アニメ様365日[小黒祐一郎]

第235回 『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』

 押井守版『ルパン三世』が頓挫し、代わりに『ルパン三世』劇場版第3作として制作されたのが『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』だった。
 監督としては鈴木清順、吉田しげつぐの2人が、脚本は浦沢義雄、大和屋竺の2人が、作画監督は青木悠三、柳野龍男、尾鷲英俊の3人がクレジットされている。『新ルパン』『PARTIII』のメンバーが集結したかたちだ。制作スタッフだけでなく、製作も今までTVシリーズ『ルパン三世』を送り出してきた日本テレビとよみうりテレビの両社が名前を連ねている。公開されたのは、1985年7月13日。内容はバビロンの黄金をめぐり、ルパン一味とニューヨークのマフィアが対立し、そこに謎の老婆が絡むというもの。ゲストキャラクターをカルーセル麻紀、塩沢とき、河合奈保子、おぼん・こぼんといった芸能人がアテている。
 作画スタッフに関しては、放映中だった『PARTIII』と重複。押井守版が頓挫したのがいつだったのかは知らないが、少ないスケジュールで仕上げたものと思われる。当時、作画に参加したスタッフに話をうかがったのだが、彼は「もう少し時間があれば……」とこぼしていた。キャラクターデザインは新たにおこしているが、基本的には『PARTIII』の路線だ。シャツの色等は違うが、ルパンのジャケットの色もピンクだ。ムードも『PARTIII』に近い。
 全体にコメディタッチの作りである。ルパンが老婆に迫られたり、世界各国の美人婦警が銭形の部下になったり。その美人婦警の1人と五右ェ門が、互いに一目惚れするなんて展開もある。老婆の扱いや婦警達のネーミング(ラザニーヤ、チンジャオ、キャラメール等)等は、いかにも浦沢義雄の仕事だ。やりたい事は分からないでもないが、作品全体として観ると、散漫な仕上がりとなっている。一番痛かったのが、冒頭の追っかけだった。巨大な顔のかたちをした看板を舞台にして、ルパンと銭形がバイクで追っかけをやるのだが、これが無闇やたらと長い。あんまり長くて、映画が始まった途端にダレた気分になってしまった。徹底して笑える映画にするという手もあったと思う。もし、そうなったら、多くのファンは怒っただろうが、僕としては、もっと浦沢節が炸裂した劇場『ルパン三世』でもよかった。
 作画に関しては、スケジュールがなかったとは思えないほどに健闘。全体にアクションシーンが多く、それがよく動いている。ただ、『PARTIII』調のグラフィカルなキャラクターが劇場作品に合っていたかというと、ちょっと難しい。
 『バビロンの黄金伝説』で好きなのは、最後の最後で、ルパンが泥棒であろうとしたところだ。クライマックスで、黄金でできたバベルの塔が見つかり、暗躍していた老婆ロゼッタは、若い女性の姿に戻る。彼女の正体は宇宙人であり、大昔にどこかへ行ってしまったバベルの塔を探すため、地球に来ていたのだ。ロゼッタは、それを見つけ出したルパンに対して礼を言う。普通ならこれで大団円になるところだが、ルパンは、ロゼッタからバベルの塔を奪い返そうとする。そのシークエンスで、ルパンと次元が「カイザルのものはカイザルに」と聖書の言葉を口にするのも洒落ている。
 『カリオストロの城』でルパンが丸くなってしまった事への反発があったのかどうかは分からないが、とにかく作り手は「美女よりもお宝を選ぶルパン」を描いた。安っぽいと言えば安っぽいのだけれど、それもルパンらしい。

第236回へつづく

ルパン三世 バビロンの黄金伝説

カラー/本編100分+映像特典/片面2層/16:9 LB ビスタ/
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(09.10.23)