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コラム
「編集長のコラム」 小黒祐一郎

 第18回 平田敏夫の『小さな恋のものがたり』

 最近、私はちょっと平田敏夫が気になっている。
 読者諸君はもう秋の新番組『花田少年史』のオープニングをご覧になられただろうか。背景は勿論、キャラクターもイラスト調で描かれた、なかなか雰囲気のあるフィルムである。あれを作ったのが平田さんなのだ。
 前々から平田さんが監督を務めた『ボビーに首ったけ』『金の鳥』は面 白い作品だと思っていた。『あずきちゃん』のDVD―BOXのライナーのために取材したのをきっかけにして、平田さんの過去の作品を改めてチェックしてみたのだが、これがなかなか興味深かったのである。平田さんは虫プロの初期から演出をやっている大ベテランであり、監督作品も数多い。『ボビーに首ったけ』『金の鳥』、あるいは『ユニコ』や『はだしのゲン』あたりが代表作だろうか。中でも『ボビーに首ったけ』は、「アニメスタイル」読者に是非観てもらいたい作品のひとつだ。
 『ボビーに首ったけ』は片岡義男の小説を、吉田秋生をキャラクターデザインに起用し、映像化した劇場短編で、イラストや実写 の写真、果ては鉛筆画の動画まで駆使した多彩な映像表現と、青春ものらしい爽やかさが魅力のフィルムである。物語中心ではなく雰囲気を楽しむタイプの作品で、内容も映像も非常にオシャレなんですな。後にも先にも、あの感覚のアニメ映画は他に出てないのではないかと思う。全編に満ちた80年代テイストもグーである。平田さんはCMの仕事をしていた時期もあり、『ボビー』はCMの仕事で培った技術が投入されているのだそうだ(余談だけど、私はこの作品のエンディングのコンテは、りんたろうさんではないかと睨んでいる。エンディングはアメリカンな街と走る車を描写 したもので、擬音代わりに「CLiCK!」とか「SLAM!」とか吹き出しが出るのだ。あれはりんさんのセンスに違いない)。
 『金の鳥』は「東映まんがまつり」の1本として制作されたもので、映像的にも内容的にも、遊び心に溢れた、楽しい作品だ。作画もいいし、美術の見応えは大変なものである。公開当時に、私の周りで「マッドハウスは『幻魔大戦』で儲かった分を『金の鳥』の制作費に投入して、あんな豪華な作品に仕上げた」という噂が流れたくらいだ。近年になってマッドのプロデューサーに確かめたところ、それは全くのデマであり、他の「まんがまつり」の中編と同じ予算で作られている事が分かった。見応えのある仕上がりはスタッフの腕前のおかげなのだろう。『ゴキブリたちの黄昏』という作品もある。これはアニメと実写 を合成した奇妙なフィルムで、平田さんはアニメーションディレクターを務めている。名倉靖博さんがキャラデザイン・作画監督を務めた全編イラストタッチのOVA『どんぐりと山猫』も彼の監督作品だ。
 『あずきちゃん』での平田さんの仕事は、各話のラストで使われている止め絵のイラストである。その話の内容にちなんだ画で、その上にあずきのモノローグがかぶさる。原作の画ともアニメのキャラとも違うホンワカした感じが、何ともいいアジを出していた。全話でイラストを描いているにもかかわらず、なぜか『あずきちゃん』のエンディングに平田さんの名前はクレジットされていない。『あずきちゃん』のDVDで取材した時に、平田さんにその事を訊ねると「あれはさりげない仕事であって、わざわざ名前を出すほどのものじゃないというか」とおっしゃっていた。最初に1人で全話描けるか分からなかったので、名前を出さないで始めてしまった、という事情もあったらしい。
 その取材の中で、平田さんが手がけたTVスペシャル『小さな恋のものがたり』が話題になったので、後でチェックしてみた。これは、みつはしちかこの有名な漫画をアニメ化したもの。このスペシャルには「チッチとサリー 初恋の四季」というサブタイトルがつけられており、全体が季節ごとに四つのパートに分けられている。春を舞台にしたパートに始まり、その後のパートには「SUMMER」「AUTUM」「WINTER」とタイトルがつけられている。エンディングで季節がひと回りして春に戻るのだが、そこで「SPRING」というタイトルが出るという構成だ。更に物語の合間合間に、ポエムや曲に、イラストやイメージ映像を付けたインターバルが挿入される。「AUTUM」の最後に挿入されたイメージは、それぞれ違う色のついた6本の工場の煙突から枯れ葉が吹き出すというもので、私的にはこれが一番印象的だった。
 という具合に平田さんの仕事を取り上げていくと、ちょっとアートっぽい作品や、映像に凝った作品ばかり作っているようだけど、必ずしもそうではない。ごく普通 のTVアニメの演出もやっている。凝った作品にしても「いかにも凄い作品です!」という印象のものではない。サラリと作っているような印象なのだ。取材した時の御本人の様子もそうだったのだけれど、飄々とした感じなのである。そのあたりも面白いなあ、と思う。

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