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アニメの作画を語ろう
animator interview
 大橋学 (4)
小黒 その後の作品と言うと?
大橋 その後が、『コブラ』と『ゴルゴ13』、その間に『幻魔大戦』か。『コブラ』の時も、あんなぷるにいたよ。『コブラ』はね、パイロットも作っているし、TVシリーズのオープニングもエンディングもやっているんだよ。
 で、『ゴルゴ13』は、その前に一旦あんなぷるを離れたんだけど、これは自分で「やりたい」って言いに行ったんだ。そういう事は滅多にないんだよ。ほら、俺は、中学生の時にさいとうプロへ行ってたじゃない。さいとうたかをの初アニメだから絶対やらなくっちゃいけない、って。「さいとうたかをの画だったら、俺だろう」と思ってた(笑)。杉野さんの画はシャープで格好いいんだけど、さいとうたかをの泥臭さを消してしまっているんだよね。だから、ほんとは「『ゴルゴ13』は俺なんだけどなあ」って思ってるんだけど(笑)。でも、出しゃばれなかった。
小黒 ああ、なるほど。
大橋 それから、『はだしのゲン』は、俺は『ど根性ガエル』のつもりで描いたんだよ。だから、悲しい場面でも「悲しい」っていう感じで描かなかったんだ。そうしたら川尻さんに「悲しいとこは悲しく描かなきゃ駄目だよね」って言われてしまった(笑)。
小黒 どういう事なんです?
大橋 おひつを舐めているのを見つかって泣き出す場面を描いた時に、漫画的に泣かせちゃったんだよ。だから、悲しいところが笑える場面になっちゃって。それで、川尻さんに言われたの。でも、俺はそれでいいと思ってるんだ。そう思ったからたくさん描けたし。
 あとね、ラストシーンのレイアウトをかなり描き込んだら、それをそのまま男鹿(和雄)さんが拾ってくれてね。そういう横のつながりっていうのを感じたなあ。今は特に、伝達の仕方が上から下へっていう感じだよね。
小黒 なるほど。
大橋 乗れるか乗れないか、っていう話だとさ、『ボビーに首ったけ』なんて、単純な話でさ。これは60年代にヒットしたアメリカンポップスのタイトルなんだよね。片岡義男さんの原作もそこからタイトルを戴いているんだけど。その曲が中学生の頃大好きでさ。もう、それだけで、やりたい(笑)。そういう事でやる理由ができる。自分でやろうと決めると一所懸命できるんだよね。逆に「どうもやだな」って思うと――まさに劇場版『エースをねらえ!』なんかそうなんだけど――関わりが薄くなっちゃう。出崎さんにも杉野さんにも申し訳ないんだけど。
小黒 『ボビー』って、滅茶苦茶不思議なアニメですよね。
大橋 俺が実際に描いているのは、主に途中で出てくるイラストなんかなんだよね。
小黒 ペーパーアニメのところは、なかむらたかしさんと森本晃司さんなんですよね?
大橋 ペーパーのところは、たかしさん。森本君は色がついているはずだよ。後半の背景動画の部分。音楽が流れて、バイクで射し込む光と戯れる場面のはずだから。で、白黒に変わる時に音楽が合わなくなる感じの、その部分からがたかしさん。
小黒 あのちょっと変わった作風っていうのは、監督の意図なんですか?
大橋 監督のポンさん(平田敏夫)って、CMをやってたらしいから、そういう感覚だろうね。りん(たろう)さんのプランもあるかもしれないけど。ラストの電話が鳴るところは、りんさんが直しているみたい。最初のプランでは普通の黒電話が鳴るだけだったんだけど、それが歪んだ画になってますね。
小黒 じゃあ、途中で、ここはイラストにしようとか写真にしようとか決めたのは……。
大橋 ああいうのを実際に切ったり色を付けたりしたのはポンさんだから。吉田秋生のキャラ表をコピーして切り抜いて1曲作っちゃった。バーに行く前のシーンなんだけどね。
小黒 あ、あれキャラ表なんですか? 作画じゃないんだ。
大橋 そうなんですよ(笑)。写真の部分も同じようにポンさんが作ってるんです。あのバイクに乗っているのは、(制作の)浅利(義美)さんなんですよ。写真はプロのカメラマンが撮っているんだけど、実際にコマ撮りで操作しているのは、ポンさん。
小黒 へえー。
大橋 ポンさんっていうのは、アドリブ的な要素が随分ある人で、臨機応変なんだよ。『金の鳥』でもそうなんだけど、アニメーターの意見を取り入れてくれるんだよね。だから、やりやすいったらない。「こうしたいんだけど」って言うと、「いいね」って。何でも「いいね」って言ってくれるんだよ(笑)。
小黒 その『金の鳥』の話に行きたいんですが。これが大橋さんの代表作ですよね。
大橋 さあ、代表作としてはどうだろう? 好きな作品だけどね。でも、こういう作品だったら、もう1回ぐらいやりたいですね。
小黒 長編作品のキャラクターデザインというのは今のところ、『金の鳥』だけですよね。
大橋 そうだね。もうひとつ『ちび猫トムの大冒険』というのがあるんだけど、未公開なんだ。
小黒 えっ、それはどういう作品なんですか。
大橋 アーバンプロダクトの米川(功真)さんが持ってきた企画でね。1989年前後に作ったんだけど、お蔵入りしているんだ。
小黒 米川さんというと、昔OH!プロにいらした?
