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アニメの作画を語ろう
animator interview
 うつのみやさとる(3)
小黒 さて、いよいよ『御先祖様』の話に行きたいんですが(注11)
うつのみや はい。
小黒 大変に新しい作品でしたし、その後に与えた影響も大きいと思うんです。『御先祖様』は、うつのみやさん自身にとっても、新しい方法論を確立した作品なんですか?
うつのみや はい。と言うより、以前から持っていたものを出した感じですね。まあ、口幅ったい言い方なんですけど、確かにある程度新しいと思うんですよ、あのフィルムは。
小黒 ええ、相当新しかったですよ。
うつのみや 僕の頭の中には、確信犯的に「これをやれば新しいんじゃないか」っていうものがあったんです。まあ、それがみなさんが受け取ったものと同じかどうかは分からないんですが。
小黒 と言うと?
うつのみや まずひとつは、影をリアルに落とすという事です。それは単純な事なんですけど、当時のアニメーションの世界には広まっていなかったんですね。それまでは物に影が――しかも計算なく漠然と――ついているような状態だったんです。だから、手が前にきても、その影が体には落ちなかったりする。それもアニメのひとつの方法論としてはありだろうとは思うんですけれど、そればかりではつまらない。やっぱり、光源を考えてもいいんじゃないか、という事を提示したんです。
小黒 なるほど。
うつのみや あともうひとつは、時間的な誇張についてですね。
小黒 時間的な誇張、ですか。
うつのみや 例えば「お化け」っていうのがありますよね(注12)。昔から、「お化け」という技法は確かにあったんです。でも、あれは、やっぱり誇張しすぎなんですね。僕が『御先祖様』であらためてやった事というのは、スカッシュと言うんですけどね。例えば、実写のフィルムを1コマずつ送って見てみると、走っている時には、手がブレて見えないんですよ。それは、1/24秒の、カメラのシャッタースピードで捉えているから、ブレるんですね。でも、昔のアニメーションを作った方々は、ブレて描くという選択を取らなかった。その代わりに、デフォルメして、「速く流れているんだよ」みたいな感じで手先をビュッって伸ばしたり、からだ全体のフォルムを人間の骨格からかけ離れた感じで崩したりして、表現するようになった。それがやがて「お化け」と呼ばれるものになり、その表現が一人歩きして、リアルからどんどん離れた方向に行ったと思うんですよ。
 そんな風になっトしまったのを「『御先祖様』で、リアルに戻そうよ」という事だったんです。さっきの投影光もそうなんですけど、描いているキャラクターは置いていて、アニメーションに関する考え方としては「リアルに、実写に戻そうよ」というのが『御先祖様』の方法論なんですよ。
小黒 当たり前になってしまった「アニメ的な表現」を一度捨てて、現実的な動きを描こうという事ですね。
うつのみや ブレに関してなら、実写の映像は1秒が24コマですが、2コマのアニメーションだとしたら、1秒が12コマですよね。同じ動きを、1/12秒のシャッタースピードで撮影したら、1/24秒よりももっとブレますよね。それを考えて動かさなくてはいけない。まあ、ブレに関してはテストケースで、完成されてはいませんけどね(注13)
小黒 「リアルに戻す」ために、動きの中で原画として描く、画のポイントの置き方を変えた、という事もあるんですか。
うつのみや いえ、画の置き方自体には差はないんです。
小黒 この場合の「リアルにする」というのは、中割りの枚数を増やして、動きをゴージャスにするのとは、違う発想ですよね。
うつのみや 通常TV作品と同じやり方で原画を描いて、中割りだけを増やしても、つまり、あやふやな動きのイメージを元にして原画を描いて、中割りだけを増やしても、動きが滑らかになるだけなんですよ。大塚さんや宮崎さんが作った『カリオストロの城』は3コマでも、あんなにリアルじゃないですか。
小黒 そうですね。リアルに動いていますね。
うつのみや 実際の動きを踏まえられる能力を持ったアニメーターが作れば、3コマでもリアルなんです。
小黒 なるほど。具体的に言うと『御先祖様』では、中割りが少なかったわけですか。
うつのみや まあ、少なかった方じゃないですかね。でも、今思うと……。
小黒 まだまだ?(笑)
うつのみや そうですよ。あれは1本めは6ヶ月かけたんですけど、その後は、大体2ヶ月半ぐらい。最終巻に至っては、作監作業は1ヶ月しかなくて。そんなに凝った事はできなかったですね。
小黒 でも、動きをリアルにしよう、現実の動きに帰ろうというのが達成できるかどうかは、主に原画で決まってしまうわけですよね。作監作業でなんとかなるんですか?
