アニメスタイルイベント特別企画
『カイバ』湯浅政明監督・公開インタビュー(4)

小黒 キャスティングについてはいかがでしたか?
湯浅 今回は、いわゆるベテランと言っていいような方をメインに配置してますね。カイバについては、男でも女でもおかしくないような声の人、という事で桑島(法子)さん。あと、サテ役の甲斐田(裕子)さんとか、チェキ役の藤村(歩)さんとかは、オーディションの時に凄くいいなーと思ったんです。そういう人をサブに配置している感じですね。
小黒 サブは結構おいしいですよね、今回。6話の折笠愛さんとか。
湯浅 ああ、そうですよね。それは音響監督の百瀬(慶一)さんの力もあるんでしょうけど。ちょっと勿体ない使い方をしてしまったところもあったり(苦笑)。キチ役の岩永(哲哉)さんは、4話で婆さんの孫達の声をやって、それが凄くよかったのでキチもやってもらったんだと思うんですけど。みんなよかったですね。
小黒 音楽はいかがでしたか。
湯浅 今回、岡田こずえさんと尾上政幸さんという2人の方に音楽プロデューサーをやってもらったので、わりと自由に注文ができたんですよね。メインの音楽を作った後でも、曲を編集してもらえたり。前回の『ケモノヅメ』の時は、音楽構成みたいな事があまりできなかったんです。
小黒 というと?
湯浅 お話に合わせて、曲の種類や配置をシリーズ全体で構成していくという事です。『ケモノ』で監督補をやってた高橋(敦史)君に教えてもらった事なんですけどね。だから今回は、もう少し音楽も構成を考えてみようと思って、本編に入れてみました。作曲の吉田潔さんも、そういう構成を考えてくれる方だったので、よかったです。

カイバ場面写4_1

▲第11話より。ポポとサテ、危機一髪

小黒 じゃあ、そろそろ総括っぽい事をうかがいます。2本目のTVシリーズはいかがでしたか? 自分の仕事ぶりについて。
湯浅 どうなんでしょうね。なんかいろいろ文句は言われてるなって感じはするんですけど(苦笑)、あまり聞かないようにしてます。まあ、少しずつ進歩している感じはするんで、もうちょっとやりたいなと。
小黒 今まで短編から映画まで含めて、何本か監督作品はありますけど、その中で『カイバ』はいちばん湯浅純度が高いんじゃないですか?
湯浅 そうですかねえ。まあ、画をいっぱい描いたというのはありますけど、実際に原画とかキャラ表を描いているわけじゃないんで、『ケモノヅメ』の時とスタンスは変わらないですね。できるだけやる事をやる、みたいな感じでしたけどね。逆に、やっぱり各話の人には敵わないというか(笑)、監督をやっていると自分の話数をやっている時間がないので、ちょっとそこらへんが悔しくなってくる。もうちょっと自分の話数に力を注げるように仕事を組みたいなーって、『カイバ』が終わってからは思ってるんですけどね。
小黒 湯浅さんが、思いっきり素で作った作品ではないんですか。
湯浅 うーん、素っていうのが分からないですけどね。
小黒 印象としては、わりと湯浅さんが普段描いているイメージボードとか、落書きみたいなものがそのままアニメになったような印象を受けるんですが。
湯浅 いやあ〜。僕のものがそのまま出ると、もっと落描きみたいな感じになると思うんですけどね(笑)。まあ、今回は慣れ親しんでる丸っこい画でやってみようという事で、凄く描きやすくなってる面があると思いますけどね。『ケモノ』の時はなかなか難しかったけど、『カイバ』は、僕としてはあるものだけでやっているような感じです。その代わり、他のところに力を注いで、デザインも出たとこ勝負でやってる。次回、もしチャンスがあるなら、またちょっと違うものをやりたいなと思っていますけどね。

カイバ場面写4_2

▲第9話より。カイバとネイロ、感動の抱擁。と思いきや……

小黒 僕が湯浅さんに最初にインタビューしたのは、1999年の「この人に話を聞きたい」なんですよ。その時、湯浅さんは「ティム・バートンのような、僕なりのメジャーなところを狙いたい」と言ってましたね。
湯浅 そうですね。多分、「マイナーだ」とか「分かんない」とか言われる事への反発だと思うんですけどね。ティム・バートンってのも、でまかせで言ったんだと思いますけど、その後「無理だなー」とか思ったりして。ポール・バーホーベンならいけるのかなーとか(笑)。最近の作品だと、(ティムール・ベクマンベトフ監督の)「ウォンテッド」とか、この映像ならちょっと近いな、と思いましたけどね。とにかく、売れてる作品はやった事がないので、なんとか売れないと。多分、そうすれば続けられるんですよね。どうしたら売れるんだろうなあって思うんですよ。まあ、何度も言うけど、ホントに原恵一とか細田守とかと一緒にいると、あの2人のモテようときたら……凄いんですよね。
小黒 ああ、自然と人が集まってくる。
湯浅 そうそう。「いいなあ〜。なんで俺はそうじゃないのかなあ」って(笑)。作風がああいう風にならないのは分かってるんだけど、でも近づけるんなら近づきたい。
小黒 それは冗談じゃなくて、本気で思ってるんですか?
湯浅 そうですね。人が喜ぶものってなんなんだろう、って考えるんですよ。結局、人に見せる事って、こっちが何か伝える事なわけですから。僕の場合は、特に人に伝えたい事があるわけじゃないんですけど(苦笑)。でも、コミュニケーションとして、こっちのやりたい事が相手にも面白がってもらえた方が嬉しいし、できるだけ多くの人が分かるようなかたちでやるのが、望ましいよね。もっとそれをみんなで分かち合いたいな、という気分がある。アニメって、もの凄くお金がかかる媒体でもあるんで。だから何人かの人が作っているものが、こういうのはウケるぞと思って作っているのか、ホントに素で作っているのか分からないけど、それがみんなに面白がられているのは、ホントに羨ましい感じがしますけどね。

