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アニメの作画を語ろう

animator interview
 沖浦啓之(6

小黒 ここ数年での大きな仕事は『INNOCENCE』になりますよね。御自身の手応えはいかがだったんでしょうか。
沖浦 正直言って最初に観た時は、ちょっと落ち込んだというか。期待もしていた分、「どうなのかなあ」というのもあって。もう2回観てるんですけど、何年かしてもう1回観れば「もしかしたら?」という気もしてますけど(苦笑)。
小黒 心中が複雑そうですね。
沖浦 (笑)。いや、最後に素子が出てくる事によって、感動できるんじゃないかという気がしてたんです。いや、もちろんそれで感動したっていう人も……。
小黒 いますよね。
沖浦 ですよね。そう聞いているので、俺が作る側の立場だったから素直に観れなくて、感動が味わえなかったのかもしれない。でも、俺は、ちょっと感動を味わいたかったと思ったんですよ。バトーが追い求めていた女が一瞬姿を現した、その場に立ち会えなかったような気がして。その寂しさが大きかったですね。
小黒 映画の作りとしてはどうでしたか。
沖浦 作りとしては、自分のやってるパート以外はあまり知らないから、ある意味、客観性もあるとは思うんだけど、それでも、冷静に観てない部分があると思うんで、なんとも言いづらいんですけど(苦笑)。……どうでした?
小黒 僕は最初の10分ぐらいは「これはアニメではないのでは?」という気がしたんですよ。ヤクザ事務所の大暴れとか、最後のプラント船のパートがあって、「ああ、よかった、アニメだった」と思えて(笑)。
沖浦 (笑)。
小黒 このまま作画の見せ場がなかったら、どうしようかと映画を観ている間、思っていました。
沖浦 ああ、そうですね。
小黒 3Dとかデジタルにあそこまで迫力があると、作画は画面を構成する1パートになってしまって、それはそれで悪い事ではないんだけど。沖浦さんが作監したプラント船のシーンは、かなりの暴れっぷりだったじゃないですか。あそこにあれだけのパワーがあって、本当によかったと思います。これで、作画が負けたまま終わっちゃったら、厭だったろうと思う。
沖浦 ああー。……まあ、あれが『INNOCENCE』の目指したものだとは思うんですね。
小黒 あれというのは?
沖浦 処理も含めて、そういう画面全部。今まで人が手で描いている事が、セルアニメーションを成り立たせてきたわけですよね。お話と一緒に、それを楽しみながら観てきた我々のような人間からすると、CGの画面を見せられてもカタルシスは得られないし、「画面のどこに自分の視点を持っていけばいいんだ」みたいな部分は確かにありました。描いたものを全面に出してる他の作品を観ると、ちょっと羨ましく思ったりはしますよね。
小黒 択捉のでっかい人形がいっぱい出てるところなんか、映像の魅力は大したもんで、感心もするんです。ただ、やっぱり、はたしてこれはアニメか !? という疑問は残るわけで。
沖浦 求めるものが何か、という問題なんでしょうね。多くの人が、それを肯定的に見てるんでしょうね、きっと。
小黒 今回は、まだ人間の質感はフラットだし、どんなにフィルターを乗せてもセル画の調子は留めているので、皆が「まだアニメだよね」と思えているだろうけど、次の段階に行ったらどうなっているか分からない。もう一歩踏み出すと『APPLESEED』になっちゃうかもしれないわけだから。
沖浦 うーん。『APPLESEED』は観ました?
