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アニメの作画を語ろう
animator interview
 板野一郎(6)
小黒 1話のガルドのミサイル避けですが、あれは手で描いてるんですか。
板野 手で描いてますよ。
小黒 別にCGとか3Dとかを使ったりは?
板野 いや、手ですよ。
小黒 あれ、前後のカットが3Dじゃないですか。
板野 だから手で描いてるんですよ。
小黒 まるで3Dでシミュレーションして描いたかのように見える、完璧な原画ですよね。
板野 ちゃんと、奥3コマ・真ん中2コマ・手前1コマと、タイミングを全部計算してやってますから。帯状疱疹とかいう病気になってるんですけど、あの時は無理してしまって、背中じゅうできものだらけになって眠れなくなったり、結構身を削ってやってましたから──ガルドっぽいやり方で頑張ってたんで(笑)。それであれが終わった時は「もう原画は、勘弁してくれよ」って。
小黒 それでさっき話されたように、CGの仕事がメインになっていくわけですね。『マクロス』最新シリーズの『MACROSS ZERO』もCGですものね。
板野 ええ。日本のアニメーションは、もうトップクラスになってる。これからは日本のCGをもっと進化させていきたいんです。今はモーションキャプチャーが流行ってるけど、「やっぱり手付けができないとダメだよ」と話をしながら。『MACROSS ZERO』は若いスタッフに勉強しながらやってもらったんですが、やっぱり若い人の方が固定観念とかに縛られないだけに、育つのが早いんですよ。キャラクターは3Dにしないで、2Dのままでいい。実写かCGか見分けつかないようなものを作ってもなあ、と思うんです。
小黒 『APPLESEED』は成功したんじゃないですか。
板野 ええ。でも『APPLESEED』は、基本はモーションキャプチャーじゃないですか。モーションキャプチャーでやると、アメリカの資本に勝てないんですよ。カメラワークにしてもなんにしても。やっぱりジャパニメーション的な方向でいくべきなんじゃないか。日本のアニメ文化って、なかなか海外では真似できないじゃないですか。やっぱりそういった文化の違いを武器にするべきなんじゃないか。
小黒 日本のアニメの後継者になるなら、3DCGは手付けのアクションにするべきだという事ですか。
板野 そうですね。アメリカではできないものを作って戦うなら。それが今回の劇場「ULTRAMAN」ですよね。モーションキャプチャーじゃないんですよ。手付けなんですよ。ウルトラマンが空中戦するんですけど、ウルトラマンの飛び方も変えてます。(腕を前に上げて)これじゃないんです。(腕をまっすぐ両脇に下ろして)これなんです。こういう風にして飛ぶ。ウルトラマンはパイロットなんですよ。だからイメージトレーニングで、自分が飛行機になったつもりで飛んでいる。そういう飛び方で戦ってるんです。
小黒 ああ、それは板野サーカスになりそうな(笑)。
板野 はい。いや、誰が見ても板野サーカスですよ(笑)。それは意識しましたから。
小黒 御自身の中で3Dのメカアクションと、手描きの間のギャップはどうなんですか?
板野 ……ないですね!
小黒 ないですか。
板野 もうないですね。
小黒 さすがにまだ全く同じではないですよね。相当、再現できてるとは思うんですけど……。
板野 キャラ(のギャップ)はありますよ。キャラとかロボットとか。やっぱりロボットは大張(正己)君のロボットの方が、3Dより全然かっこいいですよ。ただ、タイミングとか詰めとか動きの技術に関しては、ギャップはないですね。個性という事に関しては、人間が描いたものの方が断然いいですよ。
小黒 同じバルキリーでも手で描いた方が、正確じゃないはずなのに、なんかちょっと味わいがありますよね。
板野 味がありますよね。それは愛情ですよね。モデリングしたものの冷たい綺麗さと違って、愛情を持って描いたものにはプラスアルファがある。「キャラ表ではこうなんだけど、もうちょっとこうした方がよく見えるよな」という、磨き方の違いですよね。それは描いた方が出やすいですよ。
小黒 それは3Dで、今後出していけるようになりますか。
板野 そのチャレンジを『ZERO』でやってます。それで、プラモデルのボックスアートを描いてる天神(英貴)さんを呼んだんですよ。トゥーンシェーダーは綺麗だけど冷たいから、『MACROSS ZERO』ではボックスアート調にしたい。ボックスアートはリアルな画じゃないでしょう。ホントは白いはずのところに、ちょっとピンクがかかったりしていて。『MACROSS ZERO』も普通のライティング以外に、ピンクライト、紫ライトを入れている。しかもボックスアート風に。僕らがプラモの箱画を観て「凄い! かっこいいなー」と思ったじゃないですか。それが動いたらいいよな。そういう気持ちで『MACROSS ZERO』に取り組んでるんです。前にやった『(地球少女)アルジュナ』でトゥーンシェーダーが成功したんで、最初は『MACROSS ZERO』もトゥーンシェーダーでやるつもりでだったんです。だけど、先に出た『(戦闘妖精)雪風』がトゥーンシェーダーで成功したので「後追いに見えるから、やめよう」って。
小黒 なるほど。
板野 ギリギリでやめたんで(笑)。そこからはもう「プロジェクトX」ですよね。「どうしようか?」って。せっかく『アルジュナ』の2年間で培ったノウハウを、捨てちゃったんですよ。どうしたら、トゥーンシェーダーじゃない形で作れるのか。予算もスケジュールも夢みたいにあるわけじゃないんだけど、なんとかしなきゃいけない。
小黒 『雪風』のメカは、ご覧になっていかがでした?
