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 「この人に話を聞きたい」第4回 湯浅政明(2)
── 映画『しんちゃん』の設定というのは、具体的にはどういうかたちで。
湯浅 スケッチブックに描くんですよ、2、3冊分。「こんなの、やろ、やろ」って言って。
── アイディアを?
湯浅 ええ。ほとんど採用にはならないですけど。
── 描いて監督に見せに行くんですか?
湯浅 ええ。置いておいて「見て下さい」みたいな。本郷さんにも、亜細亜堂の時の須田(裕美子)さんにも、いろいろ仕事をやらせてもらっていますね(注13)。場面設定をやれとか、設定をとか。言われるまでは全然やる気がないんですけど、任されて色々調べていると面白いことがいっぱい見つかったりするんです。
── 湯浅さんと言えば、「ぶりぶりざえもん」専門家という印象があるんです(注14)。あれは『八犬伝』の前後からですよね?
湯浅 『八犬伝』の前後ですね。一応、時代劇なんで、『八犬伝』で勉強したことが、マンガっぽくやれて楽しかったんですね。でも、「ぶりぶりざえもん」に関しては、林静香さんが描いた方が面白かったんです。僕としては。
── そうなんですか。
湯浅 林さんがやっていたのは、絵が動き出すっていうやつで、ホントに落書きみたいな絵で、面白いなって思ってたんですけど。
── 「ぶりぶりざえもん」の「雷鳴編」かな? まるで『八犬伝』のセルフパロディのような。
湯浅 あっ、そうでしたか。
── 似たようなアングルが出てきたり、似たような人物が出てきたり。
湯浅 影響を受けてるかもしれないけど、自分では気がつかないですね。
── 一応「ぶりぶりざえもん」シリーズは絵コンテも担当なさって。
湯浅 ええ。なんかやっぱり、コンテとかも面白いんですね。最初は自信なかったけれど、やり始めると面白くなって。だから、今の興味はコンテです。コンテをやったら脚本をやりたいとか、思うようになるんでしょうけど。でも、これから勉強するんですけど。自分は、最初から何も目標がないんですよ。動画やってる時は、動画のことしか考えてないし、原画やっている時は原画のことしか考えていないし。だから、「設定やれ」とか「絵コンテをやれ」とか機会を与えてくれる人のおかげですね。
── じゃあ、「ぶりぶりざえもん」もご指名だったんですか?
湯浅 ええ、本郷さんにコンテをやってみない? って言われて。
── なるほど。湯浅さんは、作画をするときは直感で描くほうですか?
湯浅 調べて描いたりもしますよ。机に座っている時間は短いですけどね。全然役にたたないことを調べるの好きなんですよ。
── 例えば、『しんちゃん』とかでも調べモノするんですか?
湯浅 ええ、僕はしますよ。海を見に行く話だったら、海のビデオをずっと見たり。本人は苦労してるつもりなんですけどね、いつも楽して描いてると思われるけど。
── さっき『ハイグレ魔王』が70点だとおっしゃったですけど、100点のものってあるんですか?
湯浅 ないですね。
── 他に点数が高いモノはあります?
湯浅 『ヘンダーランド』も70点(笑)。他にあるのかな? 『ちびまる子』の新しいOPが65点か70点。
── 『ちびまる子』の第2シリーズのOPですか?(注15)
湯浅 そうですね。よくわかんないんですよね。自分で気に入ったヤツと、人から褒められて「ああ、イイのかな」って思ったのと混同してるんで。「このカットは上手くいった」っていうのはあるんですけれど。
── どういう時に上手くいったと思われます?
湯浅 TVを観てて……。僕、すごく観るんですよ、自分のやったやつ。
── そうなんですか?
湯浅 しつこいぐらい観ます。じーっと。何時間でも自分の新しいヤツを観るんです。
── 同じ話数を。
湯浅 (笑)。格好悪いんですけど。「ああ、ここがだめだった、ああ、ここがよかった」って。もう、それが楽しみなんです。
── 自分のやったのを観るのが。
湯浅 うん。やってるとつらいことばっかりですけどね。なんか、でき上がったモノを観るのは、すごく好きなんです。
── 100点っていうのは、どんな感じなんですか? もしあるとしたら。
湯浅 大平君や森本さんがやってる仕事みたいなやつですね(笑)。
── 湯浅さん自身は、別に芸術っぽい方向に行きたいわけでもない?
