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リニューアル記念放談 佐藤竜雄×小黒祐一郎
その1 それは10年前に始まった


PROFILE
佐藤竜雄(Sato Tatsuo)

アニメーション監督。1964年7月7日生まれ。神奈川県大磯町出身。主な監督作品は『飛べ!イサミ』『機動戦艦ナデシコ Martian Successor NADESICO』『ねこぢる草』『学園戦記ムリョウ』『宇宙のステルヴィア』など。現在は次回作の企画と『機動戦艦ナデシコ』のリマスター作業を進めている。オフィシャルHPのサトウタツオ通信[http://www.dragon-brave.com/]もチェック!
 

PROFILE
小黒祐一郎(Oguro Yuichiro)
アニメ雑誌編集者。1964年5月1日生まれ。埼玉県出身。「WEBアニメスタイル」編集長で、ニックネームはアニメ様。現在は「アニメージュ」(徳間書店)で「この人に話を聞きたい」を連載中。小黒の「編集長メモ」[http://animesama.cocolog-nifty.com/]は、ほぼ毎日更新中。
 
小黒 じゃあ、開口一番。最近思うのは、個々のアニメのビジネスのスケールが小さくなっているんという事なんだよ。作る前から「この企画なら、売れる本数はこのくらいだから、使える予算はこれだけね」というのが見えている気がする。
佐藤 ああ、そうね。「300カット、3000枚ね」なんて、プロデューサーに口癖のように言われてしまうと「えー」と思うものね。そうなったきっかけは、やっぱり1995年あたりにあるわけだけど。
小黒 ああ! やっぱりその頃の話になるんだ。あなたも僕も無関係じゃない話題だね。
佐藤 そうそう。あの頃、(ゴールデンタイムで全国区で放送する番組のような)大きな括りで作ってるアニメがある一方で、そういった作品に参加できない会社が、メジャーでない企画をスキマにねじこむかたちで始めた作品。いわばスキマ産業だよね。そんなゲリラで始めたものが、結構成功していって、それがいつの間にかモデルケースになっちゃったという事なんだろうね。そういった「95年型モデル」(苦笑)は、最初はゲリラだったはずなのに、正式な部隊になってしまった。ゲリラは密林にいるからゲリラなんでね。大平原に出てきちゃったら、ただの貧弱な武装集団だった……というのが、ここ数年の状況だと思うんですけどね。
小黒 竜雄さんが言っている「95年型モデル」というのは、『エヴァ』や『ナデシコ』に代表される作品の事だろうけど、あの頃は、他にも元気のいい作品はあったよね。
佐藤 そうだね。要は通らないような企画を、どうにかしてTV作品にするために生まれたのが、製作委員会方式だからね。
小黒 あの頃って、どれだけ頑張ればどれだけ売れるか、というのが見えなかったから。
佐藤 作る側が遮二無二やってたから、小黒さんが言うような熱気はあったかもしれない。まあ、当事者の俺が言うのも変だけど、たまたま当たったのが続いたので、関係者達は「いけるじゃん♪」と思ったんだろうね。問題は、そこからさらにビジネスとして広げていけばよかったのに、守りに入っちゃったという事だよね。そうなってしまった理由としては、お金を出す方――プロデュース側が、自分のやりたいものを随分小さいものとして捉えてしまって、作品作りの先にあるものに関心を持たなかったというのが大きいよね。これはかなり勿体ない事をしたと思う。
小黒 まあ、今の現状を見ると、確かにそうなんだろうね。
佐藤 今になって「もっとビジネス的な展開を考えましょう」「海外にも目を向けて――」なんて事を、ようやく言うようになった。それまでに、10年かかったという。
小黒 でも今は、個々の作品にそれほどのカロリー数が消費されていないというか。「凄い事をやろうぜ」なんて思って作っている作品が少ないような気がする。
佐藤 それについては、作り手だけでなく、ファンの側も「そんなのいらない」と思っているんじゃないの。要するに、作品として広がりがあると、自分達が遊ぶ余地がないから。作品には、自分達が遊ぶための雛型としての意味しか求めてないのかもしれない。極端な話をすると、ファンの中に「作り手のオナニーなんて見たくねえんだ」と言う人がいるじゃないですか。
