アニメ様365日[小黒祐一郎]

第205回 『世紀末救世主伝説 北斗の拳』(TV版)

 『世紀末救世主伝説 北斗の拳』が放映されたのは、1984年10月4日から1987年3月5日。原作・武論尊、作画・原哲夫の「北斗の拳」を映像化したシリーズで、ジャンプアニメ黄金期を支えた人気タイトルのひとつだ。制作プロダクションは東映動画(現・東映アニメーション)。シリーズディレクターは芦田豊雄で、キャラクターデザインは須田正己だ。放映終了後、すぐに第2部『世紀末救世主伝説 北斗の拳2』がスタートしている。
 舞台となっているのは、核戦争によって荒廃してしまった近未来。そこは力が全てを支配する世界だった。主人公のケンシロウが使う北斗神拳は、相手の経絡秘孔を突く事で、身体を内部から破壊する。ケンシロウは北斗神拳で相手を攻撃した後で、「お前はもう死んでいる」という決めゼリフを言う。すると数秒の後に、相手は「ひでぶっ!」など奇声を放って破裂する。これが本作のお馴染みのパターンであり、最大のセールスポイントだった。また、ケンシロウが拳を放つ際の「アチャア!」「あたたたたた!」という怪鳥音も本作の売りだった。それらは原作にもあるものだったが、アニメになってインパクトが倍増した。
 一応、勧善懲悪のかたちをとっているのだが、暴力を振るうのは悪人だけではない。主人公であるケンシロウも悪に対しては冷酷であり、躊躇なく悪人を殺す。バイオレンスに次ぐバイオレンス。スプラッターに次ぐスプラッター。特に北斗神拳によって破裂される人体が、その前に膨れたり、ねじれたりするビジュアルは極めて強烈であり、しかも、それは笑えるものだった。ドラマの作りと描写の派手さのために、スプラッター描写がギャグになっていたのだ(子供の視聴者はマジメな描写だと思っていたかもしれないが、少なくとも僕達にとっては笑えるものだった)。さすがに爆発する瞬間は、シルエット処理などをして人体を隠していたが、今の感覚では信じられないくらい、残酷な描写が続出していた。
 あまりに個性的な敵キャラクター達も、本作の魅力だ。敵キャラクターの大半がいかにもな悪人。キテレツな怪人も沢山いたし、下っ端には頭の悪い奴も多い。ケンシロウにやられるためだけに大勢の悪人が出てきて、それがまたおかしい。僕は今でも『北斗の拳』を観返すと、モヒカンでマッチョの悪人が出てくるだけで笑ってしまう。
 ケンシロウの人間離れした強さ、悪い奴を躊躇なく殺す感覚、派手なスプラッター描写、敵キャラクターのキテレツさ。それらはバカバカしくも痛快であり、受けに受けた。アニメファンにも受けたし、一般視聴者にも受けた。その面白さは、それまでにないタイプのものであり、その後も、同じ面白さの作品は出ていないと思う。この作品がヒットしたのは、当時のスプラッターブームと結びついたというのもあるだろうが、それだけではない。前回の第204回「『クサい』『ダサい』の時代」で書いたように、本作のシリアスとギャグが表裏一体になっている感覚は、当時の僕達の気分に合っていた。5年前に作られたとしても、5年後に作られたとしても、この作品はヒットしなかっただろうと思う。
 アニメの作り方に関しては、東映動画のエンターテイメント志向が、原作と上手くマッチしていた。芦田豊雄は、実際にはシリーズ初期にしか参加していないが、彼が作った演出のフォーマットがよかったのだろうと思う。『北斗の拳』が芦田豊雄らしい作品とは思えないが、彼以外の人間がシリーズディレクターを務めたなら、もっと大人しい作品になったはずだ。各話の仕上がりに関しては、雑なところもあったが、作品内容が乱暴なものだったので、雑である事もそんなには気にならなかった。ただ、総集編が多いのはちょっと残念だった。原作も同様なのだが、シリーズが進むにつれてレイ、トキ、ラオウといった英雄的なキャラクターとの対決が中心になり、ギャグ色は薄れていった。それでもドラマのテンションは高く、楽しく観ていた。今もこの作品を支持しているファンは、むしろ、後半の展開が好きなのかもしれない。
 それから『北斗の拳』について語るなら、シリーズ途中からナレーターを務めた千葉繁の存在を忘れてはいけない。彼の超々々ハイテンションなナレーションは、アニメ声優史に残るものだろう。エキセントリックな持ち味が、本作に見事にあっていた。千葉繁は、本作においてケンシロウを演じた神谷明に次ぐくらいの存在感があった。
 『北斗の拳』が放映されていたのは木曜の19時からだった。1985年4月から木曜19時半枠で、実写ドラマ「スケバン刑事」がスタート。「スケバン刑事」もカルト的な魅力のアクションドラマで、『北斗の拳』との2本立てはかなり強烈だった(とてつもなく余談だが、『北斗の拳』のマミヤも、「スケバン刑事」の麻宮サキもヨーヨーを武器に使っていた。なぜかヨーヨー2本立てでもあった)。

第206回へつづく

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(09.09.07)