小黒 まだ観てないんですよ。割といい評判を聞きますよね。
沖浦 そうですね。でも、それが主流になっていくと、我々の仕事がなくなっちゃうんで。少なくとも自分が仕事をしていく上では、『INNOCENCE』のような密度なり、画面なりを追いかける事はまずないだろうなと思うんです。あまりに濃いものをぶつけられると退いちゃう部分があるというか、「俺の好きなアニメはこういう事じゃないんだな」みたいなのはありますよね。それは『INNOCENCE』がいいとか悪いとか、そういう問題ではない。今後、どうするのか、という事で考えると。
小黒 『人狼』は、隅から隅までセル画が見える画面でよかったな、と思いますよ。
沖浦 (苦笑)。
小黒 まるで原画そのものが見えるような映像で。
沖浦 それは美術的な部分でもそうでした。『人狼』で言えば、小倉(宏昌)さんの描き味というか、筆の跡がざっくり残ったような背景が好きだった。リアルなものはもちろん好きなんだけど、同じリアルであっても、それは条件付きのリアルなんだな、と。
小黒 画である事が前提のリアルなんですよね。だから「アニメーションは何がありがたかったか」という話ですよ。やっぱり、「人が作ったものだからありがたい」という事ですよね。
沖浦 まあ、もちろん、(3Dやデジタルも)人が作ってるんですけどね。
小黒 ただ、「人が手で作っている事が実感できなくなった時に、どうすればいいんだ!」という事で。
沖浦 (笑)。(劇場版『銀河鉄道999』で)アルカディア号が向こうから手前に飛んできたとして、複雑なデザインだから、ガタガタになっても当然じゃないですか。ドクロのマークがグニャグニャになっても仕方がない。仕方ないんだけど、もしそれを手描きで描いて、なおかつスムーズに手前に来たら、それがどんなに快感を感じるかという。そういう感覚もちょっと偏っているかもしれないけれど、それに近いものですよね。「これを描いたんだあー!」みたいに感じられる、そういう楽しさは、やっぱりあってもいいかなと思うんです。でも、『INNOCENCE』では飛ぶものなんかを3Dで描いてますけど、3Dを使う事で今まで大変だった事が、楽にクリアできるようになっている。それを考えると、いたずらに手描きにこだわるというのもどうかなとも思えて……。
小黒 『INNOCENCE』で沖浦さんが作画監督を担当されたのはボートハウスのところと、最後のプラント船ですね。プラント船の方が重たい仕事だったと思うんですけど、日本を代表するスーパーアクションアニメーターが……。
沖浦 大挙して(笑)。
小黒 大挙して参加ですね。えーと、最初が大平さんで、次が橋本さんですか。
沖浦 大平君が(バトーが船の)中に突入したところ。レジャーボートの中が井上(鋭)さんと安藤(雅司)さん。ガイノイドが工場から生まれてくるのが井上(俊之)さん。その後、廊下で警備員たちが走ってきてガイノイドにやられちゃうところは、本田(雄)師匠。
小黒 あ、沖浦さんでも本田さんを「師匠」と呼ぶんですね?(笑)
沖浦 それは、そういうキャラクターですから(苦笑)。次が伊東伸高さん。その後、空からガイノイドが降ってくるところが橋本晋治君。……で、その後が新井(浩一)さん。さらにその後が、うつのみや(理)さん。
小黒 それがガイノイドがわらわらと登場したあたりですね。
沖浦 ええ、キャットウォークにわらわらと。その後が西尾君で、浅野(恭司)君があって、最後は俺。
小黒 西尾さんはどこら辺なんですか?
沖浦 西尾君は、ズドーンと(コンピュータの端末ユニットが)出てくるところ。
小黒 バトーが敵を引き受けるところですね。
沖浦 肉弾戦の前、点射に入って1発ずつ狙って倒していくところをやっています。
小黒 沖浦さんがお描きになったのはどこからなんですか。
沖浦 俺は最後にラボに入っていくところ。
小黒 バトルが一段落した後、途中で廊下みたいなところ歩きますよね。
沖浦 歩いてくるところからです。ロングで、丸っこいドームの前に2人が立ってドアが開いて。
小黒 かなり時間をかけられたと聞いていますが、一番時間がかかったところはどこなんですか?
沖浦 一番時間がかかったのはどこかというと……。

小黒 バトーが駆け寄るカットか、ハッチを開けて少女を助けるカットか。
沖浦 ああ、助けるカットです。それが一番時間がかかった。
小黒 少女の腕がぶらん、となるところですね。
沖浦 その頃には作監も大変になってきてたので、俺がラフ原を描いたのを別の人にクリンナップしてもらって、それに作監を乗せるというかたちでやっていました。
小黒 あの時、バトーが一瞬、腕を振り上げて運動選手みたいに走るじゃないですか。あれは何故、あんな感じに?
沖浦 (笑)。それはたまたまじゃないですか。描いてたらそうなっちゃった。
小黒 あのカットを見て、バトルの後なのに随分と体力残ってるなあと思いました。
沖浦 それについては、西尾君が「素子が横にいるから、元気になったんだよ」と言ってフォローしてくれてました。
小黒 ああ、素子にいいところを見せようとした?