湯浅 そうじゃないですね。そんな技術的なことよりも、単純に面白い物語がやりたい。あんまり画に凝るんじゃなくて。前はそういうのをやりたいとも思いましたけれど、森本さんとか、大平君みたいに、芸術家みたいな感じの……。
── 森本さんや大平さんは芸術家なんですか?
湯浅 芸術家っていう言葉が適切なのかどうか分からないけど。画に、すごく凝りますよね。 朝から晩まで仕事してるし。なんか、商業的ベースを越えてる感じが、ありますね。
── もう仕事の範疇じゃない?
湯浅 ええ。要は、自分は家庭が大事っていうことで(笑)。
── 結婚されてるんですか?
湯浅 ええ。
── お子さんとかは?
湯浅 は、いないですけども。まっ、お金さえあれば仕事したくないなあって、僕は思います。
── フルアニメ志向は特にないんですか? 
湯浅 できればやりたいですけどね。古いカートゥーンなんか好きなんですけどね。うん、リアルなものでもできればやってみたいと思うけれど、そのリスクを考えると、とてもなかなか、今の状況でやろうとは思いませんね。もし、やれたら面白いんだろうけど。
── 特に映画『クレヨンしんちゃん』の設定に関してですが、デザインの極意ってあるんですか?
湯浅 シンプルでワンポイント変なところがある。一風変わった感じのするところがひとつあって、おかしみのあるような。例えば甲冑なんかを描くにしても、本なんかを見て、実際のもののどこかを強調して描いたりとか。
── 今後、こういうことをやりたいとか。
湯浅 最近ものすごく、自分のキャラクターでやってみたいと思っているんですよ。ちょっとリアルな感じで。
── 自分のキャラクターデザインで?
湯浅 監督もいいかなって思ってたんだけど、やっぱり画が思い通りに行かないと……やっぱり、画がやりたいのかな。でも、自分のはマイナーって言われるんで。
── 画が。
湯浅 ええ。でもやってみたいんですけどね、自分のスタイルとか、なんでしょうね。動きの理論じゃないですけどね、なんか自分の中にあるものを、ちゃんとした形にしたいって。
── 自分の独自のキャラクターはお持ちなんですか。
湯浅 特別派手なモノはないんですけどね。うつのみやさんのような、大平君のような、『クレヨンしんちゃん』のような、なんかシンプルで、リアルな動きもできて、言葉で説明するのは難しいんですけど。
── さっきリアルなのが好きだっておっしゃってましたけど、この場合のリアルはどんなラインの。
湯浅 大平君っぽいような。でも、あそこまで行かない。もっとあれをスキップさせたような、うつのみやさんを足して割ったような……どういっていいのか分からないけど。今のアニメのデザインって、よくは知らないんだけど、なんかゴテゴテいろんなのつけるじゃないですか。そういうデザインじゃなくて、本当にシンプルな。シンプルっていうとにギャグマンガみたいな感じに思われるかもしれないけれど、もうちょっとリアルで線の少ないヤツとかありますけどね。最近、飛び降り自殺しちゃうようなのやってましたよね、なんか目のおっきい。
── ああ、『Iain』ですね。
湯浅 とか、荒川(真嗣)さんの「雪割りの花」(注16)とか。
── ああ、はいはい。あのゲームですね。
湯浅 そうそう。なんかああいうのがいいと思いますね。で、もうちょっとあのキャラクターを売れ線に近付けるっちゅうか……。
── 売れ線ですか?
湯浅 あっ、でも僕が考える売れ線ですけどね。
── どこら辺のラインなんですか?
