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アニメの作画を語ろう

animator interview
 沖浦啓之(3

小黒 この調子で話を聞いていくと、朝までかかっちゃうので(笑)、ちょっと巻きを入れていきましょう。89年、90年ぐらいで、他に何か印象的なお仕事というのはあるでしょうか。
沖浦 『(アイドル伝説)えり子』……と言っても、えり子を描いたわけではないんですよね。
小黒 『えり子』でお描きになったのは、えり子がいなくなった後の街の人達ですよね。バイクが走ってきて停まったりとか。
沖浦 子供が見上げたりとか、牛の中の牧場の少女とか、そんなのですけどね。あれはちょうど『ちびねこトムの大冒険』をやった頃だったので、画がどうしても『ちびねこトム』になっちゃって。丸くなっちゃうんですよ、全部。
小黒 なるほど。
沖浦 それでちょっと大変だった。『トム』は結構面白かったというか、勉強になりました。
小黒 これは、いまだなかなか観る機会のない作品ですよね。
沖浦 作画してから、初号までに3年ぐらいかかったのかな。
小黒 これはかなりの量をお描きになったんですか。
沖浦 これはカット数は少なくて、30、40くらいなんですけど、尺で言うとかなりの長さになってます。宇宙空間で主人公達がフワフワと漂っているという特殊なシーンで、オバケ達がいっぱい出てくるんです。初号を見たのは描いてから2、3年後だったんですが、その時に初めて自分の仕事が「悪くないんじゃないの」と思えたんです。今見ると多分、粗もあると思うんですけど。ただ残念なのが、撮影ミスで1ヶ所戻ってるところがあって。
小黒 戻るって、なんですか?
沖浦 撮影で「1、2、3、2、4」みたいな事になっていて、動きがカクンとなるところがあるんです。
小黒 なるほど、セルの置きミスで、動きが戻ってしまうんですね。
沖浦 それ以外では気に入ってるカットだったのに、それでガクッときたのが、いちばん印象に残ってますね。画の収め方など、今までやってなかった種類の作品だったので、やり始めた時は「なんかシンドいなあ」と思ってたんだけど、手が慣れてくるにしたがって楽しくなってきた仕事ですよね。
小黒 さっきも話題になった劇場『パトレイバー』も同時期ですね。3カット描いたと聞いてますが、どこなんですか。
沖浦 最後に遊馬が「野明ーっ!」と叫んで、アルフォンスと零式が床をぶち抜いてズドンと下に落ちて、零式の顔のアップの前に破片がバラバラバラと落ちてくるまでです。あとは「もうダメだ」と言って返しちゃいましたけどね。
小黒 他にもあったんですか。
沖浦 10何カットか送られてきていたんですよ。でも――あの時は何をやってたのかな――とてもできる状況ではなかったんで、なんとか3カットはやったという感じで。
小黒 『ピーターパン』ですかね。
沖浦 『ピーターパン』かなあ。(リストを見ながら)『ロードス(島戦記)』はいまだに、俺の中では思い残しのある作品ですね。ちゃんとやり切れなかったんじゃないか、と。最初はかなりスケジュールがあったのが、アールが持っている仕事や自分の仕事の状況のために、結局、スケジュールが全然なくなっちゃって、それで、申し訳ない事になっちゃったんですよ。でも、今までやってなかったものに、敢えてやってみようと挑戦した仕事なんです。結城(信輝)さんの画の巧さみたいなものが、ちょっとでも盗めるならばと思ってやったんですよ。マッドハウスの丸山(正雄)さんは(自分がやった回を)気に入ってくれているらしくて、いまだに、この回の事をあれこれ言ってくださるんですけど、自分の中ではもう一歩、踏み込めたのになあ、という気がしていたんです。そこで手に馴染んだ結城キャラを、もう一度描いてみようという事で『スケバン刑事』をやろうと……。
小黒 なるほど。それで、結城キャラは描けたんですか。
沖浦 ええ。女の子が出てくるシーンでしたけど、だいぶ馴染んで描けたつもりです。あくまで、つもりですが。
小黒 巻きを入れると言っておいて、さらに細かいところを聞いちゃいますけど、『(アイドル天使ようこそ)ようこ』の28話は覚えてますか。
沖浦 『ようこ』の28話……。何をやりましたっけ。
小黒 多分、最後のマイケル・ジャクソンみたいなミュージシャンが、ようこに「サインをください」と言うところが、沖浦さんが描いたところだと思うんですが。
沖浦 ああ、なんか言われてみれば、そんな気も。
小黒 という事は、ようこのライバルのほっきょんが歌っているところも沖浦さんですね。
沖浦 そうですね。で、俺のところはヘボいんですけども、同じ回で木村(貴宏)君が描いてるところは凄く巧いんですよ。
小黒 中盤でようこが歌ってるところですか。
沖浦 多分そうです。そこはムチャクチャよかったですよ。他の回では、ようこと友達の青い髪の女の子――いや、ようこだけかな――がベンチで座っていて。ムササビみたいなキャラクターが手紙を持って、肩にとまるような、そんなような動きを描いた記憶が……。(23話「戦争はしらない」)
小黒 12話(「魔女は月の夜に」)で、最初にレギュラーの男の子(亮)がバイクで事故に遭うところは描いてませんか。
沖浦 いやいや、そんな大変なのは全然。ほんとにちょっとだけの手伝いでしたから。
小黒 『(デビルマン妖鳥)死麗濡編』はどのあたりですか。水のデーモン(ゲルマー)ですよね?
