『キャシャーンSins』を戦い終えて……
山内重保・馬越嘉彦インタビュー(2)
荒木伸吾リスペクトと肉体アクションの重視

山内 やっぱり、ウマの画が静かなキャシャーン像をきちっと、シリーズ通じて捉えていたじゃない? 僕よりもウマの方が、キャシャーンに対して、あるいはブライキング・ボスに対しては色々と考えてやってくれてたんだよね。
小黒 じゃあ、ここで馬越さんの方にお訊きしましょう。まずいちばん最初に遡って、元々『キャシャーン』をやらないかと誘われた時には、どんな風にやってみようと思われたんですか。
馬越 話を貰った時点では、(キャラクターの)中身というか内面的な部分はかなり漠然としてたので、とりあえず最初に浮かんだのは「ヘルメットをなんとかしたい」という事でしたね(笑)。あれを(被ったままでなく)脱いだり被ったりできるようにしよう、と。そういうディテールの部分がいちばん最初に浮かびましたかね。内面をどうこうしようみたいなアイディアは、こちらには全然なかったので。
小黒 作品的にはもっとスカッとするアクションものとして考えていた?
馬越 いや、山内さんが監督っていう段階で、もう(笑)。そういう傾向のものではないし、一筋縄ではいかないだろうという事は、なんとなく分かりました。
小黒 これは言っていいのかどうか分からないんですが、『(聖闘士)星矢』っぽいじゃないですか。
馬越 ああ、はい。意識はしています。
小黒 どういった感じで意識されたんですか。荒木伸吾リスペクトとか?
馬越 それはありますね。ただ、荒木さんの画を模写したり、やるにあたって『星矢』の画を見たりとかいった事は、今まで一切やった事ないです。完全にイメージだけですね。
小黒 どうして今回、荒木伸吾リスペクトだったんですか。
馬越 まあ、山内さんが監督という事もありましたし(笑)。今の他の作品を見ると、主人公のタイプが結構バラエティに富んでいるじゃないですか。だから逆に、一枚画で主役と分かるというか、王道の主人公みたいなのを作りたかったというところですかね。
小黒 キャシャーン以外のキャラクターについても、荒木リスペクトは入ってるんですか。
馬越 いや、俺はそこまでの表現力は持ってないので、そんな荒木さん風のバリエーションなんて一切できません。基本的には全部オリジナルです。そういう意味では、子供の頃に観ていたものが根っこに全部あると思いますけどね。

