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■『トップをねらえ2!』秘話
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最終回
 
鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話
第3回 トップレスとオタク


小黒 では逆に、能力を失う話にしようとしたのはどうしてなんですか?
鶴巻 うーん……僕がそういうネガティブ話が好きだからでもあるし、自分を投影する話として、それが描けるかなあと思ったというのがありますね。なぜ僕がこの仕事をやっているかというと、オタクだから、であるわけですけど。
小黒 ああ、なるほど。そこでさっきのノリコとオタクの話に戻るんですね。
鶴巻 アニメ作ってるのが楽しくなくなっちゃったら、僕はどうするんだろう? 楽しい面白いと感じる事ができない仕事を、残りの人生続けていけるとは思えない。もっと若ければ、例えばまだ20代なら、別の仕事をやるという手だってあるんだろうけど、『トップ2』が完成する頃には、40歳に手が届く年齢になっているのは分かっていましたから。そういう身に詰まされる部分をラルクに投影できるかもなあと。
 アニメ様の足下にも及ばないとはいえ、若い頃の僕は、面白そうだと思うアニメはとりあえず全部チェックしていたし、もの凄い数のアニメを観ていたんですよ。ところが『エヴァンゲリオン』に参加したあたりから、あまり観なくなっている自分がいて、という事もありますよね。一方で、『エヴァンゲリオン』の時に「もうオタクは卒業しようよ」なんてメッセージを出していたわけじゃないですか。
小黒 「現実に帰れ!」ですよね(笑)。
鶴巻 と言っている自分は「現実に帰ったらどうなるの。俺?」。40歳になって、アニメしか能がないのに、どうするのよ? というような事をちょっとだけ考えていたっていうのがあるかなあ(笑)。
小黒 (笑)。今は作るのは楽しいんですか?
鶴巻 うーん、でも『トップ2』は作っていて、相当に苦しかったというのはあって。そういう意味じゃ、そろそろアガリを迎えているのかもしれないですね。
小黒 オタクのアガリを。
鶴巻 例えば『フリクリ』は、作っていて楽しかったんです。今思い出しても、楽しかった事ばかり思い出す。もちろん『エヴァンゲリオン』も体力的には限界だったけど楽しかった。だけど『トップ2』は苦しかったんですね。
小黒 内容的にも、作り手が発散する感じの作品ではなかったですものね。
鶴巻 監督として2本目でもあるし、自分が楽しいだけじゃない。会社としてのGAINAXの事を考えて作ろうとしたし、『フリクリ』よりも観る人の事を考えて作ろうとした、という事かな。
小黒 観ていて「こんなに考えなくていいのに」とは思いましたよ。
鶴巻 自分でも「なんか余計な事をしてるな」っていうのは感じてましたね。
一同 (爆笑)。
佐藤 わりと最初から、山賀社長が企画で、僕がアニメーションプロデューサーで、鶴巻が監督っていう事で、「オタク万歳ではないもの」になるだろうなというのは思っていました。大人になったり、オタクをやめても人生は続くんだというのもあるし、「萌え、萌え」ばっかり言っていてもしょうがないだろうと思いますものね。「萌え」が嫌になるという事なんか僕にはないんだけど、飽きる事は確かにあるだろうし、続けていくってどういう事なのかも込みで、そういった事についての否定も肯定も描ければなあ、というのがあったんですけどね。
小黒 せっかく今、発言されたので質問しますが、てんちょさんも、さっき鶴巻さんが言ったように、1作目がオタクの世界にどっぷりじゃなくて、それに対して批判的に見ている部分も入っていると感じる?
佐藤 端々に出ていると思うけど、それはちょっと感じるくらいだけどね。よく見るとシナリオ的にはそういう部分があるんだけど、庵野さんは当時のアニメファンに向けて、全力で喜ばせるように作っている感じだよね。
鶴巻 そこもオタク特有のセンスなんだろうと思うんです。観る人を喜ばすという事に対して必要以上のサービス精神がある一方で、どこか喜んでいる人をコントロールしている事に優越感も感じている。「ほら、僕に喜ばされちゃったでしょ」というところ、多分……。
小黒 ああ、それは分かる。
