アニメ様365日[小黒祐一郎]

第12回 『ルパン三世[新]』

 『新ルパン』が好きだ。そう言うと、同年輩の人には「え〜〜」と言われる事が多かった。同年輩には『旧ルパン』信奉者が多いのだ。以前、吉松君に「不二子が歌をうたうとネッシーが出てくる話も認められるんですか」と言われた。4話「ネッシーの唄が聞こえる」の事だ。まあ、確かにあの話は、俺も変だと思うよ。だけど、そういう妙な話を含めて『新ルパン』が好きだ。『旧ルパン』は自分の中では別格の作品だが、『新ルパン』はそれとは別の愛着がある。
 前回も触れたように『旧ルパン』は視聴率が伸び悩み、全23本で終了した。だが、その後のたび重なる再放送で人気に火がつき、1977年10月に、第2シリーズの放映が始まった。これが通称『新ルパン』である。前作から不二子と五右ェ門のキャストが替わり、スタッフも大半が入れ替わっている。アダルトというよりは、ファミリー向きの作品であり、内容はコメディ色が強い。また、洋画や推理小説等のパロディが多かった。ルパンを始めとするキャラクターの性格つけも変わっている。人気番組となり、3年間で全155話が放映された。
 放映が始まる前、『ルパン三世』の新作が観られるのが嬉しかった。始まってしばらくして、『旧ルパン』とテイストが違っている事に気づいた。「あれ?」と思った。それでも毎週観られるのが嬉しくて、頭を切り換えて『旧ルパン』とは違うものとして楽しむようになった。
 『新ルパン』は「作品」であると同時に「番組」だった。主題歌の歌詞やストーリーを公募したり、TVアニメ初のステレオ化に挑んだりと、イベントも多かった。ピンクレディーが「カメレオン・アーミー」を歌えば「恐怖のカメレオン人間」(74話)を、劇場映画「スーパーマン」が公開されれば「ルパン対スーパーマン」(94話)を、インベーダーゲームが流行れば「万里の長城インベーダー作戦」(93話)や「インベーダー金庫は開いたか?」(111話)を作るといった具合に、流行のものを作品に取り入れていくフットワークの軽さがあった。ルパン役の山田康雄は、アドリブ満載の奔放な芝居で、作品をさらに愉快な方向に引っ張っていった。
 バラエティの豊富さこそが『新ルパン』の魅力だったと思う。ギャグタッチの話もあれば、ルパンと殺し屋の対決を描くようなハードな話もある。次元、五右ェ門、銭形といったサブキャラクターを主役にし、その魅力を活かしたエピードも多かった。次元なら、彼と美女の逃避行を描いた「国境は別れの顔」(58話)、五右ェ門なら、彼が女子高生に迫られる「哀しみの斬鉄剣」(108話)、銭形なら、悲恋編の「とっつぁんの惚れた女」(69話)、ラブコメ編の「ICPO(秘)指令」(85話)等。あれ? 印象的なものをセレクトしたら、全部女性絡みのエピソードになってしまった。女性絡み以外だと、次元なら銃を組み立てながら決闘をする「荒野に散ったコンバット・マグナム」(99話)が、内容もビジュアルも充実した傑作。五右ェ門だと、厳密には彼が主役とは言えないかもしれないが、彼を天使と思い込む盲目の少女が登場する「狼は天使を見た」(103話)が印象的だ(女性ファンが選ぶと、五右ェ門がボロボロになる「五右ェ門危機一髪」(112話)になるのだろうか)。
 シリーズ終盤には、石原泰三が絵コンテを担当した回に、ルパン一家の個性を活かした傑作が多い。ルパン達がチームワークが必要な計画のために特訓をする「華麗なるチームプレイ作戦」(137話)、ルパン、次元、五右ェ門が緻密な作戦と己の技を駆使し、作戦を成功させるまでを描いた「ターゲットは555M」(148話)等。後述するテレコム回を別にすれば、このあたりが『新ルパン』の完成形だと思う。本放送時に「石原泰三の絵コンテ回がいい」と思ったわけではない。近年になってスタッフをチェックして、面白いと思った話の多くが、彼のコンテだったのに気がついたのだ。石原泰三は、メイン演出の1人である三家本泰美のペンネームだそうだ。各話スタッフと言えば、浦沢義雄・青木悠三コンビのブロードウェイシリーズを忘れるわけにはいかない。ルパン一味、売れない踊り子、チンピラが、プロードウェイの下町で鉛筆の削りカスを食べる猫を奪い合う「君はネコ ぼくはカツオ節」(106話)、ルパン達がホップコーン製造機を使ってロケットで宇宙に行こうとする「1999年ポップコーンの旅」(124話)等々、いずれもスラップスティックに徹したエピソードだ。
 勿論、作画的な見どころも多い。初期ならやはりオープロダクション、中盤以降はテレコム・アニメーションフィルム。テレコム担当回は全部で11回。その内の2本「死の翼アルバトロス」(145話)、「さらば愛しきルパンよ」(最終話)は、宮崎駿が照樹務のペンネームで、脚本・絵コンテ・演出を手がけたエピソードだ。『新ルパン』では、この2本が話題になる事が多い。確かにこの2本はクオリティが高い。TVアニメの最高水準だ。特に「さらば愛しきルパンよ」は、宮崎駿の演出力が遺憾なく発揮されたフィルムだ。だが、照樹務の2本ばかりが話題になるのは、ちょっと寂しい。『新ルパン』には他にも傑作があるのに、と言いたくなる。テレコム担当回なら、さっきも挙げた「荒野に散ったコンバット・マグナム」(99話)、あるいは「ルパン逮捕ハイウェイ作戦」(151話)等が見応えのあるエピソードだ。
 作画の話に戻そう。オープロとテレコムの作画チームだと、高畑順三郎がチーフを務めている東京ムービー新社の社内班が、芝居が丁寧で観ていて楽しい。キャラクターデザインの北原健雄の絵は、『旧ルパン』の大塚康生とはまるで傾向が違っていたが、洗練されたものだった。シリーズ中に絵柄が変化していったのも面白かった。絵柄と言えば、終盤に朝倉隆作監回のキャラクターの顔が、なぜかテレコム風になっていくという現象があった。これはどういった理由でそうなったのか、ずっと調べたいと思っている。
 「さらば愛しきルパンよ」は、1本のフィルムとしては傑作だが、最終回に相応しい話だったとは思わなかった。何しろ、ルパンがほとんど活躍しない話だ。しかも、3年続いてきたシリーズを否定しているニュアンスも感じられた。「3年間、楽しみに観てきたのに、最後がこれか」と思った。当時は憤りすら覚えた。今は許せる。『新ルパン』はなんでもありで、バラエティに富んだシリーズだった。各スタッフの個性が発揮されたシリーズでもあった。だから、1人のスタッフが暴走して終わるのも「『新ルパン』らしい」と思えるようになった。

第13回へつづく

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(08.11.19)