WEBアニメスタイル
更新情報とミニニュース
アニメの作画を語ろう
トピックス
ブックレビュー
もっとアニメを観よう
コラム
編集部&読者コーナー
データベース
イベント
 

 編集・著作:スタジオ雄
 協力:スタジオジブリ
    スタイル

WEBアニメスタイルについて メールはこちら サイトマップ トップへ戻る
トピックス

いろんな会社にオジャマしちゃおう!
 第1回 ハルフィルムメーカー

 1週間に放映されるTVアニメのタイトル数が怒涛の勢いで増殖を続ける、今!
 各作品のクレジットには、ここ数年でぐんぐん頭角を現してきた新進気鋭のプロダクション、お初にお目にかかるできたてほやほやの制作会社、ずっと前からよく目にするけどメディアへの露出が稀でちょっと謎めいた会社など、気になる名前があっちにもこっちにも目白押し。制作本数の増大がもたらした功罪・悲劇・惨劇は色々あれど、駆け上がりたい会社には、大きなサバイバルチャンスの時代である事は間違いなし!
 また、よい作品を作り続ける会社やスタッフの皆様の事はぜひもっともっと知らしめたい!
 そこで! フル回転で多忙を極めていらっしゃるのは重々承知の上ながら、図々しくもそれらの会社におジャマして、会社の成り立ちから、制作状況、将来の目標、スタッフの方々の人となり、などなどお固い談義から柔らかい雑談まですべて交え、その会社のユニークな独自性・パワーの原動力などを紹介させてもらっちゃおう!
 というのがこのコーナー!
 第1回にご登場頂くのは、『セイバーマリオネット JtoX』、『BOYS BE…』、『スレイヤーズ ぷれみあむ』など原作を生かしたアニメから、『STRANGE DAWN』や『プリンセス チュチュ』など佐藤順一監督との強力タッグから生み出すオリジナル作品まで、連続して順調に送り出している制作会社「ハルフィルムメーカー」。社長でもあり、作品プロデューサーでもある春田克典氏にたっぷり語って頂きました。

2003年5月27日
取材場所/東京・ハルフィルムメーカー
取材・構成/田中くうち
PROFILE

社名/有限会社ハルフィルムメーカー
代表取締役/春田克典
役員/佐藤順一(取締役)
設立年月日/1993年8月
従業員数/約30名(正社員:約5名、作品契約:約25名)
関連スタッフ(作品契約含む)/佐藤順一(監督)、佐山聖子(監督)、熊谷哲矢(作画)、伊藤郁子(作画)、竹田逸子(作画)、小林明美(作画)、川上善美(色彩)など
公式サイトhttp://www.hal-film.co.jp

