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第10回広島国際アニメーションフェスティバル
 ざっくり紹介レポート!


▲『頭山』 ▲『ルイーズ』

 広島国際アニメーションフェスティバルも回を重ねてついに10回目! 節目の大会に相応しい、充実したプログラムを5日間満喫してきた。8月19日から23日まで、大・中・小の3つのホールを目一杯使い、びっしりと組まれたスケジュールを見ながら、どの作品を見るか悩む毎日だった。第2回以来参加しているが、昼時にぽっかり空き時間ができて手持ちぶさたになる、といった最初の頃の事を思うと、感慨を禁じ得ない。
 今大会の特徴を大きく挙げるとすれば、(1)多数の長編の上映、(2)広島フェスティバル受賞作品の一挙上映、のふたつに絞られるだろう。(2)については、さすがに20年の重みがあるもので、粒ぞろい。最も小さなホールで上映された事もあって、毎回満員札止めという盛況ぶりだった。これからもこうした企画は定期的にやってほしい。
 (1)については、ここ数年の世界的な長編制作の機運が背景にある。フランスのアニメーション研究者に聞いたところ、フランスでは『キリクと魔女』のヒットを受けて、昨年、今年と長編がこれまでになく集中して公開されているそうだ(もっとも国内の制作能力は貧弱で、制作はもっぱら国外だという)。今大会では、そのフランスやハンガリー、韓国の長編が上映。さらに目玉として、『老婦人とハト』で第7回のグランプリを受賞した、フランス人監督シルヴァン・ショメの初長編『ベルヴィル・ランデブー』も上映された(カナダ等の合作)。『老婦人とハト』はユニークなキャラクターと作品世界の緻密な構築力が印象的なブラックユーモアだったが、そのキャラクター性と構築力は長編でも健在。かつてのサイレントコメディ映画のようにまったくと言っていいほど言葉に頼らず、誰が見ても楽しめる普遍性の高いエンタテインメントに仕上がっている。来年新春には日本での配給も決まっているという。ぜひ多くの人に見てほしい作品だ。
 印象に残ったプログラムをひとつ挙げるとすれば、「リチャード・ウィリアムス・セレクション(上映とセミナー)」だろう。
 リチャード・ウィリアムスは、『ロジャー・ラビット』のアニメーション監督であり、「ピンクパンサー2」のタイトルアニメーションを担当した人物(その後のピンクパンサーシリーズも)。今年になって、著書「アニメーターズ・サバイバルキット」が邦訳されている。制作秘話、伝説のアニメーターとの交流、アニメートについての分析といった話題が次から次へと飛び出して、飽きさせない。『ロジャー・ラビット』制作にあたっては、アクションはディズニー調、デザインはワーナー調、ギャグはテックス・エイブリー調(ただしあまり残虐でなく!)という、無茶な要求をクリアしたと語り、実際にロジャーのキャラクターが、有名キャラクターのデザインからの複合であることを、板書しながら説明。また、歩きのアニメートについては、ケン・ハリス、ミルト・カールといった著名アニメーターの謦咳に直に接した経験をもとに、男女の歩きの違いや普遍的な歩きのリズムを身振り手振りを交えて、熱っぽく語る。明快で、分析的かつ高度なプレゼンテーションに、英語に不案内なこちらもひたすら笑わされ、圧倒された。これが今大会の白眉だった。
 アニメファン的にも見どころは多かった。毎回日本の長編が紹介されるが、今回は『平成狸合戦ぽんぽこ』の上映に加え、高畑勲監督の講演があった。講演では、「(アニメに限らず)主観的な映画が多い。客観的な映画ももっとあるべき」と、『ぽんぽこ』を作った意図を丹念に説明。観客からの「客観的な映画を作るメリットは」という質問に「得はありません。ただし、社会的な広がりは得られます」と切り返す一幕も。他にも、木下蓮三、木下小夜子による新作『琉球王国』は、平田敏夫がアニメートを担当しており、見応えがあった。また、林静一が来場しているのを見かけたので、サインを戴きながら『哀しみのベラドンナ』の話をちらと伺うといった役得も。
 さて、映画祭のお楽しみといえば、応募作の公開コンペティション。だが、今回のコンペはやや期待はずれ。特に初日、2日は低調で、筆者の周囲の参加者も首をひねっていた。そのぶん、最終日には帳尻をあわせるように傑作が次々と登場したのだが……。上映順は観客賞の得票にも関わる問題だけに、ちょっと気になった。
 結局、グランプリは山村浩二の『頭山』に決定。主な受賞作は下記のとおり。

▲『鬼』
▲『ライアン』
▲『サウス・オヴ・ザ・ノース』
グランプリ
 『頭山』山村浩二
ヒロシマ賞
 『ルイーズ(Louise)』
 アニタ・ルボー
デビュー賞
 『鬼』細川晋
木下蓮三賞
 『ライアン(Ryan)』
 クリス・ランドレス
観客賞
 『サウス・オヴ・ザ・ノース(South of the North)』
 アンドレイ・ソコロフ

 『頭山』については説明の必要もないだろうが、他の作品については少しコメントしておこう。
 ヒロシマ賞の『ルイーズ』はカナダの作品。作者の祖母を題材にしており、声も生前の祖母が吹き込んでいる。ごく普通の手描きアニメーションだが、丹念な描写が魅力。政府をあげて高齢化社会対策に取り組んでいることもあり、今回上映されたカナダ作品には老人を題材にしたものが目立った。
 デビュー賞の『鬼』は山に棲む鬼と、鬼を退治しに向かう男、その帰りを待つ妻を描いた小品。パペットアニメーションで、水の表現が素晴らしい。記者会見で聞いたところでは、本当の水やジェル、プラスティックなど、様々な技法を使って表現しているそうだ。何らかの賞は獲るだろうと踏んでいたので、受賞は個人的には大変嬉しかった。
 『ライアン』は、ライアン・ラーキンへのインタビューを元にしたドキュメンタリータッチの3DCG作品。ライアン・ラーキンは『ストリート・ミュージック』等の作品で著名なカナダのアニメーション作家だが、現在はアルコール依存症に苦しみ、物乞いで生活をしているという。作品の出来以前に、大変ショッキングな内容だった。
 『サウス・オヴ・ザ・ノース』はロシアの手書きアニメーション。シベリアの漁師とアラスカの釣り人が北海で出会い、世界中を巡るはめに……というギャグ作品。

 観客動員も最も多い日は8000人を超えたという。アジア唯一の、国際アニメーションフィルム協会公認のアニメーション映画祭として、しっかり根付いたということだろう。前回から目立つ事だが、とにかく学生の参加が増えたのも驚き。中には、参加を単位にしている美術系大学もあるそうだ。国内外からのコンペティションへの応募も学生作品が多い。アニメーション作家を目指す若者が多いのには本当に勇気づけられる。こうした学生達のためにも、このフェスティバルが長く続くことを願ってやまない。(文・小川びい)


●関連サイト
広島国際アニメーションフェスティバル
http://www.urban.ne.jp/home/hiroanim/


(04.08.27)

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