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いきあたりばったり放談 水島精二×小黒祐一郎
 その2 声優話とオリジナル幻想

小黒 さっきの話に戻るけど、ヒット作品の監督になって、何か変わった事はあった?
水島 いやー、なんも変わらないっスよ(笑)。仕事量が大変というだけです。フィルムを作る以外の部分で協力しなきゃいけない事が凄く増えた。取材とかもそうですし、それから商品関係で監修とかね。
小黒 ああ、なるほどね。
水島 それは監督を大事にしてくれてるという事なんですけどね。色々意見を聞きにきたりとか、チェックするものが回ってきたりするんですけど、それが凄い量があって、びっくりしましたね。
小黒 例えばCDのジャケットデザインができたので見てください、みたいなのがくるわけね。
水島 ですね。デザイン関係は最初は全部回ってきたんですけど、途中で南さんと相談して、デザイナーのカラーがいい感じで出てるのでお任せでいいんじゃないかと。それからは諸々結構減ったんですけど、それでも「これだけは、見てもらわないと困る」といったものだけで相当な数があって。ヒットするっていうのはこういう事なんだな、とは思いましたね。結局、南さんは全部見てましたけどね。
小黒 そうそう、南さんの仕事ぶりを聞かせてよ。
水島 それは載せられるのかなあ。俺、怒られるのやだよ(笑)。
小黒 いいよ。アニメスタイルらしいじゃん。
水島 だって、俺は誉める事しかできないよ。
小黒 8割誉めて、2割本当の事を言えぱいいじゃん。
水島 えー……南さんは呑むのが好きですね。でもね、呑むのも無駄にならないんですよ。そこは「あの人、凄いなあ」と思う。呑んでいる時に、大切な事柄が決まったりする事もありましたし。それから、やっぱりバイタリティが凄い! だって、TV3本のプロデュースを並行でやりながら、土曜日は少年サッカーチームのコーチですよ! ダビングが土曜にあると、コーチをやった後にちゃんと行ってるし。だから、凄い人だと思いますよ。頼りになりますし、厳しい事もちゃんと言ってくれますしね。僕が、南さんの部下だったという事を差し引いても、相当にいいプロデューサーだと思いますよ。
小黒 なんの時に部下だったの?
水島 『オバタリアン』(笑)。
小黒 ……ここで一応読者に説明すると、『オバタリアン』ってもの凄く濃い人が集まった、薄いアニメなんですよ。
水島 ハハハハ(笑)。
小黒 『ガンダム0083』が作れるスタッフが集まって、『オバタリアン』を作った(笑)。
水島 うん、そうだったね。監督はアミノ(テツロー)さんで。
小黒 逢坂(浩司)さんとか小森(高博)さんが作画だっけ。
水島 そうそう、逢坂さんは、僕が制作進行をしたエピソードの作監でしたね。
小黒 もっと南さんの格好いい話を聞かせてよ。
水島 南さんの格好いい話ねえ。絵コンテを描いていて「どうしても尺が縮まらない」とごねたら、「できないんなら凄い監督を総監督に連れてきちゃうよ」って言われました。
一同 (笑)。
水島 もちろん発破をかけられたんですけど、これ言われたらホントに尺縮められて(笑)。
小黒 (笑)それは『鋼』TVの最終回?
水島 ううん、劇場のアバンで(笑)。もう、なんか掌の上な感じ。
小黒 なるほどね。声優の話になるけど、『鋼』のキャスティングって、ベテランがおいしい使われ方をしてたよね。あれは誰かの意図なの。それとも、皆の意見が均等に入ってああなっていたの。
水島 皆の意見だと思いますよ。會川さんが外国映画の吹き替えとかをよく知っていて、吹き替えの役者さんに詳しいんですよ。だから彼が、渋めのところを言ってくれることが多かった。声のサンプルは皆で聞いてますね。この人がいいんじゃないかって役者さんの名前を出すのが多かったのは、僕とか、會川さんとか、あとは音響から出てくる感じで。
小黒 内海賢二さんの使い方とか、普通に嬉しかったよね。
水島 (音響を担当している)テクノサウンドが挙げた、アームストロング役候補の中に、内海さんが入ってたんですよ。それを見た時に「内海さんしかいないけど、内海さんは線撮りだと怒るって聞いてる(笑)。大丈夫だろうか」と思っていたら、「最近はそんな事ないよ」と言ってもらって。実際にきてもらったら全然そんな事はなくて。やっぱりあの人の持ってる雰囲気って貴重なものですね。最初はゲームで入ってもらったんですけどね。
小黒 あ、ゲームが先なんだ。
水島 収録はゲームの方が先だったんですよ。やっぱり凄かったですね。それに非常に作品に愛着を持ってくださって。
小黒 あれ(アームストロング)って顔はオッサン顔だけど、設定的には若いんでしょ。
水島 うん(笑)。でも、どう考えたってあの声じゃないですか。年齢はともかく、画の方に合わせた方が面白いというのは、『シャーマン』の時の木刀の竜もそうですからね。
小黒 ああー、そうね。
水島 18歳なのに、あれですからね(笑)。実際の年齢がいくつだからというように考えたりはしなかったですね。アルもやっぱり、エドとのバランスという事で考えてましたし。
小黒 アルの声を最初に聞いた時の衝撃たるや……。「この見かけでこの声が出るの?」みたいに思った。
水島 そう思うのも分かりますけどね。オヤジ声だと思ったっていう人も結構いたらしくて。
小黒 だろうと思うよ。水島さんと関係ないけど、俺は『BLEACH』の夜一さんが、どうなるのかちょっと気になっている。
水島 ヨルイチさんって誰ですか?