沖浦 ええ。水のデーモンが部屋に出現して、明が美樹ちゃんをベッドに寝かせて、掌で攻撃して。最後に、明が手についた血を払う。
小黒 その後のシレーヌが出てくるところは違うんですか。
沖浦 ああ、そうだった、バリッと天井を突き破ってシレーヌが現れて、掴まれるところまでが俺ですね。
小黒 なるほど。
沖浦 家の外から見たカットで、シレーヌが飛び立つところから、河口(俊夫)さんです。『デビルマン』は原作が好きで、何度も読んでいるんですよ。子供の時に最初に読んだのがシレーヌの話が載ってる第2巻だったんです。このビデオ版の『デビルマン』のキャラクターって、ちょっとマッチョなんですよね。
小黒 そうですね。
沖浦 俺は、あの永井豪のスレンダーな、筋肉質なんだけどスラッとしてる感じの細身の明君が好きだったので。キャラは設定に合わせながらも、体型はどことなく永井豪のフォルムにしたいなあと思って描いていた記憶がありました。
小黒 これは聞かなくても、ほぼ間違いないと思うんですが、『CITY HUNTER3』13話(「グッバイCITY さよならの贈りもの(後編)」)でお描きになったのは銃撃戦ですね。
沖浦 ええ、そうです。
小黒 楽しくお描きになったんように見えるんですが。
沖浦 楽しいといえば楽しいんですけど、あれも結構、土壇場で手伝う事になったものなんです。確かに、わりと発散できる仕事でしたけど。
小黒 さて、問題の『THE八犬伝』1話(「万華鏡」)ですよ。どこをやったんですか。
沖浦 斬り合いをするところです。お互いに睨み合ってて、それで犬士達が走り出して。
小黒 河原で、八犬士が妖怪みたいな兵士と斬り合うところですね。河原のシーンって何度かあるんですけど。最初が敵の兵士が出現するシーンなんです。その次の、2度目の河原のシーンが沖浦さんじゃないかと。
沖浦 2番目の方かな。信乃が刀を構えて、そのまま目のアップになるカットがあるところです。
小黒 目のアップでシーンが切り替わるんですよね。やっぱり、2度目の河原のシーンですね。凄く画がキッチリしていて、『八犬伝』1話で八犬士がいちばんキャラ表に近いんですよ。それで、むしろあの作画の中では浮いてる(笑)。
沖浦 (笑)。まあ、そうですね。俺が描いたところも、全然似てはいないんですけどね。
小黒 でも、他のところに比べれば。
沖浦 そうかもしれないです。
小黒 『八犬伝』は仕上がりは、御覧になっていかがだったんですか。
沖浦 大平君や(橋本)晋治君の仕事は、キャラがどうこうというのは別にしても、やっぱり凄いなと思いますよ。田辺(修)さんもね。
小黒 田辺さんは伏姫のシーンでしたっけ。
沖浦 うん。最後の方で、伏姫がガバっと起きあがるあたりがそうだと思います。そういう見どころが要所要所にあって、作画的には、アニメの歴史の中でターニングポイント的な位置づけになる作品かな、と思うんですよね。ただ、話がサッパリ分からん、という。
小黒 分からないですね。何度観ても分からない。
沖浦 錯綜した感じになっているけれど、あれがどの程度、狙いなのか。
小黒 脚本もコンテも、ある程度は錯綜させようとしていますよね。
沖浦 ええ。
小黒 それにさらに作画が追い打ちをかけてしまったんじゃないかと(笑)。
沖浦 誰が誰だか分かんなくなるっていうね(笑)。分かりやすい作りで1話ができていれば、後に(観客を)引っ張っていけたんじゃないかと、個人的には思うんですが。ただ、短いシリーズで、イメージを詰め込もうとするのは仕方ないかなと思いますけどね。
小黒 作画に関して言うと、『THE八犬伝』のあたりから、ふたつのリアル系が生まれていくわけですよね。沖浦さんや井上さんに代表される正統派の――と言うと、もう片方が亜流みたいになってしまいますが――作画と、大平さんや橋本さんの新しいスタイルのリアル作画に分かれていく。
沖浦 そういう事で言うと、俺がここ(『THE八犬伝』)に参加していたというのが……。
小黒 まだこの頃は、袂を分かってないというか。
沖浦 そうですよね。
小黒 それを踏まえると、今回の『INOCCENCE』は、ちょっと意外なところがあったんですが……まあ、その話はもうちょっと後に。
