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コラム
アニメやぶにらみ 雪室俊一

 第19回 わがシナリオ無作法

 2年近くにわたって勝手なことを書き散らしてきた、このエッセーもそろそろ終わりに近づいた。そこでぼくのシナリオ作法のようなものを書いてもらえないかというのが編集部の注文である。ぼくのもっとも苦手なテーマである。ライターが100人いれば100のシナリオ作法があるのだが、さて、おまえの作法はというと困ってしまう。特に人さまにしゃべるような理論的な作法がないからだ。まさに無作法である。
 シナリオ学校の講師などで、生徒を前に2時間もしゃべる人を見ていると、ひたすら感心するばかりである。ぼくがしゃべったら、5分も持たないであろう。それは作法的になんら理論的な裏付けがないからで、ぼくのシナリオ作法は、すべて体感で覚えたものだからだ。
 しかし、それでは身もフタもないので、自己流の作法らしきものを書いてみることにしよう。
 まず最初に心がけているのは、心地よいリズムの語り口である。ぼくが直しをきらうのは、直すことによってこのリズムがくずれてしまうからだ。アメリカ映画が世界中で人気を集めているのは、語り口がうまくて分かりやすいからだと思う。
 その点、最近の邦画(アニメを除く)を見ていると、このリズムを心得てない監督が多い。まるで音痴の歌を聞いているようなもどかしさを感じて、見ていてイライラさせられる。せっかくの素晴らしいテーマなのに、語り口のまずさで損をしている作品が多い。
 それは撮影所育ちの監督が減ったことと関係があるのではないか。この職人的語り口というのは、徒弟制度のような環境でしか学べないからだ。シナリオ学校で何時間、講義を聞いてもマスターできないだろう。人から人へ語り継がれたり、盗んだりするものだ。
 前にも書いたが、ぼく自身が徒弟制度のなかで育ったライターだ。むろん、すべてがいいわけではないが、先輩ライターが何年もかかって培った技法を目の当たりにできたのは、貴重な体験だった。
 さらにぼくの修業時代は、まだ映画が娯楽の王者で大勢の職人監督が活躍していた。いまは名前も残っていないような、語り口のうまい職人監督が観客の心をつかむ作品を量産していた。批評家たちにマンネリだとか、粗製濫造とかいわれながらも、ひたすら娯楽映画を撮りつづけたエネルギーが画面にあふれていた。
 他の作品のセットを流用して、たった1週間で、それなりの作品を撮ってしまうという、すごい監督やライターがいた。日本映画の黄金時代を支えたのは、こういう職人たちで1年に1作しか撮らない巨匠ではない。
 どんな小さな町にも映画館があった時代で、映画5社が毎週2本の新作を封切っていた。封切館以外は3本立が普通だから、巨匠監督だけでは上映するものがなくなってしまう計算だ。
 ぼくは場末の映画館の暗闇のなかで、そういう職人ライターや監督の呼吸を学んだ。もっとも当時はライターになろうと思ったわけではないから、知らず知らずのうちに身についていたといったほうがいい。いまでもこうした監督の作品がBSなどで放送されることがあるが、みんな見せ方がうまい。じつに他愛ない作品でも、その語り口でつい見てしまう。その後、大成したライターが、そうした作品にかかわったりしているとうれしくなってしまう。やはり光っているのである。
 語り口の次に、ぼくが大事にするのは切り口である。使い古された素材でも切り口のいかんで新鮮に見えてくる。同業者がしてやられたと悔しがるような切り口が見つかれば最高だ。ぼくなんか、それが見つかっただけでシナリオが完成したような気分になり、飲みに出かけたくなってくる。井上ひさしさんや三谷幸喜さんの戯曲の切り口にはいつも唸ってしまう。
 あまり知られていないが、井上さんは山元護久さん(故人)とアニメのシナリオを書いていた時代がある。その破天荒なアイデアにいつも刺激を受けていた。もっとも当時から遅筆で、プロデューサー泣かせであったが。
 おっといちばん大事なものを忘れていた。コンストラクション(構成)である。専門的にはハコ書きと呼ばれていて、映画のライターは巻紙のような紙に書いた構成表を部屋中に広げて、全体の流れを何度もチェックしていた。
 最近の若いライターは、ハコを作らずに書きはじめる人も多いらしいが、設計図もなしで家を建て始めるようなもので見ていてハラハラする。家を何軒も建てたようなベテランならともかく、経験の浅い人にはすすめられる方法ではない。
 ぼくの場合『サザエさん』のような短い作品でも、きちんと構成を作ってから書きはじめる。といっても、構成どおりに書きすすめられるわけではない。書いているうちに人物が動きだし、思いもよらない方向へ脱線してしまうことも珍しくない。しかも、その脱線した部分がおもしろいのだ。だったら、わざわざ構成を作る必要がないのではと思われるかもしれないが、構成というレールがあるからこそ脱線できるので、道なき道をヤミクモに走り出すのとは意味がちがう。
 以上がぼくのシナリオ作法で、ゆっくり読んでも10分とかからないだろう。あまりにカンタンで、さっぱり分からんという方のために、この秋に放送される『サザエさん35周年記念スペシャル』(1時間)のシナリオ作りを例に実戦的シナリオ作りのことを書いて最終回にしたい。

(この項つづく)

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