沖浦 ええ、そうです(笑)。
小黒 あのあたりは、今までの沖浦さんの作画の中でも一番緻密なんじゃないかというくらいの仕上がりでしたよ。
沖浦 (ハッチを開いた時に動く)コードが嫌ですよね。『老人Z』の頃から、コードとかそんなものばっかり描いてるんですけど、久々に描いて「やっぱり大変だなあ」と思いましたね。
小黒 クオリティを上げる事で、まるで、手描きアニメの何かを守ろうとしているかのように見えましたが。
沖浦 まあ、そうとも言えるかもしれないけど、逆に背景が3Dになっているから。BGの空間には凄く整合性があるわけじゃないですか。だから、そこに乗る人間も画角を含めて、ある程度納得できるように描いた方がいいんじゃないかな、という錯覚が当初あって。
小黒 それは錯覚なんですか(笑)。
沖浦 その意識に引っぱられていますね。
小黒 それであそこまで……。
沖浦 そういう事を考えたりしながら描いていたんですけど、無駄な事をやってしまったように思いますね。もっと大らかに描いた方がよかったのかもしれない。だからちょっと、反省してます。
小黒 いや、観ていて楽しかったですよ。
沖浦 (苦笑)。
小黒 今回、大平さん達の原画を、相当残してますよね。
沖浦 そうですね、一応なぞってたりもするんですけど。
小黒 たぶん、作監修正は、形を整えるぐらいに留めていますよね。
沖浦 そうですね。あと多少、ディテールを足したりとか。
小黒 なるほど。あの独特の流れるようなフォルムとかは活かして。
沖浦 ええ。それをいかに活かすかというのを使命として。
小黒 そうなんですか? 沖浦さんは、いわばきっちりとした作画の最高峰じゃないですか。
沖浦 ああ〜、ガクー(ズッコケたポーズ)みたいな(苦笑)。
小黒 きっちり系のリアル作画の派閥として、沖浦さん、井上さん、西尾さんがいて、一方で形を崩して描くメタモルフォーゼ系の筆頭として、大平さんや橋本さんがいるわけじゃないですか。だから、大平さんの原画を残しているのを見て「え? 沖浦さん、これもオッケーなんだ!」という驚きが(笑)。
沖浦 でも、井上さんにしてもそうだけども、俺もやっぱり大平君や橋本君を尊敬してるんですよ。自分ではとても出てこないような画が出てくるじゃないですか。その、いいところをなくしちゃうような作監は、やっぱりあってはいけないんじゃないかと思います。それが芝居のところだったらまた違うかもしれませんけど、アクションシーンですから。そういう勢いを利用して、いい方に使わしてもらった方が、シーンとしていいものになるという気がします。まあ、理屈としてはそうですけどね。実際には、原画の力があるんですよ。(大平さん達の)原画を机の上に置いちゃうと、いいものを悪くするわけにはいかないプレッシャーといいますか、そういったものを感じて。
小黒 なるほど。 
沖浦 それから『INNOCENCE』に関しては(大平さんの原画は)むしろプロポーションは結構合っていたんです。顔が似てたりとかしても、作監ってあまり嬉しくないんですけど、プロポーションが近いと、作監としては助かる。
小黒 それから、プラント船の中は、全部3Dで空間を作っているんですよね。
沖浦 ええ。
小黒 3Dの構図に関しては、沖浦さんがモニターの脇に座って指示したと聞いていますが。
沖浦 そうですね。俺と演出の楠美(直子)さんの2人で、「ああして、こうして」と言いながら決めていったのを、押井さんが最終的に判断するというかたちでした。ただ、モニター段階で決めたものは、やはり仮のもので、実際にキャラクターを乗せたら、「この位置にパイプがあっちゃまずい」とか、あるいは画としてイマイチだというような事が出てくるんです。そういう時は、原画さんの方であたりを決めて、それに合わせて3Dを直すような事もありました。ただ、アクションしてるシーンばかりなんで、そんなにシビアなカットは意外と少なくて、わりと当初決めた背景を活かす事ができて、それで作業的に短縮されてる気はします。そういう作業が続いているので、しばらく手描きでレイアウトを描いてないので、描けるかどうか心配になってきてるんです(笑)。
小黒 というわけで、作品歴については一通り聞きましたが、もう少しいいですか。
沖浦 ええ。
小黒 今まで話題の中で名前が出た以外に、影響を受けた方とかいらっしゃいますか。
沖浦 ああ……(考えて)……わりと影響を受けやすいところがあるんで、それが作品に反映しているかどうかは別として、初めて出会う新しいものには絶えず影響は受けてる。例えばさっき言った結城さんとか、やっぱり世代的には金田(伊功)さんとか。
小黒 でも、金田さんは直接の影響は、あまりないのでは?