沖浦 ええ。
小黒 多分、『老人Z』は、この時期の代表作だと思うんですけど。
沖浦 ああ、そうですね。
小黒 クライマッスで、相当な量をお描きですよね。
沖浦 最初はもっと描くはずだったんですよ。元々、100カットを越える量を持たされていたんです。さすがに、それを全部描くのは無理なので、部分的に森本(晃司)さんと福島(敦子)さんに手伝ってもらって。だから、自分でやったのは70数カットぐらいですかね。
小黒 えーと、お爺ちゃんを乗せていたロボットがトンネルを出たところから、沖浦さんの担当ですね。
沖浦 そうですね。トンネルを出た瞬間から――トンネルの外側にカメラが移った瞬間からですね。
小黒 トンネルを出たところが沖浦さんで、途中で森本さんや福島さんが挟まって、また沖浦さんに戻る感じですか。
沖浦 (インサートされる)病院の中を主に福島さんにやっていただいて、グチャグチャになったメカなんかを、部分的に森本さんがやってくださってます。
小黒 晴子が瓦礫みたいになったメカを登っていくあたりからは全部、沖浦さんの原画ですね。
沖浦 ええ、そこだけは絶対に自分でやるぞ、と思って。
小黒 晴子が一度落ちて、しゃがむポーズになったり、動きが楽しいんですよね。
沖浦 そうですね、あの辺も勝手に芝居をつけ足したり、色々楽しませてもらいました。
小黒 後の『人狼』での活躍を予想させる、脚の見事な描きっぷりが。
沖浦 (笑)。『老人Z』の時は、『八犬伝』の3話なんかもやってる小林正之君が斜め後ろに座っていて、「脚、上手いよね」なんて言ってましたけど。
小黒 いや、脚ですよ。沖浦さんは日本が誇る三大脚アニメーターの1人ではないかと(笑)。
沖浦 そんなのあるんですか。
小黒 僕が勝手に言っているんですけどね。沖浦さん、山内(則康)さん、平松(禎史)さんが、三大「脚メーター」だと。
沖浦 (笑)。山内さんに凄く憧れているんですよ。憧れてると言ったら変かもしれませんが。描く画の傾向は全然違うんですけど、女体を描くっていう事では第一人者だなあと思ってるんです。もの凄いシンパシーを感じるというか、この人には負けるなあと思うというか。
小黒 あ、負けちゃうんですか(笑)。
沖浦 それは昔から感じていて。
小黒 いつぐらいから意識しているんですか。『えり子』の頃からですか。
沖浦 『えり子』の頃ですかね。「この人はできるな!」みたいなのは、昔からありましたけどね。
小黒 達人は達人を知る、というやつですね。
沖浦 (笑)。いや、全然負けてますよ。
小黒 山内さんは脚だけが好きで、胸なんかいらないとまで言いますからね。
沖浦 スタジオでアニメ雑誌を見ていて、俺が山内さんの画に反応すると、西尾(鉄也)君が横でツッコむんだよね。「そんなに好きか!」みたいに。
小黒 いい話ですねえ。
沖浦 (笑)。
小黒 『老人Z』で忘れてはいけないのが、今(敏)さんとの出会いですよね。
沖浦 そうですね。今さんがスタジオにきた時に、ちょうど俺が隣に座ってたんですね。俺も『Z』で、東京に引っ越してきたんですけど。
小黒 アールを辞めた直後の仕事になるわけですね。
沖浦 ええ。アールを引き払って、(東京に)出てきたところですね。結局、『AKIRA』以降、ほとんど自分で仕事をとってしまっていて、忙しくはやらせてもらってるけど、あんまりアールの仕事自体には貢献できる事もなく、指向もどんどん変わってきちゃって。谷さんのやってる仕事を手伝える状況でもないし、もういっその事、抜けさせてもらう方がいいかな、と。そんな事を色々考えた挙げ句に、東京にくる事にしたんです。ちょうど、北久保(弘之)さんが「『Z』のクライマックスをやらないか」と誘ってくれていたんで、それをきっかけにしてね。で、こちらへやってきたら、今さんがいた、と。今さんに初めて会った日に、俺は今さんの横に座って、ずっとコンテを読んでたんですよ。今さんは「最初からコンテを読み込むなんて、凄いヤツだな」と思ってたらしいんですけど、実を言うと、俺、タップを忘れてきてた(笑)。
