな」という。
一同 (爆笑)。
井上 でも、他人から観れば、湯浅さんにしかないものが湯浅さんにはある。『しんちゃん』を観ると、もう最初の頃から湯浅さん的なるものがある。途中で努力で勝ち得たものじゃなくて。本人は努力してるつもりで、そういう風に言われたら不本意かも知れないですけど(笑)。
一同 (笑)。


●コマ送りと刺激

井上 例えば、湯浅さんには、リアルな動きを描いてみたいとか、そういう欲求はないんですか。
湯浅 ありましたよ。
井上 最初からありました?
湯浅 ええ。亜細亜堂入った頃には『キテレツ大百科』をやっていたんですよ。内容も地味だったし、枚数も使えないし、あんまり飛び抜けた動きも描けない。その頃、『ふしぎの海のナディア』でしたっけ? それをやっていて、みんなが「ああ、凄い」とか言いながら観てて。「ああ、俺もあんなのやって、キャ〜とか言われたいなあ」って思って(笑)。
一同 (笑)。
編集部 亜細亜堂でも、『ふしぎの海のナディア』の作画をやっていましたよね。それには参加できたんですか。
湯浅 いえ、全然。「やらせてくれ」と言うほどの実力もなかったし。なんか、「ダメなのかなあ」って(笑)思っていたんですけどね。僕も、ああいうかっこいいのがやりたいと思っていたんですよ。でも、やる機会に恵まれなくて、やらないうちに、だんだんひねくれてきた(笑)。「なんだ、あんなもの」とか思うようになって。
井上 そういうものをやりたいと思ったのは、いつ頃までなんですか。原画になった頃?
湯浅 いや、ずっと。『八犬伝』の話をもらった時も、「ああ、ちょっと、かっこいいのもやろうかな」と。
井上 本質的にはかっこいいものを。
湯浅 ちょっとリアルにしてって考えてたんだけど。大平君のコンテが上がってきた時に「え?」って、思って。予想していたのと、全然違うんで。
井上 あ、大平君から話があった時っていうのは、まだコンテもなくて。
湯浅 そうです。まだコンテの途中で。「こういうのやるんですよ」みたいな。「ま、キャラはこれで。でも、ちょっとは変わっても良いですから」みたいな。
井上 (笑)。
湯浅 それはプロデューサーの人がそう言ってくれたんですけどね。で、色々な状況が重なって、画的にはメチャクチャな状態になっちゃったんです(注14)。その後、ひねくれてしまって。『八犬伝』の後は、仕事はギャグ漫画以外にはなかったですし(笑)。
井上 『八犬伝』の後って、『しんちゃん』ですか。
湯浅 『しんちゃん』ですね。それも時代劇で『雲黒斎の野望』とか。楽しかったですけどね。
井上 『アニメ落語館』は『八犬伝』の前なんですよね。(注15)
湯浅 もう全然、前です。
井上 最近、『アニメ落語館』を見せてもらったんですよ。予想したのとは全然違って、ちょっと意外でした。僕は亜細亜堂で落語物だったら、芝山さん系のね、ああいう渋い画を動かしているんだろうなって思っていたんですけど。予想を裏切るようなもので(笑)。あれは、湯浅さんがキャラデザインも担当して。
湯浅 ええ、そうです。最初はロボットにしたいって言ったんですよ。主人公を。
井上 ああ、その名残りなんですか、あのお餅みたいな鼻になってるのは。
湯浅 そうです。だけど「それは、ダメだ」と言われて。
