アニメ様365日[小黒祐一郎]

第273回 『幻夢戦記レダ』

 1985年のOVAで『メガゾーン23』と並ぶ話題作が『幻夢戦記レダ』だった。70分ほどの作品で、アニメーション制作は、『プラレス3四郎』や『BIRTH』を手がけたカナメプロダクション。キャラクターデザインと作画監督はいのまたむつみ、監督は湯山邦彦だ。ビデオのリリースは1985年3月1日。同年末に『VAMPIRE HUNTER D』と2本立てで、劇場公開されている。
 内容としては、美少女を主人公にしたヒロイック・ファンタジーだ。ごく当たり前の女子高校生である朝霧陽子は、突然、異世界アシャンティに呼び込まれ、そこで伝説のレダの戦士として戦う事になる。陽子の味方になるのは学者犬のリンガム、レダの巫女である少女ヨニ。敵対するのは、浮遊城ガルバの総統ゼル。彼は陽子達の世界に攻め込もうとしていた。陽子が持っていたヘッドホン・ステレオが、謎の力レダ・パワーを引き出す鍵として、ゼルの一味に狙われる事になる。
 日本のアニメとしては、まだ珍しかったヒロイック・ファンタジーであり、「メカと美少女」と並んでOVAの定番となる「戦う少女もの」の走りでもある。戦士となった陽子は、後にビキニ・アーマーと呼ばれるビキニ型のヨロイを身につけて活躍する。ビキニ・アーマーは、その後アニメやゲームで流行するのだが、そのきっかけになったのが本作であるらしい。
 『幻夢戦記レダ』は、70分ほどの作品だ。ストーリーはシンプルであり、物語が進むスピードは、どちらかというと遅い。ではあるが、本作が退屈だったかというと、決してそんな事はなかった。いのまたむつみの画が素晴らしかったからだ。
 それまでTVアニメで、キャラクターデザインや作画監督を務めてきた彼女が、OVAという舞台で、その実力を存分に発揮したのが『幻夢戦記レダ』だった。全編に渡って、いのまた作画の美少女が堪能できる作品だった。彼女の画は、少女マンガチックであり、非常に華があった。そして、これが非常に大事な点だが、いのまたむつみが描いた陽子は、肉感的だった。触ったらさぞや柔らかいだろうと思わせるような肢体を描いていた。そして、肉感的であるが、決して下品ではなかった。それまでにも、美麗な絵を描くアニメーターはいたが、これほど健康的で、なおかつエロチックな少女を描くアニメーターはいなかっただろう。僕の友人のアニメーターが『幻夢戦記レダ』における、いのまたむつみの画を評して「どんな魔法を使って描いてるのかと思った」と言っていたが、そんな冗談を口にするくらい、いのまたむつみは新しかったし、魅力的だった。彼女の画を観ているだけで楽しかったので、物語がシンプルであるのも気にならなかった。『メガゾーン23』とは別の理由で、繰り返しての視聴に耐えられる作品であり、やはりOVAとして優れた作品だった。
 異世界に登場するメカやコスチュームのデザインも独創的なもので、面白かった。原画では、上妻晋作、田村英樹、毛利和昭といった若手アクションアニメーターが、多数参加。いのまた自身が、金田伊功の影響を受けている事もあり、彼らの作画との親和性も高く、原画の味を残した作監修正をしているところも、作画マニア的には嬉しいところだった。
 冒頭で陽子は、好きな男の子に告白しようとして、失敗する。そして、異世界アシャンティの冒険を経て、ラストシーンで再度告白する。陽子のヘッドホン・ステレオには、彼への想いを込めて作ったオリジナル曲が入っており、アシャンティに行ってからも、彼女はその曲にこだわり続ける。冒頭で告白に失敗した際には、陽子はヘッドホン・ステレオのヘッドホンをつけたままだった。しかし、ラストシーンで告白する時には、ヘッドホンを外す。要するに、ヘッドホンは、陽子が彼に対して心を開いていなかった事の象徴なのだろう。アシャンティでの冒険でも、陽子の心象を反映したと思しき場面が何度かある。そのあたりがドラマのキモになっているのは間違いない。
 この作品も、リリース直後に観たはずだが、どうやって観たのかは覚えていない。ビデオソフトを購入した友達の家に行って観せてもらったのかもしれないし、誰かがレンタルしてきたのを一緒に観たのかもしれない。初見時にも、僕は、陽子の告白と内面にテーマがあるのだろうという事は分かったが、いのまたむつみの画ばかりが気になって、物語についてきちんと解釈する余裕はなかった。

第274回へつづく

幻夢戦記レダ

カラー/72分/片面1層/4:3
価格/6090円(税込)
販売・発売元/パイオニアLDC
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(09.12.18)