板野 いや、あれはあれで綺麗だしかっこいいし、飛ぶ飛ばないは別にして、デザイン的には好きだから、5000いくらのやつも買いましたよ。
小黒 DVDですか。
板野 いや違う違う、プラモを。
小黒 あ、プラモですか(笑)。
板野 最初から色がついて、できてるやつで。さくらやで買いました。あれはあれで、いいんじゃないかな。
小黒 で、そこから改めて、『MACROSS ZERO』を今の形に……。
板野 「形」じゃなくて「表現」をね。
小黒 確かに『MACROSS PLUS』の次だと、セルシェードのバルキリーが出てくると思いますよね。
板野 そうですね。僕達も『アルジュナ』で充分ノウハウは得た。「行こう! 行ける!」という確信があったんで。
小黒 「同じ事をやらない」っていうのは、河森さんもそうですもんね。
板野 ええ。2人とも、チャレンジャーなんで。実写を真似たり参考にはしても、他のアニメーションの真似はやめようね、というスタンスでずっと来てますから。「僕達の方が先に仕込んでたんですよ」と言い訳はしないで、それまでのものは、ばっさりと捨てて。捨てるのは簡単なんだけど、「じゃあ何作るの?」っていうところからやり直したんです。結局、予算がないから学徒動員という事になって、(CGは)プロ半分・学生半分でやったんです。そのわりには、頑張ったなあ、という。
小黒 『ZERO』で動きつける時っていうのは、最初は何をするんですか? 原画で例えば村木さんとかアニメーターの名前が出てますよね。
板野 はい。1話では、僕も村木君もラフ原描いて、タイムシート打って、それを取り込んでもらったんです。画に合わせてモデルを変えたり、わざと機首を伸ばしたり。そういう風にして、画に近づけてもらう。
小黒 まず画ありきだったんですね。その後もそうやってるんですか。
板野 3話までそうやって、一通りのノウハウを教えたあとに、4話からは(CGのスタッフが)自分達で動かしたものをチェックして、直していった。で、直りきらないやつはPhotoshop持って行って、「ここをこのぐらい伸ばすんだ」とか「このぐらいでかくするんだ」とか指示をしたんです。で、5話では大変なやつは、CG班がやった動きを15フレームおきに1枚、もしくは6フレームずつ1枚プリントアウトしてもらって、そのキーフレームだけを修正して、予備動作が入ってないところだけ描き直して戻して。そういう形ですよね。
小黒 1本がリリースされてから次のがリリースされるまでに時間がかかっているとはいえ、わずか5話の間に随分作り方が変わってきているんですね。
板野 ラフ原におんぶにだっこだと、TVシリーズと変わらないんですから。スタッフの何人かは「なんで僕達はアニメーターとして名前を出してもらえないんですか?」と言い出すくらいでしたよ、CGナントカの方が肩書きはかっこいいのに。やっぱり本人達も、動かす事に対するモチベーションがだんだん上がってきた。
小黒 ……でも、ファンとしては、また板野さんに手描きの作画をしてほしいなあと思うんですが。
板野 いやあ、もう嫌ですねえ。
小黒 嫌ですか(笑)。
板野 ラフを描いてCGは直してるけど。去年(2003年)の12月で『ZERO』の5巻めの作業が終わるという話だったんですよ。その時に「じゃあ、そこまでは画を描く。それ以降は描かないからね。チェックだけするから」と言ったんですよ。(実際には12月で『ZERO』は終わらなかったけれど)それ以降、僕は画を描いてないですね。もう『マクロス』では画を描かないと思うんですよ。
小黒 少なくとも『マクロス』では。
板野 はい。「『MACROSS PLUS』で画を描くのをやめるよ」って(周りに)言ったんで。『マクロス』ではCGで特技監督をやったとしても、アニメーターとしての原画、作画監督っていう名前は、もうみんな若い人達に振り分けちゃってるんです。『MACROSS ZERO』の3話まではメカ作監やってるんでけど、3話は大久保(宏)君という奴が、ガウォークを歩かせたり、モンスターを歩かせたりして、結構頑張ってくれた。そのシーンは、こっちはNO作監で大久保君任せにしてる。だから、「自分はそのシーン作監入れてないから、大久保君、作監で名前出てね」と言って、『ZERO』の3話から大久保君の名前も出してもらってるんですよ。少なくとも来年(2005年)の6月までは、アニメーションはやらないで、「ウルトラ」やってます。
小黒 なるほど。
板野 原画は、勘弁してください(笑)。
小黒 (笑)。ちょっと話を遡って、スタジオとしてのD.A.S.Tについても聞かせてもらえますか。板野さんは、大平さんとか橋本さんをプッシュしていらしたじゃないですか。『(夢枕獏)とわいらいと劇場』という大怪作を任せたりとか(笑)。やっぱり目につく活躍があったんですか?
