アニメ様365日[小黒祐一郎]

第295回 『ウインダリア』

 『ウインダリア』は、OVAの話題作を数多く手がけたカナメプロダクションの劇場作品であり、原作・脚本が藤川桂介、キャラクターデザイン・作画監督がいのまたむつみ、監督が湯山邦彦だ。海の国イサと山の国パロの対立を背景にし、イサの王女アーナスとパロの王子ジルの悲恋と、イサの青年イズーと彼の妻であるマリーンの物語を描いている。藤川恵介の小説版のタイトルは「ウィンダリア 童話めいた戦史」(ちなみに小説版のタイトルは「イ」が小さい)。そのタイトルが示すとおり、リアルなタッチで描かれた童話のような作品だった。101分の長尺である。
 僕は『ウインダリア』を映画館で観ていない。前回(第294回 カウチポテトの日々)触れたように、この頃、映画館に行く頻度が落ちているのだが、『ウインダリア』を観に行かなかったのは、別の理由がある。1985年度半ばには、OVAとして制作されたものが映画館にかかる事が多かった。今まで話題にした『BIRTH』『メガゾーン23』も劇場で公開されている。当時、僕は『ウインダリア』もそういったタイトルのひとつだと勘違いしていた。僕は基本的に、OVAの劇場公開は観に行かなかったのだ。ビデオソフトとして発売するために作ったものを、わざわざ映画館で観る必要がないと思っていた。
 公開後にビデオレンタルで『ウインダリア』を観て、立派な出来なのに驚いた。こういう言い方は、かえってスタッフに対して失礼になってしまうが、カナメプロダクションが『ウインダリア』のような作品を作るとは思わなかった。まず、物語がしっかりしていた。しっとりとした作品なので、当時の僕の好みからは外れていたが、充分に楽しめた。物語はシンプルなのだが、きっちりと構築されていた。映像も作り込まれている。それまでのカナメプロの作品が、ケレン味重視のアクションで売っていたのに対し、日常性を意識した画作りになっていた。
 モブシーンや水の描写も多い。パロの戦車隊とイサの兵士の戦闘シーンで、カメラをひいた画をいくつも作っていたのが印象的だ。作品全体として見ると、やり切れていないところもあるのだが、作画カロリーの高さは驚くほどのものだ。序盤で、パロ国王の計略で水門が開けられてしまい、イサの街が水に呑まれそうになる。毛利和昭がレイアウトと原画を担当したこのシークエンスが、特に見応えがあった(このシークエンス以外は、林隆文が全カットのレイアウトを担当したそうだ)。
 『ウインダリア』はDVDソフトが2度出ているが、2000年にリリースされたビクターエンタテインメント(現・flying DOG)版では、スタジオ雄が解説書の編集を担当した。スタジオ雄は、僕がやっている編集ブロダクションだ。A3サイズ1枚のコンパクトなものだが、その解説書で、湯山邦彦監督にインタビューをしている。
 湯山監督は『幻夢戦記レダ』を作ったことによって、長編のノウハウができた。それによって、そろそろまとまった作品が作れるのではないか、マニア向けではなく、普遍性のある作品を作ってもいいのではないかと思い、手がけた作品だと語ってくれた。湯山監督には、「この人に話を聞きたい」に登場してもらった時にも『ウインダリア』についてうかがっている。その時は、この作品で「『映画に見えるもの』というのを意識して」絵コンテをきったと話してくれた。TV作品やOVAを中心にして活躍していた彼が、ステップアップした作品なのだろう。『ウインダリア』は、間違いなく現在の劇場版『ポケットモンスター』シリーズに繋がっている。
 カナメプロダクションの作品で、ファンの間で知名度が高いのは『プラレス3四郎』や『幻夢戦記レダ』だろう。だが、僕にとってはカナメプロダクションの代表作は『ウインダリア』だ。落ちついた作りではあるが、いのまたむつみのキャラクターには、いつものように色気がある。それがいい。また、抑えているとはいえ、作画のケレンがあちこちに見える。ケレンについては、この作品にとっては粗になるのかもしれないが、マジメ一辺倒な作りでない感じが、僕は好きだ。

第296回へつづく

ウインダリア [DVD]

カラー/101分/4:3(LB)
価格/6300円(税込)
発売・販売元/ビクターエンタテインメント
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(10.01.28)