沖浦 金田さん自身の絵だけでなく、金田さんの影響を受けた人達の仕事を見ていたりするので、間接的かもしれないけれど影響は受けています。あまり意識しないで画を描こうとすると、どうしても80年代に流行ったタッチになってしまったりするんです。それが巧けりゃいいんですけど、なかなかそうはいかない。自分の根っこが培われた視点だの、年代というのは抜けきらんもんだなあと思いますね。
小黒 沖浦さんは、稲野(義信)さんの影響を受けてるんじゃないか、という話を聞いたことがあるんですが。
沖浦 ああー! あ、それはありますね。兼森(義則)さんもそうなんですけど昔から好きで、『(新竹取物語)1000年女王』で凄く影響されました。あの時に受けたインパクトが大きくて、アニメーターになってからも古本屋で、一所懸命『1000年女王』のフィルムコミックスを探して買って揃えて、仕事をする時に机の横に置いて──それを見ながら描くわけじゃないけど、その画を見て自分を高めながら描いてましたね。
小黒 それは絵柄を見るんですか。
沖浦 絵柄というか、ポーズとか。稲野さんの作画は『(夢戦士)ウイングマン』などもそうでしたけど、全然枚数を使ってない作品でも、原画の画が凄く決まってるのがかっこいいなって。逆に枚数使っていい時にあんまり(原画の画が)目に残り過ぎると、まずいのかもしれませんが。当時は凄くしびれてましたよ。他には『アリオン』を観たら、やっぱり稲野さんのパートが突出していて。「なんじゃこりゃー!?」と思ったり。ただ、実際にどういう考えで描かれていたのかは、ちょっと分からないですけど。
小黒 そうですよね。
沖浦 どうやって、あそこに辿り着いたのか、なぜあんなに一人だけ異質なんだろうと思うんですが。
小黒 稲野さんは、湖川(友謙)さんのお弟子筋らしいですよ。
沖浦 そうなんですか。言われてみれば『(聖戦士)ダンバイン』とかでも原画を描かれていましたよね。
小黒 沖浦さんは『メロス』の頃までは、なかむらさんの影響なのか、井上さんの影響なのか、かっこいい形の取り方をしていますよね。服などの質感の出し方もそうだった。リアルと言っても、昔はちょっとかっこいい感じのリアルを描いていて、それが何時の頃からか無くなっていった。『人狼』だと微塵もないじゃないですか。
沖浦 少なくとも『彼女の想いで』の頃にはないですね。『攻殻』の時にそれを少し思い出そうとして、「かっこよく描かなきゃ」という意識が空回りしたような感じで。あの時は、もうすでにどう描いたら、かっこいいんだか、分からなくなってたんで。
小黒 かっこいい感じのルーツはどこなんですか。僕は当時、なかむらたかしよりは、井上さんに近いという印象で見てたんですが。
沖浦 あー、どうだったんでしょうね。やっぱり、たかしさんじゃないですかね。たかしさんが描くものも、そういうラインの延長上にあったと思うんですよ。今でもパパッと描こうとすると、手癖が残っていて、つい『ピーターパン』みたいな画になっちゃったりとかするんですけどね。『バニパル』の時に、久々にたかしさんの仕事場に行ったのは凄く楽しかったですけど、俺が描いたレイアウトを見て、たかしさんが「沖浦君、画が変わっちゃったねえ!」と言って。
小黒 ああ、すでにその頃に。
沖浦 ええ。最初は「ダメになっちゃったんじゃないかな」と心配かけたのかもしれないですけど、動いてるの見たら納得してもらえました。
小黒 一枚画のケレン味がなくなっていったという事ですかね。
沖浦 そうでしょうね。目指してる部分がそこだけではなくなったという。
小黒 大ざっぱに言うと、最近は影をあまり入れない、ナチュラルな方向に来たと思うんですけど。
沖浦 そうでしょうね。
小黒 今、目指すところの理想形は絵柄で言うと、どんな?