うつのみや ぶっちゃけた話が、最終回なんかは、キャラクターのアップを直さないで、動きばかり直してました。それは作監作業から言えば、本末転倒なんですが(苦笑)。まあ、でも、僕にしてみれば、当時はそういう選択をしてしまうだけのものが、そこにはあったんですね。
小黒 あの、今の「実写に戻ろう」という事と関係するのか分からないんですが、当時、僕にとって印象的だったのは、キャラクターの立体感だったんです。それまで一番リアルなものと言うと、大友克洋さんの、あるいはなかむらさんの関わっている作品だったと思うんですが、それを飛び越して、立体そのものが画面に出てきた、という印象がありました。
うつのみや ありがとうございます。それは多分、最初の、影付けの理由によるものだと思いますよ。
小黒 そうですか? キャラクターのフォルムや骨格が、印象的だったんですが。
うつのみや うーん。スタイリッシュにまとめて、自分なりの個性は出していますけど、そんなに変わった事はやっていないんじゃないですかね。
小黒 そうですか……。なるほど、見ている人にとってどうあれ、あれは、うつのみやさん自身にとっては割合普通の事だったんですね。
うつのみや あ、勿論、キャラクターデザインは、その作品の世界観を決めますから、ある程度、独自の個性がないとダメだと思いますよ。そういう意味では、個性はつけたつもりですけど、新しいものは付与してないですね。
小黒 じゃあ、具体的にお訊きしますけど、芝居に関してはコンテのままなんですか。
うつのみや あれは、かなり遊ばせてもらいましたねえ。
小黒 実際のコンテよりも増えているわけですね。
うつのみや ええ。
小黒 特に手がブラブラした感じの芝居が印象的ですよね(注14)
うつのみや うーん。そう受け取られてしまうのは、多分、僕の失敗だと思うんですよね。そこまで、スタイリッシュな事をやろうとしたわけではないので。
小黒 いやいや。
うつのみや 芝居については、さっきもちらっと話しましたけど、キャラクターというのは、人生を背負っているものだと思うんですよ。どういう学校を出て、どういう育ち方をして、その日の気分はどうで……って。そうやって人生を背負っていない限りは、芝居づけというもの自体が成立しないと僕は思うんです。そうでなければ、絵コンテが、テーマを伝える道具になってしまう。押井(守)さんは、どうやらそうしたいと考えているところもあるようですね。でも、僕は逆に、そのキャラクターの芝居を描くためには、そのキャラクターが背負っているものの精密なデータが必要だと思うんです。それで、絵コンテを元に、この人は、こういう人生を背負っているはずだ、と膨らませるわけですよ。
 例えば、あの作品の甲子園っていうオヤジさんは、風呂が好き、っていう設定は僕が作ったんですね。彼は虐げられている中で、軽い幸せを見つけていくタイプだから……みたいな感じで人生を決め込んでいったんです。
小黒 『御先祖様』の直後が、『とべ!くじらのピーク』になるんですか。
うつのみや ああ、そうですね。『ピーク』は、その後の『八犬伝』の「妖猫譚」も含めて、僕のヒジョーに悪い面が出てしまった作品なんですよ(注15)。当時、自分はある程度、テクニカルな人間だと思っていたんです。ところが、その2作品で懲りて、自分が不器用な人間だという事に気づかされたんです。
小黒 そんな事はないでしょう。
うつのみや いえいえ、そうなんです。『御先祖様』は、押井さんが寛容な方で遊ばせてもらったんですけど、その2作品ではそうはいかなかったんですね。で、思ったんですけど、自分は自分の好きな事をやらないと、結果が残せないタイプなんです。「(気分が)乗らないな」と思うと、最後まで乗らないままなんです。
 『ピーク』は最初に気に入った設定画があったんですけど、それは結局通らなくて、使えなかったんです。フィルムになったのはその後作ったキャラクターなんですけど、乗れない部分が凄くあったんですね。
 で、『八犬伝』の方は、僕は、橋本晋治君を起用して、元のキャラクターデザインとは違う画で、フィルムを作ろうとしたんですよ。やっぱり、世界観を作る上では、キャラクターデザインというのは大きいですから。でも、プロデューサーに止められてしまったんです。ところが、その後で、大平君の「浜路再臨」が出たのを見てね、憤りすら感じました。
小黒 憤りですか?
うつのみや ええ。僕らもあれをやりたかったんです。晋治君に最初に描いてもらった画も、やはり実写を基礎に置いた、とてもリアルなものだったんですよ。それなのに、僕らはストップをかけられ、大平君の方はGOが出てしまった。そういう意味でね。ただ、大平君のフィルムの出来上がりに関しては、凄く感動しましたけどね。
 結局、僕には、人と同じ制約を与えられて、その中でいい仕事をするっていう、技術的なバックボーンがないんですね。『くじらのピーク』でも、自分が乗らないキャラクター像で演技させると、これほどいろんな発想が生まれてこないものなのか、と分かりましたね。
小黒 話は変わりますけれど、『八犬伝』の1話は、参加はなさってないと思うんですけども、御覧にはなってます?
うつのみや 勿論、観てます。
小黒 いかがでしたか。
うつのみや あの当時の、あのスタイルのアニメの最高峰だと思います。今見ても、あのスタイルの最高峰なんじゃないかな。
小黒 「あのスタイル」と言うと?
