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■『グレンラガン』
制作秘話!!
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今こそ語ろう『天元突破グレンラガン』制作秘話!!
第4話 顔が多けりゃ偉いのか?



第4話 顔が多けりゃ偉いのか?
脚本/山口宏
絵コンテ・演出・作画監督/小林治
原画/小林治、沓名健一、堀元宣、林祐己、沼田誠也、永緒桂仁、吉成曜、芳垣祐介、森久司

●後にグレン団の仲間となる「黒の兄弟」ことキタン、キヨウ、キヤル、キノンが初登場。大らかでノーテンキなギャグ世界が展開する異色エピソードだ。『Paradise kiss』の小林治が絵コンテ・演出・作画監督・原画を手がけた、独特の絵柄が見どころ。放映時、よくも悪くも大反響を呼んだ事は記憶に新しい。


── さて、思い出深い第4話ですが(笑)、まずは内容面のお話から。
今石 とりあえず3話までで一段落だと思ってたんですよ。メインキャラも登場し終わって、あとはサブキャラが出てきたりするだけなので、それまではちゃんと作ろうと(笑)。本当は、4話以降は旅ものとして「今日はこんなところに行って、こんな事がありました」的な、1話完結スタイルのエピソードが大量に続くはずだったんです。だけど他にやりたい事がいっぱいありすぎて、4〜6話に圧縮してしまった。そういう意味では、4話は僕自身がプロットを書いた唯一の回なので、凄く思い入れがあります。いちばん『(はじめ人間)ギャートルズ』っぽい話ですよね。「その日のメシをどうするか」というのがいちばんの重要事だ、という話を描きたくて。それで、僕のプロットをもとに山口宏さんが書いたシナリオを(小林)治さんに渡したら、治さんがコンテに入る前に脚本を書き直し始めた(笑)。キャラクターの性格もそこで随分変わったんですよね。特に三姉妹。
大塚 キヤルの口調が「俺」になったのは……。
今石 そう、あれは脚本段階にはなくて、治さんが書いたんですよね。語尾の「だぜ」もそう。キノンの「〜ですの」とかいうのも治さん。最初は「3人おんなじでもいいんじゃね?」みたいなルーズな作り方だったんだけど(笑)、治さんが「それじゃつまらん」という事で広げてきたんですよね。
大塚 ちょうど6話のシナリオを書いてる時、4話のラフコンテが上がってきて、三姉妹の台詞がそんな事になってるから、慌てて合わせた覚えがある。
今石 大塚さんが6話を書いててよかった〜、と思いました(笑)。
── じゃあ、治さんはキャラクター造形にも一役買っているわけですね。
今石 そう。三姉妹は元々、6話の温泉要員だったので(笑)、そこまで立てるつもりはなかったんですよね。そしたら治さんが1人1人のキャラを作ってきたので、だんだん愛着がわいてきたというか。錦織もやっぱり3人同じというのはイヤだったと思うから、画の方でも変えてきていたし。自然といえば自然な流れだったかもしれない。
── もし治さんが4話で彼女達のキャラを立てなければ、第3部以降の扱いも違っていたかもしれないんですね?
今石 そうですね。むしろ『おそ松くん』みたいに、いつも3人とも同じ言動をとる、みたいな方向に行ったかもしれない(笑)。ただまあ、完全なギャグ要員として扱うつもりも、最初からありませんでしたけど。最後の真面目なところではちゃんとする、みたいな。
── なるほど。


今石 4話は、コンテも独特だったけど、この回まで監督チェックするのは茨の道だな……というのは明らかに見えていたんですね(苦笑)。僕の中では、4話・5話・6話というのは最も自由な世界だった。その後で第2部、第3部とある事を考えると、「ここを締めつけたら一体どれだけ締めつけなきゃいけないんだ!?」という恐怖があって。だからバランス的に、ここは意図的にでもいいから絶対に凸凹させておきたかったんですよね。4〜6話はむしろ全然違うアニメに見えるようにしたかった。だから4話は、ほとんど直してないです。尺オーバーの調整と、僕が入れたかったネタを足すぐらいにとどめて。レイアウトまで直しちゃうと、治さんも演出しづらくなっちゃうし、こっちにレイアウトチェックの仕事が回ってきちゃうんで、それは回避したかった(笑)。
大塚 多分、4話は『グレンラガン』の中でいちばん人間が動いてる回だよね。4話を治さんに振ると聞いた時、最初は意外な気がしたんだよなあ。
今石 そうですか?
大塚 シナリオの内容がかなり弾けてたし、正直これを振られたら困るな〜という回で(笑)。そしたら治さんがやると聞いて、「大丈夫かな? 治さんも困るだろうになあ」と思ってたけど、ちゃんと自分の世界を入れつつまとめてきて「ああ、こういうふうに行ったか」と。苦労したんじゃないかと思うんですよね(笑)。
今石 そこら辺は、アニメ業界漬けになっていない治さんの長所だと思うんですよ。普通の人なら真面目に考えて困っちゃうと思うけど、むしろ面白がってくれたんじゃないかな。毛むくじゃらの奴を喰おうとするとか。