小黒 リンゴとかの方が、普段の自分の画に近い?
馬越 いや、全部、自分の画ですよ。描きづらいキャラって、ほとんどいないですから。「荒木さんに似せなきゃ!」と思って描いたわけじゃないですし。
山内 僕は最初にウマの描いたキャラを見た時、『星矢』に似てるとは思わなかったんですよ。誰かが少しずつ言い出してきて「えっ」と思ったけど、それでも分かんなかった。
馬越 ええ、俺も思わなかったです。他の人はなんとなく「ん?」と思ってたらしいですけど、あんまり言わない感じだったから(笑)。
小黒 僕はひと目見た時から「あっ、星矢じゃん」って思いましたよ(笑)。
馬越 いや、並べてみたら全然違うんじゃないですかね。ただ、画面の動きの中でキャラが手前にグワーっと来たりすると、時々「あっ、なんか『星矢』で観た事ある」と自分でも感じたりします。多分、あれは山内さんのコンテのせいですよ。
山内 なっ! また僕のせいにする(笑)。
小黒 もちろん『星矢』っぽいと思った理由は、ひとつには古谷(徹)さんの声もあるんですけど、アクションシーンで衝撃を受けた時の身体のひずみ方とか、やっぱり山内&荒木の『星矢』っぽい感じがしたんですよ。
馬越 『星矢』の荒木さんの画がああいう風になっていたのは、なんとなく俺、合点がいきましたよ。もちろん『あしたのジョー』とか昔の作品でも、荒木さんならではのしなやかさというか、そういうものは当然あるんです。だけど『星矢』のあの画は、山内さんのコンテでやってたからというのも大きいんじゃないかと思って。
山内 でも、僕はホント素直に「ああ、キャシャーンのキャラだ」と思ってウマの画を見てましたよ。ああいう綺麗なプロポーションって好きなんです。元々は須田(正己)さん系の、筋肉がガチッとしたものが好きだったんですけどね。
小黒 馬越さんは、タツノコのオリジナル版に対する意識はどのくらいあったんですか。
馬越 最初からあの路線をやるつもりはなかったです。あれはやっぱり相当な技術がある人じゃないと描けないですから。
小黒 つまり、タツノコ流のパキッとした動かし方という事?
馬越 というか、デッサンひとつとっても凄くリアルじゃないですか。立体の取り方とか、顔の造作とか、骨格の忠実さとか……今、あんなのを描ける人は俺も含めてホントにいないと思ったので、今回はどちらかと言えばマンガ的なケレンの方を強くしています。身体もアクションに応じてムチみたいにしなったり、縮んだり伸びたりするぐらいの方向で、そこはもう最初から決め込んでいました。多分、オリジナルの画は羽山(淳一)さんぐらいしか描けないんじゃないですかね(笑)。
小黒 タツノコリアルの画という事ですか。
馬越 ええ。
小黒 でも、確か第1話に出てくるツメロボットとかは、山内さんが「ちゃんと出さなくてもいいよ」と言っていたのに、馬越さんの方から積極的にデザインしていたと聞きましたよ。
馬越 いやあ、あれはオリジナルから格好いいと思ってて。例えばキャシャーンでも、体つきとかは変えましたけど、コスチュームはそのまんまじゃないですか。その辺は残しておきたいなあ、という意識がありました。前のリメイク版のOVAでは、それぞれ微妙にどこか変えてあったじゃないですか。
山内 そうだね。
馬越 みんなの中にあるオリジナル版のイメージが強いから、アレンジしたデザインにすると、逆にあっという間に古くなってしまう可能性があると思ったんです。そういうのも嫌だったので、オリジナルの印象はそのまま残したかった。まあ、安全なところを狙ったと言えばそうなんですけどね(笑)。一枚画を見ただけで、どんなキャラクターか分かる感じにできたら楽しいかなあ、と思ってやりました。
小黒 今回、例えばブライキング・ボスの身体にざくっとブラックを入れたりとか、かなり大胆な省略をされてましたよね。あれはやっぱり、みんなが動かしやすいデザインに、みたいな意図があったんですか。
馬越 そうですね。なるべく原画枚数を多く描いてもらおうと。1枚に時間をかけるんではなくて、1枚を描く労力で5枚ぐらい描ければいいかなあ、と思って(笑)。
小黒 本編作画の影の入れ方も、かなりざっくりとした感じですよね。
馬越 ええ。山内さんのコンテでも、結構そういうイメージだったんです。見せたいところだけノーマルで残すとか、そういう雰囲気重視の画が多かった。

