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■『トップをねらえ2!』秘話
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鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話
第6回 情報を捏造するという意味での「萌え」


小黒 最終回に出ていた「多元宇宙内 時空検閲官の部屋」って、SFに詳しい人にはすぐピンとくるものなんですか。
鶴巻 分からないでしょうね(笑)。
佐藤 公式ページにブラックホール講座がありますので、ご覧ください(笑)。
鶴巻 SFっていうのは、一般の人には全く興味のない事なんです。『フリクリ』のファンに、「SFの部分はあんまり興味ない、むしろなくてもいいです」みたいに言われて、がっくりくるんだけど(笑)。ただ、ドラマにSF的な部分をガッツリかませようとすると、その事に時間を取られちゃうので、それをどうするかは悩む部分です。「多元宇宙ナントカ」みたいのは、それこそテロップ1枚入れればいいだけだから、説明する手間をかけずにSFを描ける、という事ではありますね。
小黒 “部屋”っていうのが微妙ですよね。
鶴巻 (笑)。「宇宙検閲仮説」っていうのは、SFじゃなくて物理学の考えで、この宇宙に特異点が現れないようにする力が働いているという事を「宇宙検閲仮説」って言うんです。「検閲」というからには「検閲官」がいる? と思うじゃないですか。「グレートアトラクター」を宇宙魔王みたいにイメージするのと同じです。偉そうな感じのマホガニーの大きなデスクとか、辞書や百科事典や法律に関する書物が並んでいる部屋を連想して。
小黒 なるほど。それはコンテ段階?
鶴巻 いえ、あれはシナリオに入っています。ただ、そこを普通にマホガニーのデスクとか、図書館とか裁判官風な部屋にしちゃうと、ちょっと「2001年(宇宙の旅)」的すぎるかなと思って。もっと『トップをねらえ!』らしい画にできないかと、ああいうかたちにしました(笑)。
小黒 ノノが「私の特異点を捧げます」と言いますが、あれはどういう意味なんですか。
鶴巻 ノノは主役バスターマシンなんだから、最後はガンバスターのように自分の胸の中に手を入れなければいけないと考えたんだけど、それをラルクの手でやっているという事ですね。で、ノノ自体をあまりメカニカルにしたくなかったので、胸がバコンと開くような感じにはしなかった。僕の中では、ノノは、構造的にはそんなに人間と変わらないですし。あの場面、変動重力源本体はすでに合体技で粉砕してますから、最終的に問題になっていたのは、変動重力源が持っていたブラックホールなんです。ノノがそのブラックホールの根本的な部分である特異点を持ち去った事によって解決するわけです。
小黒 ノノが手に持っていたのが変動重力源の特異点で、それを持ち去って、自分の縮退炉の中の特異点を使って事件を解決したという事なんですね。
鶴巻 ノノリリの輝かせた特異点は『トップをねらえ!』それ自体を象徴しているわけで、『トップ』的な事を求め続けたノノは、ついにそれを手に入れたという事です。一方で、ノノはラルクに自分の想いを残したいと思っていて、それが折り鶴として残ったという事です。折り鶴もトップレスの表現のひとつであって、トップレスっていうのは、情報を別の情報に書き換える力なんですね。折り鶴の場合、元々の情報はお菓子の「包み紙」なんだけど、ラルクが手を加える事で、その情報が「鶴」という別の情報に変わった、とも言える。それ自体は誰でもできる事で、正確にはトップレスではないけど、折り紙もトップレスも親戚みたいな力と僕は思っている。
小黒 つまり普通の人がする「折り紙」も、情報を置き換えるっていう行為だと?
鶴巻 それは精神を持つ生命体には必ず宿る能力、それがトップレスという「情報の再構築能力」だと、僕自身はそういう定義をしていて、「見たもの知ったものをそのままではなく、自分で加工してから、受け入れたり、表現したりする」。ありていに言えば想像、妄想する力ですかね。それに加えて、トップレスというのはオタクのメタファーというのがあって。それは、大人になるとオタクを卒業しちゃうから、というだけではなくて、僕にとって「オタクである」というのは、「萌え」とかなり密接に結びついているんです。僕にとっての「萌え」っていうのは、ただ「かわいい」という意味ではなくて、ありもしない情報を捏造する行為なんですよね。
小黒 人について? キャラクターについて?
鶴巻 どちらでも構わないんじゃないかな。あの女性は、会社ではあんなにガチガチのキャリアウーマンなんだけど、家に帰ったらちょっと自堕落な生活をしていたら萌えるなあ、みたいな事です(笑)。だって、それは本当の情報ではないんだから。妄想の世界。それだって、ただ妄想するんじゃなくて、例えばあんなにツンツンした女性なのに、アイロンのかかっていないハンカチを使っていたぞ、っていうような事からボロボロと連想しちゃう。そういう事が原始的な「萌え」だなと思っている。だから、僕の中では、トップレスは、思春期というよりはオタク的な感覚のメタファーだった。
小黒 観てる人には「思春期」と言った方が……。
鶴巻 分かりやすいですね。
小黒 ラルクに残された鶴には、どんな意味があるんですか。
