細田守作品逆ロケハン戦記
第3回 大地を駆ける四輪メカ! 「自動車」との戦い

どうかんやまきかく

 今回も前回に引き続き、劇場版『デジモンアドベンチャー』逆ロケハンの戦いを報告したい。今回のテーマは信号機とともに街で見かけるありふれたモノ、「自動車」である。駐車場ではアグモンに踏み潰され、公道を走ればベビーフレイムの的になり、縦列駐車すればパロットモンに蹴散らされ……ありふれているがゆえに散々な目に遭うこととなった、言わばやられメカたちである。  ではまず劇中、アグモンが子供部屋から落下した駐車場のカット〔10:51〕をチェックしていただきたい。これを逆ロケハンしたのがSHOT 07だ。

SHOT 07

 路面に書かれた駐車位置の番号までは劇中と一致しているが、停まっていた自動車は3台とも色が違う。しかも右の1台は劇中ではセダンなのに写真ではミニバンだ。中央の車に関しては、アグモンに全壊させられたため買い換えたのだろうとアニメファンらしい解釈力を発揮して何とか納得できなくもないが、左右の方はどう納得するべきか。あの時、レッカー移動さえできていれば……!
 しかし、レッカー移動ですめばまだよい方だ。今度はSHOT 08を見てみよう。劇中〔13:48〕では、階段を降りてきたアグモンが道路上を飛ぶパロットモンを見ているところだ。誰もいない深夜の大通りを、悠然と通り抜ける巨大な鳥の影。しかし写真に写っているのは、画面を平然と通り抜ける白い自動車の姿である。

SHOT 08

 もちろん筆者は車がいない瞬間を狙って撮影した。しかし現場は片側2車線の直線道路、車は結構なスピードでファインダーを横切る。一度構図を決めてカメラを構えたら、ファインダーから目を離せないので車が来ないことを確認することはできないのだ。信号待ちでたまっていた車がすべていなくなった刹那、シャッター幕が走るタイミングを見計らって筆者が指に力をかけたその時、あの白い車が音もなく忍び寄っていたのである。あの時、道路封鎖さえできていれば……!
 レッカー移動も道路封鎖もできない無力な筆者。そんな筆者を見かねたのか、逆ロケハンの味方をしてくれたこともあった。SHOT 09は、ヒカリを探す太一が歩道橋上を走っているカット〔11:43〕だ。お気づきだろうか、劇中では画面左下にトラックがいる。実を言うと筆者が逆ロケハンに臨んだとき、なんと同じ位置にトラックがいたのだ。この運命的な巡り合わせに、筆者の胸は一気に高鳴ったものである。

SHOT 09

 実はここ、ショッピングセンターの搬入口に面した場所で、それでトラックがいたわけだ。筆者は慌ててカメラを向けてシャッターを切ったが、慌てていたので構図を劇中カットに合わせる余裕がなかったのだ。そうこうしているうちにトラックはその場を離れてしまった。別れを惜しみながら筆者はもう一度、今度はきちんと構図を合わせて撮影した。かくして筆者は究極の選択を迫られることになる。トラックと構図、どちらを取るか──筆者は涙を呑んでトラックのいない逆ロケハン写真を採用した。あの時、タイムリープさえできていれば……!
 建物や信号機と違って、自動車は移動するものである。それゆえ逆ロケハンにとって非常にやっかいな代物だということが理解していただけたのではないだろうか。しかし賢明な読者の中には、こう思われる方がいるかもしれない。「そもそも自動車は背景美術じゃないのでは?」。 たっ……確かに! よく見れば自動車はセル画で、背景画とは言えない。SHOT 07では自動車が潰されるから、動画にしなければならないのは必然だ。しかしSHOT 09のトラックは動かない。別のカット〔13:19〕でも、微動だにせず背景に埋もれている自動車がセル画になっている。それではこれまでの筆者の戦いに意味は無かったのだろうか? あの涙は何だったのか……!?
 確かにこれらの自動車は背景画ではない。だが、明らかに筆者の印象においてはある種の「背景」の一部であり、それを含めて逆ロケハンしたくなったのは事実なのである。団地の風景の「現実感」の、重要な要素なのだ。
 実写で見せたい場所に見せたいクルマを配置するのは、車両の確保から運転手の手配まで何かと手間暇かかるだろう。だがアニメではたった1枚のセル画なのである。セル画1枚で何という現実感! 何というコストパフォーマンス! そりゃアニメ演出家が嬉々として自動車を配置したくなるのも分かる話である。
 その裏で筆者らがこんな戦いを強いられているわけだが、そんなこと当の演出家は知る由もなければ特に知りたくもないだろう。

第4回へつづく

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(09.07.21)