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コラム
アニメの“音”を求めて 早川優

 第1回「『ルパン三世』幻のオープニング曲」

 初回は、またしても旧『ルパン三世』の音楽ネタである。
 今回縁あって、VAPから発売中の旧『ルパン三世』のDVD−BOXのライナーに携わらせていただいた。その作業に入る時、ふと頭をよぎったのは、第16話「宝石横取り作戦」の別バージョンのオープニングを入れられないか、という事だった。
 「アニメスタイル」本誌第2号の「アニメの宿題」でもチラッと書いたのだが、現在、ソフトや再放送で目にする事ができる同話のオープニングは、どうもオンエア当時のものと異なっているらしいのだ。
 念のために復習しておくと、旧『ルパン三世』のオープニングは2クール弱という放送期間中に大きく2度の変更を受けている。単純に音楽面で分けるなら、初期数話分(何話まで流れたかについては、いまだ諸説ある)の「ルパン三世 その1」、これに続いて第15話まで使われたチャーリー・コーセー(最近はオープニングのクレジットに倣って“コーセイ”表記が多い)が「ピー・サーティ・エーィト、ワルサァ〜」と歌った「その4」(「その2」はエンディング)、そして、第16話から最終回まで、『ルパン』の路線変更に伴って、「囲みを破って〜」と陽気に歌われる新録音の陽気な主題歌「その3」の3種類となる。さらに、「その4」にはルパン三世役の山田康雄によるナレーション違いが数種類存在するなど、旧『ルパン』のオープニングはあまりにもバリエーションが多い。それゆえ、再放送の度に微妙に入れ替わったり、一部の映像ソフトのようにすべてを「その1」で統一してしまった事もあった。ファン諸氏の研究によって、本放送時の正確なオープニングと本編との組み合わせの見解がほぼ固まり、それが映像ソフトに活かされるようになったのは、ほんの最近の事なのである。
 さて、第16話「宝石横取り作戦」のオープニングである。同話は「その3」が初めて使用された回であり、この回に限って銭形警部のルパンに対する報告書形式のナレーションが被る。現在耳にできるスタンダード・バージョンでは、バックに流れる「その3」は第17〜23話使用分と同一のテイクなのだが、本放映当時、少なくとも新『ルパン』放映直前までの再放映で流れていた同話オープニングでは、「その3」のテイクが異なっているのである。
 ここで正直に告白すると、筆者は第16話のオープニングが2種類存在している事に、不覚にも気がついていなかった。筆者にこれを教えてくれたのは、昔からの知人で、老舗の「仮面ライダー」ファンクラブ「フェニックス」の代表、酒井良一さんである。なぜ、「仮面ライダー」のファンが、と思われる方も多いだろう。役者としての顔ももつ酒井さんは、ライフスタイルを含めてスタイリッシュに、広くカッコイイものへの追求心を人一倍もっている方なのだ。そのラインで、『ルパン三世』(特に第1作)への思い入れも並外れているのである。酒井さんは上記の事実を教えてくれた上で、再放送時にTVからオープニングを録音したテープを証拠として貸してくれた。
 このテープを聴いた時、バックに流れる「その3」がまったく違う事に驚かされた。
 現在スタンダードとなっている第16話オープニングは、東宝ビデオのLD「シークレットファイル2 サウンドコレクション」(LD:TLW2144)で完全に定着、後はVAPのCD「ルパン三世‘71 MEトラックス」(VPCD81271)にも、「第16話オープニングテーマ」と明記の上、収録されている。テレビから音どりされたオリジナル(と仮に呼称しておく)の「その3」では、メロディと歌詞こそ同じだが、ボーカルのニュアンスはまるで異なっており、バックの演奏も、ブラスやラテンパーカッション、女声スキャット(伊集加代子か?)、そして山下毅雄本人のものであろう口笛までフィーチャーされた、実にゴージャスな仕上がりなのである。納谷悟朗によるナレーションは、さすがベテラン、ほとんど相違はないが、タイミングも含めて明らかに別録りされたものである。
