アニメ様365日[小黒祐一郎]

第237回 劇場版『Dr.スランプ アラレちゃん ほよよ!夢の都メカポリス』

 前回に続いて「東映まんがまつり」の話題だ。今回話題にするのは、1985年7月13日に公開されたプログラムで、『Dr.スランプ アラレちゃん ほよよ!夢の都メカポリス』『キン肉マン 逆襲!宇宙かくれ超人』『キャプテン翼 ヨーロッパ大決戦』「電撃戦隊チェンジマン シャトルベース危機一髪!」の4本立てだった。
 『キン肉マン 逆襲!宇宙かくれ超人』は『キン肉マン』の劇場第4作。宇宙かくれ超人の帝王ハイドラキングによって、ロビンマスクが捕らえられ、正義超人の弱点が書かれた「ロビンメモ」も奪われてしまう。このロビンメモについては、とんでもないオチがつく。具体的な事は書かないけれど、ダジャレみたいなネタで映画1本を作った事に驚いた。僕にとっては劇場版『キン肉マン』で傑作と言えば第1作。怪作と言えば、この『逆襲!宇宙かくれ超人』だ。
 『キャプテン翼』の劇場版は全部で4本作られたが、この『キャプテン翼 ヨーロッパ大決戦』は第1作だ。この当時、すでに『キャプテン翼』は女の子達に大人気で、まんがまつりにもティーンのファンが殺到。まんがまつりで、女の子が「キャーキャー」言っているのは、不思議な光景だった。
 さて、ここからが本題。『ほよよ!夢の都メカポリス』は『Dr.スランプ アラレちゃん』の劇場版第5作で、40分弱の中編だ。脚本は島田満、照井啓司、監督は芦田豊雄、竹之内和久。タイトルになっているメカポリスとは、木も建物もメカでできている不思議な街だ。そこは子供達の楽園であり、何でも望みを叶えてくれるのだった。ある夜、アラレをはじめとするペンギン村の子供達は、そのメカポリスを訪れた。メカポリスのネーミングは、この前年にリバイバル公開されたSF映画の古典「メトロポリス」からだろう。冒頭に「メトロポリス」のマリアを思わせるロボットが登場する。
 基本的には、子供向けの他愛のない内容だ。歴代の劇場版『Dr.スランプ アラレちゃん』の中で、一番子供っぽい内容かもしれない。だけど、芦田豊雄のセンスのよさが出ていて、僕は好きだった。見どころはクライマックスだ。メカポリスを管理しているヤカン型コンビュータが、アラレ達にからかわれた事をきっかけにして暴走。メカポリスの建物に手足が生えて、巨大ロボットになり、アラレ達を襲う。ところがその騒ぎの最中に朝になり、メカポリスのメカ達は猛スピードで撤収を始める(朝になると子供を戻して、次の街に行くらしい)。撤収するシークエンスは、それまでの街が暴走していたカットを逆に撮影。全カットではないようだが、タイムシートもいじって、逆回転早回しのような映像になっていた。メカポリスの街の暴走と撤退は、ちょっとしたスペクタクルだった。
 メカポリスでは、なぜか皿田キノコがプリンセスになっており、中盤で、彼女が書いた落書きが実体化してアラレ達を襲う、というシークエンスもあった。吹き出しの文字まで一緒に実体化したり、実体化した落書きを真横から見ると真っ平らだったりと芸が細かい。今だったら、なんて事のないアイデアかもしれないが、当時としては斬新だった。
 それからピンポイントで、やたらと印象に残る場面があった。ペンギン村の子供達が、メカポリスに夢をかなえてもらうシークエンスで、摘突詰が、拳法マンガのヒーローになるのである。彼が着ているコスチュームは、誰がどう観ても『北斗の拳』のケンシロウのもの。次から次に現れる敵ロボットを、北斗拳法風の拳法でやっつけていく。しかも、この場面の原画を担当したのが『北斗の拳』の須田正己なのだ。監督が芦田豊雄で、原画が彼だから、再現性が異様に高い。しかも、須田正己の原画がえらく気合いが入っている。摘突詰を演じているのは千葉繁で、『北斗の拳』でやられ役ばかりの彼が、ケンシロウ風に「あたたたっ!」と叫ぶのもおかしかった。敵ロボットが破裂する時に「ベルボトム!」と叫ぶのは、芦田豊雄のネタに違いない。

第238回へつづく

(09.10.27)