湯浅 …………うーんと難しいですけどね、ティム・バートンとか(笑)。(注17)
── ティム・バートンですか。確かにキャラクターグッズとか出ているから、売れ先と言えば売れ線かもしれませんね。
湯浅 そこら辺の線はいけると思うんですけどね、なかなかそういう仕事がないんですけど。
── でしょうね。
湯浅 完全にアニメファン向けか、子供向きですよね。そうじゃなくて、シンプルだけどセンス良さげな……。
── 大人でも、グッズが買えるような。
湯浅 そうそう。なんかそこら辺がいいんですよね。
── ティム・バートンは、お好きなんですか?
湯浅 なんかだんだん分かるような気がしてきた。昔は面白いと思わなかったんですけどね。画は面白いんだけど、テンポがついていけないっていうか。
── 湯浅さんは、アニメ界で他に何か影響を受けた方っていらっしゃいますか。
湯浅 もう、色々な人の影響を受けていますよ。大平君とか、小川さんとか。他の人の画を見ると、あっこういうふうにやんなきゃなって思うんです。ちゃんとしたアニメをみると、自分もちゃんとしなきゃなって思うし。
── なんですか、ちゃんとしたアニメって?
湯浅 きれいに動いているアニメですね。かっこいい系のアニメって好きじゃないんですけどね、観ると感心しますよ。ちゃんとやってるなあ、よくこんなアクションをきれいに動かしてるなって。昔よりホント上手い人多いですよね。みんな上手くて、僕なんかが食っていけるのが申し訳ないです。
── そんな(笑)。話を巻き戻しちゃいますけども、『ちびまる子』の『私の好きな歌』の個々のパートはどういう発想でやったんですか。たとえば「買い物ブギ」は。
湯浅 なんか歌の感じですよね。とりあえず本編と同じセルでやるんで、本編とできるだけ違うようにしなくちゃいけないって思ったんですね。まあ、色味を変えてみたり、カメラワークはもう、曲の感じですね。聞いて、浮かんだ物をそのまま並べて、こうしてこうしてこうしてって。で、おばさんを描く時って、汚く描く場合が多いと思うんですけど、汚くするのやなんですよ。だから、できるだけかっこいいおばさんにしたかったんですよ。顔はあーでも。そうはなってなかった感じはしますよね。「なんだったんだろう」と思われるぐらいの、ちょっと変わったのになれば良かったと思ったんですが。こんな答えでいいんでしょうか(笑)。
── ええ、結構です。
湯浅 ちょっとシュールにならないかなあって思ったんですけどね。そんなにシュールにならなかったですね(笑)。色もモノトーンを使えばよかったのかなって思ったんですけど、ちょっと軽演劇風にできたらなとか。もっと動いていないと、画が歌に負けるんですよね。だから、ああいうのをフルアニメでやれるとおもしろいと思うんですけどね。
── あの作品は短期決戦で作ったんですか。
湯浅 ああ、そうなんですよね。「買い物ブギ」は原画を他の人に頼んで、それを直すような感じだったんです。全部直しているわけじゃないんです。
── あっ、そうなんですか。『ドラッグレース』の方は全部原画を描いたんですか?
湯浅 ええ。割と簡単に描いちゃったんですけど。バーッと鳥が飛ぶ場面は、ホントはちゃんとしたの描きたかったんですけど、すごくいいかげんな形になっています(笑)。音楽は、音楽に乗せるのは簡単っていうかね、聞くと浮かぶから。
── 天才ですね。
湯浅 天才じゃないです(笑)。でも、なんかそういうのは得意かもしれないんですよ。『ヘンダーランド』の追いかけっこみたいなのはすぐに浮かぶ。
── そうなんですか、あれは考えた挙げ句でもない。
湯浅 まあ、考えたんですけど、考えた後、さーって描いて、これでいいかなって。
── 落ちて、上がってとか。
湯浅 ああいうのだったらすぐ考えられるんです。
── それは得意なことなんですね。
湯浅 たぶん得意ですね。あの程度なら。でもアクションだけになっちゃうのが嫌なんで、一応、ちゃんと脚本とかも勉強したいんだけど。
── 亜細亜堂出身で、今シンエイ動画の仕事が多いって言うと、どうしてもAプロの影響を感じちゃいますが。
湯浅 僕は、仕事をはじめてから、Aプロの作品を観て勉強しました。
── あっ、そうなんですか。
湯浅 やっぱ、そこから来ているんでしょうね。自分のちゃんとしてない画って。流線型の画ですよね、『ど根性ガエル』なんかの画って。動かす度にいつもゆがんでいる画なんですよね。
── 特にどのあたりですか、ご覧になっていたのは。やっぱり『ど根性ガエル』ですか?