 ちょっと脇に逸れると、この「その3」を歌った歌手が誰であるかという事自体も、つい最近まで霧の中だった。それが、「映画秘宝」誌Vol.23の企画によって、よしろう広石がボーカリストとついに判明。氏はコロムビアが‘80年3月に新録音した「テレビ・オリジナルBGMコレクション ルパン三世 山下毅雄■オリジナルスコアによる『ルパン三世』の世界」(CQ-7040)にもヴォーカルで参加し、エスニックな声を響かせている。
 実を言えば、JASRAC(日本音楽著作権協会)登録上は、「その3」の歌唱者はチャーリー・コーセーとなっている。歌手についてはその声質からコーセー氏とは別人ではないかとの思いがあり、以前『ガンバの冒険』のLDライナーの取材で山下毅雄ご本人に取材した時、「その3」テープを現場でお聞かせして、歌手の判別をお願いした事がある。その時、先生は事もなげに「ああ、これはチャーリーだね」と軽くおっしゃっていたのに! この歌手判明までの詳細については、ぜひとも「映画秘宝」を手にとってほしい。ホント、事実は面白すぎるから。
 オリジナル版「その3」に戻ると、ここでの歌い手はスタンダード版よりも声質が高く、せっかく判明した広石氏ではない可能性もある。ああ、一難去ってまた一難。どうして、『ルパン』の音楽は、我々BGMファンを惑わすのか。まさに魔性のサントラだ。
 あくまで推論だが、第16話オリジナル・オープニングの「その3」はNGボーカルなのではないだろうか。番組途中での慌しい変更のため、一度録音されたものの、なんらかの理由でNGとなったのではないか。仕上げの現場にはそれが伝わらず、またはNG指示が出る前にダビングが終了してしまい、フィルムのサウンドトラックに残ってしまった、と。で、そのプリントを使用した放送に関しては、酒井氏が録音した別バージョンのオープニングが流れた。東京ムービー側では、曲がNGとなったため、割合早い時期にOKテイクの「その3」を使用して、スタンダード版のオープニングを作ったのだろう。オープニングのフィルム原版をオーダーすると、現在聴かれるバージョンが出てくるというわけだ。
 筆者としては、この第16話オリジナル・オープニングをなんとかDVDに入れられないかとの思いがあり、ブックレットの構成を担当した(有)アッシュを通じて打診した。残念ながらオリジナル・フィルムの発見には至らなかったが、別バージョンの音声は音声特典として収録する事が叶った。
 さて、DVDの作業も押し詰まった時期になって、何とオリジナルの「その3」がすでに商品化されている事が判明する。それは、日本コロムビアから1980年7月10日に発売された旧『ルパン三世』のドラマ編LP(CZ7032)においてで、このドラマ編は、第15話「ルパンを捕まえてヨーロッパへ行こう」と第21話「ジャジャ馬娘を助けだせ!」のカップリングだったが、旧『ルパン』第1弾のドラマ編アルバムという事で、収録作以外のオープニングのバリエーションがフィルムの光学サウンドトラック音声から収められていたのだ。そして、そこにはしっかりオリジナル・バージョンの第16話オープニングが入っていたのである。
 ここで、もうひとつ告白。実は、僕はこのコロムビアのドラマ編のボーナス・トラックの事を忘れていた。勿論、そこにオリジナルの第16話オープニングが入っている事もノーチェック。まだまだ修行が足りまセン。教訓。アニメ道の先達の意見には、真摯に耳を傾けるべし。そして、ドラマ編LPを軽んじる事なかれ。
 というわけで、VAP「LUPIN THE THIRD first tv. DVD―BOX」(VPBY-11902)をどうぞよろしく。是非、あなたの耳で第16話の両オープニングを聴き分けてほしい。限定3万セットで発売中である。

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