うつのみや ある程度リアルなんだけど、それは漫画的なリアルなんですね。実写からくるリアルではなくて、画からリアルにどんどん近づけていったリアル。画の方から「もうちょっとリアルにしたいな、したいな」というふうに思って到達した、スタイルの最高峰だと思います。で、逆に、その後に作られた「浜路再臨」は、現実の方から来たリアルだと思ってます。
小黒 現実なり実写なりからアニメに近づいていったものだ、と。……ああ、なるほどね。そうですね。おっしゃるとおりだと思います。
うつのみや 『八犬伝』の1話は当時、凄く好きなフィルムだったんで、LDも買いましたよ。
小黒 アニメーターの方々にとっては、『八犬伝』というのは、やり甲斐のあるシリーズだったんでしょうね。
うつのみや ええ。そうだと思いますよ。あれで、ひとつのお手本ができたんじゃないですかね、若い人の。
小黒 それは、でもやっぱり『御先祖様』ありき、でしょう。
うつのみや ああ。手前味噌ですけど、『御先祖様』もお手本にはなってるような印象はありますね。でも、僕が提出したのは、あくまでテストケースとして、「こういう形もあるよ」という事だったんです。でも、大平君達のやったフィルムというのは、技術的な裏付けが凄くしっかりしているから、何度見ても、いいですね。よくできた工芸品は、何度見ても飽きないところがあるじゃないですか、それと同じなんでしょうね。『御先祖様』は、その仕組みを提示しただけなんで、技術的には、粗いんです。それに比べて、大平君達のやったのは、工芸品として完成度が高いですから。
小黒 あの、どうか怒らないで聞いてくださいね。『御先祖様』って、観た当時は凄い衝撃があったんです。ところが、今観ると、面白いとは思うんですが、当時の衝撃がないんですね、もう。それは、多分、あの技術が業界中に伝播しちゃったからだと思うんです。
うつのみや そうだと思いますよ。そう言われても怒りませんよ(笑)。
 逆に今、『御先祖様』当時に意識して出した新しい事に匹敵するような、新しい事を思いついているんですよ。残念ながら、それを提示するチャンスがまだないんですけど。どんな作品のスタイルにも応用できて、従来のセルアニメーションのまま、特別な設備やシステムを必要としないという意味で、さっき挙げた2点は新しかったんですけど、今考えている方法論も、そういうもので、多分、みなさんにかなりのインパクトを与えられると思うんですけど。セルを使ってここまでリアルになるのかという画的な方法と、さっきお話しした無意識の動きを全編やるとどうなるか、という演技的な方法のふたつなんですけどね。
小黒 その、今おっしゃっている事と、フルアニメを描く人が出てくるようになったという事とは関係ないんですか。
うつのみや うーん……多少関連してるところも確かにあるかもしれませんね。フルアニメをやる人達っていうのは、僕らと、作画の方法論が全く違ってたんですよ。彼らは、実際にビデオカメラを使って、自分達でコンテ内容を撮って、それを元にして、カットを構成していくというやり方を取ってるんです。それは、ずっと昔の東映長編のやり方でもあるわけですね。また、そこに戻ってきているんですよ。
小黒 具体的には、それはどなたなんですか。
うつのみや 大平君とか晋治君とかですね。で、僕も、試しに自分で演技してみると、予想してなかったとんでもない動作が入るんですよ。「何だろう、これは」と思ったんですね。その動作は演出意図からくるものではないんです。でも、それを入れる事によって、確かにフィルムの現実性が凄く増すんですね。それに、後から考えると、トータルで理に適っていて、リズムを作っていたりもするんです。だから、現実と同じぐらいの度合いで、そうした無意識の動きを入れれば、よりリアルになるんじゃないかっていう結論が出てるんです。まあ、入れすぎれば、わけが分からなくなってしまいますけど。
小黒 なるほど。……ええっと、すいません。これまで話を訊いてきて、意外だった事があって。
うつのみや はい。
小黒 ご自身が考えられて編み出された事と、僕ら観ている側が受け取った事との間にギャップがあると思うんです。

●「animator interview うつのみやさとる(4)」へ続く

(注11)『御先祖様』
『御先祖様万々歳!』については「作品紹介(2)」を参照。
(注12)お化け
早い動きを描く時に、動いている物体の後ろに残像を描く手法の事。
(注13)ブレ
早い動きの時に、一瞬、形がブレたように作画する事。別称、スカッシュとも呼ばれる技法。『御先祖様万々歳!』のブレに影響を受けたアニメーターも多いようだ。
(注14)手がブラブラした感じの芝居
90年代のアクションアニメで、よく上半身や手がユラユラする独特の動きが見られた。これは、彼の作画スタイルの影響を受けたアニメーター達が、さらにそれを誇張したものではないかと考えられる。これについては、「アニメスタイル」では今後も、機会があれば検証していきたい。
(注15)『くじらのピーク』、「妖猫譚」
『とべ!くじらのピーク』は91年に公開された劇場作品。監督は森本晃司。彼はキャラクターデザインと作画監督を担当。 「妖猫譚」とはOVA『THE 八犬伝[新章]』の3話。ご本人は謙遜しているが、これもアニメート的な見所の多いフィルムである。彼は、絵コンテと演出を担当。作画監督は、橋本晋治。
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