鶴巻 『トップ』で折り鶴と言えば、タカミがお姉さまに手渡した千羽鶴を連想すると思いますが、「元気でいてほしい」という想いを込めて折られる鶴も表しています。ラルクへの餞別であるだろうし、ノノは結局地球の鳥を見る事はできなかったけど、千羽鶴(折り鶴)に象徴されるような地球的なまごころに触れる事はできた事への感謝でもある。もうひとつ、折り紙を作る行為もトップレス的と言ったように、トップレスは暗黒面も見え隠れする力であるけれど、全てまとめて否定すればいいわけではない。それは失ったとしても続いているでしょ、という事ですね。
小黒 続いていくというのは、想像する事が?
鶴巻 生きていくというのは、想像し続けていくという事でしょう。「もっとこうなりたい。こうすればよかった。ああすればよかった」。でも、実際に経験した事を、否定しながら生きていくのは間違いだろうと思うんです。
小黒 そんなに、オタク論として作りたかったんですか?
鶴巻 うん。
小黒 後づけじゃないんですか!?
鶴巻 僕にとって『トップをねらえ!』はオタクテーマの物語なんだから、その続編もそう作りたいと思っていた。
小黒 スゲー。
佐藤 企画書にも書いてあったでしょ。
小黒 公式サイトにも「かつてオタクだったオトナたちへ……」とあったよね。だけど、ああいうコピーがそのまま作品の本質だとは思わないよ。
鶴巻 僕はテーマから入るタイプですよ。結果的にほとんど出ていないのは、何でだろうと思うけど。
佐藤 ハハハ(笑)。
小黒 出ていないというのは?
鶴巻 「『トップ2』=オタクテーマ」って、誰もそういうふうに観ていないでしょ?
小黒 僕も思春期の話だと思っていた。
鶴巻 まあ普通に考えたらそうだし、榎戸さんもトップレスを万能感やアイドルに喩えているわけだけだから、思春期や若さとして捉えていいんだと思います。実際、そのようにも描いている。『トップをねらえ!』が積層された多重のテーマを持っていたように。
小黒 『フリクリ』では、額から色々な道具を取り出していたじゃないですか。あれもオタク能力と同じ事なんですか。
鶴巻 創作活動のアニメ的表現だから、あれもオタクの力のひとつではあると思います。「ロボットがこう動いたらカッコいいのに!」という事を思いついたら、そのとおりロボットが動いちゃった、みたいな事。ただし限定的で、自分自身に近い感覚として描いてる。『トップをねらえ2!』はもっと一般的なオタク性をテーマにした「萌えテーマSF」であって……。
佐藤 「萌えテーマ」って、新ジャンル誕生ですね。
鶴巻 「萌え」って言っても、「メカ萌え」だってあるし「設定萌え」っていうのもあるし、「世界観萌え」っていうのもあるだろう、という意味での「萌えテーマSF」だから。
小黒 『フリクリ』の時は頭から物が出てきて、『トップをねらえ2!』は額が光って超能力使うから、バージョンアップなんだと思ってました。
鶴巻 『フリクリ』の時は物が出てきていたから、アニメーションとして分かりやすかった。今回のはそれを理屈のあるSFとしてやろうとしたんだけど……。
小黒 しかもセリフで説明もしない。
鶴巻 どこかで説明できると思っていたんだけどね。まあ、僕個人にとっての指針程度の意味と考えてもらって構いません。
小黒 星を動かすというのも情報を組み換えるという事なの?
鶴巻 情報と存在はもう同義なんです。「ある」っていう情報があるから、存在している。「ある」という認識がなされるから存在しているっていうのが、量子論SFでよく出てくるんですが、ラルクがエキゾチックマニューバを使って「星がそこにある!」という情報を与える事で、そこに星が現れるみたいな事。ただし、ありもしないものを全く新しく作り出す事はできないんです。「萌え」だから。つまり、あくまでモノがあって、それに対して「こうだったらいいのに」っていうのはできるけど、全くないものを、新しく創造してしまうのは「萌え」とは違うと思うから。
小黒 オタクはネタが必要?
鶴巻 そう。だからラルクも雷王星の中心核があるっていう事を知っていて、「それがここにあればいいのに!」って事ならできる。「『ガンダム』にもツインテールの女の子がいたらいいのに!」みたいな(笑)。
小黒 凄い局地的な喩えでしたけど……なるほど。
佐藤 クェス・パラヤの事かー!(悟空風に)


●鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話 最終回に続く


●関連サイト
『トップをねらえ2!』公式サイト
http://www.top2.jp/
[DVD情報]
「トップをねらえ2!&トップをねらえ!合体劇場版!! BOX 」(初回限定生産)
BCBA-2786/カラー(一部モノクロ)/(予)345分(本編DISC1:約95分+本編DISC2:約95分+特典DISC1:約95分+特典DISC2:約60分)
価格:15540円(税込)
発売日:2007年1月26日
初回特典:特典ディスク1『トップをねらえ! 劇場版』上映版ディスク、特典ディスク2(キャストインタビューをはじめとした映像特典ディスク)、ノリコ&ノノ フィギュア、ブックレット、収納BOX
発売・販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]

[書籍情報]
トップをねらえ2! 画コンテ集 ガイナックス アニメーション原画集シリーズ (ムック)
A5版 888ページ
価格:3465円(税込)
発売中
出版社: ガイナックス
[Amazon]
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(07.01.30)

 
 
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