小黒 なるほど。続けて作画の事を訊いていいですか? 今度は山内監督にお訊きしますが、『キャシャーンSins』はアニメーションとしてどういうプランでやっていこうと思われたんですか。さっき「なるべく線は簡単にして動かしたい」みたいな話も出ましたが。
山内 まあ、同じですよ。「哀愁」と「憂い」という部分は止め画で見せるけど、アクションはきちっとしたものにする。どういうものがきちっとしてるのか、最近はどんどん変わってきてるみたいだけども──今回の場合は、本当にタイマン。殴る、蹴る、やられる。なおかつ力が入っていて、重い、痛い。アクションのある回では、必ずそういうシーンを積んでます。一見ふにゃふにゃっとしたものを作ってるように見えるけども……。
小黒 いやいや、ふにゃふにゃには全然見えませんよ(笑)。
山内 とにかくデーンとしたアクションは必ず見せたいなと思ってました。それを入れると絶対に、1話あたりのカット数が350〜360カットはいっちゃうんですよ。アクションだけで50〜60積んじゃうから。
小黒 毎回、凄まじい見応えですよね。
山内 もっと少ないのもあるけどね。とにかくアクションは必ず一連で繋がった、カットバック基調の「魅せるアクション」なんです。殴る、殴られた、当たった、痛い。当たったから下がる、下がったら足でどうにか支える、その支えた隙を見て今度はボディに喰らう、みたいな。そういう、ちゃんとした意味がある格闘技。僕はそれがデーンとしてるアクションだと思ってるので、それを入れたいという気持ちがありました。元々アクション好きだし(笑)。
小黒 そうですよね。久々に「山内アクション」をいっぱい見たと思いましたよ。
山内 今回ちょっとだけいじったのは、(いつもアニメで描いているアクションよりも)スピードは絶対に速いと思ったんです。だから、1カット飛び越えたアクションのコンテを描いた。
小黒 というと?
山内 こう殴りました、来ました、当たりました、という段取りでいくらコマを速くしても、それじゃスピードが追いつかない。例えば、着地してからジャンプするまでを律儀に描くんじゃなくて、着地した姿は見せず、もうすでにジャンプした後の画を見せる。そういう途中のカットを抜いたアクションにした。
小黒 ああ、カット単位の中抜きをしているわけですね。
山内 そうです。スピード感を出そうと思って、1コマ単位で縮めるだけじゃ絶対に追いつかないし、目に入らなくなっちゃうと思ったから。今回ちょっと変わった事をやったと言えば、それくらいかな。
小黒 なるほど。馬越さん的には、今回のアクション作画についてはいかがでしたか。
馬越 そういう意味では、全部を通して見ると、統一はとれてると思います。当然その中に原画マンの人の癖とか、突出しているカットとかもあって、それはそれでバリエーションが広がった印象にもなる。かといってそればっかりになると、意外と普通に感じてしまうというか、あんまり印象に残らない。たとえアクションの作画がもうハチャメチャに巧くても。
小黒 一から十までガッツリ描き込んだアクションばかりでもダメだ、と。
馬越 そうです。そこでさっき山内さんの言っていた、そのカットになった瞬間にもう地面が凹んで、キャラクターの実体は一切見えなくて破片だけが散っているとか。そういう演出があったから独特の雰囲気が生まれて、そのタッチで統一できたんだと思いますけどね。まあ、話数によっては凄くガッツリ描いたものもありましたけど。
山内 それはそれで、印象が変わるからいいかな、と思って。
馬越 ええ。けれど、多分あればっかりだと、「ああ巧いね原画」「凄いね」で終わってしまう。いくら速く動かしても、結局『DRAGON BALL』のようなものになってしまう。強さの表現がもう限界というか、強さが伝わりにくくなってくる。だけど、実体を見せなかったら、もう本当に速いって事ですよね。それは作画もある意味、楽と言えば楽ですし。
山内 もう、アクションは全部ウマだから。
馬越 いやいや。
小黒 シリーズ序盤は毎回のように馬越アクションだったんですよね。
馬越 まあ、山内さんのコンテですからねえ。
小黒 監督から見て、馬越さんの仕事ぶりはいかがでしたか。
山内 ウマは僕より黒いんだよ。
小黒 「黒い」?
山内 黒いというか、ドーンとしたものがある。例えば、2話でルートがキャシャーンを刺すところなんて、完全にヤクザですもんね。
一同 (爆笑)
山内 ヤクザ歩きで、刺す時も下から腰だめでね。僕は、高橋英樹とかがやってた時代のヤクザ映画が印象に残っているからね。もし本当に殺そうと思ったらこうだ、というところを出したいんですよ。あの場面には本当にドス黒いものというか、「絶対殺してやるぜ」という感情が出てる。人間の身体の構造上、下から上へ突き上げた方がやばいんですよ、みたいな感じでザクッと(笑)。ああいう「黒さ」というか、本当に真に迫るようなものが欲しい。プラス、アニメーションとしてイメージ的なものも入れなくちゃいけない。今回のアクションで言うと、重くもあるし、軽くもある感じ。綺麗に飛んだりする一方、殴る時に凄く重かったり、あるいはスパって軽く切ったり。そういう感覚は、ウマが全部持っていてくれたよね。

●第3回につづく

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(09.06.16)