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「編集長のコラム」 小黒祐一郎

 第12回「『ルパン三世』の話(2) 『旧ルパン』の赤ジャケ」

 これから数回に分けて、ルパンのジャケットの色をキーワードにして、『ルパン三世』シリーズを振り返ってみる事にしましょう。最初に制作されたアニメ『ルパン三世』は、TV第1シリーズ以前に制作されたパイロットフィルムです。パイロットフィルムとはその名のとおり、試験的に作られるものですので通常は一般の目に触れる事はないのですが、『ルパン三世』のパイロットは、後述するように『旧ルパン』のオープニングに映像の一部が流用された事もあり、ファンの間では話題になる事が多いものです。
 パイロットフィルムは、ファンにとって長く幻の作品でしたが、1989年に発売されたビデオ「ルパン三世 シークレットファイル」に収録され、陽の目を見ました。『ルパン三世』のパイロットフィルムは、1969年に作られた劇場版と、1971年頃に作られたTV版の2本があります。内容はほぼ同じですが、劇場版はフレームがシネスコでTV版はスタンダード。キャスティングも違っていて、劇場版はルパンの声が野沢那智で、TV版が広川太一郎。パイロットフィルムでは、ルパンのジャケットの色は赤です。元々、モンキーパンチの原作イラストでは、ジャケットの色は赤が基本ですから、これは原作通りです。
 第1シリーズ『旧ルパン』でジャケットの色が青くなります。原作では赤かったジャケットが青くなった理由については「スポンサーだった浅田飴の飴の色に合わせた」等の説があるようですが、どれも今ひとつ決め手にかけるように思われます。以前、監督(テロップ上の表記では演出)の大隅正秋さん、作画監督の大塚康生さんに取材した時にも、その事について伺ったのですが、お二人ともジャケットを青くした理由をご記憶ではありませんでした。
 『旧ルパン』は、アダルトかつハードボイルドな内容、奇抜なアイデア、リアルなメカ描写、個性的なキャラクター等、かつてない新鮮な魅力に満ちた作品でしたが、視聴率的には苦戦。そのため、放映開始早々、監督が大隅正秋さんからAプロダクション演出グループに交替し、漫画映画的な明るいタッチに路線変更しています。Aプロダクション演出グループとは、高畑勲さんと宮崎駿さんの2人の事です。変更は作品のテイストだけではありません。ロングだった不二子の髪型がショートに変わり、ルパンの愛車が、ゴージャスなベンツSSKから庶民的なフィアット500に変わっています。
 アダルトな「前半路線」と明るい「後半路線」が共存しているところが、『旧ルパン』というシリーズの面白さでもあります。気になるのが、どこまでが「前半路線」で、どこからが「後半路線」かという事ですが、これが難しい。監督交代からしばらくは、大隅正秋監督の下で進められていた絵コンテ等を、Aプロダクション演出グループが手直しするかたちで制作が進められています。つまり、大隅正秋監督の「前半路線」の時期があり、次に「大隅正秋+Aプロダクション演出グループ」の時期があり、Aプロダクション演出グループの「後半路線」になったというわけです。そういった事情のため、どの話までが「前半路線」で、どの話からが「後半路線」かを厳密に分ける事はできません。
 昨年、イベント「宮崎駿 漫画映画の系譜」の会場で発売されたパンフレット(スタジオジブリ編)に掲載の「宮崎駿フィルモグラフィー」は原口正宏さんの手による大変な労作でしたが、これによれば、『旧ルパン』でAプロダクション演出グループの手が入っていない話数は、第1〜4、6、9、12話。すなわち、大隅監督による純粋な「前半路線」がこの7本。それでは、大隅監督時代のシナリオやコンテを使っていない純粋な「後半路線」は何話からだと考えればいいのか? 不二子がショートカットになった第14話「エメラルドの 秘密」以降が純粋な「後半路線」か、とも思われますが、続く第15話「ルパンを捕まえて ヨーロッパへ行こう」で不二子はロングヘアに戻っていますし、15話のラストでルパン達が乗っているのはベンツSSKです。すると、純粋な「後半路線」になるのは第17話以降なのか? ひょっとしたら、もっと後なのかもしれません。この辺りの謎の解明は、私にとって積年のテーマのひとつです。また、「大隅正秋+Aプロダクション演出グループ」のエピソードに関しては、ひとつの話の中に「前半路線」と「後半路線」のテイストが混在しているわけで、「このシーンは高畑さんや宮崎さんが手をいれた部分なのではないか?」等と想像しながら観るのも、『旧ルパン』のマニアックな楽しみ方です。
 「後半路線」にコミカルな傾向があるとはいえ、後の『新ルパン』ほどギャグ色が強いわけではなく、『旧ルパン』は全体として、『ルパン三世』ヒストリーの中で「渋くて大人っぽいシリーズ」という位置づけになります。前にも書いたとおり、『カリオストロの城』や『風魔一族の陰謀』、あるいは今度リリースされる『生きていた魔術師』でルパンが青いジャケットを着ているのは、その作品が『旧ルパン』の路線を意図して作られたものである事を示すサインなのです。
 『旧ルパン』はオープニングのバージョン数が多い事でも知られています。4話から15話まで使われた「オレの名は、ルパン三世……」で始まるバージョンには、前述のパイロットフィルムの映像が流用されています。このバージョンのオープニングの終わりの方で、セスナから自動車の上に降りたルパンが車内にダイナマイトを投げ込むシーンがありますが、投げ込むまではパイロットの映像なのでジャケットの色が赤、最後の車から飛び降りるカットは1話から3話まで使われたオープニングからの流用であるために、ジャケットの色が青。同じシーンの中で、ジャケットの色が変わるという珍現象が起きています。

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