井上 なんでロボットだったんですか。
湯浅 なんか、馬鹿な人間を描くのがイヤだった(笑)。
一同 (笑)。
湯浅 あの作品で、コンテで手を抜いちゃいけないっていうのを学んだんですよ。作画が楽なようにコンテ切ったんです。だけど、いくら作画を頑張っても、コンテが面白くないと面白くならないなと。
井上 あの作品の問題は別なところにあるような気もするんだけど(笑)。あれで、Aプロ調を目指されたという(笑)。(注16)
湯浅 目指したというか、まあ、「もうこれで辞めとこう」みたいな。
井上 亜細亜堂に入ったのも、Aプロ的なものが好きだったという事もあるんですよね。
湯浅 そうですね。『ど根性ガエル』とか好きだったんだけど、入ってから、旧作の『天才バカボン』とかを観て。
井上 入ってから観たんですか。
湯浅 ええ。小さい頃も観てたんですけど、改めて観て。「あ、これって、こういう画が入ってるのか」とかって、研究したんですけど。
井上 それはビデオでコマ送りしたりして。
湯浅 そうです。研究というか、ただ観て、「あ、こういう画が入ってるのか」と確認する。
井上 意外に、僕はそういう事は、あまりやってないんですよ。それはずるいような気がして(笑)。クイズの答えを先に見るような気がして。
湯浅 ええ。
井上 あくまで、観た感じを再現したいというね(笑)。
湯浅 それが正解だと思います。
井上 そういう思い込みがあったんだけど。今になって、もっと若い頃に、実際に他の人の原画をたりして、研究しておけば良かったなあって思うんですけど。
湯浅 でも、井上さんは観ないであれだけのものを。
井上 いやあ。
湯浅 僕も、人が作った物を観て、研究するのは良くないかなと思って止めちゃったんですけど。
井上 今は、どうなんですか。
湯浅 今は、あんまり観てないんですよね。実は『人狼』も観てないんですよ。まだ。
井上 あ、観てないんですか。
湯浅 ちょっと観たかったんですけどね。凄いのは分かってるから、「ま、いっか」と。
井上 人のは気にならないんですか。
湯浅 気にならないというか、なんか、あんまり観る時間が無いというか(笑)。前に、仕事をやっている時に、脇で他の人がビデオで『デジモン』を観ていたんですよ。「あ、なんか、凄いなあ」と思って。
井上 あの、映画のやつ?
湯浅 ええ。「あ、なんかレベル高いなあ」と思って。でも、それでレベル高いのが分かったから、「もういいや」って。
一同 (笑)。
井上 湯浅さんは、そういう刺激は必要ないんですか。
湯浅 観ても、ただ「凄いなあ」と思って、落ち込んだりするだけだろうなと思って(笑)。
編集部 井上さんは、今でも色々とチェックしてるんですよね。
井上 ええ。僕は、そういうエネルギーを注入し続けないとダメになるんで(笑)。
一同 (笑)。
井上 俺は凡人ですから(笑)。ですから、そういう物に対する憧れで、自分を維持をしてるというかね。憧れというか、ライバル心というか。「負けたくないな」とか。だけど、湯浅さんぐらいになると、そういう勝負をしないでもいいわけですね。
湯浅 いや、もう、完全に負けてるんで。僕は他の人とは、ちょっと違うもの観て、そこから引っ張ってこようと。
井上 それは実写の映画だったり?