大橋 そうそう。制作はトライアングルスタッフでね。
小黒 ああ。それは、キャラクターデザインのみの参加なんですか。
大橋 作画監督もやってます。
小黒 監督はどなたなんですか。
大橋 中村隆太郎さんです。
小黒 ビデオなんですか。
大橋 いや、劇場作品です。小松原(一男)さんのお通夜の時に、米川さんに久しぶりに会ったら、「今度アメリカに売れそうだ」という話をしてくれたんだけど、その後どうなったのかな……。多分、公開できてないと思うんだけど。一応、「地球を救え」っていうのがテーマだから、1999年か2000年が公開のチャンスだったんだけどね(笑)。
小黒 どういう絵柄なんです?
大橋 全部擬人化された動物なんだよ。猫がメインなんだけど、いろんな動物が出てくる。で、スフィンクスがラストに出てくるんだけど、それが力石なんだ。
小黒 えっ? 力石ってどういう意味ですか。真似て描いた?
大橋 というか、もう俺の中では「力石」という意識でしか描いてない(笑)。キャラ表にも「力石」って描いてある。惚れちゃっているからさ、力石に。だから、力石しかないな、って。たてがみも牙もついているんだけど、顔だけね。出崎さんや杉野さんが見たら笑うかもしれないけど、どこかに名残があるつもりなんだよ。
小黒 ははは(笑)。もう少し『金の鳥』の話が聞きたいんですけど、いいですか?
大橋 ええ。
小黒 あのデザインは、輪郭線がつながっていませんよね? あれはどなたのアイディアなんですか。
大橋 あ、それは最終的には俺が決めました。普通の線じゃないようにしたかったんですよ。
小黒 あれは仕上げはどうしてるんですか。色トレスなんですか?
大橋 普通に見れば分かるだろうっていうところは、仕上げにまかせちゃった。だから、『(ホーホケキョ)となりの山田くん』みたいに、ここまで塗るなんていう指示はしなかった。
小黒 『金の鳥』って、名作ものの割には、お行儀があんまりよくないじゃないですか。絵柄もそうだし、ロボットも出てくるし、お姫様もお姫様らしくない。あれはどなたの持ち味なんですか。
大橋 ポンさんが描いた、ラフスケッチがあったんだ。主人公の男の子と女の子と狐のね。それが、30%ぐらいは方向性を決めているかもしれないね。
小黒 以前、丸山さんにお話をうかがった時に、大橋さんに負けないぐらい、福島さんも活躍していると聞いたんですけど。
大橋 うん、そうですよ。2人で相談しながら決めていったところも大きいですからね。特に、魔女はね、相談しながら作ったんだけど、実際に作画を担当したのは福島さんだから。
小黒 南家さんの担当部分は手を入れているんですか?
大橋 あそこは手は入ってない。南家さんはキャラ表を見てやっているんですよ。それ以外の魔女は、ほとんどが福島さんが作画担当だから。他の人の原画の部分で魔女が出てくるところはも、彼女が修正をやってますね。だから、魔女は彼女のもの。最初のラフで、『ポパイ』のオリーブみたいに、袖をまくると現れた手足がもの凄く細いというイメージは面白いねえ、なんて福島さんと2人で話してたんだよね。
小黒 なるほど。また、ちょっと話を変えますけどトライアングルスタッフの浅利さんって、マッドハウス時代から意欲的な方だったんですか?