大塚 そうそう、あれは最初のプロットにはなくて、何度めかのシナリオ打ちの時にいきなり今石君が「獣人を食べるシーンを入れたい」とか言い出して。この人、何を言ってるんだろう? と思った(笑)。
今石 ダッハハハハ!
大塚 生のままかじるとか、意味が分かんない(笑)。
今石 要は、地上に出てきた主人公達も人間であり、同時に動物であるという事が言いたいんですよ(笑)。獣人も、人であるけれども獣でもある。お互い肉食なんだから獣の肉を喰うだろう。それなら共食いギリギリ寸前のところまでいくんじゃないか、という事ですよ。
大塚 (呆れ笑い)。最初にアイディアとして16体合体メカというのがあって、カミナとシモンの合体特訓シーンとかも入るから、熱血回にするのかな? と思ってたんだけど。
今石 あれは『21エモン』でそういうネタがあって(笑)。21エモンのホテルに宇宙服を着た宇宙人が泊まりに来るんだけど、実は小さなボールみたいな形の宇宙人が十何人ぐらいでひとつの宇宙服に入っていて、宿代を浮かそうとするというネタがあるんですよ。で、部屋にボーイとかが入ってくると慌てて合体して変な形になる。これだ!(笑) これなら16体合体しても、ガンメンと乗る側とで辻褄が合うぞ、と。それで獣人を丸い形にしたら「これ喰えるんじゃないかな?」という気がして(爆笑)。
── あれは獣人の中でもかなり下等な部類に入るんですか?
今石 基本的に、獣人は頭もそんなによくなくて、字も読めないんです。だからガンメンの操縦モニターには文字が出てこないんですよね。絵でしか説明できないから。
── ああ、なるほど。
今石 例えば危険な状況になって「危険」という文字が出てきても読めないので、×マークとか手の形とかで知らせるようになってる。そういう意味で、4話は非常にこだわりのある回なんですけどねえ(笑)。
大塚 今石バージョンの4話も観たかった気がするね。
今石 僕がやると、今言ったようなこだわりがストレートに出ちゃうと思うんですよ。それはあまり面白くないな、とは感じていたんですよね。でも、治さんの全然関係ないテイストで薄まると、ちょっと不思議な事になるんじゃないかと。
大塚 確かに不思議な事にはなったけれどもね(笑)。
── 元からちょっとタガの外れた話を、小林治テイストで料理して、今の4話になったという事なんですね。
今石 でも意外とナンセンス的な気分は、僕と治さんって近いんじゃないかと思うんです。その意味でも4話はこれでイケると思いましたね。本当は、治さんには凄くシリアスな回と、凄いギャグの回と2本ぐらい振りたかった。でも治さん、「メカが描けねえ!」って悩んでましたね。実際ラガンの大きさもまちまちで、「シモン小さすぎですよ!」つって、仕方ないんでシモンのセルだけ拡大して大きさ合わせたりとか(笑)。
── その辺は治さんの得意分野からは外れますよね。


今石 メカシーンは主に沓名(健一)君とかが原画を描いてます。前半では沼田(誠也)君が面白い走りを描いていて、後半のアクションはほとんど沓名君です。普通に巧いですからね。転がって煙が上がって、また起き上がって駆け寄っていくとか、よく描けるなーと思いますよ。ロケットパンチとかもそうだし。で、合体後のグレンラガンは治さんパートで、これがまたメチャクチャ動かない(笑)。しかも16個串刺しにしてくれって言ったのに、6個ぐらいしか刺してくれないんですよ!
一同 (爆笑)
今石 でもまあ、200カットも原画やって治さんも大変そうだし、これ以上描けとは言えんなあと思って。だけど合体したら動かないというのも、それはそれで金田伊功的じゃないですか(笑)。スタジオNo.1っぽいというか。
── 元金田伊功ファンクラブ会長ですからね、治さん。
今石 だから、かなり高度な金田テクニックを出してきたという事ですね(笑)。
── 仕上がりとしては満足していますか?
今石 当然満足してます。まあ、みんな困惑するだろうなとは思ったけど(笑)。あそこまでの反応は予想外でしたね。絵が違うと言われるのも分かっていたけど、それは違ったものにするつもりで描いていたので当然だろうと。こんな訳の分からない話をギチギチとした作画でやってもしょうがないだろ、という気分もあったし。
── 治さんの名誉のために言うと、ストーリーのバカバカしさは元からの意図なんですね。
今石 そうです。登場人物の知能指数が低いのも監督の意図です。「こいつら頭がカラッポなんだ」というのを描く事に、勝負をかけてましたね(笑)。
── 3話までの流れで、みんなが「かっこいいアニメ」を期待したのとは裏腹に。
今石 そういう意味では、3話までを真面目に作りすぎたというところもあるんですよね。OVAじゃないんだから一応セーブしているつもりなんだけど、やれる範囲の事はやろうとも思っていたし。僕自身も今回はもっとお客さんに優しく作ろうと思っていたので、あんまり雑には作れなくて。
大塚 カミナが思った以上にかっこよく描けちゃったというのもあるよね。最初はもっと熱血バカみたいな部分が前面に出るのかと思ったんだけど。小西(克幸)さんが演ってくれたというのも大きいのかな。わりとみんなに受け入れられるキャラになっていった。
今石 カミナがどう受け入れられるのかというのも、初めはよく分からないままやっていた部分でしたよね。でも僕は、カミナのシーンはなるたけ照れずに描こう、とはずっと思っていたから。本人はかっこいいと思っているけど、端から見ると笑っちゃうという視点じゃなくて、カメラの方も「こいつかっこいい」と思って撮っているふうにしようと。その向こうでお客さんがクスクス笑うぶんには構わない。けど、こっちはあくまで本気。そのぐらいのつもりでやろうと思ってました。
大塚 こちらの想像以上に、それが上手くいっちゃった……という言い方もどうかと思うけど(笑)。そのギャップが4話で出たのかな?
今石 かもしれませんね。

●第5話へつづく!!


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http://www.gurren-lagann.net/

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(08.01.09)

 
 
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