湯浅 映画だったり。普通の本だったり。
井上 そういうとこからも見つけられるところが……非凡なところなんでしょうね。
湯浅 でも、なんだか、業界って狭い感じがしますけどね。
井上 ええ、見聞きしてる物が近いですね。
湯浅 みんなが、同じ物観てるような気がする。
井上 でも、避けても通れない。「観てしまいなさい」と若い人には言ってるんだけど。で、その上で、足りない物があれば。
湯浅 ええ。難しいですけどね。机に座ってる時間だけ、良い画が描けるし。でも、ずっと座ってると、視野が狭くなるし。
井上 うん。まあ、しょうがないのかなあ。無視するのは勿体ないぐらい良い物がやっぱりあるから。
湯浅 ええ、勿論。
井上 どうせだったら観て、刺激を受けて、吸収できるんなら、吸収しなさいと。で、ライバル心を抱くんだったら、それはそれで素晴らしいし。負けない別の何かを見つけてくのも良いんだろうし。そういう意味では、色んな良いアニメがあるから、観なさいって若い人に言ってるんです。自分にもそれは必要だし。多分そういう事が必要な人が大半だと思うんですけど。
湯浅 いや、みんな凄いなと思うんですけど。色んなもの観て、取り入れて。僕は、とにかくイヤなんですよ、仕事するのが(笑)。
井上 「アニメージュ」のインタビューも読んだんですけど、あまり仕事したくないとか、「お金があったら仕事したくない」と言ってましたよね。あれは本心ですか。(注17)
湯浅 まあ、休みたいと思うんですよね。忙し過ぎるというか。みんなは、忙しい中で、ゲームをやったり、アニメ観たりしていて、凄いなあという気がします。他の人が、早回しで動いてるような。
井上 (笑)。
湯浅 とても、ついていけないと言うか。だから、さっき「気になっても、観ない」と言いましたけど、そういうのも、なんか、いい感じがする(笑)。
井上 休みになると何をするんですか。僕は、考えつかないんですよね。
湯浅 ぼぉ〜っと。
井上 ぼぉ〜っとする。
湯浅 最高の幸せは、天気の良い日に高いとこに登って、ビールでも飲んで(笑)。
井上 ああ、そうですかあ。
湯浅 それが幸せだなあと思うんですけど。
井上 それはちょっと意外な。
湯浅 うん。「天気の良い日に働くなんて」という感じ(笑)。
井上 湯浅さんくらい才能があれば、「あれもやりたい、これもやりたい」と思って、「休んでる暇ないや」という風に色々やって、生き急ぐ感じになるんじゃないかと思っていたんですが。
湯浅 (笑)。仕事が入っちゃうと、やらなきゃいけないから、だから……。
井上 ああ。急がされる事が多い。
湯浅 そうですね。もう、ホント、時間との勝負ですよね。やる事は山ほどあるから。でも、どこかで切れてほしいと思ってね(笑)。日曜日も休めない。それじゃ、いけないんじゃないかなと思っているんですけど。
井上 そうですね。それは必要かな。でもねえ、俺は暇があったら、アニメを観ちゃうんですよね。
一同 (笑)。

●【ARCHIVE】湯浅政明×井上俊之対談(3)へ続く

(注11)
山田みちしろは、亜細亜堂所属のベテランアニメーター。代表作は『それいけ! アンパンマン』『フクちゃん』等、多数。
(注12)
大塚正実はシンエイ動画所属のアニメーター。代表作は『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』。Aプロの流れをくむ、グラフィックなフォルムと大胆なアクションが魅力的。
(注13)
沖浦啓之は『人狼』の監督を務めたクリエイター。アニメーターとしての代表作に『攻殻機動隊』等がある。
(注14)
『THE八犬伝[新章]』4話で、彼は当初は、大平晋也の目指す演出の方向性の中で、ある程度、シリーズの画に近いキャラクターを描くつもりだったのだそうだ。だが、色々な制作的な状況が重なり、より表現が突出したフィルムとなったのである。
(注15)
『アニメ落語館』は、噺家が演じた落語の音声に合わせて、アニメの画を付けていくという異色のビデオアニメシリーズ。その3話「かぼちゃ屋」が彼の初期の代表作である。
(注16)
Aプロダクションは、東京ムービーの作画部門として設立された制作会社で、現在のシンエイ動画の前身。文中で話題になっている『ど根性ガエル』『ガンバの冒険』『元祖天才バカボン』も、Aプロダクションが関わった代表的な作品。いわゆるAプロ調とは、それらの作品に見られるシンプルなキャラクターと、メリハリのきいたアクションのアニメーションを指す。
(注17)
「月刊アニメージュ」(徳間書店)99年2月(VOL.248)「この人に話を聞きたい」。
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