沖浦 うーん、いや自分でも分からないですよ。
小黒 例えば、映画の『デジモン』みたいな、あそこまで肉を落としたものをやりたいわけではないですよね。
沖浦 ああ、細田(守)さんのやられてる。
小黒 やりたいのはもっと肉感のあるものですよね。
沖浦 まあそうです。あれ(細田さんの劇場『デジモン』)は、技術があるからできているわけですよね。あそこまで(シンプルにして)かたちをまとめられているのは、それを表現できる人がいるからやれているわけで、(自分は)今更あそこまでは方向転換できないかもしれないし。自分が作画としてこだわる部分というのは何なんだろうと思うと、最後まで残るのは、そういう肉感的なものかもしれない。
 黄瀬氏なんかも、がっちりした(絵柄の)中で肉感を出すんですけど、そういうものを見てもやっぱり「いいなあ」と思ったりするし、表現の方向は違うけど、山内さんの仕事にも「いいねえ」と思ったりする。「いいなあ」と思うのは、やっぱり描いた人の中に凄くこだわりがあるものなんだろうと思う。そういうのは、多少の見た目の変化があったとしても、残していきたいものなんだなあ、と、喋りながら思いました。『人狼』が脚アニメだと指摘されるという事は(笑)、そういったこだわりがあるんだろうから。
小黒 沖浦さんの絵のスタイルとして、『人狼』が完成形じゃないわけですね。
沖浦 ええ。むしろもう決めない、みたいな方がいいんじゃないかと。「こっちに行く」とか「あっちに行く」とかは、もういいかなという気はします。かといって、間口を広げるかというと、それは……。作品が変わっても同じ画を描き続けるのはつらいけど、自分の中で新しい「次はこれだ!」みたいなのが見つからないと、新しい画は描けないんじゃないか。元々、自分の中に独創性がないんですよ。同じ事をずっとやるのは、つらいから、その先にあるものを追い求めたいというのは間違いなくあるとは思うんですけどね。それがなんなのかは、なかなか分からない。しかも、自分の限界もそろそろ分かってきて。
小黒 いえいえ。動きの話に戻りますが『INNOCENCE』のバトーが駆け寄るカットと、助け出すカットを見た時に、手描きアニメはここまで緻密になるんだ、と思ったんですよ。しかも、異色な方法で攻めていくんじゃなくて、正統的な描き方で、ああいった精巧なものを仕上げている。あの方向の仕事をもっと突き詰めてほしいとも思うんです。「さらなる高みを」と言い続けるのは難しいでしょうが。
沖浦 (笑)。本人は、突き詰めるつもりでやっていてたとしても、それが正しいかどうかは分からない。やっぱり、そういったアプローチだけをやっていてはいけない。
小黒 全てを、ああいったアプローチでやるわけにもいかないだろうし。
沖浦 ええ。アプローチを変える事でつかめるものがあるだろうし。……難しいですね(笑)。井上さんとかは、むしろ、変わってるようで昔から変わってない。変わってないようで変わってる。変わらず最初から高いレベルで仕事を続けている。
小黒 しかも、スピードが落ちない。
沖浦 それは井上さん自身が自分に課してる事でもあるみたいです。俺なんか、自分がアニメーターとして疲れてくると、井上さんの顔を思い浮かべて、自分に喝を入れる(笑)。
小黒 ええっ、そうなんですか?
沖浦 と言うのは、ちょっと大袈裟ですけれど。
小黒 井上さんは巧さと……。
沖浦 自分への厳しさを併せ持っていて。
小黒 そうですね。厳しさですよね。
沖浦 僕はどうしても自分に甘いところがあるんで。
小黒 そうなんですか?