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▲第7話より。バニラの純情が泣かせる中盤のクライマックス

小黒 まあ、原さんもみんなから「面白い」って言われているわけじゃないと思いますけどね。
湯浅 ああ、そうなのかな。とにかく、人が「いい」って言うものに憧れる質なんですよね。みんなが凄いと言ってるものを「これが凄いのか。なんでなんだろう?」って考えるんです。必ずしも自分がそれを面白いと思うわけではないし、同じものを観ても自分が面白いと思うところは世間と違ってたりする。でも、そういうところに、ちょっとずつ寄っていきたい。それはコンプレックスみたいな感じで、若い時からずっとあるんです。「お前の感覚はズレている」とか、ずっと言われ続けてきたので(笑)。ズレ具合を知りたいな、と。人に何か言う時は、そっち寄りに少し修正したり。
小黒 いや、湯浅さんは修正せずに突っ走った方がいいですよ。
湯浅 (笑)。修正具合がトンチンカンだと、また分からないですけどね。『ケモノ』にしろ『カイバ』にしろ、まあ『MINDGAME』でも、そういう意識はあるままにやってるんです。様子を見ながら、自分の中にあるものの出し方を、ちょっとずつバリエーションを変えてみている感じ。「ああ、こっちはダメか。じゃあ、こうしてみたら?」みたいな。それで1回受け入れられれば、後はやりやすいんじゃないかなと思うんですけどね。受け入れられないまま終わるかもしれないけど(苦笑)。
小黒 いやいや。じゃあ、『ケモノ』から『カイバ』で変わったように、次もまた変わるんですね。
湯浅 そうですね。また違う風にやりますね。『カイバ』もそんなにヒットしているわけじゃないんで(苦笑)。
小黒 でも、同じ作風でずっと作っていった方が、蓄積になりますよ。
湯浅 それもねえ、ちょっと考えるんですよ(笑)。それはそれで堂々としてるな、って。続けていけば理解されていくみたいな。完全に逆方向へ寄っていくと、なんか自分がないみたいな感じにとられちゃうから。
小黒 じゃあ、次は思いっきり萌えものを作ってくださいよ。
湯浅 (笑)。いや、今回もちょっと萌えてるでしょう。伊東君もクロニコのキャラを作る時に、「萌えさせてやるぞ!」って意気込んでましたから(笑)。で、結構ちゃんと萌えてるんで、さすが伊東君! って思いましたけどね。
小黒 サブキャラの中では一番人気かもしれませんね、クロニコ。

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▲第3話より。クロニコ、スペシャルカット

湯浅 あとは一発、ギャグみたいなものも作りたいんですよね。まあ、ごく普通に、サラリーマンが家に帰ってきて観るぐらいのアニメをやりたいなと。
小黒 ギャグじゃないけど、サラリーマンが観られるというと『はじめの一歩』みたいなのとか?
湯浅 あれは……いや、嫌いじゃないですけどね。なんか、ちょっと濃いじゃないですか。
小黒 難しいですねえ。
湯浅 『ルパン三世』とか『タッチ』とかは、みんな普通に観ますよね。なんですかね、ああいうのって。
小黒 メジャー感ですかねえ。
湯浅 なんスか、メジャー感って?(笑)
小黒 いやあー、一言では言えないですけど、パッと見で魅力が分かりやすいって事じゃないですかね。
湯浅 ああ。で、ちょっとだけ観る人の考えている上を行くという。
小黒 でも、最初の『ルパン』は上を行き過ぎて打ち切りになっちゃったから。
湯浅 『新ルパン(ルパン三世[新])』ぐらいがいい、みたいな。
小黒 そうそう。ちょっとヌルくなった方がいいんじゃないですかね。コンセプトはコアなんだけど、口当たりがヌルい方が、当たりやすいんじゃないですか。すいません、余計なお世話ですね。
湯浅 いやいや。そういうのは学ぼうと思ってるんですよ。僕から見ると、ヒットするものってみんな淡泊に見えるんですよね。なんか物足りない、もっと何かしたいって思うんだよね。でも、それがいけないんだろうって(笑)。自分でも満足しつつ、なんとなくそこへ近づけるといいな、とは思うんですけどね。

●『カイバ』湯浅政明監督・公開インタビュー おわり

●関連サイト

『カイバ』公式サイト
http://www.wowow.co.jp/anime/kaiba/

マッドハウス公式サイト
(湯浅監督コラム「カイバ←湯浅政明←ケモノヅメ」連載中)
http://www.madhouse.co.jp/

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(08.10.20)