小黒 はいはい。作り手の作家性なんていらないよ、って話ね。
佐藤 「オナニーは受け手がするもんだ」「気持ちよくなるのはお客様の方でお前らじゃないんだ」ってね。でも、正直な事を言えば、「キッチリと作るという事が、そんなにいい事なの?」とも、思うんだけど。
小黒 つまり、ファンが「普通に面白いものを作ってくれればいい。それ以上の事はしなくていいよ」と思っているのではないかと。
佐藤 まあ、そうだね。作り手の側も、本当にそう思ってやってる人も、当然いるんだけど。
小黒 作り手の側の話になるけど。どれだけの手間をかけると、どれだけのものになるのか、というのが見えてきたというのはあるよね。最低限これだけやれば作品が成立する一線が分かっているというか。
佐藤 確かにそういった事は、かなり見えてきた。
小黒 ちょっと前まで「このぐらい動かさないと、格好よくないんじゃないか」とか、「このぐらいテンション高くしないと、笑えないんじゃないか」とか。よく分かんないから、差し当たって頑張っちゃうみたいなところも、あったんじゃないの。
佐藤 「とりあえず、やれるだけやっちゃえ」みたいなね。まあ、丸くなっちゃってるのは、確かに感じるよね。俺にしても、最近は「いかにスタッフにその気になってもらうか」「誰が演出作画しても体裁が保てるにはどうしたらいいのか」とか、そっちの方に気が行っちゃって。自分のやりたい事っていうのを二の次にしてしまっているから。
小黒 ああ、いかんですなあ。
佐藤 うん。ここ数年、そんな感じなんですけど。ていうか、そこまで気ィ回さないと、作品として成立しづらい状況というのがあって。そういうところまで見えちゃうから、先陣切ってどわ〜っと裸一丁で特攻できないわけですよ。俺が撃沈しちゃったら、作品として、というより番組として成立しないじゃないかっ! という局面が、ここ数年で何度かあったので。結構似たような悩み抱えつつやってる監督や制作プロデューサーは多いと思うよ。クオリティコントロールを監督がやっているのか制作会社がやっているのか――そこら辺わかってない人が何げに作品を制作会社に突っ込んで「あれ、この間の作品は出来がよかったのに何で今回はこんなことに……」とヒドイ目にあったり。
小黒 なるほど。
佐藤 作品内容の話に戻すと、作画の頑張りで凄い作品ができました、なんて事が起きる状況じゃないんだよね。企画の立ち上げの時から、作品の枠が無難なものになっているから。そこで多少、演出とか脚本がハッチャケたものを描いても、予定調和にしかならないからね。
小黒 あっ、と驚くような事は起きない。
佐藤 うん。「なんか今日のは、元気よかったね」とか「作画よかったね」だけで終わっちゃうから。あんまり作品としては残らない。
小黒 そうだね。やっぱりそこかあ。すでに、企画の時に全てが見えてるんだな。
佐藤 分かってる人は企画を見た段階で「ああ、この程度ね」と思ってしまう。それで「この企画でいいんですか?」という話になればいいんだけど、そうにはならないみたいだしね。企画で冒険する余地を置いとかないと、あとで広げられないんだけど。
小黒 例えば、最初から「萌え」「日常」「ちょっと楽しい」とか、そういった枠で始めちゃうと、その中をグルグル回るしかない。
佐藤 ま、そういうこったね。だから今、いい作画スタッフや、活きのいい演出を捕まえてきても、作品そのものは、あんまり変わらなかったりするから。だから、マスターがアップした時とか、いちばん最初に完パケを観終わった時に「ああ、よかったね」と口にするけど、半年後にその気持ちが残るかというと、どうかなと思うよ。
小黒 えらいマジメな話をしているけど、これは文章にまとめると、読んでいてつらい記事になるかも。
佐藤 あ、ホント? いや、まだビール1杯だけだし。だから、ここからテンション上がっていくさァ! ホラ、これまでは序章だから(笑)。
小黒 本当かな(笑)。

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(05.06.17)

 
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