沖浦 ええ。「まあ明日でいいや」みたいに思っちゃうところが結構あるから。井上さんは1日1日、無駄のないように確実に実績を積んで。しかも、内容的にも外さない。一緒に仕事をしてなくても、井上さんを思い出して「いかんいかん!」と思うようにしてるんですけどね(笑)。でも、井上さんを始めとする優れた人達と、同時代でアニメーションに関われてるっていうのは、非常に楽しい事だと思っています。
小黒 うつのみやさんは、ある程度やってると思うんですけど、3Dで作った動きをベースにして作画するみたいな事には興味はないんですか。
沖浦 その3Dをやるのが大変そうじゃないですか。
小黒 いや、誰かに作ってもらうとか。
沖浦 (笑)。うーん、まだやりたいとは思わないですね。むしろ、自分が作るという事じゃなくて、3Dで作った新しいものを観てみたい気がしますよ。
小黒 あるいは手描きでもっと新しいタイプの絵柄とか、もっと精緻な作画とか、大らかなものでも今までになかった魅力のものを作るとか、まだまだ可能性はあると思うんですけど。
沖浦 うーん。ないとは言えないですね。ただ、それを自分がやると事を考えると、さっきも言ったように、自分の中からいろんなものが出てくるという事は、少なくとも画の上ではなかなか考えづらいところがあるので。新しいものが出てきた時に、はたして自分がそこについていけるというかね。ちゃんと入っていけるだろうか、とか思うんですよ。
小黒 今までの道筋を振り返ると、ひたすらリアルを求めてきたというわけでは、ないんですね。
沖浦 そうですね。子どもの頃に、自分でウルトラマンとかミラーマンみたいな巨大ヒーローをデザインしてたりしても、背中に人が入るためのチャックを付けるのを考えちゃうようなところがあったんですね。だから、そういう部分の延長でリアルっぽいものが好きだったんです。同時に描いてたマンガはギャグマンガが多かったんで、楽しいものもいいなあとは思いますけどね。
小黒 アニメーターとしての道筋は、いろいろ紆余曲折を経ているとはいえ、ずっとリアルなものをやってきたように思うんですが。
沖浦 それは、流れで(笑)。
小黒 (笑)。
沖浦 途中で衝撃的な作品と出逢っていたら、変わってたかもしれない。ポリシーがあってここまで来たってわけではないので。それから、今、話をしているうちに思い出したんですけど、内山まもるが「ウルトラマン」の漫画を描いてたじゃないですか。それが好きだったんです。子どもの頃、小学館の学習雑誌に内山まもるの描いた「ウルトラマンの描き方」という、ちっちゃい付録がついていたんです。それはいまだに実家にあると思うんだけど、それを凄い狂喜して読んだんです。凄くリアルなアプローチでをウルトラマンを描いてて。
小黒 リアルなアプローチというのは、宇宙人としてのウルトラマンの成り立ちをマジメに考えるとか?
沖浦 そうではなくて(笑)、絵としてリアルなデッサンで描いてあるんです。子どもの時にそういうのが好きだったっていうのが、まあ、おそらく根底に。その後、安彦(良和)さんや湖川さん等のリアルなテイストの画により魅力を感じるようになり、その流れでアールに入ってそこでアニメをやった事が、決め手になってるんでしょう。
小黒 話は前後しますけど、デッサンを学んだ事はないはずですよね。例えば学校へ行くとか、先生につくとか。
沖浦 ああ、それはないです。
小黒 実際に人物デッサンとかをした事はあるんですか。
沖浦 実はないんですよね。
小黒 誰しも『人狼』とか観てると、デッサンをしてるに違いないと思うのではないかと。
沖浦 ま、アニメーターになった頃は、「やさしい人物画」といった本を買って練習した事はありますけど。でも、ちゃんと教えてもらった事はなかったですよ。
小黒 アニメーターになってからは?
沖浦 これ以上そっちを突き詰めちゃうと、自分でもつらいところがあるんで、最近はあまりやっていませんが、以前は、リアルな作品をやる前には写真を模写したりしていましたよ。
小黒 『人狼』を始める前もやられたんですか。
沖浦 『人狼』の前は、どうでしたかねえ、ちょっとはやったかもしれない。まあ、本格的に勉強できればよかったんだろうけど。
小黒 なかむらさんぐらいじゃないですか。キャラデザインをやるようになってからも、クロッキー教室に通ったりしているのは。
沖浦 ああ、そうですね。たかしさんは描いてますね。……若い時に、描いておけばよかったなというか(笑)、全部、自分の持ち物が偽物みたいな感じになる事もありますよ。
小黒 借り物という事ですか?
沖浦 借り物というか、偽物。「こうだ!」という信念があって描いてるわけではなくて、なんとなくごまかしながら描いてるような気分で。
小黒 それを聞いたら、ファンがびっくりしますよ(笑)。
沖浦 ファンがいれば。
小黒 それはいるでしょう。
沖浦 そう思っているのは、俺だけじゃないかもしれない。やっぱり、基本があればそれがよりどころになるから。

(04.08.27)

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