湯浅 『ど根性』も好きだし。近藤(喜文)さんや宮崎(駿)さんの原画が好きだったんですよ。勿論、芝山さんも好きだし、小林(治)さんもすごいと思うんだけど。なんかすごく絵がのびるんですよね。そういう動かし方があるのかあって思って。最初の頃の目標ではあったんですよね。
── 『クレヨンしんちゃん』の映画とか、失われたAプロの香りがしますよね。動きで見せるところが多いじゃないですか。
湯浅 そうですね。上手い人がどんどん多くなってきたし。僕、Aプロが好きだったんで、『アニメ落語館』でAプロっぽくやったんですよ。キャラクターを。一応これで、Aプロっぽいことは終わりにしようと思ってやったんです。でも、基本的には変わってないんですけどね。
── じゃあ、『アニメ落語館』が湯浅さんのAプロモノの集大成だったんですか。
湯浅 そうですね、いい加減なんですけど(笑)。
── レンタル屋とかで見かけないですよね、その作品。
湯浅 ないですね。観て欲しくないですけどね、恥ずかしいですから。
── 『アニメ落語館』で、Aプロ系を卒業しようと思って、その後はどうしようと思ったんですか?
湯浅 最初は、テーマを設けるようにはしていたんです。1本1本スタイルの違うものをやろうと思って。『クレヨンしんちゃん』の映画に参加した辺りで、もうテーマが無くなっちゃって。なんかマンガっぽいものもやって、『シロクマ君』で絵本ぽい画をやって、『八犬伝』でリアルっぽいものをやって。もう、そういうテーマもなくなって、どうしていいかわかんなくなっていたんですね。それで、最近では演出がやりたいと思ったり、さっき言ったようにキャラデザがやりたいと思ったり。
── この記事を読んで、キャラクターデザインをやらせたい人は声をかけて下さいって。
湯浅 ええ、どっかにやらせてくれるプロデューサーいないかなあって。
── やっぱり、短編とかがいいんですか?
湯浅 いや、シリーズとかを作りたいですね。なんかオリジナルのアニメとか、僕にやらしてみようっていう人はいないのかなって。偉そうに(笑)。
── だったら、さっきからこんなに、「自分はいい加減だ」というトークは、やばいのでは(笑)。
湯浅 ああ。うーん、まずいっすねぇ。……でも客観的にみていい加減だと思うんですよ、僕の仕事は。
── でも、いい加減な仕事ぶりが自分が嫌いなわけじゃないでしょう?
湯浅 そうですね、あんまり一生懸命に見えるのもイヤなんです。
── 本気でやったぜ、みたいなのは嫌ですか。
湯浅 苦労してても苦労に見えないような画が好きですね。いい加減に描いていても。
(注13)
須田裕美子さんは『ちびまる子ちゃん』の監督。
(注14)
湯浅さんは『クレヨンしんちゃん』のスペシャル内で放映された「ブリブリざえもんのボーケンだゾ」と「ぶりぶりざえもんの冒険 雷鳴編」で作画監督と原画を担当。続く「同 風雲編」「同 飛翔編」「同 電光編」では脚本・絵コンテ・作画監督・原画を担当している。いずれも彼の持ち味が発揮された快作。
(注15)
『ちびまる子ちゃん[第2期]』最初のOP「うれしい予感」で、湯浅さんは絵コンテと原画を担当。ちなみに『ちびまる子ちゃん[第1期]』では、各OP、EDの作画を担当。ただし、「おどるポンポコリン」は他のスタッフと共同で担当した。
(注16)
プレイステーション・ソフト「雪割りの花」で、荒川真嗣さんは絵コンテ・キャラクターデザイン・作画監督・ビジュアルコンセプトを担当。
(注17)
ティム・バートンは『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の製作・原案・キャラクター設定等で知られるクリエイター。
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