小黒 猫がいてさ、喋るのよ。で、アニメだとオッサンの声で喋ってるのね。で、マンガの方だと後の方になって、実は若い女だったという事が分かるの。
水島 へー。
小黒 素っ裸になって主人公の前に現れて、「ほお、女の裸は珍しいのか。初々しいのう」とかって、同じ喋り口調なのよ。
水島 ていうか、そのシーンをTVでできるのかどうかという問題もありますよね(笑)。
小黒 まあ、何はともあれ若い女にはなるわけだから、「やばいよ、女になるのが分かってるのにどうしてオッサン声を当ててるんだよ」と思いながら観てる(笑)。
水島 分かって、キャスティングしたのかな。
小黒 分かってやってるんだと思うよ。
水島 アニメ様には珍しく、声優の話になりましたね
小黒 最近、声優に興味あるよ。もう作画なんて古いよ。
水島 よく言うよ! 言っちゃっていいの? そんな事。
小黒 すいません。嘘です。
水島 (笑)。作画は大事じゃないですか。
小黒 もちろん。でもこの前、コラムを書くために新房(昭之)さんの作品をチェックしようと思って、『てなもんやボイジャーズ』を観返したら、凄い「声優アニメ」でさ。
水島 あ、そうなんですか。
小黒 三田ゆう子に女ヤクザを演らせるとかさ、高橋美紀に甘ったるく喋る女教師を演らせたり。80年代アニメテイストが炸裂。それから江原正士に1人4役とか演らせているのよ。同時にヤクザが4人出てきて会議するんだけど、全部、江原正士なんだよ。
水島 なるほどね。
小黒 大谷育江もヤクザを演ってて、これが可愛いんだよ。
水島 話を聞いてるだけで面白そうですね。あ、いかん。全然放談になってない。俺が喋ってないから!
小黒 大丈夫だよ。全然違う話だけど、最近さ、オリジナルアニメ幻想ってなくなったよね。
水島 え? それってオリジナルアニメで……。
小黒 なんかさ、現場のクリエイターが企画したものはファンも好きだし、内容的にも新しいみたいな幻想が、80年代半ばから90年代にかけてあったやん?
水島 ありましたね。OVAが出た頃は、そういうものでしたもんねえ。
小黒 で、10年くらい前に、ビデオメーカーが主体でTVアニメを作り出した頃も、そういうムードがあったじゃない。
水島 はいはい。ありました。
小黒 今はそれがないと思うよ。深夜にロボットアニメとかやっているじゃない。昔だったらロボットが出てきて、美少女がいるみたいなものって、大抵アニメオリジナルだったんだけど、今だとそれがマンガ原作だったりするじゃん。
水島 ああ、そうですね。オリジナルアニメでやってたような題材を容認する雑誌が生まれた事によって、(そういったものが)漫画界に流れ込んだんじゃないですか。で、それをまたアニメ化するっていうね。
小黒 悪循環か。
水島 悪かどうかは分かんないけど循環ですよね。それを言ったら、『鋼』だってそういうラインに乗っかってると思いますしね。
小黒 でも『鋼』はなんかね、原作ものにありがちな堅さはなかったよ。
水島 ありがとうございます。
小黒 なんだろうね。咀嚼の仕方の問題なのかなあ。
水島 それはあると思いますね。『鋼』の場合は原作がまだ3巻までしかなくて少なかったから、僕らの感覚が入りやすかったからじゃないかと。それは置いといて、圧倒的に原作にしやすい──「しやすい」じゃないな、原作対象になるマンガは増えましたよ。
小黒 増えたね。メーカーからすれば、アニメになりそうな原作がいっぱいあるから、オリジナルという冒険をしなくてもいい。そういう事情はあると思うんだけど。現場の方でも「これは俺たちの原作で作るんだ!」みたいな事をあんまりしたいと思ってないんじゃない。
水島 ……オリジナルをやりたいかどうか、って事?