大橋 あ、そう思うよ。
小黒 マッドハウス作品でも、「これは!」と思うような作品で、よく名前を見かけますよね。
大橋 うん。作品全体を動かすっていう意味では一番できる人だったね。
 勿論、丸山さんもね、現場は見てるんだよね。『世界むかしばなし』で川尻さんは演出と美術もやっているんだよ。これは、俺の嫉妬なのかもしれないけれど、真っ黒に下書きする川尻さんを見て、俺は美術のイメージって浮かばないんだよ。色の事までできるのかな、って思っちゃう。でも、丸山さんはどこかで見ているんだろうね。そういうところから、丸山さんと川尻さんのつながりみたいなものができたんだろうね。……ちょっと評論家っぽくなっちゃったかな(笑)。
小黒 いえいえ。ここでもう一度大橋さん自身のお話をうかがいたいんですけど、僕らは大橋さんって言うと、「自然物の大橋さん」っていうイメージがあるんです。煙とか、フワフワ飛ぶものとか。近年の『ユンカース・ カム・ヒア』でもそうですよね。
大橋 うん、たまたまね。
小黒 たまたまなんですか?
大橋 『ユンカース』の最後の飛ぶシーンの背景動画は、娘に手伝ってもらったんだよ。娘はきちんと遠近を描くっていうのが得意なんで、だいぶ助けてもらった。
小黒 大橋さんご自身としては得意なものって、どういうものだと思ってらっしゃるんですか。
大橋 うーん……得意なものっていうと答えにくいけど、好きなものはあるよね。ただ、好きなものとやりたいものっていうのはまた違うから。
 好きなものって言ったら、さっきも言ったように『金の鳥』みたいにメチャメチャ楽しいものだったら、もう1本作りたいね。初期のアニメーションに憧れた原点みたいな楽しさだよね。そういうのは仕事としてやりたい。
 それはそれとして、好きなものと言うより、作らなきゃいけないという意味においては、オリジナルがある。10代の屈折した頃、あの頃の屈折の中から何かを生み出したい、っていう思いは、自分の宿命みたいなものだと思っているから。
 それはもうライフワークだよね。だから、どうしても手持ちの資金を貯めていきたい。よくその話を人にすると、「もっと簡単にできるのに」って言われるんだけどね。「企画として出せば、そっちの方がたやすいよ」「企業にお金出させる方がいいよ」って。それはそうだろうって頭では分かっているの。だけど、そこまで柔軟じゃないんだよね。最初の段階で、売り渡してしまうのがどうしても嫌なんだ。そういう意味では、ケチなんだよね。技術としてのアニメーションは売り渡しても、精神的なものは売り渡したくないんだよ。
小黒 なるほど。
大橋 でも、なかなか今は乗れる仕事と乗れない仕事がはっきり分かれちゃうから難しいよね。原画を描くって、演技するというのに近いんだよ。最近は、その演技者の領分がどんどん小さくなってきていると思うんだ。デザインや衣装はおろか、どう動くかっていう事までお膳立てさせられている事が多いんだよね。
小黒 例えば、原画マンは、作監が描いたラフ原画を与えられてそれに沿って描くだけ、みたいな事がありますよね。
大橋 舞台だけ与えられて、「衣装も何もかも考えて、ここで踊って!」というスタイルはないんだよね。ポンさんは、大いにそういう要素のある監督だと思います。例えば、黒沢明が「三船がいなかったら、あれをやらなかった」みたいな事を言うけれど、最近のアニメーションは、監督が自分の世界を作りすぎちゃって、協力を求めていないっていうふうに見えるんだよ。
小黒 なるほど、そういうところもあるかもしれませんね。話を戻しますけど、僕の中では、劇画が好きだとか、木村さんの影響を受けた、という話は凄く意外だったんです。やっぱり流れる雲のようなものを描いている人っていう印象があって(笑)。自然物やエフェクトが得意な方と思ってました。
大橋 それはね、確かに得意な方だと思うよ。形のないものは好きだしね。でも、それだけじゃない。雲だけじゃないんだよ(笑)。
小黒 そういうものを振られる事が最近は多いんじゃないですか。
大橋 逆に俺は少ないと思う。頼まれる事は多くないね。
小黒 そう言えば、『迷宮物語』ではどこを担当されているんですか。
大橋 サチと猫が階段で隠れん坊するようなと、妖怪がボコボコと沸いてくるあたりの2ヶ所やってました。
小黒 福島さんとしても、あれほどの作品はなかなかないんじゃないかと思うんですよ。
大橋 そうだね、最高傑作……と言っちゃいけないか。ひとつの傑作だよね。最高って言ったら、もう後がないみたいだからね。福島さんとはもう一度、一緒にやってみたいね。
小黒 やっぱり波長が合うんですか?