【ハルフィルムメーカー制作主要作品】
春田 自身は最初、実写の助監督からこの世界に入ったんですよ。大林宣彦監督の作品なんかを手伝っていた。
―― 大林監督と言えば、『少年ケニヤ』(1984年/監督:大林宣彦、今沢哲男)というアニメ作品が。
春田 そう。あれがきっかけなんです。角川映画で『少年ケニヤ』を作るとき、僕は現場である東映動画(※現・東映アニメーション)に、大林側の助監督としてずっと入ってたんですね。
―― 春田さんが実写からアニメに転向したのはそれがきっかけですか?
春田 そのころはまだ、実写もアニメも両方やってたんですけどね。『少年ケニヤ』のあとで『星くず兄弟の伝説』(1985年/監督:手塚眞)を作ったりもしましたし。それがあるとき、実写の頃から付き合いのあったバンダイビジュアル(※当時バンダイ)のプロデューサーに、当時はまだ東映動画の社員だった佐藤順一監督でアニメを作れないかな? という相談を受けて。そこで『少年ケニヤ』のときに知り合った東映動画やタバックのプロデューサーと一緒になって企画を実現させたのが、『気ままにアイドル』です。で、そのあとバンダイビジュアルさんと、また何かやろうよという事でふってわいたのが『3×3 EYES』ですね。
―― そのあたりまでは、フリープロデューサーという形で。「ハルフィルムメーカー」という会社組織の誕生は、1993年の事ですね。
春田 といっても、法人化だけはしましたけど、制作会社としての実態はほとんどなくて(笑)。劇場版『マクロス7(銀河がオレを呼んでいる!)』にしても、そのあとのTV『セイバーマリオネットJ』にしても、スタジオジュニオと組みながら、企画プロデュースという形を続けたわけですが。それだと、どうしてもコーディネーション的な事だけに終わってしまう。クオリティやスケジュールの管理まではできない。現場は外にお任せしちゃうわけですから。それで『セイバーマリオネットJ』の後半ぐらいから、せめてメインスタッフを抱えて、そこを軸に作品を作っていけるようなプロダクション機能を持った方がいいやと思って。だから実際にスタジオとして動き出したのは、『またまた セイバーマリオネットJ(Rogram:26 プラズマティック・クライシス)』からですね。
―― スタッフの方は社員という形ですか?
春田 ほとんどは作品契約ですね。入れ替わりはありますけど、制作部が10人位、監督・演出チームが2、3人、キャラデザインや作画監督チームが2、3人という感じですね。他にアニメーター達や他のパートも入れて、常に30人位います。厳密には、ウチはいまだに社員は数名しかいません。作画スタッフでも2名くらいかな。スタッフはクリエイターですから。例えば作画のメンバーでも、あの監督のをやってみたいっていう欲求があるわけですよ。それを完全に拘束しちゃって、ハルフィルムでやる作品しか受けられないってなると、やっぱりストレスも溜まるだろうし。むしろ外の仕事をやる事によって、成長してまたハルフィルムの仕事に戻ってくれればいいわけですから。クリエイター同士、会社同士の交流があって、常に刺激し合ってるからよい作品をどんどん生み出せる。それが日本のアニメプロダクションだとも思うんですよね。
―― 佐藤順一監督は、役員という形なんですね?
春田 佐藤とは、彼が東映の社員だった頃から友人でしたから。たまに会うと、オリジナルやりたいよね、っていうような会話はずっとしてたんですよね。で、こっちもスタジオとして機能をさせるようになり、佐藤も1年くらいフリーの監督をしてた頃に、改めて、ハルフィルムでオリジナル作品を作っていきたいんだ、という相談をしたんですね。
 初めはよい原作をよいアニメにする、という事を主流において作ってきたんですけど、その次の段階として、オリジナルを発表するという事にチャレンジしたくなった。それで、会社としてオリジナル企画を作れる体制に向かいたいんだ、と。佐藤もオリジナルを作りたいっていう気持ちは強かった。だから、ここに来てくれた。それが2000年の事ですね。それで佐藤原作で初めて作ったのが『STRANGE DAWN』です。
―― ファンタジーなんだけど、三頭身キャラがニヒルになったりする、変てこりんなアニメですよね。
春田 三頭身キャラが熱く語ってたでしょ、人生を(笑)。
―― ただオリジナルの場合、監督の中に強いビジョンがあっても、企画の段階でその面白さを外に対しては伝えにくいという部分もありますよね。
春田 原作のあるものなら、ある意味簡単なんですよね。そのマンガを読んでもらえばいい。だけど、オリジナルだと見せ方が非常に重要になってくる。だから『プリンセス チュチュ』なんかは、先にパイロット版を作りました。企画自体は、伊藤郁子さんがもう10年くらい大事に温めていたもので。この題材をもらった時、僕にはスゴク面白かったんですよ。だけどクライアントに向かって、「佐藤順一監督で、伊藤郁子のキャラクターデザインで作ります。バレエの話なんです。ヨーロッパが舞台で、踊りで戦うんです」って言ってもね(笑)。伝わらないじゃないですか。それなら、たとえ2分でも3分でも映像として見せて、これがTVシリーズになるんです、と言った方が伝わりやすいだろうと。『プリンセスチュチュ』の場合は、キングレコードの大月プロデューサーに企画を持ち込む段階で、すでにパイロット版がありましたね。