鶴巻 でも、そういうところを含めて面白いアニメだなあと思った。日本中のオタクたちから羨望のまなざしで見られていたオタクトップ集団GAINAXが、そんな風に作っているという事自体が面白いと思ったし、しかも、GAINAXの中でもスーパーオタクである庵野秀明が、脚本のそういった部分を意識しないで作っている。当時すでに、作品の根底に流れていた自分自身のオタク性へのシニカルな見方と演出の方向が乖離している……。意図的なのか、無意識なのか、庵野さんは自身のオタク性を全肯定する勢いで、好きな事を、好きなように表現しているだけに見えた。
小黒 庵野さんは屈託がなく作っているわけだ。
鶴巻 うん。
小黒 『トップをねらえ!』というタイトルからして、不真面目だもんね。
鶴巻 そうです。
佐藤 当時のインタビューでも話していると思うけど、最初の『トップをねらえ!』は『オネアミスの翼』の後にバンダイビジュアルさんから発注された企画だよね。『オネアミスの翼』が喜ばれなかったと言うわけじゃないけど、「次はみんなが喜ぶようなもの作ってください」と言われたらしいんですよ。本人達はそんな事は言わないけど、それに対して岡田さん、山賀さんはカチンときたみたいなところがあったんじゃないかなと思う。その頃の岡田さんのインタビューの端々に「これが面白いんでしょ? どうぞ笑って。喜んで」みたいなニュアンスを感じるですよ。ファンと一緒に喜んでいるわけじゃないんですよ。喜ばして“あげる”という姿勢。それで一番最初に喜んだのが、庵野さんだったんじゃないかと思う。
小黒 なるほどね。
鶴巻 勿論、それが凄まじく高い技術で作られている。特に脚本・演出で技術的にレベルの高い事をやっていて、そういう事を抜きに観ても、傑作になるのは間違いないものなんだけど。全てのオタクに認められるような傑作アニメでありながら、根本にそういった黒い部分があるのが、凄くいいというか、面白いと。
小黒 作品の構造として、アニメファンを楽しませようとするところに黒さが見える?
鶴巻 楽しませる事に関しては、純粋にやっているんですよ。だけど、その楽しませる事自体にさえ、ちょっとした悪意もあるんですよね。
小黒 あまりにも楽しませようみたいな姿勢が、はっきりと見え過ぎるという事ですね。その辺が、当時の他のOVAと格段に違うわけだよね。
佐藤 好きで作ってんとちゃうぞ、みたいな。
小黒 だけど、庵野さんは好きで作っていた。
佐藤 面白がらせようとして作った企画を、本気で好きで作った、みたいなのはあるんじゃないかな。
鶴巻 「愛国戦隊 大日本」の頃からあるでしょう。あれを観て軍国主義的国粋主義的映画だと思うのは本当のアホであって、あれこそがアナーキー映画なんだと思う。それと同じ構造が『トップをねらえ!』にもあるのかも。
小黒 「大日本」は、日本の事なんてどうでもいいよと思って、ああいったフィルムを作っているけれど、同じような事が『トップをねらえ!』を企画する側にはあった?
鶴巻 当時、一ファンとして観ていた僕はそう感じていたし、実際そうだったと思っています。直接、庵野さんや山賀さんに確認したわけではないから、分からないけど。少なくとも、『トップをねらえ!』をそのように見ていたオタクが、『トップ2』の監督をしてしまったという事ではあります。
佐藤 まあオタクであるかどうかというのは、岡田さんが、後で滑り込ませたのかもしれないと思うけど。最初はそんなに表面的に見えるものではなかったかなあと思うからね。


●鶴巻和哉が語る『トップをねらえ2!』秘話 第4回に続く


●関連サイト
『トップをねらえ2!』公式サイト
http://www.top2.jp/
[DVD情報]
「トップをねらえ2!&トップをねらえ!合体劇場版!! BOX 」(初回限定生産)
BCBA-2786/カラー(一部モノクロ)/(予)345分(本編DISC1:約95分+本編DISC2:約95分+特典DISC1:約95分+特典DISC2:約60分)
価格:15540円(税込)
発売日:2007年1月26日
初回特典:特典ディスク1『トップをねらえ! 劇場版』上映版ディスク、特典ディスク2(キャストインタビューをはじめとした映像特典ディスク)、ノリコ&ノノ フィギュア、ブックレット、収納BOX
発売・販売元:バンダイビジュアル
[Amazon]

[書籍情報]
トップをねらえ2! 画コンテ集 ガイナックス アニメーション原画集シリーズ (ムック)
A5版 888ページ
価格:3465円(税込)
発売中
出版社: ガイナックス
[Amazon]
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(07.01.25)

 
 
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