小黒 そうそう。
水島 うーん……どうなんでしょうね。「オリジナルをやりましょう」という話はよくありますよ。ただ、オリジナルを世に出すために、昔に比べるとちゃんと準備はするようになったんじゃないですかね。
小黒 なるほどね。
水島 うん。やっぱり、ビジネス的に成功させたいっていう気持ちが強い分、仕込みとかもちゃんとやるし、映像だけじゃ回収できないというのはあると思うんで、慎重になってると思いますね。
小黒 昔と違って、こういう内容だとどのぐらい売れるかというのが、企画段階から見えてるというのがあるものね。
水島 ありますね。最近、オリジナルでなんか「これは」というのはありました?
小黒 なかむらたかしさんの『ファンタジックチルドレン』。あれはオリジナルならではの作品だと思うよ。1人で世界観を作って、キャラをデザインして、26本で語り切ろうと思うからできる内容だよね。
水島 確かに『ファンタジックチルドレン』は淡々と作ってる感じとか、凄いですよね。迷いなく作ってる感じがフィルム自体に見えて。
小黒 何かを入れようとしてるよね、作品の中にね。
水島 オリジナルが少ないのは、作家タイプのスタッフが少ないというだけなんじゃないの。
小黒 ああ、それはそうかもね。
水島 僕なんて、全然作家タイプじゃないですからね。初監督でオリジナルをやったんで、みんな勘違いしてるけど、ありえないぐらいそんな事ない(笑)。
小黒 確かになあ。宮崎、押井、庵野、幾原といった人達はTVはやらないし。河森さんはTVに時々、戻ってくるけど。
水島 河森さんはね、サテライトという自分が作る現場があるから、TVでも作り続けると思うんですよ。
小黒 そうか。意外と作家的な人は少ないのか。
水島 と思いますよ。前からそんなにはいないでしょ。
小黒 確かに数えるほどしか。だから、OVAが始まった時は、にわか作家ブームでさ、なんかこう……うわ、なんか凄い危険な事を言いそうだ!
水島 いいよ、言っちゃいなよ!
小黒 ついこの前まで各話演出とか、アニメーターだった人が突然「これが俺の作品だー!」とか言ってオリジナルの作品を出していたわけじゃない。
水島 そうですね、オリジナルでしかもその人の企画で、みたいなのはもう滅多にないですよね。でも、AICが昔作ってたOVAだって、企画はアートミックでしょ。だから、実は監督のオリジナルじゃなかったりしますよね。
小黒 実は『(戦え!!)イクサー1』には原作がある、みたいなね。すっかり忘れてるけど。
水島 だから、やっぱり元々アニメーションの現場自体に、作家タイプが少ないんだと思いますよ。
小黒 でもね、匂いで分かるよ。例えば平野(俊弘)さんがやりたい事をやるために、あのマンガを持ってきたっていうのは、事情は知らなくても作品のムードで分かるじゃない。まあ、話を戻すけど、「オリジナルの方が面白い」というのが幻想だっていうのは、理解しているんだよ。別段、原作つきでも面白ければいいんだけど。
水島 さっき原作対象になるマンガが増えたって言いましたけど、実際にアニメにして面白くなるような原作は決して多くはないんですよね。そのあたりが難しいところで。
小黒 水島さんは、別にマンガ原作をやるのは嫌いじゃないもんね。
水島 嫌いじゃないですね。
小黒 自分の中では、オリジナルと原作ものはイーブンでしょ。
水島 そうですね。ただね、僕は原作に沿って作ってるつもりだったんですけど、できたものはそうじゃなくなっている場合が……。
小黒 『シャーマン』は全然違うじゃん。
水島 『シャーマン』は「変えてください」って言われたから、変えたんですよ(苦笑)。
小黒 今の「変えてと言われた」というのは爆弾発言だね。
水島 いやいや、アニメ化の際にはよくある事だと思いますよ。この時はファン層を拡大したいから、小学校低学年が楽しめるように「ジャンプ」マンガの持ち味であるバトルの要素をもっと盛り込んでほしい、と要望を頂いたんで。それに合わせて後半はバトル中心にやっていこうという方針を決めていたんです。別に僕があっちに行きたいと言っていたわけでは全然ないんですよ。
小黒 だって、あの時は原作に惚れ込んで監督になったんだよね。
水島 そうですよ。「やりたーい!」と言ってね。特に10巻ぐらいまでは、ワクワクしながら読んでましたからね。と言っても、週刊連載では読んでなくて、単行本が出ると読んでたみたいな。いや、「出ると読んでた」というのも嘘ですね。単行本が出ると、人が買ってきたものを借りて読んでいた(笑)。
小黒 ああ、全然ダメだ。
水島 ハハハハ(笑)。『ダイ・ガード』の頃、大塚健君が買ってきたものを借りて読んでました。『シャーマン』を教えてくれたのも健君ですし。あ、でも監督引き受けるときに改めて全巻購入しましたよ。当たり前だけど(笑)。

●いきあたりばったり放談 水島精二×小黒祐一郎 その3へ続く


(05.04.16)
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