―― パイロット版の制作費は、企画が通らなかった場合、持ち出しになってしまいますよね。
春田 先行投資ですから、オリジナルは大変です(笑)。だけど、ひとつの作品をプレゼンテーションする時に、プロデューサーがこんなものをオリジナルでやりたいんだけど、どお? って提案するよりも、クリエイター達の中で浮かんできたものを、伝えやすい形にして提出した方がいい。そのとき、実現に近くなる方法を考えるのが、会社の役割でもあるわけだから。
―― 他にもパイロットまで作ってる企画はあるんですか?
春田 全てをパイロットにするわけではないので、パイロットまで作ってるのは他には1本だけですね。抱えている企画は、絵まで起こしつつあるものとかも含めて、10本くらいはあります。監督にしても、作画や脚本のスタッフにしても、基本的には専門クリエイターですから、企画書としてはっきり描けるとは限らないんですよ。だから、例えば初めは絵しかなくてもいい。この絵をなんとかアニメにしたいんです、って言われたら、こちらでライターに声をかけて、その絵を元にサンプルストーリーを作る、という作業を進められますから。口だけだとちょっと困りますが、その人の得意な表現で示してくれれば、企画書という形になっていなくても全然構わない。
―― オリジナルを目指す人には、嬉しい言葉ですね。
春田 でも決して甘くはないですから。夢を見るのはいいですけど、現実はなんとかならない事の方が多い。お預かりできる企画はお預かりするけれど、やっぱり時間はかかる。今日企画をもらいました、来週営業しました、再来週決まりました、というような事は、絶対に無理ですから。色んなところからサジェスチョンを受けて、それじゃあと、キャラクターを作ってみて、また打診する、まだ決まらない、それじゃあと、サンプルストーリーまで作ってみる、そしてまた打診する。そういうやりとりを何度も交わしながらなので相当時間もかかります。しかも10本提案して、10本決まる世界ではない。
 それでも、自分勝手な思い込みではなくて、実現したい、そういう熱意、情熱も必要ですね。もちろん冷静な分析も不可欠なんですけど、相手に興味を持たせるパワーがないと。ゼロのものを実現させるのだから、コレ絶対面白いです、っていうパワーが。
―― そのパワーがコンスタントに持続してるって事は、今後はオリジナルがメインになっていくんでしょうか?
春田 会社の事業の100%をオリジナルに切り替える予定はないですね。もちろんオリジナルはひとつの軸としては置いておく。でも、原作ものでも発注があればもちろん作らせていただくし、例えば佐藤にしても、もうオリジナル以外監督しないという事じゃない。面白い原作を提案していただいたり、あるいは、自分からこの原作でやりたいんだ、と切り出す場合ももちろんあるので。
―― 放映中の『カレイドスター』なんかは、企画にハルフィルムメーカーが名前を連ねている、監督も佐藤順一。だけど、制作は別のスタジオになってますよね。
春田 ウチも現場としてはまだそれほど大きなキャパシティを持っているわけではないので、『プリンセスチュチュ』を作ってる間は、やっぱり『プリンセスチュチュ』に集中したい。だから佐藤の作品でも、ウチにこだわらなくていいんだと。原作が佐藤とハルなのに、現場は違うところでもいい。そういう切り替えというか、経営の修正の第一弾的作品ですね。
―― 今後は企画だけが、独自の動きをしていく事もあるという事ですか?
春田 将来的には、企画部門と制作部門を、全く別に機能させたいと。企画部門から上がったものを、ハルで制作する事もあれば、A社、B社で制作する事もある、という形に。また、今回の『カレイドスター』がそうであるように、佐藤が他社作品の監督をする事もあれば、制作プロダクションとしてのハルが、佐藤でない別の監督で作る可能性ももちろんある。それぞれの機能を分けていきたいっていうふうには思ってますね。
―― 他社とのパートナーの組み方も、制作なのか、企画なのか、によってもっと拡大していくわけですね。
春田 日本にこだわる必要もないと思ってます。マーケットも、ビジネスパートナーも。今後の挑戦として、海外と組むというだけでなく、場合によっては日本でパッケージ販売も放送もない、という作品でもいいと思ってるんですよ。
―― 中国企業とのパートナーシップは数年前からもう始めてますよね。
春田 大連電視台(TV局)との合弁会社を7年くらい経営してました。実はそれは去年の9月に清算・解散をしたんですが、それを元に中国側が作った新会社と新たに業務提携を結ぶ形で残りました。そこでやろうとしてるのは、中国から世界に発信できるアニメーションが作りたいと。中国の作画クオリティはもう十分に高い。が、そこに足りないものがある。それは、構成力、企画力、デザイン力。その部分はウチにノウハウがある。だからそれをハルがフォローして、共同著作権をもって商品化を進めましょう、という形です。企画部のパートナーとして組むという事ですね。
