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リニューアル記念放談 佐藤竜雄×小黒祐一郎
その5 やっぱり大事なのは心意気だ


小黒 今、ファンの年齢の話が出たけどさ。40代は大げさにしても、もう30代ぐらいが、DVDのコアターゲットじゃない。
佐藤 そうですねえ。
小黒 俺も『セーラームーン』とかが大好きな人だから、「萌えアニメ」を否定するつもりはないんだけど、そればかりでいいのか、と思うのよ。別に可愛らしい女の子がいっぱいいる世界で、ほのぼのとした話をやってくのもいいんだけど。何かねえ、大人が観るものなら、それとは別に視聴者に対して何か提示できる内容があると思うんだけど、それはどうなんだろう。それは別にアダルトな事をやるべきだという事ではなくてね。
佐藤 今は作品である前に、商品である事が求められたりするから、難しくなっているんだろうね。そういう意味では、去勢された作品を作んないといけないから。
小黒 大人相手でなくても、高校生とかに向けて、作品を通じて「面白さ」以外のもの、例えば、メッセージを発信してもいいんじゃないかと思うんだよね。「少年は大志を抱け」でも「夢とロマン」でも、そういう手垢がついたものでもいいと思うんだよ。
佐藤 昔の企画会議で、おじさん達が押しつけてきたものが、そういった通俗的なテーマだったりして。実は、それをやる事が結果的によかったという事もあったからね。
小黒 その場合の「通俗的なテーマ」って?
佐藤 だから「困難に立ち向かっていく勇気」とかね。
小黒 なるほど。「思いやりは大切だ」とかね。
佐藤 あるいは、悪を裏切って、正義の側で戦うんだけど、頑張っているうちに自分の闇に気がつくみたいな。『タイガーマスク』じゃないですけども。
小黒 ああ、あれは大人のドラマだよね。
佐藤 うん。
小黒 「人形と人間は同じなのではないか」とか「今、僕のいるこの世界は現実なんだろうか」なんてテーマも悪くはないけど、もっと、何かないのかい! と思うわけさ。
佐藤 でも、そういったものってテーマというよりは、第2テーマだよね。
小黒 ああ、そうだね。表面的なテーマだね。
佐藤 第1テーマというか、大事なテーマは、もうちょっと根っこにあるものだと思いますよ。描いていく上で生じるものはある意味二次的なものだと思うので。
小黒 他にやりたい本質的な事があって、それをやっていくと「人形と人間は……」みたいなテーマが生まれるという事ね。
佐藤 うん。そういった簡単に言葉にできる事以外に、作品の根っこになるものは、ちゃんと存在してるはずなんだよね。でも、それを企画に乗っけてやってくのは、結構大変なんだよ。俺も、そろそろ、そのノウハウが分かってこないとヤバイかな。
小黒 『ムリョウ』の話に戻すと、竜雄さんがやりたかったテーマは、あの日常的なムードにあるわけだよね。
佐藤 まあ、そうだね。雰囲気から読み取れるものこそがテーマだったわけだから。
小黒 話の大筋としては宇宙戦争とかあるけど、「しかし、人の営みはこうだよね」みたいなところが大事なわけでしょ。
佐藤 「流れていく時間」ですね。
小黒 あれはヒットはしなかったけど、やりたかった事がある作品だから「なるほど」と思って肯定できるんだけど。いや、この発言は偉そうだな(笑)。
佐藤 まあ、いいですよ。アニメ様だからね(笑)。
小黒 ああいった志を、なんで深夜アニメで持てないのか(苦笑)。
佐藤 深夜アニメって、ある意味、やり逃げしちゃっていいんだからね。お金を出す人達がやり逃げのつもりでやってる企画なんだから、それに乗って勝手な事をしてもいいと思うんだけどね。だけど、その一方で手堅くやんなきゃいけなくなってるんだろうなあ。やっぱり1万本とか2万本を狙うために、ガチガチな作り方を強いられてるわけじゃないですか。だけど、手堅い作りで、今後も同じように売れていくかというと、分からないわけでしょう。
小黒 話は変わるけど、竜雄さんにとって、自分の作品が「オリジナルかどうか」というのは大事な事なの?
佐藤 そうですね。心の内なるモノがあるうちは、まだまだこだわりたいと。そういや「竜っちゃんはオリジナルにこだわった方がいいよ。惚れ込んだ原作に出逢った時に原作ものをやればいいだけの事だし」と、杉井(ギサブロー)さんにも言われた事があったなあ。「そんな出逢いはないと思うけど」って後にオチがあったけどね(笑)。
小黒 へえ。
佐藤 で、オリジナルにこだわっている理由は──立ち上げの時に自分がやりたい事を入れてくところで、逃げずにやれるからかな。
小黒 そうだよね。
佐藤 いろんな意味で逃げたくないんでね。やっぱり死ぬまでは……って、いつ死ぬか分かんないけどね。とりあえず死ぬまで、アニメを作っていきたいですからね。
小黒 ここで終わらせてもいいけど、最後に何かまとめっぽい事を言ってよ。
佐藤 『ムリョウ』の頃からちょっと感じている事だけど、現場の雰囲気が変わってきたよね。アニメを労働としてしか考えていない人が増えたかなあ、という気がする。なんのために作ってるのかなあ、と思ったり。
小黒 そういう事が改善されるのは、難しいだろうね。
佐藤 まあ、心意気の問題なんでね。これは国とか都が金を出したからって、直る問題じゃないんでね。
小黒 それを直すとしたら、個々の作品を作る過程でやっていくしか、ないんじゃない。
佐藤 そういう事ですよ。前に大地(丙太郎)さんと何人かで「フリーの監督やキャラデザとかで協会みたいなものを作ろうよ」と画策してた事があったんだよね。だけど、そんな協会を作ったところで、現状はやっぱり改善されないんじゃないか。懇親会みたいになるのは目に見えてるから、そんなのはやめようという事になってさ。そんな事より俺達が面白いアニメを作ってやろうぜっていう気持ちを持ち続けていく事が大事じゃないか、というのが結論。そのために必要な事があれば互いに協力すればいいだけだし、括りをわざわざ作る必要はないですねという事で。いちばん大事なのは作品の熱気であって、それに関わる個々の現場だから。元気な作品がどんどん増えて、スタッフがアニメを作る事に対して誇りを持つ事ができるようになれば、状況も変わっていくと思うんだけどね。じゃあそんな事言ってるお前は、今何やってると言われると思うんだけど……その辺詳細はまた来年、という事で。今は言えない(笑)。

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(05.06.23)

 
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