大橋 合うと思うね。ちゃんと向かい合うという点では、福島さんとやった仕事では、自分はまだ70点とか80点ぐらいだから、もう1回やれば……とは思ってる。……まあ、俺の場合、常にそう思っているだけかもしれないけど。
 だからね、『METROPOLIS』の時に、隣のアニメーターの人が、その友人の優れたアニメーターが才能があるのに世に認められないのを、しきりに嘆いていたんだよね。その時に、さっきの宮崎さんの喩えを出したんだけど、チャンスは必ずあるんだから、そこで出しゃばらないと、という話をしたんだよ。
 俺なんかどちからと言えば消極的だったと思う。でも、その都度、声をかけてもらえたからね。まあ、幸運だったんじゃない? 東映入るのもスムーズだったし、出崎さんに声をかけてもらったし。で、別なところに行こうとすると、必ずブレーキがかかるから。アニメーション辞めようと思っても、引っ張られるんだよ(笑)。自分の中にもどこか未練があるんだろうね、5分でも、3分でもいいから、自分の作品を作りたい。だから、『ロボットカーニバル』だと、みんなの中に入ってる以上、自分の作品って言えないんだよね(笑)。
小黒 あ、そうなんですか。
大橋 やっぱり、『ロボットカーニバル』あっての「CLOUD」とみなさん思っているんじゃないでしょうか。
小黒 うーん、そういうところはあるかもしれませんね。また話は変わりますけど、『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』の冒頭のアクションシーンをやられていますよね。どなただろうと思って、なかむらさんにお尋ねしたら、大橋さんだと言われてびっくりしたんですよ。失礼な言い方かもしれませんが、随分、今風な作画だな、と思ったんです。もしかしたら、『ユンカース・カム・ヒア』のパイロット版なんかで、大平(晋也)さん達ともお仕事をされているので、影響があったのかなあ、なんて思ったんですけど、どうですか。
大橋 影響はあんまりないかなあ(笑)。ただ、たかしさんの画は凄いよね。たかしさん以降のたかしさんの真似をした絵柄っていうのは、描けなくてそういう省略になっているものが多いような気がするんだよ。それに対して、たかしさんの画はデザイン的に理由があって、省略されている感じがある。「美」だよね。最近、たかしさんの画には「美学」があるな、ってようやく分かった。『ロボットカーニバル』の時よりもね、分かった。今、たかしさんの新作に関わっているんだけど、あの美学はなかなか真似できないから、かなり大変ですよ。ただ、理解はできる。美術デザインなんかも、たかしさんがやっています。
小黒 だそうですね。
大橋 完璧なデザインだよね。
 今になって振り返ってみると、アニメ界の中で、巧い人のそばにずいぶんいたな、って思う。今までの話で出なかったけれど、直接会った事はないんだけど、須田正巳さんとも関わった事がある。お蔵になった『スカイファイターZ』というのがあるんです。
小黒 タツノコプロのフィルムですね。
大橋 うん。あれは丸ごと須田さんの原画なんだけど、その動画を1人でやった事がある。ところが、6000枚あるんで、3ヶ月経っても終わらない。それで、村田四郎さんと『タイガーマスク』の動画を手伝うからという事で、互いに手伝い合って、ようやく終わった。
 あと、タツノコで言うと、二宮常雄さんも大変上手な人だった。『いなかっぺ大将』の頃に、俺は、小さなプロダクションを作っていた事があって、そこで動画の仕事を請け負っていたんだよ。そこに『いなかっぺ大将』の二宮さんの原画がきたんだ。もの凄く完璧な線を描く人で、完璧すぎてトレースができないんだよね。今の丁寧な原画のはしりみたいだった。ただ、今はああいう原画を描く人が多くなったけど、あれほど味のある線を描く人はいないね。今は、線の味を消して原画を描いているからね。
小黒 須田さんはどう巧かったんですか。
大橋 須田さんは凄くダイナミックですよ。メインの下描きは赤と青の線なんだ。多分、赤青が1本になった色鉛筆を使っているんだと思うんだけど。どちらかを使って、色つきの太い線でほとんど決めたような線をそこに引くんです。で、その上から黒の線をクックッって力を込めて引く。だから、吉田竜夫さんの原画に近いですね。吉田さんの場合は本人の画だから迷いはないんだけど、線は静かで完璧。それに比べて、須田さんの線には感情があって、力が入って踊るような線だった。
小黒 なるほど。
大橋 でも、吉田さんの修正は凄かったですよ。太いマジックで修正するんだよ。
小黒 と言う事は、直接原画に描いてしまうわけですか?
大橋 そう。「こちらが正しいよ」っていうふうに。自信がないとできないですよね。マジックで修正するなんて。まあ、そんな具合で、大きなポイントの時に、巧い人のそばにいられたっていうのは勉強になりました。

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