―― 中国マーケットのキャラクタービジネス展開も見据えられてるみたいに感じますが。
春田 アニメーションのビジネスには、2種類あって。映像自体がメイン商品です、というものと、マーチャンが主流ですっていうものと。日本でも、直接的なアニメーションのビジネスって1500〜1600億のマーケットなんです。でも商品化までひっくるめると2兆円に拡がる。海外はそこまで差は出ないんですけど、それでもキャラクタービジネスっていうのは大きなウェイトを占めます。中国は、潜在的マーケット人口は高いのに、娯楽とか嗜好品とか、衣食住以外の部分のサービスが足りない。日本のアニメーションは中国でもアジアでも人気があるんだけど、それは今はそれしかないから人気があるだけで。もしかしたら、中国の子供達は三国志のヒーローのSFを見たいかもしれないわけですよ。21世紀の西遊記を見たいかもしれない。TV局のプロデューサーだって、自分達のアニメを作りたがっている。だったら向こうの意図に、僕らがやってきた経験とノウハウをプラスして、中国の子供が欲しがるようなものを作ろうと。そうやって、向こうと組んで商品化をする事で、中国の潜在的なマーケットが本来のマーケットに変わるんじゃないかと。それも輸出するだけなら、現地に法人を作る必要はない。軸はあくまでも中国で。彼らが作りたいものが商品価値の高いものに変わるためのお手伝いをしようという事ですね。
―― それがもちろん、逆輸入で日本に入ってくる事もあるんでしょうね。
春田 最終的には、世界中の子供達が同じ映画、同じTV番組を見て、夢とか希望とかを持ってくれるといいなと思ってるんですよ。
 僕は、最初に見た映画が、ディズニーだったんです。『ピーターパン』と『101匹わんちゃん大行進』の2本立て。そのときの感動がいまだにあるんです。だから気持ちのどこかで、映画という大きなスクリーンに向かって、子供達が笑ったり、泣いたり、ドキドキしたり、拍手したりっていうのに、憧れてる。TVやDVDっていうのは、家庭の中で観てる人と画面しかないわけですけど、映画は、全然知らない子供達が、映画館に集まってくるわけじゃないですか、100人、200人。その全く見ず知らずの子供達が、一緒に笑ったり、一緒に泣いたり。そこに、ある種のライブ感がある。そのライブ感が僕にとって、凄く大事なんですね。
―― そうすると、会社としての今後の目標は世界ですか?
春田 それもあります。が、日本のアニメって世界に誇れる文化になっているにも関わらず、作ってる側のクリエイター達って、やっぱり恵まれてないわけです。収入の面でもそうだし、待遇の面でもそう。だから、彼らがもっと幸せになれる環境を作るにはどうすればいいのかに、もっと取り組みたいんです。作り手達に多くのものが還元されるように、早く変えていきたい。
 極論を言えば、ハルフィルムメーカーなんて会社は、あったって、なくったって、一緒なんです。その中に佐藤がいたり、専属ではなくても色んな人が出入りしてくれて、作品を生み出してくれるから、ハルっていう会社が作品を発表できているわけで。別に佐藤順一オフィスでもいいわけです。会社が才能やシステムを持ってるわけじゃない。個人の集合体が会社でしかない。それがウチの基本な考え方です。だから会社がどうなるかという事より、個々のクリエイター達をどれだけ大事にするか、あとは次の世代の新しいクリエイター達をどれだけ育てられるか。それが大事なんです。ところが、育てたくても、新人が先輩の姿を見て、夢も希望も持てなかったりするわけです。今のままでは。こんなに徹夜して、こんなに家に帰れなくて、でもこれだけしか稼げない、30歳過ぎても40歳過ぎてもそうなのかって、20代の子が知っちゃうとね。いくら絵を描く事が好きでも、将来の事を考えた時に、やっぱり違う方向を選んじゃうじゃないですか。
―― オリジナル企画という事へのこだわりも、クリエイターの権利を確保する、クリエイターに還元するという事へつながるわけですね。
春田 そうです。ウチもオリジナルのものはまだ3本しかやってない。その権利料なんて実際のところほんの少ししか返ってこない。ビルが建つどころか、開発費を考えたら赤字かもしれない。オリジナルを成立させるには、時間もお金も労力もかかるんです。それでも、オリジナルっていうものを作り続けないと、変わっていかないと思うんですね。オリジナルを作り続ける事によって、原作をした監督なんかにも、原作料が払える、印税を払える、キャラクターデザイナーにも原作料や印税が払える。そういう事を繰り返していかないと。たとえ徐々にであっても、これまでは印税の権利を持てなかった人が、ゼロから10万になる、100万になる、やがては1000万になる。そういうふうに変わっていかないと駄目だなあ、と。
 夢を持てる人達を作らなきゃならない。それを持てる業界にしたいと思ってるんです、僕は。
一覧へ戻る


Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.