小黒 (笑)。やる事がなかったんですね。
沖浦 そうなんです。何もできないけど、来たばっかりだから帰るわけにもいかんし、とりあえず仕事をしている振りでもしようと思って(笑)。で、今さんがアニメは初めてだった事もあって、話をするようになって。毎朝、徹夜明けに2人でファーストキッチンへモーニングセットを食いに行ったりして、色々と喋っていたんです。今さんは、当時でも絵描きとしてかなりのレベルだったんですよね。漫画家としても活躍していて、俺なんかからすると、全然レベルが違う、凄い人だった。ただ、俺の方は「女の子の身体ってこうだよね」とか、「オッサンの背広ってこうなるよね」といった画に関する話が、自分の中でいちばん熱い頃だったんです。それに、今さんも合わせてくれたのか、そういう話で夜な夜な盛り上がりましたね。今さんも、人間の身体のディテールについて、楽しく話すっていう事が、それまであんまりなかったのかもしれませんね。そういう意味で面白がってくれたのかな。
 こちらはアニメーターだから、キャラクターを中心に考える習性がついちゃってるんですけど、今さんの場合は、画全体というか、ストーリー全体を見渡した上で、1枚1枚画を作っていくという仕事をやってるんですよね。だから、本当に、画作りという意味で新鮮な話をいっぱい聞かせていただきましたよ。それは本当に、かつてないくらい衝撃的な出会いで。いまだに仲よくさせていただいてるのは、ありがたいです。
小黒 今さんのレイアウトに関するショックはなかったんですか。
沖浦 それはありますね。「これは本当に人が手で描いたのか?」と思うくらいのもので。何がどういうテクニックなのか、分からんぐらいに巧い。何が起きたのか分からんぐらい(笑)。
小黒 (笑)。それは『AKIRA』のレイアウトとは全然違ってるんですか。
沖浦 違うかどうかというのは難しいんですが……。おそらく方法論が多少違うんでしょうね。見た事がないぐらいの完璧さでしたよ。なんなんでしょうかね、まとまり具合の凄さというか。圧倒的でしたね。
小黒 画的に間違ってないし、映画的にも正しいし、見た目もいい、みたいな。
沖浦 そうです。しかも、描き方も巧いから、鉛筆使いで空気感を表してるんですよ。線で描いたものなのに、写真のように見えるリアリズムというか、説得力があるんです。建物なんかに興味があって、そういうのをサボらずに描いてきた蓄積が、あの時点で、かなりあったんでしょうね。あそこまで行っちゃうと、見たからといって、それを真似て俺が描けるかっていうと、そういうもんじゃない。
小黒 その後、劇場アニメって、レイアウト主体で画面を作るようになるじゃないですか。
沖浦 ええ、そうですね。
小黒 そうなっていくのに、押井さんが始めた手法と、今さんの存在というのは大きいですよね。
沖浦 それはそうでしょうね。昔は皆が、宮崎さんが『未来少年コナン』などで描いたレイアウトを見る機会があった時に、それに驚いて、自分達がやってる仕事とのあまりの違いに「なんて質の高い仕事なんだ!」と感じたんじゃないかと思うんですが、そのインパクトに近いものがありますよね。
小黒 『コナン』から15年ぐらい経ってようやく次の段階が(笑)。
沖浦 そう。今でもそうですけど、宮崎さんのレベルに誰も追いついてない状況がずっと続いていて、その中にいきなり違う方法論で、凄い人が出てきた。
小黒 そうですよね。話は変わりますが、『老人Z』って、劇場公開時とビデオ版で随分と印象が違うんですよね。
沖浦 あ、そうですか。
小黒 公開の時って、動画や仕上げが不完全だったじゃないですか。ビデオ版はリテイクされたものでしょう。
沖浦 ああ、そうですね。俺のところも、劇場版では間に合わなかったんだけど、キャラがあまりにも違うというので、あとで修正が載ってますよ。
小黒 あ、そうなんですか。じゃあ、今見られるのは修正版だけなんですね。

●「animator interview 沖浦啓之(4)」へ続く

(04.07.30)
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