板野 『Angel Cop』をやった時に、大平君とか橋本君とか戸倉君が、吉祥寺のD.A.S.Tに詰めてやってた頃があって、この人達は新しいものを持ってると思ったんです。芝居ができる、構図が取れる、キャラに縛られない大胆な演技をする、個性もある。「なんかやらせたいな」と思って、その時にたまたま自分がプロデュースをして、「レンタマン」の中に入ってる「四畳半(漂流記)」とかを作らせたんですよ。メチャメチャ赤字になりながら。
小黒 「四畳半」はともかく、多分もう片方で赤字になったんじゃないかと(笑)。
板野 はい、「骨董屋」ですね。D.A.S.Tは『Angel』でも赤字だったし、後のそういった仕事でも赤字だったんで、制作部とか仕上部とか畳んで、スタジオをちっちゃくしていったんです。だけど、ああいう若い人が田舎なんかに帰らないで、もっと仕事ができるようになればいいと思ってますよ。
小黒 D.A.S.Tの設立って、いつになるんですか。
板野 17〜18年前ですよ。D.A.S.Tの名前ってあれなんですよ、「Defence Animation Special Team」。
小黒 Defenceなんですね?
板野 はい。Dangerousじゃないです(笑)。
小黒 じゃあ『メガゾーン23 PARTII』の時はもうD.A.S.Tなんですね。
板野 そうですね。
小黒 略歴としては、最初がスタジオムサシで、コクピットがあって……。
板野 いや、ムサシがあって、東映の外注フリーの時期があって、コクピットがあって、サンライズ、ビーボォー、その後はアートランド。ま、アートランドの時は自分達を「アートランド3(スリー)」と言ってたんですけど。その後、アートランドを辞めて、僕は1人になろうと思ってたんですけど、結城達に「机を用意するから一緒にやりませんか」と言われて。後輩にそんな事言われたんじゃと思って、有限会社を立ち上げたのが、D.A.S.Tなんですよ。会社を作った時から、それを経営して利益を出そうとは思っていなかった。自分の目上の人達が、下に若い人がつくようになると、あまり働かないでダラダラするようになってしまうのを現場で見てきたので、経営者になりたいとは思わなかった。
小黒 なるほど。
板野 ただ、そう思ったのは自分が分かっていなかったんですよ。いざスタジオを持って、家賃を払ったり、皆の給料を払うために仕事をとるようになって、経営者の苦労が分かりましたよ(苦笑)。仕事をしてないように見えた目上の人が、こんなに苦労してたのかって。
小黒 これで終わりにします。“板野サーカス”って、御自身の定義だと何になるんですか?
板野 ……表現者としての一番の基本は、人を感動させる事なんで。だから、自分の表現力で人を笑わせたり、びっくりさせる。やっぱりそれが表現者のひとつの目的というか。“サーカス”と言われるようになったのは、他の人と違ったからだと思うんです。「ビーボォーの回のあそこは、あいつが描いてるんじゃないか」と言われているのが、なんとなくこっちにも聞こえるようになって、それが嬉しくて、それでガンガン描いて。「宇宙だからマッハ2で飛んでも、星なんか流れないんだ」と演出家に言われても、「PANすりゃ流れるでしょう。これはPANですよ」と屁理屈を言って、ガンガンBGを引っ張って。そういう風に言い訳して、好きな画を成立させていたんです(笑)。

(2005/02/18)
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